「薄桜鬼」「刀剣乱舞」の二次創作小説です。
制作会社様とは関係ありません。
二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。
荒い呼吸を何度か繰り返し、己の内側で猛り狂う激しい負の感情を必死で抑え込んだ髭切は、俯いていた顔を上げて自室へと戻った。
髭切が襖を開けると、布団には膝丸が幼子のように安らかな寝息を立てながら眠っていた。
(僕が居ない間、お前はどんな思いで生きて来たんだろう?)
座敷で自分と再会した時の弟の喜びようを想像すると、彼は自分の事を必死で探していたに違いない。
自分が廓に居ると知った時、膝丸はどんな顔をして大門をくぐったのだろうかと想像するだけでも、髭切の頬は自然と弛んでしまった。
「兄者?」
暫く髭切が膝丸の手を握りながら彼の寝顔を眺めていると、膝丸は低く呻いた後、ゆっくりと糖蜜色の瞳を開いて髭切を見た。
「ここは何処だ?」
「僕の部屋だよ。あの後、お前は泣き疲れて眠ってしまったから、座敷からここまで運ぶのに苦労したよ。」
「済まなかった兄者、座敷での事といい、俺は兄者に迷惑を掛けてばかりだ!」
「いいんだよ、弟を甘やかすのは兄である僕の特権なんだから。」
髭切はクスクス笑いながら膝丸の頭を撫でた。
「兄者が廓に売られた事は知っていたが、まさか島原で会えるとは思わなかった。」
「僕も、こんな場所でお前と再会できるなんて思わなかったよ。真面目なお前がこんな所に一人で好んで来る訳がないし、仲間を連れてやって来たのもうなずけるよ。」
「兄者、俺が居ない間、兄者はここで何をしていたんだ?」
「話せば長くなるよ。それよりも僕ももう疲れたから一緒に寝よう。」
「あ、兄者と俺が一緒に寝るなど、そんな恐れ多いことが出来るか!」
「遠慮しなくてもいいじゃない、久しぶりに会えたんだから一緒に寝よう、膝丸。」
「兄者・・」
一緒に寝ようという兄の言葉に最初は戸惑っていた膝丸だったが、隣に兄が居る安心感からか、再び彼は安らかな寝息を立てながら眠り始めた。
時折自分の髪を梳く弟の手を握りながら、髭切はこの廓に初めて来た日の事を思い出していた。
女衒に手を引かれ、島原の大門をくぐり、裏口からこの廓の中に入った髭切を待ち受けていたものは、怒りと屈辱の日々だった。
菊は金髪金眼の髭切を一目見た瞬間から気に入り、舞や音曲などを彼に直に教え込んだ。
家は傾いたが、名家の御曹司として幼い頃から礼儀作法などを両親から叩き込まれながら育った髭切は、女将のしごきに耐え、次第に廓での生活に慣れていった。
しかし、客に抱かれる事だけは未だに慣れない。
それは髭切に苦痛しか与えなかった。
膝丸を起こさぬようそっと寝床から脱け出し、髭切は鏡台の前に座った。
引き出しから一振りの懐剣を取り出すと、その鞘を抜いた。
白銀の刀身が姿を現し、それが月光に照らされて鈍色に光った。
まだこの懐剣であの女を殺すべきではない。
あの女が苦しむ姿を見た後で、とどめを刺してやる―そう思いながら、髭切は鈍色に光る刀身を鞘に収めた。
「兄者?」
「ごめんね、起こしちゃったね。」
髭切は弟に笑みを浮かべると、彼の隣に滑り込んだ。
「お休み、弟よ。」
「お休み、兄者。」
一組の布団の中で、髭切と膝丸は互いの手を握り合って眠った。
(可愛い僕の弟・・これからはずっと一緒だよ。)
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