JEWEL

2016/11/08(火)14:23

双つの鏡 第77話

連載小説:双つの鏡(219)

「お前ぇを気に入らない奴ら?あの気取った女達がどうしてお前ぇを気に入らねぇんだ?」 「話せば長くなるのですが、僕の母は余り近所づきあいが上手くないんです。このタワーマンションに引っ越してきて三年になるんですけれど、母はマンション内に親しい友人が一人も居ません。最初は最上階の五十階に住む西田さん達と仲良くしていたのですが、ちょっと彼女達と揉めてしまって・・」 「西田って、さっきお前に話しかけてきた女か?」 「ええ。西田さんがこのタワーマンションのボス的存在で、このマンションの全てを取り仕切っていると言ってもおかしくはありません。母は、手芸教室をマンション内で開いていて、そこで西田さん達と親しくなったのですが、やがて母を西田さん達がパシリに使うようになって・・」 「パシリ?」 「使い走りの事です。西田さん達は、まるで自分の使用人のように母をこき使うようになって、その所為で母は一時期精神が参ってしまって、入院してしまった事がありました。」 「お前ぇの親父は、自分の女房がそんな事になっているのを気づかずに放っておいたのか?」 「父は家庭の事は全て母と、祖母に任せていますから。近所づきあいも主婦の仕事、外で働く男の仕事ではないと思っているんです。社交家で多趣味の祖母とは違って、母は静かに一人で楽しむ趣味を持つ人ですから、退院した後は西田さん達との付き合いをやめました。それからです、西田さん達が母と僕を敵視するようになったのは。」 「解らねぇなぁ、女同士の付き合いってのは。わざわざ嫌な相手と付き合わなきゃいいのに、どうして無理に付き合おうとするかねぇ?」 歳三はそう言うと、溜息を吐いてリビングのソファに腰を下ろした。 「こういう狭い世界に居ると、いつも他人の目を気にしてしまうんです。西田さんには僕と同い年の息子が居て、僕がその息子さんよりも優秀である事が西田さんにとって癇に障るようで・・顔を合わせれば嫌味ばかり言ってきます。」 千はそう言葉を切ると、歳三の方を見た。 「何かお飲み物でもお持ちいたしましょうか?」 「茶をくれ。」 「かしこまりました。」 キッチンで千が歳三の茶を淹れていると、玄関のドアが開いてリビングに買い物を終えて帰宅した千の母・千佳が入って来た。 彼女は千の姿を見ると、手に持っていたバッグとスーパーのレジ袋を床に落とした。 「千尋、貴方帰って来たのね?」 「母さん、今まで心配を掛けてしまってごめんなさい。」 「謝らないで、貴方が無事に帰って来て本当に良かった!」 千佳はそう叫ぶと、愛しい息子の身体を抱き締めた。 その光景を見た歳三は、総司の事を想って少し胸が痛んだ。 「千尋、そちらの方はどなたなの?」 千から離れた千佳は、ソファに座っている歳三を見た。 「母さん、こちらの方は土方歳三さんといって、僕の命の恩人なんだ。土方さん、僕の母です。」 「初めまして。息子さんには色々とお世話になっております。事情があってこちらに世話になることになりました。これから宜しくお願い致します。」 「まぁ、こちらこそ宜しくお願い致します。そうだ千尋、家のお風呂が壊れちゃって、一週間使えないの。その間大浴場へ行ってくれない?」 「解った。じゃぁ土方さんと大浴場に行ってくるね。土方さん、お茶は後で宜しいでしょうか?」 「ああ、構わねぇよ。」 自室で着替えと入浴道具が入ったバッグを持った千は、歳三と共に四十五階の自宅から三十階にある大浴場へと向かった。 その日は休日の夕方とあってか、脱衣場には沢山の住民達でひしめき合っていた。 空いているロッカーに荷物と服を入れた千と歳三が服を脱いで大浴場に入ると、先に入っていた住民達が歳三に好奇の視線を向けた。 (何だ?) 歳三が首を傾げながら洗い場の椅子に座ろうとした時、誰かが彼の肩を叩いた。 にほんブログ村

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