「薄桜鬼」の二次創作小説です。
制作会社様とは関係ありません。
二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。
「まぁ、初対面の方にそんな事言われるなんて、初めてですわ。」
歳三はそう言って自分に話し掛けて来た仲居を見た。
「ここは、訳有りな人達が集まっている宿なんだよ。板長の友さんは、元ヤクザだし。」
「へぇ、そうなんですか。最近、ここで働いている人達が次々と消えていっているのは・・」
「それは、わからないね。人事は、女将さんが仕切っているからね。」
「へぇ~」
「あんたは見た所、素人でもなさそうだから・・ここからすぐに追い出されないだろうね。」
旅館の仕事は、歳三が思っていたよりも重労働だった。
「あ~、疲れた。」
『あなた、お仕事お疲れ様です。』
「千鶴、一人で店番させて済まねぇな。」
『いいえ。それよりもあなた、浮気していませんよね?』
「あぁ・・」
『浮気したら、どうなるかおわかりですね?』
スマホの画面越しでも、千鶴の妖気が歳三にはわかった。
「わかっているよ・・」
『お仕事、頑張ってくださいね。』
(おっかねぇな・・まぁ、そういうところが好きなんだがな。)
これが惚れた弱みか、歳三がスマートフォンを自分のロッカーにしまっていると、そこへ仲居の桂子さんがやって来た。
「ねぇ豊さん、今夜カラオケにでも行かない?」
「え~、いいんですか?」
「いいのよ~、今日は、あんたの歓迎会なんだからさ。」
「うわぁ~、嬉しい!」
歳三が旅館に潜入してから数日後の夜、彼の歓迎会が旅館内のカラオケラウンジで行われた。
「あ~、美味しい!」
「豊さん、あんたはここへ来る前、何をしていたんだい?」
「う~ん、わたし実は、付き合っていた男に騙されて、借金取りから逃げて来たんです。」
「そりゃ、大変だったね。」
「ええ・・」
「さ、飲みな!」
「ありがとうございます~!」
歓迎会の後、歳三は恵美の部屋へと向かった。
そこには、誰も居なかった。
歳三は、恵美のパソコンを起動させたが、従業員名簿を見る為にはパスワードが必要だった。
(クソ、用心深い女だな。)
歳三が部屋から出ると、廊下から彼女がやって来るのが見えたので、彼はとっさに狐へと姿を変え、近くの縁の下へと逃げ込んだ。
「女将、桂子です。」
「どうした?」
「実は、折り入って話したい事が・・」
「入りな。」
恵美がそう言って桂子を睨みつけ、自分の部屋へと招き入れた。
「“例の娘”ですが・・」
「見つかったのかい?」
「いいえ・・」
「そう。下がりな。」
恵美はそう言って舌打ちすると、誰かに電話を掛けていた。
『“あの娘”は見つかったのか?』
「いいえ、まだ・・」
『早く見つけ出せ。もう時間はないぞ。』
「かしこまりました・・様。」
(女将の裏には、黒幕が居るって事か。暫く、女将の周りを探ってみるか。)
数日後、歳三は恵美が車で、一人で出掛ける姿を見た後、彼女を尾行した。
彼女が車を停めたのは、“自殺の名所”とされるダムの近くだった。
「申し訳ございません・・」
「全く、お前には失望したよ。」
冷たい男の声が聞こえた後、恵美の絶叫がダムの方から聞こえて来た。
そして、ダムは不気味な静寂に包まれた。
「隠れていないで出て来い。」
「その声・・やはりてめぇか。」
「九美の狐か、千年振りだな。」
そう言って口元に笑みを浮かべた男は、かつて千鶴とその腹の子の命を奪った天敵だった。
「お前ぇは・・」
「ここへ来た事だけは、褒めてやろう。」
「てめぇだけは、許せねぇ!」
歳三はそう叫ぶと、巨大な“気”を男にぶつけた。
「くっ・・」
男は、顔に傷を受けるとそのまま姿を消した。
(これから、楽しくなりそうだ。)
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