「家事当番制か、悪くねぇな。お前達二人だけで家事を任せる訳にはいかねぇ。後の事は俺が上手くやっておくから、お前は仕事に戻れ。」
「はい。」
千尋が自室へ戻ると、てる達が彼の方へ駆け寄って来た。
「どうなりました?」
「土方さんは前向きに検討してくれるそうです。」
「それは良かったわぁ。これから家事が少し楽になりますねぇ。」
「そうですね。」
歳三が家事当番制を設けた事により、千達二人にかかっていた家事の負担が少なくなり、その空いた時間を衣装の仕立てや劇の稽古に回せるようになった。
「おい総司、この脚本書きやがったのは誰だ?」
「わたしです。」
「何で俺がロミオと背中合わせで大立ち回りした後に心中ってなるんだよ!原作だとジュリエッタは毒を飲んで死んだ振りして、ロミオがジュリエッタが死んぢまったって勘違いして自害して、ジュリエッタがその後を追うんだろうが!こんなのまるで歌舞伎じゃねぇか!」
「土方さん、頭が固いなぁ。ひとつの作品を読んで、星の数ほど一人一人の読者の解釈や感想が違うんですよ。劇をやるにしても、それぞれ自分が思った結末を脚本にしてもいいと思うんです。」
「確かに、それはそうだが・・」
「わたし、原作の結末も良いと思うんですが、それよりも駆け落ちして追手と大立ち回りするロミオとジュリエッタの姿も良いと思ったから自分なりに脚本書いてみたんです。」
こうして、歳三達は会津藩に劇を披露する日を迎えた。
会場は屯所がある西本願寺内に設けられた舞台という事で、会津藩士達だけではなく、西本願寺の信徒達も集まり、舞台の前は大変賑わっていた。
「何だか緊張するな・・」
「大丈夫ですよ、練習通りにしましょう。」
「はい!」
舞台に女装した隊士達と歳三が現れると、観客達はどっと笑った。
劇は滞りなく進み、いよいよラストの大立ち回りのシーンとなった。
「ロミオ、ジュリエッタ、ここから先は通さねぇ~!」
何故か追手役の隊士は、歌舞伎口調でそうセリフを言いながら見栄を切った。
「ジュリエッタ、お前ぇを一生守り抜くぜ。」
「お前様ぁ~」
背中合わせに戦う近藤と歳三に、観客達から声援が送られた。
劇は大成功で終わり、劇の後、歳三達は島原で打ち上げと称した宴会を開いた。
「みんな、今日は良くやってくれた!今夜は無礼講だから、とことん飲もう!」
近藤の言葉を聞いた隊士達は、一斉に歓声を上げた。
「てめぇら、局長があぁ言ったからってハメ外すんじゃねぇぞ!」
歳三はそう言って隊士達に注意したが、彼らはもう聞いていなかった。
「副長、お疲れ様でした。」
「あぁ、明日は筋肉痛になるな。」
「まだ若いんですから、大丈夫ですよ。」
「そうか?それにしてもこうしてみんなと集まって飲むのは久しぶりだな。」
「そうですね。こうして皆さんとまたお酒を飲める日が来ますよ。」
「そうだといいな。」
そう言った歳三の横顔は、どこか寂しそうだった。
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