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JEWEL

December 14, 2019
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聡子が“彼”と出会ったのは、彼女が五歳の時だった。

その頃聡子は、結核を患い、療養所に入った母を見舞いに、父と弟と三人で軽井沢へとやって来た。

「元気そうで良かったわ、聡子、総司。」
「お母様、お元気になってまたわたくし達の元へ帰って来てくださる?」
「ええ。」
「約束よ、お母様?」
「わかったわ、約束するわ。」
母はその時、自分の死期をもう悟っていたのかもしれない。
だから、娘を安心させる為に、果たせない約束をしたのだ。
その日の夜、蛍が舞う中で母は家族に最期を看取られ、静かに、穏やかな顔をして逝った。
母の葬儀の日は、土砂降りの雨が降って来た。
その雨はまるで、母を失った聡子の代わりに天が泣いているようだった。

(お母様の嘘吐き、どうしてわたしを置いて天国へ逝かれてしまったの?)

人気のない大木の陰で、聡子は膝に顔を埋めて泣いていた。
その時、カサリと誰かが草を踏む靴音が聞こえ、聡子が俯いている顔を上げると、そこには傘を持った一人の少女が立っていた。
腰下まである、長く艶やかな黒髪を結い上げ、藤色の振袖姿に真紅の帯を締めた少女は、優雅な動作で聡子の隣に座った。
「どうして泣いているの?」
「お母様が、天国へ逝かれてしまったの。ずっとわたし達と一緒にいてくれるって、約束してくださったのに・・」
「わたしも、お母さんいないの。だから、貴方の気持ちは良く解る。」

少女はそう言うと、髪に挿していた簪を抜き取り、聡子の手にそれを握らせた。

それは、蝶を象った螺鈿細工の美しい簪だった。

「素敵な簪ね。貴方の?」
「お母さんの形見なんだ。貴方に持っていて欲しいの。」
「そんな大切な物、いいの?」
「いいの。だから、また会う時に貴方がその簪を持っていて、約束よ。」
「うん!」

聡子は少女に向かって微笑むと、彼女と指切りをした。
それが、聡子とあの少女との出逢いだった。

「その子がどこの誰なのかは、判らないのかい?」
「はい。わたしも名乗らなかったし、向こうも名乗らなかったので・・その子を捜したくでも、捜せないのです。」

聡子はそっと指先であの少女がくれた簪に触れながら、彼女の美しい菫色の瞳を思い出していた。

(あの子、今何処で何をしているのかしら?いつか、あの子に会ってこの簪を返したいわ。)

「いつか会えるといいね、その子に。」
「ええ。大鳥先生、わたくしこれで失礼いたします。」

聡子が大鳥の部屋から出て教室へと戻っている頃、歳三は久しぶりに車で鎌倉へと向かっていた。

「まだあったのか、あの木・・」

そう言って歳三が立ったのは、あの夏の日、一度だけ雨宿りした桜の木だった。

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最終更新日  December 14, 2019 12:50:06 AM
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