※BGMと共にお楽しみください。
「薄桜鬼」の二次創作小説です。
制作会社様とは関係ありません。
二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。
止まない雨の中、一人の幼女は両腕に傷ついた狐を抱えていた。
―まぁ姫様、黒い狐など不吉な・・
―いけません、元の場所に戻していらっしゃい。
「嫌です、今日からこの子はわたしの家族です。」
女房達や母親がそう宥めても、千鶴は頑として狐を離そうとしなかった。
結局、彼らは根負けして黒い狐を家族として迎えた。
「これからは、ずっと一緒だからね。」
千鶴の声に答えるかのように狐は嬉しそうに鳴いた。
やがて時は過ぎ、千鶴は裳着を済ませ、入内する事になった。
「父様、この子も連れて行っても良いですか?」
「ならぬ。妖を宮中へ連れて行く事は出来ぬ。」
「わかりました。」
千鶴は入内前夜、狐にこう告げた。
「ごめんね、また一緒に暮らそうね。」
狐は、悲しそうに鳴いた。
その後、狐は彼女の帰りを待ったが、半年経っても、彼女は帰って来なかった。
入内して一年経った頃、彼女は帰って来た。
大きな腹を抱えて。
「ここにね、新しい家族が居るの。」
「まぁ、めでたい事。」
「元気な御子を産むのですよ。」
「はい、父上。」
「何だか、すっかり大人になったな。“父様”とお前が呼んでくれた頃が懐かしい。」
「まぁ・・」
千鶴は、元気な男児を産んだが、その子は何者かに毒を盛られて死んだ。
悲しみの余り、千鶴は床に臥せた。
「大丈夫よ、きっと良くなるわ。」
「ごめんね・・あなたを独りにしてしまう。」
狐は、悲しそうに鳴いた。
“死なせない”
狐は霊力を使い、自分の“気”を千鶴に分けた。
すると、彼女の黒髪はたちまち美しい銀色へと変わっていった。
「姫様!」
「一体これは・・」
「今まで、隠してきたというのに・・」
「黒い狐の所為だ!」
「黒い狐を殺せ!」
“やめて!”
眠っていた筈の千鶴が目を覚まし、狐を殺そうとした男達の矢を阻んだ。
「千鶴、貴様!」
「この子は、わたしの家族よ!」
「黙れ、この役立たずが!」
激昂した千鶴の父親は、千鶴の頬を平手打ちした。
「お前など、もう娘ではない!その不吉な狐と共に消えるがいい!」
「父上・・」
“そうかい、ならばこの娘、貰い受けるぜ。”
黒い狐はそう言うと、人の姿へと変化した。
「漸く会えたな、我が妹(つま)よ。」
こうして、千鶴と狐―土方歳三は夫婦となった。
歳三は、一族を追放された妖狐だった。
「ん・・」
「あなた、起きて下さい。」
歳三が目を開けると、そこには心配そうな顔をして自分の顔を覗き込んでいる千鶴の姿があった。
「どうされたのですか、酷くうなされていましたよ?」
「昔の事を、思い出していたんだ。」
「まぁ。」
「なぁ千鶴、俺達が夫婦となってもう千年か・・」
「えぇ、そんなに経ちますね。」
「千年、か・・俺達妖にとっちゃ、あっという間の事だが、人の世は変わっちまうものだなぁ。」
「そうでしょう。わたくしは、あなたと夫婦になったのは運命だと思っております。」
「・・そうか。」
歳三はそう言うと、千鶴を抱き締めた。
「土方さん、斎藤です。」
烏天狗の斎藤一は、そっとドアを開けて部屋の中に入った。
「何かあったのか?」
「はい。会津の方で、何やら不穏な気配を感じて様子を見に行った所、封印された鬼が・・」
「厄介な事になったな・・」
「あなた、行くのですか?」
「あぁ。」
「では、わたしも参ります。」
「わかった。」
こうして二人は、会津へと向かった。
その会津では、千年封印されていた鬼が、覚醒めようとしていた。
「千年振りか、待ちくたびれたぞ。」
膝裏まである銀髪をなびかせながら、その鬼は破壊された洞穴の外へと出た。
「さて、人里へと下りてみよう。」
鋭い牙を覗かせながら、鬼はそう呟くと笑った。
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