「沖田先生、大丈夫ですか?」
「そんなに心配しなくても大丈夫ですよ、千尋君。」
「でも、意識を取り戻したばかりで本調子ではないし・・」
「二人とも、心配し過ぎですよ。」
総司はそう言うと、瓜二つの顔をした少年達に微笑んだ。
「それにしても千尋君、女子姿がさまになっていますね。舞妓の仕事は順調ですか?」
「はい。忙しくて沖田先生の所にお顔をお見せすることが出来ず、申し訳ありませんでした。」
「謝らなくてもいいんですよ。君には大切な仕事があるのですから。」
総司達が副長室の前に立つと、中から近藤と歳三が話し合う声が聞こえた。
「トシ、お前はいつも無茶な事ばかりして・・水垢離をして倒れたと平助から聞いた時、俺はお前に何かあったらと思うと・・」
「風邪くらいどうってことねぇよ、近藤さん。俺ぁいつでも総司の代わりに何度でも死んでやるよ。あいつが生きてくれていたらそれでいいんだ。その為なら、何だって俺はやるぜ。」
「トシ・・」
歳三の言葉を聞いた近藤が彼を見つめていると、突然背後の襖がすっと開き、千と千尋に両脇を支えられた総司が現れた。
「土方さん、貴方がわたしを助けてくれたのですね。」
「総司・・」
歳三は驚愕の表情を浮かべたかと思うと、総司を抱き締めた。
「良かった、お前ぇを失わずに済んで良かった!」
いつもの冷徹な鬼副長の顔は消え、歳三は一人の人間を愛する生身の男の顔をしていた。
「ご心配をおかけしてしまって、申し訳ありません。」
「お茶、いれてきますね。」
千がそう言って副長室を後にしようとした時、歳三が千の腕を掴んで自分の方へと引き寄せた。
「千、お前もここにいろ。これからお前達に大切な話をしなくちゃなんねぇからな。」
「大切な話、ですか?」
「ああ。今はまだみんなには内緒だが、近々俺は総司と祝言を挙げようと思っている。」
「祝言、ですか?」
「男同士で祝言を挙げることがそんなにおかしいか?」
「いえ・・」
「男同士が祝言を挙げるなんざ、無理に決まってる。そこで、近藤さんには色々と根回しして貰いてぇんだが・・」
「そんな事を言って、もう会津藩への根回しは済んでいるんだろう、トシ?」
近藤の言葉に、歳三は口元に笑みを浮かべた。
「・・あんたには全てがお見通しだな。」
「当たり前だろう、お前と何年一緒に居たと思ってるんだ。」
「あの、僕達はどうすれば・・」
「お前ぇ縫物が得意だろう?総司の花嫁支度を手伝ってやってくれねぇか?」
「はい。」
「荻野、お前ぇも色々と忙しいかと思うが、千を手伝ってやっちゃくれねぇか?」
「解りました。」
「総司の白無垢くらいはこちらで用意しといてやる。千、お前ぇが居た所では花嫁は白無垢を着るのか?」
「ええ。でも大抵の方はウェディングドレスを着て祝言を挙げます。」
21世紀ならばウェディングドレスを簡単にインターネットや専門店などで購入したり、レンタルしたり出来るが、千が居る幕末では船便でその材料となる高価な布を取り寄せるだけでも難しい。
「そうか。異国の布を取り寄せるには金も時間もかかるか・・俺がその“どれす”とやらを仕立ててやってもいいな。」
「仕立てるって、土方さんが沖田さんのドレスを作るのですか?」
「他に誰がやるんだ、馬鹿野郎。こう見えても俺ぁ呉服屋に奉公していたことがあるから、縫物は一通り出来るんだ。」
「洋裁は和裁とはやり方が違いますから、僕が作り方を教えます。」
「宜しく頼む。」
こうして、総司と歳三の祝言に向けての準備が、密かに始まったのだった。
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