作品の目次は
コチラです。
2020年、東京。
新型コロナウィルス発生から一月経ったが、その勢いは衰えるどころか、ますますその猛威を世界中に拡大させていった。
「ただいま帰りました。」
「お帰り、どうだった?」
マスクとアルコール消毒液を手に入れる為、数軒のドラッグストアを回っていた四郎は、溜息を吐きながら自分を迎えた美津達に対して、静かにその首を横に振った。
「まぁ、そうなるよな。」
「一体いつになったらこの疫病は終息するのやら・・」
「コロリ(コレラ)の時はこんなに酷くなかったのにねぇ。」
「えぇ、本当ですよ。」
美津達がそんな事を話していると、玄関のチャイムが鳴った。
「誰かしら?」
「わたしが出ましょう、姫様。」
四郎はそう言うと、玄関から外へと出た。
「何者だ、名を名乗られよ。」
「ひぃ、失礼しました!」
最近、この界隈で“コロナに効く”というインチキ薬を売っていた男は、四郎の殺気に怯えて何処かへと消えてしまった。
「ふん、他愛のない奴め。」
「四郎~、インターフォン使えっていつも言っているだろう?」
「あのようなからくり、わたしは好かぬ。」
「あのなぁ・・」
エーリッヒは、現代の生活にいつまで経っても慣れぬ四郎の言葉を聞き、呆れるしかなかった。
彼は新し物好きなエーリッヒとは対照的に、炊事や洗濯といった家事を家電に頼らず、“昔ながら”の方法でしている。
「今時竈で飯を炊く奴が居るか?それにお前、一昨日俺宛に矢文を送ってきただろう!」
「あの面妖な物よりも矢文の方が確実に届く。」
(駄目だ、これ・・)
「まぁまぁ二人共、お茶でも飲んで落ち着きなさい。」
「姫様・・」
「四郎、後で夕飯の支度を手伝って。」
「はい。」
あれから―美津と焼け跡に建てたバラックの前で二人が再会した後、彼らは都内某所にあるシェアハウスで暮らしていた。
「今日はカレーライスか。四郎の作るカレーは絶品だよな。」
「手を洗えよ。」
「わかったよ。」
エーリッヒが浴室へと消えて行った後、美津は四郎に軽く咳払いした後、こう言った。
「四郎、今の時代には今の時代のやり方があるの。あなたにはそれに少し合わせて欲しいのよ。」
「はい・・」
「さてと、これからどうするのかは、夕食の後話し合いましょう。」
「コロナの所為で、暫く剣道教室は中止するそうです。」
「うちの書道教室もです。」
「まぁ、仕方の無い事だと思うけれど、辛いわよね。」
「えぇ・・」
「姫様、店の方は・・」
「売り上げは順調よ。ネットショップの方が需要が実店舗より上がるしね。」
美津は、つまみ細工の髪飾りなどをオンラインショップで販売し、徐々にその売り上げを伸ばしていった。
「まぁ、今はネット中心になって何かと便利になりましたしね。」
「ただ、人との繋がりが減るのが少し寂しくなってゆくような気が致します。」
「そうね。」
その日の夜、エーリッヒが何気なくスマートフォンで動画を観ていると、彼はある動画に釘付けとなった。
それは、通り魔を牛丼屋の幟で撃退している動画だった。
“何これすげぇ。”
“体幹凄ぇ!”
(四郎・・)
その動画の再生数を見ると、一時間で二十五万回再生されていた。
(バズるって、こういう事か・・)