千が総司から頼まれていた事を話すと、歳三の顔がみるみる険しくなっていった。
「何で俺が、女装して舞台に立たねぇといけねぇんだ!」
(やっぱりそう来るだろうと思った。)
歳三の予想通りの反応に、千は内心溜息を吐きながら、これからどう歳三を説得しようかと考えていた。
「副長、斎藤です。」
「入れ。」
「失礼いたします。」
斎藤が副長室に入ると、千は何処か気まずそうな顔をしていていた。
「手短に用件を話せ。」
「会津藩の使いの者から、文が届きました。」
「わかった、少し待て。」
歳三は会津藩からの文に目を通すと、怒りの余りそれを握り潰してしまった。
「副長?」
斎藤が歳三によって丸められた文に目を通すと、そこには歳三がジュリエッタとして舞台に出るようにとだけ書かれていた。
「これは・・」
「近藤さんはどこだ?」
「局長は大坂に出張中です。」
「そうか・・千、白松屋に文と俺が頼んだ着物の代金を届けてくれ。斎藤、三番隊の巡察に千を同行させろ。」
「承知しました。」
千は三番隊の巡察に同行するかたちで、梅澤翁が滞在している白松屋へと向かった。
「おこしやす。」
白松屋に千が入ると、奥から女中が出て来た。
「新選組の者ですが、梅澤様はいらっしゃいますか?」
「梅澤様はお二階の突き当りのお部屋にいらっしゃいます。」
「ありがとうございます。」
千が梅澤翁の部屋へと向かうと、彼は快く千を迎えてくれた。
「土方はんの使いの者ですか。お忙しい中わざわざ来てくれて、おおきに。」
「いいえ、こちらこそ。」
梅澤翁は歳三の文を読んだ後、満面の笑みを浮かべ、千にこう言った。
「これも何かの縁や、うちがこの注文、全部お引き受けしましょう。」
「ありがとうございます。」
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