「薄桜鬼」の二次創作小説です。
制作会社様とは関係ありません。
二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。
土方さんが「夜にだけ女になる」という特殊設定です。苦手な方はご注意ください。
一年の大半を雪と氷で覆われたこの国にとって、春の訪れは喜ばしい事であり、毎年雪解けの季節を迎えると、国中が盛大に春の訪れを祝うのが、春祭りの起源とされている。
祭りの広場には、この国の花でもある水仙を象ったブローチや、美しい刺繍が施されたドレスを売る店などが軒を連ねていた。
「あの、どうしてここへ俺・・わたしを連れて来たのですか?」
「あなたと、もっと仲良くなりたくて・・」
「まぁ。」
「あ、あの店を見ていきましょう!」
勇はそう言うと、歳三の手をひいてある店の中へと入った。
その店は、西洋と東洋の髪飾りや装身具などを扱っており、リボンや櫛などが店内のランプの仄かな灯りに照らされて美しく輝いていた。
「うわぁ・・」
今までこんなに華やかで美しい物は見た事がなかったので、歳三は時間を忘れて商品を見ていた。
「あ、あ、あの、気に入った物があれば、わたしが買って差し上げましょうか?」
「え、いいんですか?」
「はい。そんなに、高い物は買えませんが・・あなたが喜ぶ顔を見たいので・・」
「まぁ・・」
初対面だというのに、勇は歳三への贈り物を真剣に選んでくれた。
彼が選んでくれたのは、歳三と同じ色の瞳の色をしたリボンだった。
「あなたの髪に、良く似合う。」
「ありがとう、ございます・・」
春風に揺れる紫のリボンを見ながら、勇は歳三にリボンを贈って良かったと思った。
「今夜は、会えて楽しかったです。」
「えぇ、わたしも・・」
「また、会いましょう。」
「はい・・」
広場の前で勇と別れた歳三は、そっと自分の髪を飾るリボンに触れた。
(女になるってのも、悪くねぇな・・)
そう思いながら歳三が神学校への道を歩いていると、ヴェネチア通りに何やら人だかりが出来ていた。
また娼婦が殺されたのか―そう思いながら歳三がヴェネチア通りの様子を横目で眺めていると、突然闇の中からまるで気味の悪い触手のように複数本の手が歳三の四肢を雁字搦めにした。
「へへっ、今夜の女は上玉だな。」
「殺すには惜しいから、ガレリアへ売り飛ばそう。」
頭から麻袋を被せられ視界を奪われた歳三は、時折闇の中から聞こえる男達の会話に耳を澄ませながら、彼らが最近ヴェネチア通りで頻発している娼婦殺しと人攫いに関わっている事に気づいた。
(畜生、何とかしねぇと・・)
手足を荒縄で縛られ、身動きが取れないまま、歳三は男達に馬車である場所へと連れて行かれた。
「あら、随分遅かったわね?」
「道が混んでいてな。」
「ま、酒でも一杯やりなよ。それで、今日入った娘は何処だい?」
「こいつさ。」
そう言うと男達の一人が、歳三の顔を覆っていた麻袋を取った。
「へぇ、中々の美人じゃないか。何処で見つけたんだい?」
「ヴェネチア通りに決まっているだろ。あそこしか良い女は居ないからな!」
「この娘なら、売れっ子になれそうだねぇ。」
半ば脂肪で埋もれ、顔と首の区別がつかない太った女は、そう言うとなめるような目で歳三を見た。
「さてと、この娘を色々と“検査”しないとね。」
「中へ連れておゆき。」
「わかったよ。ったく、人使いの荒いババアだぜ!」
「何しやがる、離せ!」
「騒いだら殺すからね。」
女は歳三を睨むと、彼の首筋にナイフを押し当てた。
彼女に連れられて娼館の中へ入った歳三は、目の前に広がる光景を見て言葉を失った。
そこには、十代の少女達が鎖で手足を繋がれた状態で、大きな檻に入れられていた。
彼女達の目は虚ろで生気がなく、全身には不気味なかさぶたのようなものが広がっていた。
「この子は駄目だね、外へ捨てて来な。」
「へいえ。」
檻から出されたのは、まだ幼い少女だった。
美しいブロンドの巻き毛を持ったその少女は、まるで眠っているかのように金色のまつ毛を固く閉ざしていた。
女に命じられ、男がその少女を檻の中から出すと、彼女の華奢な首はグラリと大きく揺れた。
「あの子は何処へ?」
「あんたが知らなくていい事さ。」
「はい・・」
その後、歳三は裸にされ、身体の隅々まで調べられた。
「処女かい。高く売れそうだ。」
「そうだねぇ。」
何とか、ここから逃げなければ―そう思った歳三は、女の手から短剣を奪い、その女の喉元に深々とその刃を突き立てた。
がぁっ、という叫びとも呻きともつかぬ声と共に、女は血泡を吹きながら巨体を大きく揺らした後、汚い床の上に倒れた。
「このアマ、ふざけやがって!」
女の近くに居た男がそう叫んで歳三の頬を殴った。
気絶した歳三が目を覚ますと、彼は天井から両手首を鎖で繋がれ、そこから吊り下げられていた。
「目ぇ覚めたか?」
錆びついた扉が開き、昨晩あの女と共に居た男が部屋に入って来た。
「まさか、お前が男だったとはな。まぁいい、こんな上玉はいくら探しても見つからねぇ。」
持っていた鞭で男はそう言いながら歳三の頬を軽く叩くと、口端を歪めて笑った。
「これから俺を何処へ連れて行くんだ?」
「それは、わからないな。まぁ、ここよりマシな所だというのは確かだな。」
「おい、そろそろ出発の時間だぞ!」
「わかった!」
男は歳三を天井からおろすと、彼と共に娼館の地下室から出た。
「乗れ。」
男がそう言って指した先には、あの少女達が乗せられている粗末な馬車の荷台だった。
「全員乗せたな、出発だ!」
御者台に乗っていた男がそう叫んで馬に鞭をくれてやると、馬は軽く嘶いてぬかるんだ道を走り始めた。
激しく揺れる馬車の中で少女達は悲鳴すら上げる事もなく、皆俯いていた。
馬車はやがて、大きな港に着いた。
「さぁ、乗れ!」
「嫌だ~、母さん!」
船に乗せられそうになった時、一人の娘が突然暴れ出した。
「この野郎、暴れるな!」
「母さ~ん!」
監視役の男の手から逃れ、一人の娘が船から飛び降りた。
その姿は、瞬く間に波に呑まれて見えなくなった。
「こいつらを全員、鎖で繋げ!」
「嫌~!」
「誰か助けて~!」
娘達は一斉に騒ぎ出したが、男達から鞭打たれ、暗い船底に閉じ込められた。
(一体、何処に・・)
娘達を乗せた船は、静かに港を離れた。
「ったく、あいつらはうるさくて堪らねぇ。」
「まぁそう言うなよ。港に着いたらあいつらとはおさらばだ。」
「そうだな。」
甲板で男達がそんな話をしていると、遠くから砲声が聞こえた。
「何だ、今のは?」
「さぁな。」
男達が霧に包まれた水平線の向こうを見てみると、やがて彼らの前にドクロの旗を掲げた海賊船が姿を現した。
「か、海賊だ~!」
「女と金を奪え!」
「アイサー!」
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