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JEWEL

2016.11.06
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「ここ、男湯ですよ。女湯は隣です。」
「は?」

歳三がそう言って振り向くと、そこには一人の男が立っていた。
どうやら彼は、歳三を女性と勘違いしているらしい。

「聞こえてますか?」
「うるせぇな、耳元で怒鳴るなよ。あんた、俺が女だと勘違いしているようだが、俺もお前ぇと同じモンついてんだよ。」
歳三は男を黙らせる為、腰に巻いていたタオルを乱暴に取った。
「あ、すいません・・」
男は自分の非を認め、そそくさと歳三の前から去った。
歳三が洗い場の前に座ると、鏡の前に瓢箪(ひょうたん)のような形をした変な容器が置いてあった。
「おい千、こりゃ何だ?」
「ああ、これはシャンプーとリンスです。髪を洗う時はシャンプーを使ってください。」
「しゃんぷー・・あぁ、これか?」
歳三がそう言ってシャンプーのノズルを勢いよく押すと、中の液体が飛び出て彼の右目を直撃した。
「畜生、目が!」
激痛にのたうち回る歳三に慌てて駆け寄った千は、シャワーで慌てて彼の右目に入ったシャンプーを洗い流した。
「大丈夫ですか?」
「ああ。まさかこんな物に目潰しを喰らわされるとはな・・油断大敵だぜ。」
「土方さん、よかったら僕が髪を洗いましょうか?」
「ああ、済まねぇな。」
髪と身体を洗い、湯船に浸かった歳三は、千と共に窓の外から見える東京の街を眺めた。
「あれが江戸の町か・・信じられねぇな。」
「土方さんの時代とは全然町並みが違っていますから、驚くのは当然ですよ。もう上がりましょうか?」
「ああ。」
大浴場を後にして脱衣場へと戻った二人が濡れた身体をタオルで拭き、髪を乾かすためにドライヤーが置かれている洗面所へと向かうと、そこには三歳から五歳くらいの男児数人が追いかけっこをしていた。
「あいつらの親は何処だ?」
「さぁ。それよりも早く髪を乾かしましょう。」
歳三がドライヤーで髪を乾かそうとした時、追いかけっこをしている男児の一人が勢いよく彼にぶつかって来た。
「危ねぇだろ、気をつけろ!」
歳三がそう言って男児を睨みつけると、彼は歳三の怒声に怯えて泣き出した。
「うちの子に何をするんですか!?」
洗面所へその男児の父親と思しき男性がやって来た。
彼は泣いている我が子を抱き上げると、そのままその場から立ち去ろうとした。
「おいあんた、自分の子が他人にぶつかってきたのに謝らずに帰る気か?」
「うちの子はちょっと騒いでいただけですよ。それなのにあんなに怒鳴らなくてもいいでしょう!」
「公衆の場で子供を騒がせておいて放置するのが親の仕事か?他人の迷惑になることはするなって躾をするのがあんたの仕事だろうが!」
歳三の言葉に父親は怒りで顔を赤く染めながら、そのまま男児を抱いて脱衣場から出て行った。
「ったく、ああいう奴が人の親になるなんて、世も末だな。」
「さっきの事、明日マンション中に広まっちゃいますね。ここって狭いからいいことも悪い事も広まるスピードが速いんですよ。」
「それがどうした?俺は間違った事は言ってねぇぞ?」
「そうですね・・」

二人が大浴場から四十五階の自宅に戻ると、千佳がキッチンで慌ただしく夕飯の支度をしていた。

「母さん、手伝うよ。」
「いいのよ、貴方は座っていなさい。」
「でも母さん一人だと大変でしょう?」

千はそう言うと、ダイニングの椅子に掛けられていたエプロンを手に取った。

「今日あの人達は?」
「隆さんは出張で九州へ行ったわ。優之さんは残業するから夕飯要らないってさっき連絡があったわ。お義母様は箱根でお友達と旅行に行くんですって。」
「そうなの。あんまりあの人達と顔を合わせたくないから良かった。」
「千尋、そんな事を言っては駄目よ。貴方にとってはお父さんとお兄ちゃん、お祖母ちゃんじゃないの。」
「血は繋がっていないけれどね。圭太はもう塾に行ったの?」
「ええ。圭太は最近、わたしと話をしたくないみたい。学校で何かあったのかしら?」
「何かあったとしたら、学校から連絡が来る筈でしょう?それがないんだったら、大丈夫なんじゃないの?」
歳三は千佳と千の会話を聞きながら、違和感を抱いていた。
二人とも家族の事を話しているというのに、何故か他人事のように話しているのだ。
この家族には、何か問題があるのだろうか―そんな事を歳三が思っていると、玄関のドアが開き、塾帰りの圭太がリビングに入って来た。

「あら圭ちゃん、お帰りなさい。塾が早く終わったの?」
「うん。ママ、その人誰?」

圭太の視線が、千佳から歳三へと移った。

「圭ちゃん、この人は千尋のお知り合いの方で、土方さんというのよ。暫く家でお世話になることになったから、ご挨拶なさい。」
「はじめまして。」

圭太はそう言って歳三の顔を見た後、鞄から携帯ゲーム機を取り出し、それで遊び始めた。

「土方さん、ご飯が出来ましたよ。」
「おう、今行く。」

夕食の間、千佳と千、そして圭太が一度も目を合わせて会話をしていなかったことに歳三は気づいた。

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最終更新日  2016.11.08 14:26:12
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