「土方さん、只今戻りました。」
「おう、戻ったか。それで、どうだった?」
「注文を引き受けて下さるそうです。」
「そうか、これから忙しくなるな。」
「土方さん、ジュリエット役を本当に演るつもりですか?」
「会津中将様直々の頼みとあっちゃ断れないだろう。」
歳三はそう言いながら溜息を吐いた。
数日後、大坂から色とりどりの反物と、歳三が姉に注文した着物が届いた。
「千、これから劇に出る奴を大広間に集めろ。」
「はい!」
劇に出演する者達を大広間に集めた千は、衣装を作る為千尋達と協力して彼らの採寸をした。
「結構時間がかかりますね、全ての衣装を二人で仕上げるのは。」
「ええ。」
「ごめんください、誰かおりませんかぁ?」
千が来客の応対の為に屯所の正門前へ向かうと、そこには風呂敷を抱えている十数人の女性達の姿があった。
「あの、貴女達は・・」
「うちらは大坂の梅澤屋から参りました。」
女性達の中からまとめ役と思しき中年女性が千の前に出てきて、一通の文を彼に手渡した。
その文には、劇の衣装を仕立てる手伝いとして、うちの女中達をそちらへ派遣する旨が書かれていた。
「暫くの間、お世話になります。どうぞ宜しゅうに。」
「こちらこそ、宜しくお願い致します。」
梅澤屋から派遣されて来た女中達は皆働き者で、衣装の仕立ての他に炊事などの家事全般を手伝ってくれた。
「いつもわたくし達二人で家事全般をこなしているので、大いに助かります。」
「うちらは大所帯分の食事を作るのに慣れてますけど、二人やと大変でしょう?」
「えぇ。ほかに家事をする者が居ないので、結局わたくし達がすることに・・」
「それやったら、家事を当番制にしたらどうでしょう?こんなに沢山働き盛りの男はんが居てはるんやから、交代して家事をやったらお二人の負担も軽くなると思うんです。」
「それは良い考えですね。」
梅澤屋の女中・てるの話を聞いた千尋は、早速この案を歳三に話した。
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