「薄桜鬼」の二次創作小説です。
制作会社様とは関係ありません。
二次創作・BLが嫌いな方はご遠慮ください。
しんしんと雪が降り積もる中、一人の青年が黙々と山中を歩いていた。
彼の名は近藤勇、薄桜大学山岳部に所属する学生である。
彼は来月開催予定の山岳合宿の下見の為、一人でこの幼少の頃から慣れ親しんだ山へ来ていた。
だが、好天だった午前中から一転し、午後から山の天気が急に荒れて来た。
吹雪の中、勇はなるべく体力を温存しようと、パーカーのポケットに入れてあるチョコレートバーを取り出して食べた。
風雪を避ける為、勇は近くにあった洞穴の中でザックの中に入れていたスマートフォンを見ると、“圏外”になっていた。
(参ったな・・)
ザックの中には三日分の食糧しか入っていない。
外部への連絡手段もなく、まさに八方塞がりだ。
(これから、どうしようか・・)
せめて、この吹雪が止んでくれれば良いのに――勇はそう思いながら、ザックの中から寝袋を取り出し、それに包まって眠った。
ボウっと、青い炎が洞穴の中を照らした。
「人の子か・・若くて美味そうじゃ。」
ギギギ・・と不気味な音と共に、勇の姿を舌なめずりをしながら見つめている女、もとい妖怪が居た。
女怪の名は、“蛇妃”――若い男の血肉を好み喰らう。
「いい匂いじゃ・・」
蛇妃は長い舌で、勇の顔をベロリと舐めた。
「さぁて、どこから喰ってやろうか?」
「そいつから手を離せ。」
「何じゃ、貴様!」
「大人しく死ね、蛇!」
蛇妃は、突然青い炎に包まれながら絶命した。
「歳三様、この者まだ息がありますぞ!」
「そうか。」
すぅっと滑るように勇の前に現れたのは、紫の着物を着た一人の、“女”だった。
「俺の家へ運べ。」
「はい・・」
歳三の式神・善一が勇のパーカーを咥えて彼の身体を引き摺ると、軽い音がして彼が首に提げていたネックレスが落ちた。
「歳三様、美しい装身具です!これを街へ行って売れば・・」
「止せ。」
「ですが・・」
「人間の物を盗んで売る程、俺達は落ちぶれちゃいねぇ。行くぞ。」
「は、はい!」
歳三は音が落としたネックレスの蓋を開けると、そこには精緻な絵画のように描かれた、一組の男女の絵が入っていた。
男の隣に居る女は、自分と瓜二つの顔をしていた。
「う・・」
「おい、あそこだ!」
「ちっ、見つかっちまったか。」
“女”―歳三はそう言って舌打ちすると、自分を殺そうとしている兵達に向かって吹雪を放った。
「うわぁ~!」
「畜生、目が~!」
吹雪が止んだ後、白く染まった冬山に、数体の兵達の氷像が出来上がっていた。
「何、あやつを取り逃がしたとな!?」
「はい・・」
「この痴れ者が!」
苛立った男はそう叫ぶと、持っていた扇子を鎧姿の男に向かって投げつけた。
「全く、女一人も捕らえられぬとは、情けない!」
「申し訳ございませぬ。」
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