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JEWEL

2020.06.30
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「どうして東京の記者の方がこんな田舎町に?」
「・・実は、毎年この町で奇祭が開かれるという情報を得て、その取材にやって来ました。」
「そうですか・・」

歳三はそう言うと、斎藤の顔を見た。

顔立ちも、落ち着いた雰囲気も“昔”のままだが、本人は“昔”の記憶があるのだろうか―歳三がそんな事を思っていると、斎藤は一口コーヒーを飲んだ後、笑みを浮かべて言った。

「お久しぶりです、副長。元気にしておられて安心致しました。」
「斎藤、お前記憶があるのか?」
「はい。先程知らない振りをしたのは、人目があったからです。」
「そうか・・なぁ、近藤さん・・勝っちゃん達とは会ったのか?」
「はい。この前、総司達に会いました。二人共元気そうでした。」
「そうか。」
「まさか、あの副長がこんな所にいらっしゃるなんて思いもしませんでした。」
「まぁ俺は自分でもこんな所に居るのかわからねぇよ。ここでも暮らしは、精神がもたねぇ。」
「では、近々この町から引っ越されるおつもりで?」
「あぁ、祭りが終わってからな。」
「そうですか。」

斎藤はそう言うと、リュックサックから一冊の手帳を取り出した。

「今日はお忙しい中、取材を受けて下さりありがとうございました。」
「こっちこそ、こんな所までわざわざ来て貰って済まねぇな。今日はどうやってここまで来たんだ?」
「車で来ました。今夜はここで一泊してから帰ります。」
「そうした方がいい。宿はどこだ?」
「町外れのモーテルです。」
「ここは豪雪地帯だから、雪が降るまでに東京へ帰るんだぞ。」
「わかりました。」

斎藤とマンションの前で別れた歳三が部屋へ戻ろうとした時、すかさず近くで雑草取りをしていた主婦が彼に駆け寄って来た。

「土方先生、さっきの人は?」
「・・古い知り合いです。」
「そうなんですかぁ。」

主婦は歳三の話を聞くと、興味を失くしたかのようにそのまま自分の部屋へと戻っていってしまった。

山田一家を殺した犯人が見つからぬまま、“胡蝶祭り”の日がやって来た。

町は朝から賑わっていた。

「凄い人だな・・」

モーテルの部屋から出て、斎藤が祭りのメイン会場である荻野神社へと向かうと、そこは地元民や観光客でごった返していた。
神社の沿道には、ベビーカステラやフライドポテト、焼きそばなどの屋台が軒を連ねていた。
「あらぁ、あなたこの前土方先生の家の前で会った!」
突然背後から肩を叩かれ、斎藤が振り向くと、そこには地元民と思しき主婦が立っていた。
「ねぇ、この町には祭りの取材で来たの?」
「はい・・」
「だったら、うちの店の宣伝もしてよぉ。うちはね、今流行りのオーガニック食材を使った・・」
何なのだろう、人が何も聞いてやしないのに、こちらがマスコミと知るや否やすぐに自分の店のアピールをしたりする神経の図太さと厚かましさは、この町の住人特有のものなのだろうか?
「ねぇ、山田さんの家で起きた事件、犯人はきっと余所者の木戸一家だと思うのよぉ。だってあそこの奥さん、外で変な機械使って、放射能を防ぐとか何とか言って家の窓全体にアルミホイル貼ったりしてさぁ~、息子も何してるかわからない奴だったしねぇ。」
山田一家の事件なら、テレビのニュースを観たから知っているが、一家全員の死因は皆一酸化炭素中毒死で、焼死体として発見されたのは火の回りが早くて彼らが意識を失っていたからだと、地元警察の公式発表でわかっている。
それなのに、東京から来たというだけで、あの震災が齎(もたら)した、一部の放射能に過敏な人達が偶々この町に移住して来ただけで、勝手に犯人扱いか。

ふざけるな。

「これから、鬼が来るわよ。」
「鬼、ですか?」
「山田さんの所があんな風になったじゃない。鬼がこの町に来て、ここを滅ぼしに来るかも!」

 何が鬼だ、この町がもし滅びるようならあんたらみたいな詮索・監視好きの住民達の所為だ。

「すいません、そろそろ巫女舞が始まる時間なので・・」
「あ~、そうなの、残念ねぇ。」

斎藤が主婦に背を向けて歩き出した時、背後から数人分の視線を感じたが、斎藤は一度も振り返らずに本殿へと続く石段を登った。
丁度巫女舞が始まったようで、揃いの巫女装束姿の中学生達が舞台の上で舞っていた。
観客達の拍手に見送られ、彼女達が舞台を降りた後、この祭りの主役である“胡蝶姫”が舞台に現れた。

薄化粧を施した“胡蝶姫”は、静かに舞い始めた。

観客達は皆、その舞が終わるまで誰も微動だにせず舞台だけを見ていた。

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Last updated  2020.06.30 21:24:02
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