※BGMと共にお楽しみください。
「沖田さん、失礼します。」
「千君、来て下さったんですね、ありがとう。」
「いいえ。」
病状が悪化した総司は、松本良順医師から助言を受けて、不動堂村の屯所から、“療養”目的で勇の妾宅に隔離された。
肺結核は空気感染する為、歳三に命じられて千達が総司を世話する際、マスクと消毒は必須だった。
とはいえ、この時代にはアルコール消毒液などないので、焼酎を少し水で薄めたものを小瓶に入れていた。
「身体の調子はどうですか?」
「今日は調子がいいです。」
「そうですか、それは良かった。」
総司はそう言うと、自分の近くに寄って来た福を撫でた。
「福ちゃん、少しやせましたね?」
「えぇ、もうすぐ二歳になりますから、餌はいつもの物をふやかして与えています。」
「そうですか・・土方さんは、どうしていますか?」
「土方さんは、色々と忙しそうです。」
「年の瀬だから、仕方ないですよね、土方さんがこちらに来ないのは。」
総司はそう言って笑ったが、その笑みは何処か寂しそうだった。
「土方さん、お話があります。」
「何だ、今忙しい。」
「沖田さんの所に、たまには顔を見せてあげて下さい。」
「わかった。」
数日後、総司がいつものように福と遊んでいると、そこへ歳三がやって来た。
「総司、少しやせたな・・ちゃんと飯は食っているのか?」
「土方さんこそ、酷い顔・・ちゃんと休んでいるんですか?」
「あぁ。」
「これから、どうなってしまうのでしょうね?」
「さぁ、それはわからねぇな。」
「見て下さい土方さん、これ千君がわたしの為に作ってくれたんですよ!」
そう言って総司が歳三に見せたのは、千が作ってくれたマスクだった。
「ねぇ土方さん、あとどれ位、わたし達は一緒に居られるんでしょうね?」
「なぁ、総司。俺はいつまでもお前と一緒に居たい・・こうして、馬鹿話してお前ぇと笑い合いたいんだよ、俺は・・」
「・・漸く、本音を言ってくれましたね、土方さん。」
「総司・・」
歳三が総司の方を見ると、彼は涙で潤んだ翡翠の瞳で自分を見つめていた。
「愛しているよ、総司・・」
「わたしもです、土方さん・・いいえ、歳三さん。」
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