素材は
NEO HIMEISM 様からお借りしております。
「あなた、ここにひとりで住んでいるの?」
クリスティーネがそうネズミに尋ねると、ネズミは壁の穴の中へと消えていってしまった。
暫く経つと、あのネズミが今度は家族を連れてクリスティーネの前に現れた。
「あなたには沢山家族が居ていいわね。」
クリスティーネは、自宅で自分の帰りを待っている母の姿を想った。
母に自分の無事を知らせなければ―そう思ったクリスティーネは、牢番を呼んだ。
「家族に手紙を書きたいの、紙とペンを貸して下さらない?」
牢番は無言で彼女に紙とペンを手渡した。
クリスティーネは仄かな蝋燭の灯りを頼りにして、母に宛てた手紙を書いた。
「あなた、これを母に届けてくださらないかしら?」
「すいやせん、生憎俺は忙しいんで。」
牢番はそう言うと、そのまま地下牢から出て行ってしまった。
「あなた、この手紙を母に届けてくださらない?」
クリスティーネがそう言ってネズミに母宛ての手紙を手渡した。
ネズミはチュゥと鳴くと、クリスティーネから手紙を受け取り、壁の穴の中へと消えていった。
「もうすぐ、クリスマスね・・」
窓の外から、絶え間なく降りしきる雪を眺めながら、クリスティーネの母・リリスはそんな事を呟くと、かつて家族三人で楽しく過ごしたクリスマスの夜の事を思い出していた。
居間の中央に飾られた、大きな美しいクリスマスツリー。
ダイニングテーブルに広がる豪華な料理、そして愛する夫と娘の笑顔―だが、今この広い家の中に居るのは、自分一人だけ。
夫は何者かに殺害され、娘は無実の罪で投獄されている。
(あの子は大丈夫なのかしら?こんな寒さで風邪などひいていないかしら?)
リリスはそう思いながら暖炉の炎を眺めていると、キッチンから女中の悲鳴が聞こえた。
「どうしたの?」
「奥様、ネズミです!」
「すばしっこくて、中々捕まえられません!」
女中達は口々にそう言いながらネズミを捕まえようとしたが、ネズミは彼女達の足の間をすり抜け、テーブルの下へと隠れてしまった。
「わたくしに任せなさい。」
「奥様、危険ですわ!」
「噛まれでもしたら・・」
「少し静かにしてちょうだい。」
リリスはそう言って女中達を黙らせると、テーブルの下に隠れているネズミに向かって声をかけた。
「怖がらせてごめんなさいね。今、温かいミルクをあげるわね。」
リリスが優しくネズミに話しかけながら、彼の前に温かいミルクが入った皿を置くと、ネズミは恐る恐るリリスの前に出て来た。
その時、彼女はネズミの首に何かが巻かれている事に気づいた。
「ちょっと失礼するわね。」
リリスはそう言ってネズミの首に巻かれているものを取った。
それは、娘から、自分へ宛てた手紙だった。
-お母様、わたしは無事です C-
(クリスティーネ、良かった・・神様、どうか娘をお守りください。)
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