画像は
コチラからお借りいたしました。
「火宵の月」「薄桜鬼」の二次創作小説です。
作者様・出版社様・制作会社様とは一切関係ありません。
二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。
1863年、冬。
有匡が上洛し消息を絶ってから、半月が経った。
池田屋の女中として働きながら、火月は夫の消息を探る日々を送っていた。
それは、有匡も同じだった。
土御門家の追手と斬り結んだ際に負った傷も癒え、彼は新選組の一員として隊務に励んでいた。
―おい、見ろよ・・
―あぁ、アレが・・
―“副長のお気に入り”だろ?
廊下を有匡が歩いていると、擦れ違いざまに彼は平隊士達から陰口を叩かれた。
だが有匡が動じずに居るのを彼らは、舌打ちしながら去っていった。
江戸に居た頃、彼らのような輩から色々と嫌がらせのような事をされて来たが、気にするのは損だと思い、黙々と仕事をしていた。
(全く、うるさい奴らだ。)
昼餉の後、厨へ入ると、そこには何処か険悪な雰囲気を纏った山崎烝と総司が睨み合っていた。
「沖田さん、あなたは何故副長の邪魔ばかりするのですか?」
「別に。土方さんがいちいち僕のちょっかいに過剰反応するからつい・・」
「全く、あなたという方は、幹部の自覚が・・」
「さてと、もう巡察に行かないと!」
総司は突然そう叫んだ後、厨から出て行った。
「沖田さん、まだ話は・・」
「“また”ですか。」
「はい。沖田さんには困ってしまいます。」
山崎はそう言って溜息を吐いた。
「山崎さんは、沖田さんとは長いのですか?」
「いいえ。わたしは大坂生まれの京育ちで、沖田さんや土方副長は江戸の出身だとか。確か、多摩の試衛館とかいう剣術道場の・・」
「あぁ・・」
その道場の名は、江戸に居た頃よく耳にしていた。
(まさか、な・・)
時折自分が通っていた道場に、良く薬の行商をついでに剣の稽古に来ていた黒髪の美丈夫は、何処か土方に似ていた。
「土御門殿、これから道場へ?」
「はい。斎藤さんは、巡察に?」
「えぇ。斎藤さん、試衛館という道場の名はご存知ですか?」
「はい。俺は事情があってそこの食客となりました。それが何か?」
「そうですか・・ありがとうございます。」
間違いない。
あの薬売りは土方だ。
そう確信した有匡は、巡察へ向かう前に副長室へと向かった。
「トシ、彼は大丈夫なのか?」
「大丈夫だ、あいつは口が堅いし信用できる。」
「そうか。」
「それよりもトシ、綱道さんの消息はまだ掴めないのか?」
「あぁ。こんな時、“あいつ”が居ればな・・」
(“あいつ”とは誰なんだ?)
巡察中、有匡は近藤と土方の会話の内容を思い出しながら歩いていると、一人の町娘とぶつかった。
「すいませんっ!」
「いや、大丈夫だ。怪我は無いか?」
有匡がそう言って自分をぶつかった町娘の方を見ると、彼女は自分が捜していた妻だった。
「火月・・」
「有匡様・・」
再会できた喜びで、二人は人目を憚らず抱き合った。
「で、その人が君の奥さんなの?」
「火月と申します。」
「今まで、何処で何をしていたんだ?」
「実は・・」
火月は有匡に、上洛してから池田屋の女中になるまでの経緯を話した。
「そうか・・父上は、元気にしているか?」
「はい。」
「良かったじゃない、奥さん見つかって。これからどうするの?」
「暫く池田屋で女中として働きます。女将さんには事情を説明します。」
「わかった。火月、今まで辛い思いをさせて済まなかった。」
「いいえ、僕は有匡様がご無事でいらっしゃったのが何よりも嬉しいです・・」
火月はそう言って、大粒の涙を流した。
「わたしも、同じ事を思っていた。」
有匡はそう言って泣きじゃくる火月の背を優しく撫でた。
屯所で火月と有匡が互いの再会を喜んでいる頃、京の土御門家では有匡の生存を知った匡俊が口元に笑みを浮かべた。
「そうか、生きていたのか・・」
「はい。ですが、ひとつ問題がございます。」
「問題、だと?」
「はい、それが・・」
匡俊は、自分の甥が妻帯している事を知り、激怒した。
「おのれ、有匡め、勝手な事を!」
「如何なさいますか、お館様?」
「まぁまぁ、一体何を大声で騒いでいらっしゃるのですか?」
サラサラと衣擦れの音が聞こえて来たかと思うと、匡俊の妻・福子が局に入って来た。
「福子・・」
「甥の結婚はめでたい事。そないに目くじらを立てんでもよろしい。」
「そ、そうだな・・」
「それよりもお前様、余り有仁様に迷惑をかけたらあきまへんえ?」
「あ、あぁわかった・・」
匡俊にとって唯一、福子は頭が上がらない存在であった。
「父上、あやつの事は・・」
「放っておけ!」
にほんブログ村