「薄桜鬼」「刀剣乱舞」の二次創作小説です。
制作会社様とは関係ありません。
二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。
「ありゃ、眠ってしまったねぇ。」
髭切はそう言って、自分の膝の上に頭を預けている弟を見た。
長い間生き別れていた兄と再会を果たし、涙を流したまま自分にしがみついて離れようとしなかった弟は、どうやら泣き疲れてしまい、そのまま眠ってしまったらしい。
「世話の焼ける弟を持って災難じゃの。」
「そんな事ないよ、この子は僕の可愛い弟だからね。」
すぅすぅと寝息を立てている弟の頭を撫でながら、髭切は大黒屋に向かって笑みを浮かべた。
「小さい頃は泣き虫で、僕の姿が見えないと泣きじゃくりながら家中を捜しまわっていたよ。」
「兄弟仲が良くていいのう。わしにも弟が居るが、おまん達のようには仲が良くない。」
「まぁ、毎日同じ屋根の下で暮らしていると、色々と相手の悪い面を見てしまうものだから、些細な事を喧嘩するのは仕方がないでしょうね。僕達は小さい頃からいつも一緒でしたから、お互いの良い面も悪い面も知り尽くしていて、喧嘩なんてしなかったなぁ。」
「そうか。それよりもお前は名家の出だと噂があるが、それは本当だったか。」
「ええ。名家といっても、名ばかりのもので、今は傾いた家を僕が支えているようなものです。」
髭切の言葉に、大黒屋は何も言わずに猪口に注がれた酒を飲んだ。
廓に売られてくるのは大抵が百姓の娘だが、髭切のような武家出身の者も少なくはない。
「そういえば、おまんがここへ来た時の事をまだ聞いていなかったな。」
「昔の事は、余り思い出さないようにしているのですよ。」
そう言った髭切の顔には、何処か哀愁が漂っていた。
「う~、兄者・・」
「はいはい、僕はここに居るよ。」
大黒屋に手伝って貰い、眠っている膝丸を自室へと運んだ髭切は、布団の中で寝返りを打っている弟の頭を再度撫でると、彼に微笑んだ。
「太夫、女将さんが呼んでますえ。」
「解った、すぐ行くよ。」
膝丸を起こさぬよう自室から出た髭切が女将の部屋へと向かうと、そこには煙管を咥えて不機嫌そうな様子で顔を顰めている女将・菊の姿があった。
「女将さん、僕にご用とは何でしょうか?」
「髭切、あんた最近客の相手をしてへんそうやな?」
「ええ、少し体調が優れなくて・・」
「大黒屋様から聞いたのやけれど、あんたの弟があんたの事を迎えに来たってなぁ?あんたが変な気を起こしてここから逃げようとか考えてへんやろうかと思うて、ここへ呼んだのや。」
「そんな事、ある訳ないでしょう。僕は女将さんに、一生かけても返しきれない恩を頂いたのですから。」
「そうか。もう帰っていいで。」
菊は髭切の言葉を聞いて安心したのか、髭切にそっぽを向いた。
「では、失礼いたします。」
菊の部屋から出た髭切は、誰も居ない廊下を暫く歩いた後、拳で壁を殴った。
「僕がいつまでもお前の言いなりになると思うなよ、鬼婆め。いつかお前を僕の手で屠(ほふ)ってやる。」
そう呟いた髭切の瞳は、血のような紅に染まっていた。
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