「薄桜鬼」の二次創作小説です。
制作会社様とは関係ありません。
二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。
土方さんが「夜にだけ女になる」という特殊設定です。苦手な方はご注意ください。
それからというもの、歳三の元には何故か下級生達からの恋文が山程届いた。
(男にモテてもなぁ・・)
そんな事を思いながら歳三が部屋でギリシャ語の作文を仕上げていると、窓の外から何かが当たるような音がした。
(何だ?)
歳三がそう思いながら窓の方へと近づくと、中庭には若い音が立っていた。
年の頃は二十代後半といったところか、身なりからして貴族階級に属する者だと歳三は一目でわかった。
冬の陽光に照らされた髪は白銀で、瞳は目が醒めるかのような美しいアイス・ブルーだった。
その瞳に見つめられ、歳三は何だか気味が悪かった。
(あいつ、何だったんだ?)
歳三はそう思いながら寝台の中に入ると、目を閉じて眠った。
遠くで、橙色の空が見える。
はじめ、歳三は日が暮れたのかと思ったが、空が橙色に染まっているのは、街が燃えているからだった。
空から巨大な怪鳥が次々と口から“何か”を吐き出してゆき、たちまち街は炎に包まれた。
―川の方へ逃げるんだ!
―父さん、母さん!
―あなただけでも、生き延びなさい!
少年は両親の元へ行こうとしたが、彼らは混乱の只中離れ離れになってしまった。
―父さん、母さぁん!
少年の悲痛な叫び声で、歳三は夢から覚めた。
(何だったんだ、今のは?)
歳三がそう思いながら食堂へと向かうと、そこにはあの日の夜酒場で会った青年が居た。
(何でこいつがここに?)
歳三がそんな事を思いながら食堂でトレイを取り、配膳の列に並んでいると、青年と目が合った。
「あなたは・・」
「どちら様ですか?」
歳三はそう言って素早くその場から離れたが、暫く心臓の鼓動が速くなり、苦しかった。
「どうかなさったのですか、顔色が悪そうですが?」
「え・・」
振り向くと、そこには何処か自分を探るような目で見ているユリウスが立っていた。
「少し、眠れなくて・・」
「まぁ、それはいけませんね。後でわたしの部屋にいらっしゃい、不眠に効くハーブティーを淹れてあげましょう。」
「はい・・」
何だか、歳三は余りユリウスと関わり合いたくなかった。
「失礼します。」
(あの人と話していると、変な感じになるんだよなぁ。)
上手く説明出来ないのだが、時折歳三はユリウスが得体の知れない闇を抱えているような気がしてならなかった。
「あのぉ・・」
「あ?」
「これ、落ちましたよ?」
歳三が振り向くと、そこには床に落ちたロザリオを拾ったあの青年が立っていた。
「あ、ありがとう・・」
「あの、もしよければ、後でお話ししませんか?」
「え・・」
「じゃ、じゃぁっ!」
(何だ、あいつ?)
青年から突然デートに誘われ、歳三は戸惑った。
“今夜六時頃、噴水広場で待っています。”
(まぁ、一度だけなら、会ってみるか。)
そんな事を思いながら歳三がユリウスの部屋へと向かうと、中からくぐもったような呻き声が聞こえて来た。
(どうしたんだ?)
ドア越しに中の様子を歳三が覗くと、そこではユリウスが背後から男に貫かれていた。
「濡れているぞ、そんなにいいのか?」
「顔、見せて・・」
「しょうがないな。」
相手の男の顔は見えないが、男と抱き合う形で貫かれたユリウスと歳三は目が合った。
彼のエメラルド・グリーンの瞳は熱を孕んで妖しく煌めいていた。
「どうした?」
「いいえ・・どうやら、ネズミが・・」
「そうか。」
歳三はなるべく足音を立てずにその場を後にした。
「あいつは誰だ?」
「わたしの教え子ですよ。間男だと思いますか?」
「自惚れが強いな。あいつとは、どんな関係だ?」
「だから、教え子だと言っているでしょう。本当に、嫉妬深いお方だ、あなたは・・」
ユリウスはそう呟くと、恋人にしなだれかかった。
「王妃様の隠し子捜しは、どうなっているの?」
「それが・・中々見つからないんだ。一体何処へ消えたのやら・・」
「探し物は、案外近くで見つかるかもしれないよ。」
「それにしても、朝っぱらから男と盛るなんざ、聖職者失格だな。」
「それを言うなら、マリウス様も同じ事ではありませんか?妻子ある身でありながら聖職者との情事に耽るなど・・」
「はは、それもそうだな・・」
ユリウスの恋人・マリウスはそう言って笑った。
「勇、少し落ち着きがないようだな?」
「すいません、師匠。」
「もしかして、好きな人でも出来たか?」
「そ、それは・・」
「隠さなくてもいいぞ。どんな人なんだ?」
「一度だけ、会った人なんですが・・」
パン屋の厨房で、勇は調理場の清掃をしながら、酒場で一度だけ会った女の事を忘れられずにいた。
主人にその女の事を話したら、彼はニヤニヤした後こう言った。
「それは恋だな。」
「恋?」
「あぁ。その人は、とても素敵な人なんだろうな?」
「えぇ・・」
「それで、溜息ばかり吐いているのは、どうしてだ?」
「実は、彼女と良く似た顔の人を、昼間神学校の食堂で見かけたのです。もしかしてと思って声を掛けたのですが、人違いだったようで・・」
「でも、お前はその人だと思っているんだろう?それで、溜息ばかり吐いているんだな?」
「えぇ。実は、その人にメモを渡したんです。」
「そうか。まぁ俺にはわからんが、上手くいくといいな。」
「ありがとうございます。」
勇はそう言うと、頬を赤く染めた。
その日の夕方、勇は店の主人と共に店の閉店作業を終えて一息ついていると、時計の針は五時半を指していた。
「すいません、あの・・」
「あの人と約束があるんだろう?後は俺がしておくから、行って来い。」
「ありがとうございます。」
店を出た勇が一旦帰宅して着替えをして噴水広場へと向かったら、広場の時計は丁度六時を指していた。
周囲を見渡した彼は、待ち人の姿がない事に気づき、少し落胆してしまった。
だが、彼が帰ろうと広場を後にしようとした時、彼は誰かの手で両目を覆われた。
「誰だ~?」
耳元で響く、心地よい声。
それは、あの酒場で聞いた、あの人の声だった。
「来て下さったのですね?」
「えぇ・・」
自分の前に立っている女は、真紅のディアンドル姿で、彼女の美しい身体の線を強調していた。
「おかしいですか?」
「いいえ。良く似合っていますよ。」
「ありがとうございます・・」
少し照れ臭そうに笑う女を見た勇は、少し胸が弾んだ。
「さぁ、行きましょうか?」
「はい。」
女―歳三は、そんな勇を見ながら、彼と共にある場所へと向かった。
そこは、祭りの広場だった。
(そういや、今日は春祭りだったな。)
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