「あら、どなたかと思ったら、あなたでしたのね。」
ガブリエルの腕を掴んだのは、中庭でアンダルスの父・ユーリスと話をしていた女だった。
「誰だ、貴様?」
「まぁ、覚えていらっしゃらないなんて、残念だわ。わたくしはユーリス様の相談相手の、ジェーンと申します。」
「愛人の間違いではないのか?」
「・・どうぞお考えになるのかは、ご自由にどうぞ。」
女はそう言って笑うと、ガブリエルを見て舌なめずりをした。
「噂に聞いてはいましたが、良い男ですこと。」
「わたしに気安く触れるな。」
ガブリエルは女にそう言うと、邪険に彼女の腕を払った。
「また、お会いしましょう。」
女はそう言って赤毛を揺らしながら去っていった。
「えぇ、ガブリエルがさっき来てたの!?何で教えてくれなかったのさ!」
「アンダルス様はお休み中でしたので、お目覚めになられたらお伝えするようにと、奥様が・・」
「今すぐ着替えて、ガブリエルを追いかけないと・・」
「いけませんよ、アンダルス。あなたは怪我人なのですよ、無理をしてはいけません。」
「でも・・」
「口答えは許しません!」
「はぁい。」
ビュリュリー伯爵夫人から叱られ、アンダルスは渋々とベッドへと戻った。
「アンダルス、あなたはガブリエス様の事をどう思っているの?」
「それは、いくら伯母様でもお教えする事は・・」
「まぁ、そうだったわね。アンダルス、あなたはルチア様の出生について、何か知っているの?」
「さぁ・・」
「では、ルチア様とアレクサンドリア様が従兄妹同士だという事は知っているの?」
「え、初耳です、それ!」
「声が大きいわよ。あなたはこれから宮廷入りするのですから、宮廷内の人間関係を把握しておかなくてはね。」
ビュリュリー伯爵夫人はそう言うと、一冊の手帳をアンダルスに見せた。
そこには、宮廷内の複雑な人間関係が事細かに記されていた。
「宮廷はひとつの大きな蜘蛛の巣よ。どこで誰が繋がっているのかがわからない。」
「あれ・・リリア王妃様とミリア王妃様は姉妹なのですね。という事は、ルチア様とアレクサンドリア様がもし結婚したら・・」
「血族結婚という事になるわね。王族同士では珍しい事ではないわ。」
「何だか、家系図が複雑で頭が痛くなりそう。」
「まぁ・・一度で全てこれを理解しろと言われても無理よね。」
「はい・・」
「アンダルス、これからあなたが宮廷入りするにあたって、ひとつあなたに伝えておかなければならない事があるの・・」
ビュリュリー伯爵夫人は、一旦言葉を切って深呼吸した後、ルチアとレオンことレオナルドの関係をアンダルスに話した。
「それは、本当なのですか?」
「この事は、誰にも口外してはなりませんよ、わかったわね?」
「はい、伯母様。」
それからアンダルスはビュリュリー伯爵家で淑女教育を受け、晴れてビュリュリー伯爵令嬢として社交界デビューする日を迎えた。
「楽しんで来るのですよ。」
「はい、伯母様。」
アンダルスはビュリュリー伯爵夫人に見送られ、ローゼンフェルト家の舞踏会へと向かった。
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