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コチラからお借りいたしました。
「薔薇王の葬列」二次創作小説です。
作者様・出版者様とは関係ありません。
二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。
「お前は誰だ?」
リチャードはそう言うと、その美しい鬼を見つめた。
「俺は其方を知っている、我が妻よ。」
美しい鬼はそっとリチャードの黒髪を優しく梳いた。
「産まれた時から其方の事をずっと見て来た。」
「もしかしてお前が、雷壺(かんなりつぼ)で鬼騒ぎを起こした鬼か!?」
リチャードは美しい鬼を睨みつけ身構えると、鬼と自分とを隔てる結界を素早く張った。
「お前は何故、人間どもを守ろうとするのだ、姫よ?」
その鬼は、いとも容易くリチャードが作った結界を破った。
「な・・」
「其方の母親は、お前に愛の代わりに憎悪を与えた。蛇のような冷たい目をした女が、其方の母親だと思うのか?」
「俺は鬼などではない、俺は父上の子だ!」
「其方は俺達の側の人間だ。気が変わったらこちらへ来い、その時は手厚くもてなしてやろう。」
鬼はリチャードに向かって優しく微笑むと、煙のように掻き消えた。
「リチャード様!」
「ケイツビー、お前どうしてここに・・」
「アン様から文を頂いて、こちらに馳せ参じました。」
そう言ったリチャードの従者・ケイツビーは、寒さで悴んで赤くなった主の足を見た。
「陰湿な事をする輩は誰ですか?わたくしが懲らしめて差し上げましょう。」
「気にするな。こんな嫌がらせ、母上から受けた仕打ちに比べるまでもない。」
リチャードはそう言って努めて平静な態度をケイツビーの前では崩さなかったが、御帳台の中にその身を横たえ、目を閉じると、あの鬼の言葉が甦って来た。
―其方の母親は、お前に愛の代わりに憎悪を与えた。蛇のような冷たい目をした女が、其方の母親だと思うのか?
母・セシリーが幼い頃から自分を忌み嫌っている事に、リチャードは薄々気づいていた。
両親の容貌を濃く受け継いだ二人の兄達とは違い、リチャードだけが黒髪に黒と銀の瞳といった、異なる容姿を持って生まれた。
そしてその身体も、二人の兄達とは違った。
セシリーは鬼であるリチャードをこの世に産み落としてしまったという罪の意識からか、リチャードを疎んじ、憎むようになった。
二人の兄達や父はリチャードを大事にしてくれたが、母から蔑ろにされ、傷ついたリチャードの心は彼らの愛情を以てしても癒される事はなかった。
初潮を迎え、子供らしい身体つきから、女性らしい身体つきへと変わりつつあるリチャードの姿を疎んじ、セシリーは彼を別邸へと追いやった。
「お前はこの家に災厄を齎(もたら)す!お前の姿を目にするのも疎ましい!」
鬼女の如き表情を浮かべながら自分を面罵したセシリーの顔は、未だに忘れることができなかった。
―其方の母親は、お前に愛の代わりに憎悪を与えた。
セシリーが自分に対して話す時は、自分を面罵する時だけだった。
自分を罵る言葉を美しい唇から吐き捨てる母の目は、蛇のような底なしに冷たいものだった。
―其方は俺達の側の人間だ。
セシリーから疎んじられ、蔑ろにされて来たリチャードの孤独を癒したのは、目に見えぬ妖達だった。
妖達の多くは闇に生き、人に疎んじられて生きて来た者達だった。
彼らの姿を幼い頃から見て来たリチャードは、いつしか彼らの友となっていた。
彼らはリチャードの事を、“ひめさま”と呼んでは慕ってくれた。
自分は男だと言うのに、何故彼らが自分の事を姫と呼ぶのかが、リチャードには解らなかった。
―それに貴女、あの方に瓜二つの顔をしているわ。
藤壺女御が自分に話した、鬼と愛し合い、その鬼の子を身籠り、そしてその子の命と引き換えに死んだ雷壺に居たという女御。
その女御に、自分は瓜二つの顔をしているのだとしたら・・
―目覚めよ、姫・・
闇の中から、自分を誘う誰かの声が聞こえて来た。
(違う、俺は鬼なんかじゃない・・俺は、父上の子だ・・)
―目覚めよ・・
汗に滲んだリチャードの額に、梵字のようなものが浮かんだ。
―愛しい吾子よ、母の胸にいらっしゃい・・
セシリーのものとは違う、優しい女人の声。
その声に導かれるようにして、リチャードはフラフラとした足取りで雷壺へと向かった。
雷壺の中庭に植えられている桜の木にリチャードが触れた瞬間、天から轟くような雷鳴が鳴り響き、闇を明るく照らした。
「さっきの雷は一体何だ?」
「雅人様、大変です!あの稲妻をご覧ください!」
陰陽頭・土御門雅人が上空を見上げると、そこには白銀と紅色の稲光が闇の中で光っていた。
「リチャード様?」
息を切らしながらケイツビーが雷壺へと向かうと、そこには白銀の髪を靡(なび)かせた主の姿があった。
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