「薄桜鬼」「刀剣乱舞」の二次創作小説です。
制作会社様とは関係ありません。
二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。
「ご、ごめん。あたしったら、変な事を言っちゃったね。」
「次郎姐さんは悪くないよ。ちょっと嫌な事を思い出しちゃって、つい声を荒げてしまったんだ。」
そう言った髭切の瞳は、真紅から金へと戻っていた。
「それにしてもあんたも良く働くよねぇ。昨夜だって幾つかお座敷を掛け持ちして、その後は大黒屋様のお座敷に行ったんだろう?身体が幾つあっても足りないんじゃないかい?」
「まぁね。昨夜は長年生き別れて来た弟がやって来て、色々と忙しかったし。」
「へぇ、あんたに弟が居るなんて話、初耳だよ。あたしにも、少し年が離れた兄貴が居るんだよ。兄貴の名前が太郎で、あたしが次郎。まぁ呼びやすいし覚えやすいよね。」
次郎太夫はそう言うと、髭切の髪を梳き終わった。
「そうかぁ。弟の名前をいつも忘れてしまうのだけれど、あの子は僕にとって大切な弟には変わりはないんだ。幼い頃に別れたきりだから、久しぶりに会えたのが嬉しくて・・」
「これからはいつでも会えるじゃないの。髭切太夫の話を聞いたら、あたしも兄貴に会いたくなったなぁ。」
次郎太夫はそう言うと、鬱陶しげに髪を掻き上げた。
今日も、島原に夜が訪れた。
「髭切太夫や。」
「天女のような美しさや。」
「なぁ、知ってるか?太夫は武家の生まれらしいけど、家の為にここへ売られて来たんやて。」
左右に禿を従わせ、太夫道中をする髭切太夫の耳に、自然と見物人達の声が聞こえて来た。
やはり噂というものは広まるのが早い―髭切はそう思いながら、フッと笑った。
「姐さん?」
右側に立っていた禿が怪訝そうな顔で髭切を見つめたので、彼は何でもないと言って再び歩き続けた。
今を時めく髭切太夫の華やかな太夫道中を、小烏は恨めしそうな目で物陰から見ていた。
髭切と同じ容姿を持ちながらも、彼からその存在を否定され、拒絶された自分。
『僕に弟は一人だけだ。お前なんか、僕の弟じゃない!』
あの時髭切から放たれた冷たい拒絶の言葉と視線を、未だに小烏は憶えている。
髭切に死よりも辛い思いを味あわせてやりたいという復讐心がいつしか小烏の中で芽生え始めたのは、彼から拒絶された頃からだった。
そして、髭切が島原の太夫として生きている事を知り、少しでも彼に近づこうと、小烏は祇園で舞妓となった。
髭切と似た舞妓が祇園に居る、という噂は、小烏の目論み通り、この島原界隈でも流れている。
後は、彼が自分の存在に気づけばいいだけだ。
その時が、彼に―髭切に復讐できる機会だ。
(焦ることはない、少しずつ進めていこう。)
小烏は華やかな太夫道中から背を向け、元来た道を戻った。
「小烏、遅かったやないの。」
「すいまへん、姐さん。」
小烏は姉芸妓にそう言って微笑むと、降り出した雪の中を彼女と共に歩き出した。
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