天童が竹刀を振るう姿を見た千尋は、彼が武家の出だと一目でわかった。
あの太刀筋は、一日二日で身につけられるものではない。
昨夜、天童が誰かに話していた“計画”とは、一体何なのだろうか?
「おい荻野、何を呆けているんだ?」
「すいません、考え事をしていました。」
千尋が我に返ると、自分の目の前には常日頃から自分を目の敵にしている隊士の姿があった。
「副長に気に入られているからっていい気になるなよ、荻野。俺と勝負しろ。」
「わかりました。」
彼が今日に限って妙につっかかってくる事が気になった千尋だったが、そんな事よりも彼は天童の事が気になって仕方がなかった。
面を被り千尋と隊士が互いに蹲踞の姿勢を取っていると、外が急に騒がしくなった。
「大変だ、誰か来てくれ!」
「佐野さん、一体何が起きたんですか?」
「突然変な奴らが・・」
隊士の一人、佐野がそう言って道場に入ろうとした時、彼は眉間を何者かに撃ち抜かれ、絶命した。
「佐野さん、しっかりしてください!」
『狼ってのは、案外弱い生き物なのだなぁ。遊び甲斐がないぞ?』
そう言って道場に土足で入ってきたのは、巨人のような大男だった。
彼の右手に握られている拳銃が、佐野の命を奪ったものだとわかった。
「貴様ら、何者だ!」
千尋の隣に居た隊士がそう言って大男をにらみつけると、お男は彼を壁まで投げ飛ばした。
『お子様はここで寝てな。』
大男はそう言うと、千尋の前に立った。
『へぇ、お前があの嬢ちゃんの子か。母親に似て可愛いな。』
臭い息を吐きかけられ、千尋は思わず大男から顔を背けた。
『おい、逃げるなよ。漸くお前の事を見つけたんだから、こっちはお前と楽しむ権利があるんだからな。』
訛りが強い英語で早口で大男にそう捲し立てられ、千尋は恐怖に怯える己の顔を彼に見せないように俯いていた。
『・・貴方の望みは何です?』
『俺の望み、正確に言えば俺の雇い主の望みは、お前をある場所へと連れていくことだ。大人しくしていれば悪いようにはしねぇよ。』
『わかりました。』
頭に銃を突き付けられ、千尋は大男に従うしかなかった。
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