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コチラからお借りいたしました。
「薔薇王の葬列」二次創作小説です。
作者様・出版者様とは関係ありません。
二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。
「・・大変御無沙汰しております、義姉上。」
リチャードがそう慇懃無礼な口調で挨拶すると、エリザベスは口元に笑みを湛えたままリチャードの女装姿を見た。
「その唐紅の衣、貴方の黒髪によく映えて似合っているわ。」
「そうでしょう?わたくし達が選んだのですよ!」
「まぁ、そうなの。アン、イザベル、二人とも遊びに来てくれたのね。」
「ええ。それよりもエリザベス様は弘徽殿女御(こきでんのにょうご)様にお仕えしていらっしゃるのですって?わたくし達近々入内するので、宮仕えがどのようなものなのか知りませんの。」
「後宮は華やかだけれど、女達の嫉妬や怨念、愛憎が渦巻く場でもあるわ。そういえば、鬼騒ぎが起きた雷壺では、前に女房が祟り殺されたという噂があるわね。」
「祟り殺された?それは本当ですか、義姉上?」
「さぁ・・わたしはその噂を人づてに聞いただけだけれど、前に雷壺には帝のご寵愛を受けながらも、鬼との子を産んだ女御が居たと・・でもその女御は産後の肥立ちが悪くてすぐに亡くなり、怒り狂った鬼は帝と朝家に恐ろしい呪詛を掛けたのですって。」
エリザベスの話を聞きながら、リチャードの脳裏に浮かんだのは、夢の中で己の名を呼んだあの女の姿だった。
―姫よ・・我が一族の姫よ・・
急に何処からか自分を呼ぶ声が聞こえて来て、リチャードは辺りを見回した。
「どうかなさったの、叔父様?」
「いや、何でもない・・」
そう言ったリチャードの姿を、遠くで金髪紅眼の鬼が見つめていた。
「あれが、噂の鬼姫か・・美しい顔をしている。」
数日後、リチャードは後宮に入内するアンとイザベルと共に、“入内”した。
三人が仕えるのは、エリザベスが仕える弘徽殿女御と対立している藤壺女御だった。
「顔をお上げなさいな。」
リチャードが姉妹に倣って顔を上げると、そこには天女の如き美しい女人が脇息に凭れかかりながら座っていた。
「貴女、お名前は?」
「凛と申します、女御様。」
「珍しい色の瞳をしているわね。それに貴女、あの方に瓜二つの顔をしているわ。」
「あの方?」
「女御様、その事は・・」
女御の言葉に反応した傍仕えの老女が突然鋭く声を張り上げ、女御を諫めた。
「まぁごめんなさい、わたくしったらつい・・あぁそうだわ、七日後に弘徽殿女御が開く雪見の宴があるの。その宴は弘徽殿、麗景殿、桐壺と梅壺、雷壺からそれぞれ舞姫を選ばなければならないのだけれど、凛、貴女雪見の宴で舞いなさい。」
「女御様、それは・・」
「女御様直々のお願いですよ、有り難くお受けしなさい。」
「恐悦至極にございます、女御様。有り難く雪見の宴で見事な舞を舞わせていただきます。」
「これから舞の稽古に励んで、あの女の鼻を明かしておやりなさい。」
藤壺女御はそう言ってリチャードに微笑むと、鈴を転がすような声で笑った。
かつて宮仕えをしていたかの中宮の女房が、自ら著した随筆に、“げにすさまじきものは宮仕え”という一文があったが、正にその言葉通りだとリチャードが思ったのは、入内初日の夜だった。
新入りの癖に藤壺女御から目を掛けられた事が気に入らない古参の女房たちによる新入りいじめと称した洗礼をリチャードは受け、彼女達からは自分の道具類や針箱を隠されたり、箏の弦を切られたりといった地味な嫌がらせをされた。
(義姉上様が言っていた通りだったな・・女の嫉妬は恐ろしい。)
リチャードは溜息を吐きながら、舞の稽古を終えて中庭から自分の局へと戻ろうとした時、藤壺へと繋がる扉が全て錠を掛けられて閉じられている事に気づいた。
(くそっ、やられた!)
リチャードは舌打ちしながら、閉ざされた扉に背を向けて中庭へと戻った。
骨まで凍えるような寒さに晒され、リチャードは思わず両腕で己の身体を抱き締めた。
上に少し厚手の唐衣を纏っているとはいえ、冬の夜に戸外で一晩明かすのは厳しい。
リチャードは白い息を吐きながら、悴んだ手を擦り合わせた。
その時、何処からか龍笛の澄んだ音色が聞こえて来た。
(何だ?)
リチャードが池の方へと目を向けると、そこには薄衣を頭に被った水干姿の少年の姿があった。
このような時間に、男子禁制の後宮で何故少年が居るのか―そう思いながらリチャードが少年を見つめていると、彼は血のような紅い瞳でリチャードの姿を捉えた。
「漸く見つけたぞ、我が一族の姫・・そして我が妻よ。」
少年から瞬く間に大人の男へと姿を変えた鬼は、そう言うとリチャードの黒髪を一筋手に取り、それに優しく口づけた。
「お前は何者だ?一体俺の何を知っている?」
「その様子だと、お前は真の姿を知らないのだな・・」
鬼は口端を歪めて笑うと、リチャードの顎を掴み上げ、その形の良い唇を塞いだ。
「目覚めよ、古の世からこの国を統べてきた貴き方の血をひく美しき姫よ・・」
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