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コチラからお借りいたしました。
「薄桜鬼」「薔薇王の葬列」二次創作小説です。
作者様・出版者様とは関係ありません。
二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。
京見物で謎の優男とリチャードが出逢ってから数日が経った。
いつものようにリチャードは次兄・ジョージと共に武芸の稽古に励んでいた。
「参った!」
「有難うございました、ジョージ兄上。」
「お前は京に来てからますます武芸の腕を上げたな、リチャード。お前が男として生まれていたら、その名を日の本中に轟かせていただろう。」
ジョージはそう言って手拭いで額から流れる汗を拭うと、隣に立っている妹を愛おしそうに見つめた。
「俺は女ですが、母上や義姉上のように家の中で大人しく夫の帰りを待つような女にはなりたくはありません。ヨーク家の一員として、戦場で敵将の首を討ち取ってみせます。」
「頼もしい事を言うようになったな、お前!貴方もそうお思いになるでしょう、兄上?」
ジョージに突然話を振られ、長兄・エドワードは少し困ったような顔をした。
「リチャード、お前は武芸に優れているが、女子は勇ましさよりも優美さを身に付ける方がいい。」
エドワードはそう言うと、リチャードの汗をそっと優しく懐紙で拭った。
「二人とも、稽古の後で腹が減っただろう?爺やが握り飯を作ってくれたから、一緒に食おう。」
「はい、兄上。」
三人は縁側に座り、爺やが作ってくれた握り飯を美味そうに頬張った。
「爺やの作る握り飯は絶品だな。俺でもこうは上手く作れない。」
「姫様にそう言っていただけると、作り甲斐があります。」
爺やはそう言って皺が目立つ顔をまた皺くちゃにして笑った。
「爺や、俺の事を姫様と呼ぶな。」
「でも、儂らにとっては姫様だぁ。それよりもエドワード様、先程国元から使者の方がお見えになりました。」
「そうか、すぐに行こう。」
エドワードはそう言ってゆっくりと立ち上がると、国元からの使者・ウォリックを自室で迎えた。
「ご機嫌麗しゅうございます、エドワード様。」
「ウォリック、遠路はるばる京までの長旅、ご苦労だった。父上や母上は息災か?」
「お二人ともお元気にしておられます。今日こちらに参りましたのは、姫様のご縁談の事でお話があるからです。」
「リチャードに縁談だと?相手は誰だ?」
「スタッフォード家の嫡男・ヘンリー様です。姫様とはお年が近いので、良き縁組だと奥方様が喜んでおられます。」
「母上が決めた縁談を、あいつが首を縦に振ると思うか?」
エドワードの問いに、ウォリックは静かに首を横に振った。
「その縁談、お断りいたします。」
「やはりな、お前ならばそう言うと思っていたぞ、リチャード。」
「俺は男として生きたいのです、兄上。顔も知らぬ男の元へ嫁ぎ、婚家に尽くすなどまっぴらごめんです。」
「リチャード、これは母上がお決めになられた縁談なのだ。もしお前がその縁談を断ったら、母上の顔を潰すことになるのだぞ?」
「母上の顔など何度潰れても構いません。」
リチャードは縁談に対して頑なに拒絶し、エドワードはどうリチャードを説得しようかどうか迷っていた。
「それならば、今度ヨーク藩と新選組で行う武芸大会が金戒光明寺で開かれる。そこでお前がもし彼らに勝ったら、お前の縁談を白紙に戻そう。どうだ、悪い話ではないだろう?」
「武士に二言はありませんね、兄上?」
「ああ。」
その日からリチャードは、ますます武芸の稽古に励んだ。
「兄上、あいつは本気ですよ?嘘だとわかったらどうなさるおつもりなのですか?」
「それはそうなったら考える。新選組は元々江戸の片田舎の百姓達や町人達で作られた集団だという。相手が田舎侍とはいえ、れっきとした男だ。所詮男の腕力の前では女子が無力だということに、あいつが気付けばいいだけの話だ・・」
「策士ですね、兄上。」
ヨーク藩主催の武芸大会が金戒光明寺で行われ、そこでは藩士達が新選組隊士と実戦さながらの打ち合いをした。
たかが田舎侍の集まりだと新選組を侮っていたエドワードだったが、彼は皆一流の剣の遣い手だった。
中でも、沖田と斎藤の剣の腕は目を見張るものがあった。
「土方、あの二人もお前達の部下か?」
「ええ。あいつら・・総司と斎藤とは、江戸の道場仲間です。それよりもエドワード様、今日は一の姫様のお姿が見えませんが・・」
「ああ、妹ならばこの後に出る。ほら、出て来たぞ。」
エドワードが扇子で指示した先には、男袴を穿いて襷がけをした姿のリチャードが沖田と対峙している姿だった。
「まさか、女が相手なんて、新選組一番隊組長である僕も舐められたものだね。」
「女相手だからといって一切の手加減は無用だ。お前のような田舎侍など、俺の相手ではない。」
「ふぅん、随分と言ってくれるじゃない。じゃぁ、容赦しないよ!」
リチャードの挑発に乗った沖田は鋭い突きでリチャードを押したが、リチャードは難なくそれを躱し、沖田の面を打とうと見せかけ、彼の鳩尾を鋭い一撃を打ちこんだ。
「勝負あり!」
「兄上、約束通り、わたしの縁談話を白紙に戻してくださるのですよね?」
「リチャード、それは・・」
「兄上、武士に二言はありませんよ。俺が兄上に代わり、すぐさま母上に文をしたためましょう。」
「そうしてくれ、ジョージ。」
「有難うございます、兄上!」
息を弾ませながらその場から去っていくリチャードの背を見た沖田は、初めて彼女がヨーク藩主の娘だと言う事を知り、驚愕の表情を浮かべながら土方を見た。
「土方さん、どうして僕達にあの子がヨーク藩の姫様だと言う事を黙っていたんですか?」
「お前達に自分の素性を明かしたら、妙な気遣いをされるから嫌だと、本人が直接俺に言ってきたんだ。」
「まぁ、性別と身分が違えば、あの子とは背中合わせで戦えるかもしれないなぁ。」
屯所へと帰る道すがら、沖田はそう言うと溜息を吐いた。
藩邸へと戻ったリチャードは、汗を井戸の水で流していた。
濡れた艶やかな黒髪の隙間から、リチャードの首にある梵字のような痣が、月明かりに照らされた。
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