『さぁ、こちらです。』
馬車から先に降りたアーノルド達は、一足先に正面玄関からレイノルズ伯爵邸の中へ入っていったので、千も歳三と共にアーノルド達に続いて伯爵邸の中に入ろうとすると、ジョージが歳三の腕を掴んだ。
『申し訳ありませんが、あなた様は裏口の方へ・・』
『彼はわたくしの客人です、使用人扱いしないで頂きたい。』
『これは、大変失礼致しました。』
ジョージはそう言って歳三に向かって頭を下げた。
『以後、気をつけなさい。』
千が威嚇するかのようにジョージを睨みつけると、彼はそのまま裏口へと回った。
「さぁ、行きましょうか。」
「あぁ・・」
千達がレイノルズ伯爵邸の中へと入ると、玄関ホールには揃いの黒ワンピースの上にレースのエプロンとキャップ姿のメイド達が二人を出迎えた。
『アーノルド様達はダイニングルームへと先に向かわれましたので、案内致します。』
『ありがとう。』
二人がダイニングルームへと向かっている頃、そこではレイノルズ伯爵家の者達が千尋について話し合っていた。
『あなた、本当にあの子はこの家を継ぐつもりなのかしら?』
『どうやら、彼はそのつもりのようだ。』
『冗談じゃないわ!お父様は一体何をお考えだったのかしら、裏切り者の妹の子に全財産を相続させるなんて!』
『落ち着いて下さい、お義姉様。』
『お黙り、アリス!あのアイルランド男はまだ生きているの?死んでくれたらわたくしとしては嬉しいのだけれど!』
『イザベラ、言葉が過ぎるぞ!』
アーノルドがそう言って妻を窘(たしな)めると、ダイニングルームに千と歳三が入って来た。
『遅れてしまって、申し訳ありません。』
『ジェイド、お前、生きていたの!?』
『お義姉様、彼はジェイドではありませんわ。彼と瓜二つの顔をしていますけれど。』
『あら、そうなの。』
『みんな、揃ったね。』
凛とした声がダイニングルームに響き渡った後、ジョージに車椅子を押されながら、一人の老婦人が千達の前に現れた。
『あなたが、チヒロね?』
『はい・・お祖母様。』
『さてと、全員揃ったから夕食にしようか。』
老婦人がそう言って手を打つと、料理を載せた使用人達がダイニングルームに入って来た。
重苦しい空気の中、千達は只管(ひたすら)ナイフとフォークを動かし、黙々と食事をしていた。
暫く経った頃、突然ジョージが慌てふためいた顔をしてダイニングルームに入って来た。
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