「薄桜鬼」の二次創作小説です。
制作会社様とは関係ありません。
二次創作・BLが嫌いな方はご遠慮ください。
パチパチと、何処かで火が爆ぜるような音がして、勇が目を覚ますと、彼は布団の中に居た。
「気が付いたか?」
「あなたは・・」
「お前ぇは、あの洞穴の中で蛇妃に喰われそうになった所を俺が助けたんだ、覚えてねぇか?」
「いや、覚えていなんだ・・すまない。」
「それは当然だ、あんたあの時、死にかけていたんだからな。」
「そ、そうか・・」
「まぁ、ここには俺と、善一しか居ねぇ。」
「善一?」
「俺の式神だ。元は、妖狐の子だったんだが、親を殺されて俺が引き取ったんだ。」
「そ、そうなのか・・」
「まぁ、俺もあいつも似たような境遇だから、ちょっとな・・」
「助けてくれてありがとう。俺は、近藤勇だ。」
「土方歳三だ。」
「トシさ~ん!」
戸を激しく叩く音がして、歳三は軽く舌打ちして。
「暫く奥の部屋に居ろ。俺が良いと言うまでそこから出て来るな、いいな?」
「わかった・・」
「トシさん、居るのかい!?」
「あぁ、そんなに怒鳴らなくても聞こえてらぁ。」
歳三は眉間に皺を寄せながら戸を開けると、そこには少し癖のある薄茶の髪をした青年が立っていた。
「トシさん、どうして出て来てくれないの?」
「お前ぇに会いたくねぇからに決まっているからだろ。」
「酷い~!」
そう言って子供のように拗ねて頬を膨らませている青年の名は、伊庭八郎。
人間――高貴な身分の子でありながら、歳三にしつこく求婚してくる。
「じゃぁね、トシさん!」
「もうここには来るなよ。」
八郎が去った後、歳三は溜息を吐きながら奥の部屋の襖を静かに開けた。
するとそこには、大きな身体をまるで猫のように丸めて眠っている勇の姿があった。
「ったく、風邪ひくぞ。」
歳三はそう言いながら、そっと自分が着ていた綿入れの羽織を勇にかけた。
「歳三様、大変です!」
「土方さん、居るか!?」
「どうした喜一、左之!?」
「人間達が、里を襲ってる!」
「何だと!?」
「さぁ、俺が案内する!」
「わかった!」
烏天狗の左之助と共に、歳三は久方振りに自分の里―“雪村の里”へと向かった。
歳三が生まれた時、里の者は皆恐怖に震えた。
――何と不吉な・・
――凶兆じゃ、この里に黒髪の子が生まれるなど・・
村の長老達は、雪女の里に生まれた黒髪紫眼の子供の扱いをどうしようかと考えあぐねていた。
その時、里の長・雪村綱道の鶴の一声で、歳三の運命は決まった。
「この子が十になったら、村はずれの家へ住まわせるが良い。それまで、我が家で面倒を見よう。」
こうして、歳三は十の誕生日を迎えるまで雪村家で育てられる事になった。
雪村家には、千鶴と薫という双子の兄妹が居り、兄の薫は歳三を嫌って避けていたが、妹の千鶴の方は歳三を実の兄のように慕い、懐いていた。
歳三も、千鶴の事を実の妹のように可愛がっていた。
だが、千鶴と過ごした穏やかな時間は瞬く間に過ぎ、歳三が里を離れる日が来た。
「兄様、わたしも行きます!」
「なりません、千鶴。」
「母上、どうして兄上と共に暮らせないのですか!?」
「それが、あの子の定めなのです。」
歳三は、それから一度も里には戻っていなかた。
「土方さん、あそこだ!」
「あぁ・・」
左之助は上空から歳三の故郷を見下ろすと、そこには紅蓮の炎に包まれていた。
「これは・・」
「千鶴、何処だ!?」
歳三が左之助と共に炎に包まれている里の中に入ると、そこには女子供容赦なく殺された“同胞”達の遺体が転がっていた。
「何と惨い・・」
「居たぞ、あそこだ!」
「殺せ!」
「・・こいつらを殺したのは、てめぇらか?」
「それがどうした?こやつらは妖、我らに淘汰されるべき存在なのだ!」
「・・せねぇ。」
「あ、何だと?」
「てめぇらを絶対、許しはしねぇ!」
歳三がそう叫んだ瞬間、人間達に突風が襲い掛かった。
「な、なんだあれは?」
彼らが上空を見上げると、そこには白い狩衣姿の歳三が浮かんでいた。
彼は腰に帯びていた刀の鯉口を切り、人間達に向かってそれをひと振りした。
すると、無数の氷の毒針が、彼らの全身を貫いた。
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