「薄桜鬼」の二次創作小説です。
制作会社様とは関係ありません。
二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。
土方さんが「夜にだけ女になる」という特殊設定です。苦手な方はご注意ください。
「海賊ですって!?」
「わたし達、どうなるの?」
「殺されてしまうわ!」
海賊が船に乗り込んで来た事を知った娘達は皆半狂乱となり、海へと次々に飛び込んだ。
「おい、あれを見ろ!」
「畜生、遅かったか!」
海へと次々に飛び込んでゆく娘達の姿を望遠鏡で見ていた海賊の一人がそう言って呻いた。
「どうした?」
「お頭、起きて下さい!あの娘達が・・」
「こいつはひでぇな。よし、娘達を俺達で救い出すぞ!」
「アイサー!」
船長・ジェラルドの指示で、海賊達は奴隷船から海へと飛び込んでゆく娘達を救出した。
「救出した娘達はこれで全部か!?」
「はい。」
「よし、ずらかるぞ!」
「アイサー!」
(チッ、遅かったか!)
海賊船が遠ざかってゆくのを、歳三は奴隷船の甲板から見た。
この船から降りた所で、待っているのは地獄だ。
「探したよ。さぁ、大人しく船倉に戻りな!」
「わかったよ!」
「今度おかしな真似をしてごらん、こいつでお前の頭に風穴を開けてやるからね。」
女はそう言うと、歳三のこめかみに拳銃を押し当てた。
「おい、これからどうする?」
「どうするもこうするも、娘達はあいつらに奪われちまったんだから、引き返すしかねぇよ。」
「上玉揃いだったのに、とんだ大損だよ!」
歳三達を乗せた奴隷船は、時折近くの港に寄っては、金になる若い娘達を奴隷船に乗せた。
「まぁ、これで大丈夫だね。」
「そうだね。」
「酷い船旅だったよ。」
娼館の経営者夫婦はそう言いながら、ワインを一気に飲み干すと、眠ってしまった。
彼らは二度と、目覚める事はなかった。
「一体、これはどういう状況なんだ?」
「こんなに遺体の損傷が激しいんじゃ、身元の特定に時間がかかるな・・」
「あぁ。」
奴隷船の中を捜索した王宮警察官達は、船倉に転がっている若い娘達の遺体を外へと運び出していった。
「おい、ちょっと来てくれ!」
「どうした?」
「この娘、生きているぞ!」
奥の方に、毛布にくるまれて蹲っている黒髪の娘は、まだ息をしていた。
彼らはすぐさま、病院へとその娘を運んだ。
娘は、軽い脱水と栄養失調状態だった。
「この娘の身元が判るものは?」
「ありませんね。」
「そうか・・」
「この刺繍は、確か王家の・・」
「まさか・・」
「王妃様、一大事でございます!」
「何ですか、騒々しい。」
「申し訳ございません、実は・・」
息を切らしながら王妃の私室へとやって来た女官達の一人が、彼女の耳元で何かを囁いた。
「すぐにそこへ案内なさい!」
「は、はい!」
王妃を乗せた馬車は、例の娘が入院している病院へと向かった。
「ん・・」
「気が付いたのかい?」
「あの、ここは・・」
「君は、酷い目に遭ったんだ。暫くここで、心身を休めなさい。」
「はい・・」
娘―歳三がそう言って目を閉じると、安堵の表情を浮かべた医師は、白衣の裾を翻しながら病室から出て行った。
「先生、あの子に会えますか?」
「王妃様、彼女には暫く静養が必要です。」
「そうですか・・」
「奴隷船の中に一月も監禁され、水も食料も与えられていなかったのですから、衰弱している彼女の身体の回復には相当時間がかかります。」
「先生、ありがとうございます。」
「いいえ。彼女のケアと治療は我々が全力を尽くして参ります。」
「どうか、よろしくお願いいたします。」
エリスは医師に一礼すると、女官達を従えて病院から去っていった。
「エリス様、あの娘はあなた様のお知り合いなのですか?」
「いいえ。」
「では、あの娘は・・」
「あなた、それ以上聞くのは野暮ですよ。」
「すいません。」
「申し訳ございません、王妃様。この者には、わたくしの方から厳しく言い聞かせておきますので・・」
「いいのよ。それよりもみんな、忙しいのにわたくしに付き合って貰って悪かったわね。そうだ、みんなでお昼に行きましょう!」
「はい!」
「まぁ、嬉しいですわ!」
「ありがとうございます!」
病院への帰り道、エリスは女官達と共にカスクートが美味しいと評判のカフェへとランチに出かけた。
「いらっしゃいませ~!」
「五名だけれど、空いているかしら?」
「はい、御二階席へどうぞ!」
「ありがとう。」
エリスたちが二階席でランチを食べていると、広場の方から鐘の音が聞こえて来た。
「何かしら?」
「さぁ・・」
「そろそろ、行きましょうか?」
「はい。」
エリス達が王宮に戻ると、グレゴリーが血相を変えた様子でエリス達の元へと駆け寄って来た。
「母上、大変です!」
「どうしたの、何があったの?」
「アリシアが・・彼女が、姿を消しました!」
「それは一体、どういう事なの!?」
「実は・・」
グレゴリーは、エリスにアリシアがアレクシアの死後、精神的に不安定な状態だったという事を話した。
「手分けして、彼女を捜しましょう!」
「はい!」
女官達とエリスが消えたアリシアを捜していると、エリスは王宮の裏にある崖に彼女が居るのを見つけた。
「アリシア!」
「王妃様、わたしは・・」
「気づいてあげられなくて、ごめんなさいね。」
「うっ・・」
アリシアは、エリスの顔を見て安堵の笑みを浮かべた後、彼女の言葉を聞いて堪えていた涙を流した。
「姉は、何故殺されなければならなかったのでしょう。幸せな結婚生活を送っているとばかり思っていたのに、それなのに・・」
「わかるわ、その気持ち。あなたとお姉様は、とても仲の良い姉妹だったと周りから聞いていたから。」
「姉とわたしは、姉がガレリアへ嫁ぐその日まで一緒でした。子供の頃からずっと、片時も姉と離れた事はありませんでした。それなのに・・」
「実は、わたくしにも仲が良い兄が居たの。子供の頃からずっと、わたしと兄は一緒だったわ。でも、“あの日”、わたし達は永遠に引き離されてしまったのよ。」
「“あの日”?」
「それは、後で話すわ・・ここは冷えるから、戻りましょうか?」
「はい・・」
エリスとアリシアが崖から立ち去ろうとした時、一羽の鳥が大きな弧を描きながら、二人の頭上を飛んでいった。
「王妃様?」
「いいえ、何でもないわ、行きましょう。」
(お兄様、きっといつか会いましょう・・)
にほんブログ村