『大奥様、大変です!』
『ジョージ、どうしたのです?そんなに大声出して。』
『ジェイド様が、お戻りになりました!』
『何ですって!?』
レイノルズ伯爵家の女主人・シャーロットは、ジョージの言葉を聞いて思わずワイングラスを握り潰しそうになった。
『大奥様、大丈夫ですか?』
『本当に、ジェイドが生きているの?それは間違いないわね!?』
『はい大奥様、実は・・』
ジョージが次の言葉を継ごうとした時、ダイニングルームの扉が開き、一人の男が入って来た。
漆黒の髪をなびかせ、紫紺の瞳を煌めかせたその男―ジェイドは、荒い息を吐きながらシャーロットの元へと駆け寄った後、彼女の前に跪いた。
『只今戻りました、シャーロット様。』
『あなた、お帰りなさい!』
『アリス、ただいま。そちらの方達は誰だい?』
『こちらはチヒロさん、わたし達の親戚よ。』
『そうか・・初めまして、ジェイドといいます。シャーロット様、わたしは先に部屋に戻って休みます。』
『えぇ、そうね。ジェイド、また後で話しましょうね。』
『はい。』
ジェイドはそう言ってダイニングルームから出て行った。
『チヒロ、貴女はこの家を継ぐ気はあるのね?』
『はい。』
『その答えを聞いただけで満足よ。明日からお前にはレイノルズ伯爵家次期当主になれるよう、一流の教育を受けて貰います。』
『わかりました。』
夕食を終えた後、千がメイドに案内された部屋に入ると、そこは青い小花模様の壁紙に囲まれた、上品で優しい雰囲気に包まれていた。
『ここは、どなたのお部屋です?』
『エミリーの部屋よ。』
『大奥様・・』
『そんなに堅苦しい呼び方は止めて頂戴。お祖母様と呼んで。』
『お休みなさい、お祖母様。』
『お休みなさい、チヒロ。』
その日の夜、千はベッドで寝返りを打っていると、何処からか狼が吠える声が聞こえた。
中々眠れずに千が広い屋敷の中を歩いていると、図書室の方から誰かが言い争っているような声が聞こえて来た。
『あの男は危険だ!』
『チヒロが連れて来た男のこと?彼は危険そうには見えないわ!』
『お前は何も知らないからそう言う事が言えるんだ!わたしはあの男が同族を悪魔のように屠っていたのを、この目で確かに見たんだ!あの男は悪魔だ!』
アーノルドとイザベラの会話を盗み聞きしてしまった後、千は静かに自分の部屋へと戻った。
この作品の目次は
コチラです。
にほんブログ村