「薄桜鬼」「刀剣乱舞」の二次創作小説です。
制作会社様とは関係ありません。
二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。
道場の帰り、膝丸は一軒の小間物屋の前で何度も行ったり来たりしていた。
「お客様、うちに何か用どすか?」
店主からそう声を掛けられ、膝丸は紅い漆塗りの美しい櫛を指した。
「この櫛は幾らだ?」
「この櫛なら、二両します。」
「頂こう。」
膝丸は懐から財布を取り出し、櫛の代金を払うと店主からそれを受け取って店から出て行った。
(兄者の髪にきっと映えることだろう。)
膝丸は買ったばかりの櫛を握り締めながら、その櫛を髪に挿している髭切の姿を思い浮かべた。
「膝丸、こんな所でどうしたんだ?」
急に背後から肩を叩かれ、膝丸は慌てて懐に櫛をしまった。
彼が振り向くと、そこには道場仲間の氷室が立っていた。
「別に。お前こそ、俺に何か用か?」
「いや、さっき島原の方に変な機械を持った奴がうろついていたから、それをお前に知らせようと思って。」
「変な機械だと?そいつはどんな奴だ?」
「羽織袴姿の奴だ。」
「有難う。」
氷室に礼を言った膝丸は、島原へと向かった。
同じ頃、鈴振楼に“変な機械”を持った羽織袴姿の男・石山がやって来た。
「はぁ、ふぉとがら?聞いたことがないようなものどすなぁ。」
「正式にはフォトグラフィーといって、このカメラで皆さんを撮影するだけです。」
「こんな面妖な機械でうちらを撮るやなんて・・噂では魂が抜かれてしまうって聞いてますけど・・」
「そんな噂は全くの出鱈目(でたらめ)です。」
石山はそう言って菊に向かって微笑むと、菊は笑顔を浮かべて石山を中へと招き入れた。
「髭切太夫はこちらにいらっしゃいますか?」
「髭切なら自分の部屋におりますが、何やあの子にご用どすか?」
「今を時めく島原の太夫を是非このカメラで撮りたいと思いましてね。」
「わかりました。あの子を呼んで来ますさかい、うちの部屋で暫くお待ちください。」
菊が石山を自分の部屋へと通し、髭切の部屋へと向かおうとした時、表の方が何やら騒がしい事に気づいた。
「兄者、兄者はおらんか~!」
「まぁお武家様、こんな日の高いうちから何のご用どすか?」
菊がそう言って廓の中に入って来た若者に笑みを浮かべると、彼はこの廓に変な機械を持った男が入って来なかったかと聞いて来た。
「ああ、そのお方ならうちの部屋にいらっしゃいますよ。何や、髭切を撮りたいとか言うて・・」
「何だと!その男、やはり兄者の命を狙って・・」
「お武家様?」
「女将、部屋へ案内しろ。」
膝丸の尋常ではない様子に気づいた菊は、自分の部屋へと彼を案内するしかなかった。
「女将さん、髭切太夫はまだ・・」
「兄者の命を狙う不届き者め、ここで俺が成敗してくれる!」
膝丸は勢いよく部屋の襖を開け放ち、恐怖と驚きで腰を抜かした石山に向かって飛び掛かった。
「何かの誤解です、わたしは何も・・」
「その面妖な機械で、兄者の命を奪うつもりだろう!?」
「お武家様、落ち着いてくださいませ!」
菊が慌てて石山に殴りかかろうとしている膝丸を止めようとした時、廊下からサラサラという衣擦れの音が聞こえてきた。
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