※BGMと共にお楽しみください。
「火宵の月」「薄桜鬼」の二次創作小説です。
作者様・出版社様・制作会社様とは一切関係ありません。
二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。
「気を付けて行くのだぞ、有匡。」
「はい、父上。」
上洛前夜、有匡は有仁と久しぶりに酒を酌み交わした。
「すぐに戻って参りますので、ご心配なさらないでください。」
「そうか。火月殿にはこの事は言っていないのか?」
「明朝、彼女と会う事にしました。」
「この前、瑞庵殿とお会いしたそうだな。」
「はい、母上の事で・・」
「スウリヤには、可哀想な事をした。あの者達さえ来なかったら、今頃は・・」
「あの者達とは?」
「スウリヤの親族の者だ。彼らも、スウリヤを探しているらしい。それに、先程スウリヤの部屋を探していたらこんな物が見つかった。」
有仁はそう言うと、ある物を有匡に見せた。
それは、スウリヤの日記帳だった。
有匡が中を見ると、そこには隠れキリシタンであった母の苦悩が綴られていた。
「その日記が、スウリヤを探す手がかりになるかもしれん。」
「ありがとうございます、父上。」
「艶夜はどうした?」
「さぁ、わかりませぬ。」
翌朝早く、有匡は火月と聖心寺で会った。
「本当に、行ってしまわれるのですね?」
「あぁ。なに、すぐに戻って来るから心配するな。」
「そうですか。では、僕は先生の帰りをお待ちしております。」
「待っていろ。」
有匡はそう言うと、懐から紫の袱紗に包まれた美しい紅玉の簪を取り出し、それを妻の髪に挿した。
「この簪を、わたしだと思って大切にしてくれ。」
「はい・・」
そんな会話を交わした後、二人は口づけを交わした。
「では、行って来る。」
「行ってらっしゃいませ。」
火月は夫の姿が見えなくなるまで、聖心寺の正門前で彼に向かって手を振っていた。
「お帰りなさいませ、お嬢様。有匡様にはお会いできましたか?」
「えぇ、お会い出来たわ。」
「大丈夫ですよ、有匡様はすぐにお戻りになられますよ。」
「そうね・・」
「素敵な簪ですね、それは有匡様から頂いたものですか?」
「えぇ。」
「きっと、無事に戻られますよ。」
「・・わたしも、そう信じているわ。」
火月はそう言った後、有匡に挿して貰った簪に触れた。
火月と聖心寺の正門前で別れた有匡は、船で大坂へと向かい、その日の夜は“吉田屋”という船宿に泊まった。
部屋に入った彼は、背負っていた網袋を下ろし、溜息を吐いた。
あと数日歩いたら京に辿り着くのだが、船酔いと疲労の所為で彼は布団を敷かずにそのまま眠ってしまった。
翌朝、雨音で有匡が目を覚ますと、何やら宿の外が騒がしかった。
「何かあったのか?」
「へぇ、何でも浪士達の斬り合いがあったそうで・・その死体が道端に放置されて迷惑なこっちゃ。」
「そんな事が・・」
「京では長州の浪士が幕府のお役人を殺しまくってるちゅう噂や。」
宿の主の話を聞いた後、有匡が京に着いたのはその日の昼の事だった。
「もう桜の季節も終わりか・・」
有匡がそう呟きながら三条大橋近くにある茶店で茶を飲んでいると、そこへ一人の少年がやって来た。
「失礼、貴方が土御門有匡様ですね?わたしは土御門家の使いとして参りました、雪之丞と申します。」
使いを寄越すとは、どうしても土御門家は自分を逃がしたくないのか―有匡はそう思いながら、雪之丞と茶店を後にした。
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