素材は
NEO HIMEISM 様からお借りしております。
「天上の愛地上の恋」の二次創作です。
作者様・出版者様とは関係ありません。
二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。
舗装されていない砂利道の揺れを感じながら、ルドルフ達は案内役の少女と共に馬車で村長の家へと向かっていた。
「わたしにその村長が一体何の用なんだ?」
「それがわかったら、わざわざこっちから出向くわけがねぇだろう?」
ヨハンがそう言ってルドルフの方を見ると、彼の隣に座っているアルフレートが不安そうな顔で恋人を見た。
「どうした、アルフレート?何を考えている?」
「もしかしたら、ルドルフ様の素性が露見してしまったのではないかと思うのですが・・」
「馬鹿を言え、アルフレート。ここがメキシコならばともかく、こんなコロンビアの田舎でハプスブルク家の名を知る者などいないだろう?」
アルフレートの言葉をそう一蹴したルドルフは、アルフレートの唇を塞いだ。
「お二人さん、イチャつくのは後にしてくれないか?」
「いちいち煩い奴だ・・」
ルドルフは舌打ちすると、窓の外を見た。
『あとどのくらいで村長の家に着く?』
『あと少しで着くわ。』
ヨハンの隣に座っている少女―マリアは、そう言うとじっと彼を見た。
『あなたは、あの二人とはお友達なの?』
『まぁ、そんなところかな。知っての通り、あいつらはスペイン語が話せないから、俺が通訳役として駆り出された訳だ。』
『大人って、大変なのね。』
『まぁな。』
『丘の上にあるのが、村長さんの家よ。』
マリアがそう言って指したのは、煉瓦造りの瀟洒(しょうしゃ)な家だった。
『驚いたな、こんな田舎に豪邸があるとは。』
『マリアによれば、この豪邸の持ち主は遣り手の商売人らしい。』
『そうか・・その“商売人”とやらが、どんな顔をしているのかが楽しみだな。』
ルドルフがそう言って口元を少し歪めて笑うと、居間から糊の利いたエプロンを掛けた黒いワンピース姿のメイドが出て来た。
『ご主人様が、あなた方にお会いしたいそうです。』
メイドの案内で居間に入ったルドルフ達は、暖炉の前に置かれた安楽椅子に座ってパイプを吹かしている肥満体の男がこの豪邸の主であるということに気づいた。
『お忙しい中、急にお呼び立てして申し訳ございません・・ルドルフ様。』
男の口から自分の名が出たのを聞いたルドルフは、少し眦(まなじり)を上げた。
「何故、わたしの名を知っている?」
ルドルフがそうドイツ語で男に尋ねると、彼は笑みを口元に湛(たた)えながら、流暢(りゅうちょう)なドイツ語で答えた。
「わたしはこんな小さな村の長をしておりますが、本業はヨーロッパとの貿易をしておりましてね。海を越えて向こうの政治情勢などが商品とともに入ってくるのですよ。そう、例えば・・マイヤーリンク事件のことなどが。」
男は安楽椅子の近くに置いてあるテーブルの上から、一枚の新聞記事を取った。
そこには、ルドルフの葬儀の様子が書かれていた。
「お前の望みは何だ?」
「望みも何もありません。ただ、あなたが本当にマイヤーリンク事件で“自殺”されたルドルフ皇太子様なのかどうか、この目で確かめたかっただけです。」
(こいつ・・頭が切れる男のようだな。)
「ルドルフ様・・」
ルドルフの隣に立っていたアルフレートが、そっと彼の手に触れた。
彼はそれに応えるかのように、恋人の手を握った。
(安心しろ、大丈夫だ。)
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