「グレイ家を襲った強盗犯は、三人組といいましたね?」
「えぇ。暗くて顔は良く見えませんでしたが、三人共男でした。」
「ジョン様とチャールズ様はどちらに?」
「さぁ・・お二人は・・」
ステファニーとエドガーが強盗事件について話していると、ジョージの悲鳴が聞こえた。
「ジョージ様、大丈夫ですか?」
「誰かが僕を殺しに来る・・怖いよぉ~!」
「大丈夫ですよ、ジョージ様。ここにはわたし達しか居ませんよ。」
悪夢にうなされていたジョージを、ステファニーは彼が寝るまで傍に居た。
「ジョージ様は?」
「やっとお休みになられましたよ。今は彼の心のケアが大事ですね。」
「ええ。ご両親を殺された上に、自分も殺されそうになったのですから、悪夢にうなされるのは当然です。」
「ステファニーさんも早くお休みになって下さい。」
「はい、わかりました。」
翌朝、ステファニーは実家の家族へ宛てた手紙を認(したた)めていた。
「スティーブ様、NYにいらっしゃるステファニー様からお手紙が届きました。」
「ステファニーから?」
執事長から、ステファニーの手紙を受け取ったスティーブは、蜜蝋の封を切り、それに目を通した。
『親愛なるお兄様、突然のお手紙を寄越してしまい、申し訳ありません。
NYで、わたしはジョージ=グレイという少年と知り合いました。彼は優しく聡明な子ですが、先日彼の両親は強盗によって命を奪われ、上の兄二人は行方不明となりました。このままジョージ様は孤児院に送られてしまいます。その前にどうか、ジョージ様をセルフォード侯爵家の一員に加えて頂けるよう、取りなして下さいませ。どうかお願い致します。 あなたの愛する妹、ステファニーより』
手紙を読み終えたスティーブは、ステファニーの手紙を携え、父の執務室へと向かった。
「父上、スティーブです。今、よろしいでしょうか?」
「スティーブか、入れ。」
「失礼致します。」
執務室に居る父の顔は、何処か疲れているように見えた。
「父上、お顔の色が少し優れないように見えますが・・」
「少し風邪をひいてしまった。それよりも、話しとはなんだ?」
「ステファニーから、こんな手紙が・・」
セルフォード侯爵は、ステファニーの手紙に目を通した後、こう言った。
「スティーブ、ステファニーにすぐ返事を出せ。ジョージ=グレイを我が侯爵家に受け入れると。」
「わかりました。では、失礼致します、父上。」
「スティーブ、今週末用事を空けておけ。お前に会わせたい人が居る。」
「わかりました。」
自室に戻ってステファニーの手紙への返事を認(したた)めながら、スティーブは深い溜息を吐いた。
(結婚、か・・)
やがてセルフォード侯爵家を継ぐ身としていずれ自分は結婚しなくてはならない。
身分と家柄が釣り合う相手を。
(ステフはいいよな、愛する相手と巡り会えて。)
まだ認めた訳ではないが、スティーブの目から見ても、ステファニーとエドガーは似合いのカップルだった。
同じ価値観を持つ者同士が結ばれるのが一番理想的な結婚なのだが、現実はそうはいかない。
せめて、ステファニー達には幸せになって欲しい―そう思いながら、執事長を呼ぶ為にベルを鳴らした。
「この手紙を、ステファニーに届けてくれ。」
「かしこまりました。」
グレイ家の強盗事件発生から数日後、長男・ジョンと次男・チャールズが、カルフォルニアの海岸で遺体となって発見された。
そしてチャールズの遺書には、自分が人を雇って両親を殺害し、全財産を奪おうとしたと書かれていた。
「信じられません、こんな・・」
「確かに・・」
ステファニーとエドガーが朝刊の記事を読んでいると、フロントから電話が来た。
「ステファニー=セルフォード様ですね?スティーブ=セルフォード様からお手紙が届いております。」
「ありがとう。」