画像は
コチラからお借りいたしました。
「薄桜鬼」「薔薇王の葬列」二次創作小説です。
作者様・出版者様とは関係ありません。
二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。
―リチャード・・
闇の中から、誰かの優しい声が聞こえてくる。
―リチャード・・
リチャードが目を覚ますと、そこにはあの日の雪山で出会った、美しい鬼の姿があった。
彼女は金色の瞳でリチャードを見つめると、そっと彼女を優しく抱きしめた。
―こんなに大きくなったのね。
鬼の声は、どこか嬉しそうでいて、切ないものに聞こえた。
(貴女は誰?)
―また、会いましょう・・
「待って!」
リチャードが鬼に向かって手を伸ばそうとすると、そこに広がるのは漆黒の闇ばかりだった。
(夢か・・)
京に来てから、リチャードはよく幼い頃雪山で会った美しい鬼の夢ばかりを見る。
夢の中の鬼は、いつも自分に優しかった。
まるで彼女は、リチャードを実の子のように優しく接してくれた。
母の愛に飢えているリチャードは、夢の中で鬼に甘えていた。
(あの人が自分の母親だったらいいのに。)
そんな馬鹿な事を考えながら、リチャードは再び目を閉じて眠った。
「リチャード様、起きてください。」
「どうした、ケイツビー。朝早くから俺のところに来るとは珍しいな?」
「セシリー様がいらっしゃいました。」
「母上が?父上と共に国元に居るのではなかったのか?」
「詳しくはわかりませんが、お支度をなさいませ。」
国元に居るはずのセシリーが突然上洛し、訳が分からぬままリチャードはケイツビーと女中達に身支度を手伝って貰い、ケイツビーと共に彼女は兄達が待つ部屋へと向かった。
「失礼いたします、兄上。」
「リチャード、久しいわね。元気そうで何よりだこと。」
上座に座ったセシリーはそう言うと、華やかな着飾ったリチャードを見て嬉しそうに笑った。
「母上、何故突然上洛などされたのです?」
「母が子に会うことに何か理由でもあるのかしら?それよりもリチャード、お前は相変わらず剣術にうつつを抜かしているそうね?ジョージから聞いたわよ、御前試合で男達を打ち負かしたとか・・」
「母上、わたしは・・」
「わたしは今までお前を甘やかしてきたわ・・剣術にお前が夢中になっていることを知ったとき、わたしはいずれ飽きるだろうと思っていた・・でもそれは大きな間違いだったわ!」
セシリーはそう叫ぶと、苛立ちを紛らわせるかのように脇息を叩いた。
「これ以上お前を好きにさせてはいけない。お前を国元へ連れて帰ります。」
「母上、それだけはおやめください、俺は・・」
「立場をわきまえなさい、リチャード!お前がどれだけ剣術や武術の腕を磨いても、女であるお前が戦場に立つことはできないの!女の幸せは良い人と結婚し、その人との子を成して育てることです!それが女として生まれたお前の幸せなのよ!」
「そんな生ぬるい幸せなど俺には不要です、母上!」
リチャードはそう叫ぶと、部屋から飛び出した。
(女の幸せなどクソ食らえだ!俺は母上のように髪を簪で飾り、美しい衣を着てひたすら夫の帰りを待つ女になどなりたくはない!)
乱暴に櫛と簪を抜き取り、結い上げられた髪を崩したリチャードは、鏡台の中に映る己の顔を見た。
リチャードは両親や兄達の誰とも似ていない。
金髪碧眼の中で、リチャードだけが黒髪で左右違う色の瞳をしている。
その所為で母には疎まれ、周囲の者たちからは鬼の子だと畏怖されていた。
これ以上ここに居たら、母に無理矢理国元へ連れ戻され、飼い殺される日々が待っているだけだ。
女としての幸せなど要らない、自分が欲しているのは戦場で鮮血を浴びながら戦う男としての幸せだ。
もうここには居たくない―そう思ったリチャードは、夜明け前に藩邸を飛び出した。
彼女が辿り着いた先は、新選組屯所だった。
「頼もう!」
「何だ、道場破りかと思ったら君か。ここに何の用?」
「俺を新選組に入隊させてくれ。」
「へぇ・・何だか面白そうだから、話を詳しく聞こうか。」
沖田は緑の瞳を閃かせると、そう言ってリチャードを屯所の中へと招き入れた。
「“探さないでください”か・・」
「リチャードを探さなくてもよろしいのですか、兄上?」
「大丈夫だ、あいつの事だからまた何処かで会うこともあるさ。」
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