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JEWEL

2016.11.06
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「今まで我々は新薬の開発と研究を進めてきたが、男性の自然妊娠は初めてだ!」

薄井は自分の隣に立つ教授がそう言って興奮した様子で話すのを横目で見ながら、白衣の胸ポケットにしまってあるスマートフォンを取り出した。

「では教授、わたしは急用があるのでこれで失礼致します。」
「後はわたしに任せておけ。薄井君、これから色々と忙しくなるぞ?」
「ええ、そうですね。」

(こいつにはまだ、利用価値がある・・)

京都市内の病院に千と歳三が搬送されて一週間が経った。

「もう退院しても結構ですよ。脳に異常は見られませんでしたから。」
「先生、ご迷惑をお掛けしてしまって申し訳ありませんでした。」
病室で東京から駆けつけて来た隆と、千の義兄である優之(まさゆき)がそう言って高橋医師に頭を下げた。
「いいえ。息子さんが無事に戻って来てくれてよかったですね。」
「はい。妻は千尋が行方不明になって以来、体調を崩してしまいましたから、きっと千尋の無事を知ったら喜ぶことでしょう。」
「先生、土方さんはどうなりますか?」
「彼ももう退院していいんだが、彼は身元引受人が居ないからね・・親族と連絡がつけばいいんだが・・」
こちらの時代には、歳三の親族は全員鬼籍に入ってしまっている。
このままだと彼は、病院を追い出されてしまうかもしれない―そう思った千は、高橋医師にこう言った。
「土方さんは、僕の所で引き取ります。」
「そうか。それなら安心して彼を退院させられるよ。彼は君に対しては唯一心を開いているようだし。」
「千尋、勝手にそんな事を決めるな!お前の所為でどれだけ俺達が苦しんだと思っているんだ!?」
高橋医師と千との会話を隣で聞いていた優之が、そう千に怒鳴ると彼を睨んだ。
「土方さんは僕の命の恩人です。その恩を返さずに、貴方達と東京に帰る事なんて出来ません!」
「お前、よくも生意気に俺に口答えするようになったな?」
銀縁眼鏡の奥で、優之が怒りに滾った目で千を睨みつけ、彼を殴ろうと腕を振り上げた時、彼の喉元に白銀の刃が煌めいた。
「こいつを殴ったら、あんたの首が飛ぶぜ?」
「土方さん、やめてください!」
「ほう、貴様俺を脅すつもりか?」
「俺ぁただこいつを守ろうとしているだけだ。」
歳三と優之は暫く睨み合いを続けていたが、歳三は刀を鞘に納めた。
「千、暫く世話になる、宜しくな。」
数分後、千達は病院を出てタクシーで京都駅へと向かった。
「これから大坂へ行って船で江戸に帰るのか?」
「いいえ、新幹線で東京に・・江戸に帰るんです。」
「新幹線?聞いた事がねぇ船だな。」
幕末に於ける移動手段は船や徒歩、馬での移動だけだったので、歳三は新幹線の事を船の名前だと思い込んでいた。
だが、新幹線乗り場に停まっている東海道新幹線を見た瞬間、歳三は度肝を抜かれ、暫くその場から動けなかった。
「千、これが、“しんかんせん”か?」
「はい、そうですけど・・土方さん、どうしたんですか?」
「こんな物に乗って本当に江戸まで行けるのか?」
歳三は千の言葉が信じられないらしく、発車時間が迫っているというのに乗り場から一歩も動こうとしない。
「大丈夫です。」
「途中で沈むなんてことはねぇよなぁ?」
「船じゃないので、沈みませんよ。」

恐怖と驚きで固まっている歳三を千は何とか宥め、彼を新幹線に乗せるまで五分かかった。

『只今9時18分発のぞみ号東京行き発車いたします。』

車内アナウンスととともに自分達が立っている前の扉が閉まり、歳三は驚きのあまり情けない悲鳴を上げてしまった。

「土方さん、落ち着いてください。」
「おい千、こいつ動いてやがるぞ!」
「大丈夫ですから、行きましょう。」
自分の腰にしがみついたまま離れようとしない歳三と共に、千は隆達が居る座席と向かうと、丁度彼らは車内販売のワゴンでサンドイッチを買っているところだった。
「遅かったじゃないか、千尋。お前も何か食べるか?」
「はい。土方さんも何か食べますか?」
「俺は何もいらねぇ・・」
「すいません、おにぎりとサンドイッチをひとつ下さい。」
千はそう言うと、自分の腰にしがみついている歳三を宥めて空いている座席に座らせた。
「土方さん、どうぞ。」
「あぁ、済まねぇな・・」
千からおにぎりを受け取った歳三は、震える手でそれを頬張り始めた。
「顔色が悪いな、体調がまだ優れないんじゃないか?」
「土方さんはカルチャーショックを受けているだけです。」
「そうか・・」
やがて彼らを乗せた新幹線は東京駅に到着し、千達は近くのホテルに泊まることになった。
「これが“べっど”ってやつか。布団と違って寝心地が良さそうだな。」
部屋に入った歳三は、そう言うなりベッドに飛び乗った。
「土方さん、その格好では目立つので、着替えてください。」
千はそう言うと、用意した洋服を歳三に手渡し、彼の着替えを手伝った。
「ここが飯屋か?」
「ええ。」

数分後、千は歳三と共にホテル内のレストランへと入った。

歳三がレストランに入った瞬間、彼の姿を見た周囲の女性客達から黄色い悲鳴が上がった。

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最終更新日  2016.11.07 15:59:34
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