「薔薇王の葬列」「ゴールデンカムイ」二次創作小説です。
作者様・出版者様とは関係ありません。
二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。
「ここは、一体・・」
「リチャード様。」
ボズワースの戦いで敵兵に後頭部を斧で切りつけられ、数日間意識を失っていたリチャードが目を覚ましたのは、見知らぬ部屋の中だった。
「どうぞ、水です。」
「ありがとう。」
未だに痛む頭を擦りながら、リチャードはゆっくりと布団から起き上がった。
「おや、起きたのかい。」
部屋の襖が開き、中に一人の女が入って来た。
「誰だ、貴様!?」
「リチャード様、落ち着いて下さい!こちらのご婦人が、わたし達を助けて下さったのです。」
「その様子だと、大丈夫そうだね。」
女性は、そう言うと何処か薄気味悪い笑みを浮かべた。
「さてと、あたしはこれから“仕事”に行くから、大人しくここで待っておくれ。」
女性はリチャードが居る部屋から出て行くと、廊下へと出て行った。
彼女の名前は、とよ。
人買いを生業としている女だった。
「とよ、あの女は売れそうか?」
「ええ。あの娘、ふたなりなんですよ。」
「へぇ。」
「あたしに任せて下さいよ、旦那。決して損はさせませんよ。」
「頼んだぞ。」
とよは、男に頭を下げるとある場所へと向かった。
「ひぃっ!」
「何だい、人を化物みたいに見やがって。取って喰ったりしないから、安心しな。」
「助けて・・」
「あたしの言う事を聞いていれば、家に帰してやるよ。」
「本当に?」
「あぁ、本当さ。」
娘は、まんまと騙されている事も知らず、彼女の言葉を聞いて安堵の笑みを浮かべた。
(馬鹿な子だね・・)
単純な奴は、騙しやすくていい。
しかし、あの娘はどうだろうか。
とよは、“仕事”をしながら山で拾ったあの娘―リチャードとの事を考えていた。
「あらぁ、誰かと思ったらとよじゃないか。奇遇だねぇ、こんな所で会うなんて。」
「きよ。」
昼食を取る為に入った蕎麦屋で、とよは女学校時代の友人・きよと会った。
彼女は、美しい着物姿で、とよの着古した着物を見て笑った。
「相変わらず貧相ななりをしているねぇ。」
「あらぁ、そうやって生意気な口をあたしに利けるのは、あたしがあんたを遊郭へ売ったからだろう?感謝して欲しいね。」
「嫌な子!」
「愛想が良くてこの商売やっていられるかってんだ、畜生め!」
蕎麦の代金を払ったとよは、蕎麦屋から出て行った。
「とよ、お帰り。」
「女将さん、あの二人は?」
「あぁ、あの二人ならさっき出掛けたよ。」
「何処へ?」
「さぁね。」
(逃げられた!)
とよが出掛けている隙を狙ったリチャードとケイツビーは少ない荷物を纏めて部屋から外へと出た。
「あの女、何処か怪しいと思っていたが・・俺を何処かへ売ろうとしていたんだな!」
「今頃あの女は血眼になってわたし達を捜しています。出来る限り遠くへ逃げましょう。」
「あぁ・・」
リチャードはそう言いながら、ケイツビーと共に森の中へと入っていった。
「寒くありませんか?」
「あぁ。」
ケイツビーはそう言うと、リチャードに毛布を羽織らせた。
「済まない・・」
「さぁ、行きましょう。」
二人が森の中へと入って暫くした後、雪が降って来た。
「霧も出て来たし、逃げるのには好都合だな。」
「ええ・・」
遠くから、猟犬が吠える声が聞こえて来た。
「まだ遠くには行っていない、早くあいつらを捕まえろ!」
とよのヒステリックな叫び声が、霧の向こうから聞こえて来た。
「リチャード様、大丈夫ですか?」
「こんな傷、何ともない。」
リチャードは、そう言うと枯れ枝で傷ついた足裏を庇いながら歩いた。
「失礼致します。」
ケイツビーはそう言うと、リチャードを横抱きにした。
「くそ、何処へ逃げやがった!」
とよはそう叫ぶと、雪原の中を走り出した。
その時、向こうから何か黒い影のようなものがこちらに向かって来るのが見えた。
「何だ、戻って来るなら・・」
それが、とよの最期の言葉だった。
彼女は、羆に喰われた。
ケイツビーは、とよの悲鳴を聞いた後、羆に背を向けて走り出した。
しかしそれは、羆にとって逆効果だった。
「どうした、ケイツビー?」
「リチャード様、しっかりわたしに掴まってください!」
ケイツビーは必死に逃げようとしたが、興奮した羆にあっという間に追い掛けられ、鋭い牙で背中を切り裂かれた。
「ケイツビー!」
「リチャード様、お逃げ下さい!」
「お前を置いていけない!」
リチャードはそう言ってケイツビーを助けようとしたが、怒り狂う羆を前にして、何もできなかった。
(どうすれば・・)
その時、一本の矢が羆の胸に刺さり、羆は泡を吹いて倒れた。
(一体何が・・)
「おいあんた、大丈夫か?」
目の前に現れたのは、見慣れぬ服を着た男だった。
「杉元、そっちはどうだ?」
「彼女は大丈夫そうだ、アシリパさん。」
そう言って謎の男は、リチャードを見た。
「ケイツビー、ケイツビーは・・」
「お前の連れなら大丈夫だ、安心しろ。」
美しい碧い瞳を持った少女からそう言われたリチャードは、安堵の表情を浮かべた後、気を失った。
“リチャード”
薄れゆく意識の中で、リチャードは愛しい人の声を幽かに聞いたような気がした。
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