「今朝出勤したら、わたしのスマホにこんな物がメールで送られてきた。」
洋雄がそう言って隆雄に見せたのは、あの不倫動画だった。
「お前は一番大切な時期に、何をやっているんだ!?」
「申し訳ございません・・」
「相手の女とは早く別れろ、いいな!」
「は、はい・・」
父の部屋から飛び出した隆雄は、すぐさま明美を町外れの純喫茶。ジュリアへと呼び出した。
「急に呼び出して何の用?」
「俺と別れてくれないか?」
「はぁ、突然何言ってんの!?あたしは・・」
「君との動画が、ネット上に拡散されているんだ。」
「それがどうしたっていうの?困るのはあんただけでしょう?」
「あ、明美・・」
「あたしは失うものなんて何もないわ。さっさと奥さんと別れてよ。」
(畜生、俺はどうすればいいんだ?)
同じ頃、真珠―忍は、病室の窓から町の景色を眺めていた。
「忍、調子はどうだ?」
「少し良くなりました、副長。」
「そうか。退院するの、あさってだったな?」
「はい。」
忍は退院後、暫く学校を休んで祖母の家に滞在する事になっている。
「これから、わたしはどうなるのでしょうか?」
「それは、誰にもわからねぇよ。」
「そうですか。」
忍はそう言うと、再び窓の外を見た。
ジュリアで隆雄から突然別れ話を切り出された明美は、そのまま車で学校へと向かった。
だが、そこで彼女を待っていたのは、突然の解雇通告だった。
「突然で悪いけれど、君の後任は来週来る事になったから。」
「そんな・・じゃぁあたしはこれからどうすればいいんですか!?」
「そんなのは、自分で考えたまえ。」
明美が職員室で荷物をまとめていると、そこへ歳三がやって来た。
「・・次の仕事、早く決まればいいですね。」
「うるさいっ!」
明美はそうヒステリックに叫ぶと、そのまま職員室から出て行った。
「何あれ~」
「自業自得じゃんね。」
明美の後任として来た教師は、朗らかで笑顔が素敵な男性だった。
「こんなゴツいけれど、僕こう見えても手先が超器用です、よろしく!」
「よろしく~!」
新任の家庭教師・丸山は、男女関係なく生徒達から人気だった。
「この学校には珍しいですね、あぁいうの。」
「そうですか?」
職員室で歳三がそんな話をしながら事務仕事をしていると、柴田が窓の外で生徒達に囲まれている丸山の姿を見て溜息を吐いた。
「何だかね、男らしくないというか・・」
「今は個性を大事にする時代ですから、指導する我々も個性を大事にした方が・・」
「都会から来た先生は、やっぱり言う事が違うなぁ。」
柴田はそう呟くと、そのまま職員室から出て行った。
「土方先生、一緒にランチしません?」
「いいですよ・・」
丸山に連れられて歳三がやって来たのは、駅前近くのカフェだった。
「土方先生は、この町での生活に慣れましたか?」
「いやぁ、まだ・・」
「ですよねぇ~、僕田舎暮らしに憧れてこの町に来たんですけれど、よくテレビでやっているのはほとんど嘘っぱちですね。」
「こういう所は、陰口があっという間に広まりますから、そう言う事言わない方がいいですよ。」
「そうですね、すいません。あ、そういえばもうすぐですね、祭り。」
「もうそんな時期でしたっけ?」
「ネットだと、“美人姉妹の巫女舞が美しすぎる祭り”って、毎年噂になっていますよ。」
「そうですか・・」
「この町、他の地域と比べて祭りが多いと思いませんか?」
「確かにそうですね。」
丸山とのランチを終えた歳三がカフェから出ると、丁度駅前の広場では町長選挙の候補者が演説していた。
「わたしは、この町の子供達に・・」
「口先だけでしょう、そんなの・・」
数日後、退院した忍は暫く祖母と暮らす事になった。
「よぉ来たな。」
「お世話になります。」
「時が解決してくれる。それまで休め。」
「はい・・」
一方沖田家では、千華が隆雄と正式に離婚する事になった。
「不倫の慰謝料は必ず頂きますから、そのつもりで。」
「あぁ・・」
にほんブログ村