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JEWEL

全46件 (46件中 11-20件目)

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完結済小説:狼と少年

2012.10.06
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大雪の所為で店を閉める羽目になったラリーは、ウォルマートで買った食料品を冷蔵庫に入れると、ステーキをフライパンの上で焼き始めた。

今夜は特別な客が来るから、ディナーには奮発して高い肉を買った。
ラリーは焼いたステーキを皿に載せ、ディナーセッティングしたテーブルの上に置いた。
もうそろそろ客が来る頃なので、クローゼットから黒いドレスを取り出してそれに着替えた。

数分後、裏口のベルが鳴ったのでラリーは客を迎え入れた。

「いらっしゃい、待ってたよ。」
ラリーはそう言って客に微笑んだ。
「ねぇ、今日はどうしたの?いつもはしゃべるのに、今日に限って口数は少ないね。」
「まぁな。色々としないといけないから。」
「へぇ・・」
「それよりもお前、ハノーヴァー家の娘に色々とよからぬことを吹き込んでいるようだな。」
「何のこと?」
「とぼけても無駄だぞ。」
男はそう言って立ち上がると、ラリーの背後に回りこんだ。
「どうしたの?」
「お前に良いプレゼントをやろう。」
「ふぅん、楽しみだな。」
「目を閉じていろ。」
ラリーは男の言われたとおりに目を閉じた。
まさか、それが命取りになるだなんて思いもせずに。
「やめて、ジャック!この子には手を出さないで!」
「うるさい、メグ!お前がぐずぐずしているからいけないんだ!」
鷲鼻の男・ジャックはそう言うとメグを邪険に突き飛ばした。
「ママ!」
「行くぞ!」
「やめて、離してよ!」
タンバレイン家に突如現れたハノーヴァー家当主・ジャックはアレックスの手を掴んで無理やりリビングに出て行こうとしたが、ルナにそれを阻まれた。
主人の危機を察した彼女は、思い切りジャックの腕に爪を立てた。
「何をする!」
「こいつには手を出すな!」
ルナを払いのけようとするジャックを、ウォルフは突き飛ばした。
「メグ、俺達と三人だけで話をしたい。」
「ええ、いいわ・・ジャック、お願いだから20分待って。」
「5分だ。」
「いいえ、20分よ。さぁ行きましょう。」
メグはジャックに背を向けると、ウォルフたちとともに二階へと上がっていった。
「アレックス、今まで連絡も取らないでごめんなさいね!」
部屋に入るなり、メグはそう言ってワッと泣き出した。
「ママ、一体何があったの?おじいちゃんの養女だというのは本当?」
「誰からそれを?」
「ラリーから。」
「そう、ラリーから・・」
メグは少し考え込んだ後、溜息を吐いた。
「アレックス、こうなったらあなたに全てを話すわ。わたしのことや、あなたの本当のお祖父様について。」
「わかった・・」

メグはそっとアレックスの手を握ると、近くのソファに腰を下ろした。

「何か飲む?」
「いえ、いいわ。」

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Last updated  2012.10.06 21:57:27
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クリスマスを過ぎると、この町は珍しく大雪に見舞われ、子供達は雪遊びに興じていた。

「全く、寒くて仕方がないな。」
暖炉にまた石炭を投げ入れながら、ウォルフはそう言って溜息を吐いた。
「こんなので寒いっていったら、NYの方がここよりもずっと寒いよ。朝から路面が凍って、滑らないように歩くのが大変なんだもの。」
「そうか。」
アレックスは膝上に乗っているルナを撫でると、ゴロゴロと喉を鳴らした。
家族の一員となったこの猫は、今やタンバレイン家のアイドルとなった。
ヘンドリックスは毎日ルナに会いに来るし、タンバレイン夫人はルナを嫌っている振りをしていながらも、こっそりと最高級のペットフードを与えていることをアレックスは知っていた。
ルナは誰にでもなついたが、ジェフの娘・ジェーンにだけはなかなかなつかなかった。
「どうしてかなぁ?」
「第一印象が最悪だったんだろう。」
ウォルフはそう言ってルナを抱き上げ、暖炉のそばにおいてあるソファに腰を下ろした。
「ハーイ、アレックス。元気にしてた?」
ルナのために猫専用のベッドやトイレなどをウォルフが運転する車で近くにあるウォルマートへと二人が向かうと、そこにはカートに食料品を積んだラリーと出会った。
彼はダウンジャケットを羽織り、デニムのジーンズに10センチヒールのブーツを履いていた。
「やぁ、ラリー。そんなヒールの高いブーツ、履いていて大丈夫なの?」
「大丈夫さ。それよりも沢山買ってるね。ペットでも飼い始めたの?」
「ああ。猫を飼い始めてな。これからしつけもしないといけないから、大変だ。」
「ふぅん。一度見てみたいなぁ。」
「ラリーも飼えばいいのに、可愛いよ!」
「そうしたいんだけど、店があるからねぇ。まぁ一人暮らしだからいいかもね。」
ラリーはそう言うと笑った。
「ワインとか買ってるけど、誰か来るの?」
「まぁね。今夜は大切なお客さんが来るんだよ。それじゃぁね。」
ラリーと駐車場で別れた二人がタンバレイン邸へと戻ると、リビングがなにやら騒がしかった。
「どうしたんだ?」
「ウォルフ坊ちゃん、大変です!あの女が・・」
「あの女?」
ウォルフが眉を顰(ひそ)めると、リビングにタンバレイン家の宿敵・バルニエール家の女主人・カトリーヌが優雅に現れた。
「お久しぶりね、ウォルフ。」
「何をしに来た?」
「あら、こちらに用があるのはわたくしではないわ。こちらの方よ。」
カトリーヌは一歩退くと、そこからあの鷲鼻の男が現れた。
「こちらの方はジャック。ハノーヴァー家のご当主様よ。あなたのフィアンセに話があるのですって。」
カトリーヌが話し終えると、鷲鼻の男はゆっくりとアレックスに向かってきた。
「お前が、あの女の子供か?」
男の声は氷のように冷たかった。
「は、はい・・」
(何、この人怖い・・)
アレックスの怯えているのが伝わったのか、彼に抱かれているルナが男に向かって低く唸った。
「ジャック、お願いだからやめて!」
男とアレックスが睨みあっていると、リビングに一人の女性が駆け込んできた。
それは紛れもなく、アレックスの母・メグであった。
「やめて、ジャック!お願いだからこの子には手を出さないで!」
「黙れ、メグ。」

男はそう言うと、アレックスの手を掴んだ。

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Last updated  2012.10.06 21:21:09
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クリスマスの朝、アレックスは猫の鳴き声で起きた。

「アレックス、メリークリスマス。」
「メリークリスマス。」
眠い目をこすりながらアレックスが起きると、そこには一匹の毛並みが美しいメインクーンの子猫が籠の中で鳴いていた。
「これ、どこで?」
「俺の親戚がブリーダーをしていてな。子猫が生まれたから、もらって欲しいと頼まれたんだ。」
「可愛い・・」
アレックスがそっと籠に近づくと、猫は嬉しそうに鳴いた。
「オス?」
「いや、メスだ。俺にはなついてる。」
「ふぅん、とんだ恋のライバルだよね。」
アレックスはそう言って笑うと、子猫を抱き上げた。
「名前はどうしよう・・」
「急ぐことはない。それよりもこいつにミルクをやろう。」
ウォルフは近くにあったバスケットの中から哺乳瓶を取り出すと、ゴム製の乳首を子猫に咥えさせた。
すると子猫は元気よくミルクを飲み始めた。
「ありがとう、ウォルフ。最高のクリスマスプレゼントだよ。」
「どういたしまして。」
その後ミルクを飲んだ子猫は、籠の中で丸くなって寝てしまった。
「お前の爺さんが猫嫌いじゃなかったらいいんだが・・」
「大丈夫だよ、おじいちゃんは猫好きなんだ。」
アレックスが子猫を撫でていると、この前浴室に乱入してきた女児が部屋に入ってきた。
「ニャーニャ、触らせて。」
「だめ、今ニャーニャはねんねしてるの。」
「いやぁ~、触りたい~!」
女児が愚図り始めると、それまですやすやと寝ていた猫が起きてしまった。
「ニャーニャ!」
女児は籠の中に居る子猫に手を伸ばそうとしたが、子猫は女児を威嚇して毛を逆立てて唸った。
「駄目だろう、ジェーン。またお姉ちゃんを困らせちゃ。」
ジェイクが慌てて部屋に入ると、ぐずる娘を抱き上げた。
「パパ、あたしもニャーニャ飼いたい!」
「駄目だろう、またわがまま言っちゃ!」
「ねぇウォルフ、前から気になってたんだけど、あの子は誰なの?」
「あいつはあの男の弟、ジェフの娘でジェーンっていうんだ。数年前に離婚して、ジェフはジェーンを連れてこの町に戻ってきた。」
「そう。どうして俺達の部屋に来るのかなぁ?」
「寂しいんだろう。父親が毎日仕事で忙しいから、あいつには構ってやる奴が誰も居ない。まぁ、気が向いたら俺が時々遊んでやってるが。」
「ふぅん、ウォルフって結構優しいところがあるんだね。」
「からかうな!」

ウォルフの顔がかぁっと赤くなったのを見て、アレックスは思わず笑ってしまった。

「何だ?」
「いつも近寄りがたい感じだけど、そんな風に笑うんだなって。」
「まぁな。それよりもこいつの名前、どうする?何なら俺がつけてやってもいいが。」
「そうだなぁ・・ルナっていうのはどう?」
「悪くないな。」
「宜しくね、ルナ。」

アレックスがそう言って子猫を撫でると、彼女は気持ちよさそうにゴロゴロと喉を鳴らした。

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Last updated  2012.10.06 14:33:06
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「アシュリーさん、ごめんなさいね。」
「いいえ。」

突然バーンズ夫人を紹介されてアレックスを驚いたものの、タンバレイン夫人には平静な表情を浮かべた。

「ねぇ、この後女性だけの集まりがあるんだけれど、あなたもどう?」
「いいえ、遠慮しておきます。」
「そう・・それは残念ね。」
タンバレイン夫人は、そう言ってさっさと部屋から出て行った。
「ウォルフ、待たせたね。」
「大丈夫だ。」
「なぁ、これからお前はどうしたい?」
「どうって・・」
「あれから爺さんとは連絡を取ったのか?」
ウォルフの言葉を聞いたアレックスは、静かに頷いた。
「さぁ、これからのことは考えてみないとわからないな。」
「そうか。爺さんに連絡をしてみたらどうだ?」
「そうする。」
アレックスはスマートフォンを取り出すと、祖父の携帯に掛けた。
『もしもし、アレックスか?』
「お爺ちゃん、ごめんね。今まで連絡が取れなくて・・」
『いいんだ。事情はラリーから聞いてる。あまり無茶するなよ。』
「うん、わかった。おじいちゃんも、まだ本調子じゃないんだから無理しないでね。」
アレックスは暫くマックスと話すと、スマートフォンの電源を切った。

「じゃぁ戻ろうか?」
「ああ。」
「お前ら二人とも何処に行っているのかと思ったら、こんなところにいやがったのか。」
アレックスとウォルフがプールから立ち去ろうとすると、彼らの前にディーンが現れた。
「何の用だ、ディーン?」
「爺さんに気に入られたからって、調子に乗るんじゃねぇぞ。」
ディーンは一歩ウォルフのほうへと近づくと、彼をにらみつけた。
「お前は所詮、愛人の子だ。俺がタンバレイン家の後継者なんだ。そのことを忘れてもらっちゃこまる。」
「ああ、わかったよ。」
ウォルフがそう生返事をすると、ディーンは不服そうな顔をして彼を突き飛ばし、プールから去っていった。
「気にするな。」
「そうだね。」
あまりディーンに関わるとろくなことが起きないので、アレックスは余り彼に近づかないようにしようと思った。
タンバレイン家での生活にも慣れ始めた頃、アレックスはもうすぐクリスマスが近づいていることに気づいた。
「なぁアレックス、クリスマスに何か欲しいものはあるか?」
「そうだなぁ・・NYに居た頃猫が飼いたいって思ってたんだけど、父親が猫アレルギーだから飼えなかったんだ。」
「なんだ、そんなことだったらお安い御用だ。」
ウォルフはそう言うと笑った。
数日後、タンバレイン家のリビングに大きなクリスマスツリーが飾られ、ツリーの下には色とりどりの包装紙に包まれたプレゼントが置かれていた。
「アシュリーの分がないな、一体どうしたんだ?」
「それはクリスマスになってからのお楽しみさ。」
「ふん、それは楽しみだな。」

ヘンドリックスはそう言って上機嫌な様子で笑った。

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Last updated  2012.10.06 14:10:52
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2012.10.05

「どうして・・」
「初めて会ったときからすぐに気づいたよ。」

ジェフは口元に冷笑を浮かべると、アレックスを見た。

深い紫紺の瞳に心の奥まで見透かされてしまうかのようで、アレックスはジェフから目を逸らした。

「君はどうして、ウォルフの婚約者としてここに居る?」
「それは、答えられません。」
「ふぅん、そう。」
ジェフは少し興味がなさそうな顔をすると、曲が終わった途端アレックスから離れていった。
(何だろう、あの人・・)
まるで自分を珍獣を見るかのような目つきで見る彼に対し、アレックスは嫌悪感を抱いた。
「アレックス、どうした?」
「ウォルフ、もういいの?」
「お前が心配になって、ちょっとあの女の目を盗んできた。」
ウォルフはアレックスに水を差し出すと、心配そうな目で彼を見た。
「ジェフに何か言われたのか?」
「あいつ・・俺が男だってことに気づいてる。」
「何だと!?」
ウォルフの美しい眦が上がり、金色の瞳が険しく光った。
「アレックス、なるべく一人きりになるな。それと、ジェフには気をつけるんだ。」
「うん、わかった。それよりもウォルフ、俺のママのことだけど・・」
ラリーから聞いた話をアレックスが話そうとしたとき、鞭のようなタンバレイン夫人の声が響いた。
「何をしているの、ウォルフ!さっさと働きなさい!」
「申し訳ございません、奥様。」
ウォルフはそう言ってアレックスに頭を下げると、彼に一枚のメモを握らせて厨房へと戻っていった。
「ごめんなさいね、アシュリーさん。あの子ったら、いつもわたくしが見ていない時に怠けようとするんだから。」
「いいえ、わたくし全然気にしておりませんわ。」
タンバレイン夫人に対する怒りを抑え込みながら、アレックスはにっこりと彼女に微笑んだ。
「ねぇ、あちらで少しお話なさらないこと?」
「え、ええ・・」
一体彼女が何を考えているのかわからないが、アレックスはタンバレイン夫人とバール・ルームから出て行った。
「どちらへ?」
「皆さん、こちらがウォルフの婚約者・アシュリーさんよ。」
数分後、タンバレイン夫人がそう言って部屋に入ると、そこには数人の女性達がソファに座りながらアレックスを見ていた。
「まぁ、この子が?」
「随分とお若いのねぇ。」
「ハノーヴァー家の娘と聞いているけれど、初めて見るお顔だわ。」
ご婦人達はペチャクチャと自分達のペースでしゃべりながらアレックスの顔をジロジロと見た。
「あの・・奥様、こちらの方は?」
「ああ、こちらはわたくしの友人達よ。あちらが、南部婦人会のリーダー、バーンズ夫人よ。」
バーンズ夫人はでっぷりと垂れ下がった尻をかろうじてソファにおさめて、しきりに扇子でブルドッグのようなしわがれた顔を扇いでいた。
「はじめまして、バーンズ夫人。」
「あらぁ、あなたがアシュリーねぇ。」
バーンズ夫人は気だるそうな声を出して、じろりとアレックスを見た。
彼女は大儀そうにゆっくりとソファから立ち上がると、アレックスにボンレスハムのような手を差し出した。

「ミシェルよ、宜しく。」
「こちらこそ、宜しくお願いします。」

バーンズ夫人はじぃ~っと数秒間アレックスを見つめていたが、また彼女はソファに戻り、腰を下ろすなりいびきをかき始めた。

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Last updated  2012.10.05 20:31:11
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クリスマスの二週間前、タンバレイン家では盛大な舞踏会が開かれた。

何せ300人も招待したので、使用人だけでは足らず、タンバレイン夫人は配膳スタッフを100人ほど急遽雇う羽目になり、また人件費がかかるとパーティーが始まる数時間前にだれかれ構わず愚痴っていた。

「ウォルフ、お前も手伝ってちょうだい。」
「奥様、ウォルフ坊ちゃまは・・」
「お黙り、アーニー!さぁ、さっさとこれを着て厨房に向かいなさい!」
タンバレイン夫人は配膳スタッフの制服を投げつけると、くるりとウォルフとアーニーに背を向けてバール・ルームへと入っていってしまった。
「ウォルフ坊ちゃま・・」
「気にするな、アーニー。あの女が俺をどう扱うのか、想像がついたさ。」
ウォルフはさっさと腰に白いエプロンを巻くと、厨房へと向かった。
そこはさながら戦場のようで、料理長のリックが部下達にテキパキと指示を出していた。
「てめぇら、もたもたするんじゃねぇぞ!」
リックはグリルでステーキを焼きながら、入り口に立っているウォルフに気づいた。
「ウォルフ坊ちゃん、どうしてこんな所に?」
「あの魔女に体よくバール・ルームから追い出されたのさ。」
「そりゃぁ、可哀想に。じゃぁ、あそこにあるステーキを運んでくれませんか?他の者はバール・ルームで飲み物を配るのに忙しくて・・」
「わかった。」
数分後、ウォルフがバール・ルームへと行くと、そこには300人もの男女がダンスをしたり、シャンパン片手に談笑したりしていた。
「どうぞ。」
ウォルフが焼きたてのステーキを客のところに運ぶと、彼らはヒソヒソと何かを囁き合いながら彼を見た。
「ウォルフ、どうしたのその格好!?」
「厨房の人手が足りないからって、ピンチヒッターで給仕のバイトをしてるのさ。」
厨房へと戻ろうとしたウォルフを呼び止めたアレックスに、彼はそう言って笑った。
だがアレックスは、タンバレイン夫人のあからさまな嫌がらせに怒り心頭だった。
「酷いよ、あの人・・何もこんな・・」
「怒るな、アレックス。あいつらは俺の屈辱にまみれた顔を見たいんだろうさ。」
ウォルフが指した方向には、チラチラとこちらの様子を伺うタンバレイン夫人が招待客達と談笑していた。
「後で会おうね。」
「ああ。」
ウォルフと別れたアレックスは、何もすることがないので人気のないバルコニーへと向かった。
熱気あふれる室内から出て、アレックスは冬の夜風に当たった。
暫くバルコニーからライトアップされた庭をアレックスが眺めていると、背後から誰かが彼を抱きしめた。
「誰~だ!」
「もう、ビックリさせないでよ、ラリー!」
いつも美しく着飾っているラリーだが、今夜はいつにもまして美しかった。
白い毛皮のケープを羽織り、エメラルドのドレスを纏い、胸には赤ん坊の拳大位のアメジストのネックレスをつけていた。
「舞踏会、楽しんでる?」
「ううん。奥様は酷いんだ、ウォルフをこき使って・・」
「あの女は決してウォルフをタンバレイン家の一員だとは認めないよ、自分が生きている内はね。」
「ねえラリー、ママのことで何か知ってない?この前、競馬場で一緒に居た男性のことなんだけど・・」
「あぁ、あれはメグの実の父親さ。」
「え・・それじゃぁ、お爺ちゃんは?」
「なんだ、知らなかったの?メグはマックスの養女なのさ。」
「じゃぁ・・ママの本当のパパは?一体どこの誰なの?」
「それはね・・」
「ラリー、こんな所にいたのかい、探したよ。」
ラリーが次の言葉を継ごうとして口を開いた時、プールで見かけた青年・ジェフがバルコニーにやって来た。
「アシュリー、また会えたね。この再会を祝して踊ろう。」
「え・・あ、ちょっと!」
有無を言わさずアレックスの手を掴んだジェフは、踊りの輪の中へと加わった。
「あの、わたし踊れません・・」
「いいよ、僕がリードするから。」
ジェフはそう言って笑うと、アレックスと踊り始めた。
ラリーの特訓の成果か、ワルツのステップを優雅に踏みながらジェフのリードについていくアレックスを見ると、彼はくすくすと笑った。
「どうしたんですか?」
「いや・・君は可愛い子だと思ってね。」

ジェフはそう言ってグイとアレックスの腰を掴んで自分の方へと引き寄せると、彼の耳元でこう囁いた。

「君、男だろう?」

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Last updated  2012.10.05 18:27:33
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「あいつは、母に突然抱きつき、リビングのカウチに押し倒すと服を引き裂いて何度も自分の種を母の胎内に注ぎ込んだ!その間母は血の涙を流していたんだろう。そして、母は俺を妊娠した!」

ウォルフはもうこれ以上耐えられないといった様子で椅子から立ち上がると、髪を掻き毟り始めた。

今すぐタンバレイン氏を殺したいという衝動を抑えるかのように。

「妊娠を知ったとき、母は絶望の淵に立たされただろうな・・18歳でまだ将来の夢に思いを馳せていた自分が、まさか雇い先の主に暴行され、望まぬ子を宿したなんて!」
「やめて、ウォルフ・・」
「だが母は俺を産んだ。孤児であった母にとって、息子の俺はたった一人の家族だった。だがあの男は家族ではなかった!」
「やめてよ、もう・・」
「母は俺を必死に育ててくれた。だがそれをあの男の妻が許すはずがなかった。当時不妊症に悩んでいた彼女は、夫の子を産んだ貧乏な白人女が許せなかった。だから、あの女は俺の目の前で母を・・」
「もうやめて、もういいよ!」
アレックスはもうこれ以上彼の話を聞きたくなくて、堪らず椅子から立ち上がると、ウォルフを抱き締めた。
「もういいよ、こんな話やめよう。君がどれほど辛い思いをしてきたか、わかったから・・」

タンバレイン氏に暴行され、その身に子を宿し、祝福されない命を産んだリリアナ。
どんなに辛くても、彼女はプライドを殺して息子を―たった一人の家族を守る為にタンバレイン家で働いた。
その命が奪われる瞬間、彼女は誰のことを想って死んでいったのだろうか。
「リリアナさんは・・君のお母さんは幸せだったと思うよ?家族が出来て、生活は貧しくて苦しかったけど、君の笑顔を見て生きる気力が湧いたんだ。それが、母親なんだと思うよ。」
ウォルフが嗚咽を漏らし、肩を微かに震わせていた。
「もう会えないけれど、きっと天国で君の事を見守っているよ。だからお願い、死なないで・・」
「ありがとう、アレックス・・俺はお前の守護天使だ。」
ウォルフはそっとアレックスから離れると、彼の顎を持ち上げてキスをした。
不思議と彼からキスされて嫌悪感は抱かなかった。
彼のキスに応じたアレックスが舌を入れると、ウォルフはアレックスの髪に手を回すとよりいっそう深く口付けた。
「済まない・・」
「謝らなくていい。だから・・もっとして?」
アレックスの言葉を聞いたウォルフは、そう言うと大きな声で笑った。
舞踏会が開かれるまでの間、タンバレイン家はその準備で忙しく、タンバレイン夫人は容赦なくサボろうとする使用人たちの尻を叩き、始終ヒステリックな声で怒鳴っていた。
ある日の朝、タンバレイン夫人はリビングでディーンにパーティーの準備が忙しいことを愚痴っていた。
「あぁ、全く忙しい!」
「ママ、あいつに全部やらせればいいじゃないか?あいつの母親はここの使用人だったし・・」
「それもそうね。だけど、高価な食器類に触られたくないわ。」
タンバレイン夫人とディーンが話していると、ヘンドリックスが杖をつきながら部屋に入ってきた。
「貴様ら、またよからぬことを企んでいるんじゃないだろうな?」
「ま、まさか。そんなこと考えていないわよねぇ、ディーン?」
「も、勿論だとも!」
慌ててごまかした二人だったが、ヘンドリックスは彼らをじろりと睨みつけて部屋から出て行った。
「何とか上手くごまかせたわね。」
「うん。」
「さてと、わたしはバーンズさんのところに行かなきゃいけないわ。」

タンバレイン夫人はハンドバッグのストラップを掴むと、そそくさとリビングから出て行った。

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Last updated  2020.01.09 22:22:08
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「どうしたんだ、アレックス?最近様子がおかしいぞ?」
「気づいてたの。俺、思ったことがすぐ顔に出ちゃうんだよね。」
アレックスはそう言って刺繍台をテーブルの上に置くと、ウォルフを見た。
「ママを、競馬場で見たんだ。」
「お前の母親に?」
「うん。でも誰かと一緒だったよ。鷲鼻をした男の人と。ぱっと見て、年は60代後半くらい。」
「それで最近、気分が沈みがちだったんだな。突然失踪した母親と競馬場で再会するなんて、ショックだったろう?」
「はじめは嬉しかったけど・・ママの方は、あまり嬉しくなさそうだった。それよりも、俺に見つかって何だか戸惑っていた様子だったし。」
メグとの再会は、アレックスの心に大きな影を落とした。
夫と離婚してすぐ、アレックスをマックスの元へと預けて失踪したメグは、見知らぬ男と競馬場に居た。
彼女の身なりからして、裕福な生活を送っているように見えた。
自分と目が合ったとき、メグは一瞬気まずそうな顔をしていた。
もしかして、彼女は息子との再会を喜んでいなかった、それとも喜べない事情でも抱えているのだろうか。
「また会えるさ。」
そんなアレックスの胸中を察したかのように、ウォルフは優しく彼に声を掛けた。
「生きていれば、また必ずどこかで会える。だからあんまり気を落とすなよ。」
「ありがとう・・」
ウォルフの言葉に、アレックスは少し励まされた。
彼には会いたくても、母親は既に死んでいる。
だが自分の母親は、今この瞬間でも元気で暮らしている―たとえ彼女が自分と会いたくないとしても、この世に産み落としてくれた母親を、アレックスは無駄に憎みたくはなかった。
「ねぇ、ウォルフのお母さんは、この家で働いていたの?」
「肖像画を・・見たのか?」
ウォルフの言葉にアレックスが頷くと、彼はバツの悪そうな顔をした。
「確かに、俺の母はここでメイドとして働いていた。母は孤児で、18歳になって孤児院を出てタンバレイン家で働き始めた。母は町一番の美人で、この町のクイーンにも選ばれたことがあるくらいだった。そんな母に町中の男が恋に落ちた。あの男もその一人だ。」
ウォルフの言葉を裏付けるかのように、肖像画に描かれていたリリアナは何処かエチゾチックでありながら妖艶な美貌の持ち主だった。
「当時、あの男には婚約者が居た。だが彼は彼女よりも俺の母を愛した。母は全くその気はなかったし、あの男の求愛にうんざりしていた。そんな中、あいつがどうしたと思う?」
「さぁ、見当もつかないや。」
「それは夏の嵐の夜に起きた。あの男の婚約者は、家族とケープコッドの別荘に行って留守だったし、あの爺さんも奥さんと旅行中で、家にいたのはあの男と俺の母だけだった。」
ウォルフはそう言って一旦言葉を切ると、眉間にしわを寄せ、怒りで拳を握っていた。

「無理に話さなくてもいいよ。」
「いいや。俺はすべてを話さなければならない義務がある。」

ウォルフは吐き気を堪えながら、冷蔵庫からミネラルウォーターのペットボトルを取り出し、それを一口飲んで椅子に腰を下ろした。

「あの男は、母を手篭めにした。」

彼の言葉を聞いた時、なぜウォルフがタンバレイン氏を憎む理由が解った。

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Last updated  2012.10.05 15:31:13
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2012.10.04

「ねぇウォルフ、あの人は誰?」
「あの女は、バルニエール家の女主人、カトリーヌだ。フランスからバトンルージュに移住してきたフランス貴族の末裔で、タンバレイン家の宿敵の一人でもある。」
「一人って・・他にもタンバレイン家に敵が居るの?」
「ああ。お前が名乗っているハノーヴァー家とも敵同士だ。」
「そんな・・」
咄嗟に名乗った名が、まさかタンバレイン家と敵対関係にある家名だということを初めて知り、アレックスは愕然とした。
「こ、これからどうしよう?」
「爺さんはお前を気に入っているから、誰もお前に手出しはできない。安心しろ、俺もついている。」
ウォルフはアレックスの震える肩をそっと抱いた。
彼に励まされ、アレックスの不安が少し和らいだ。
「出て行け、バトンルージュの雌狐め!」
「ふん、言わなくとも出て行くわ。全く、これだから南部の野良犬は困るわね!」
カトリーヌは吐き捨てるようにヘンドリックスにそんな言葉を投げつけると、さっと毛皮を翻すとリムジンに乗り込んでいった。
「みんな、興が削がれたな!それ、愉快な音楽でも楽しもうじゃないか!」
ヘンドリックスがそう叫んで手を叩くと、何処からともなくヴァイオリン弾きの男達が現れ、騒がしくヴァイオリンを掻き鳴らした。
はじめはきょとんとしていた客達だったが、やがて愉快な音楽に身体を動かしはじめ、暫くするとアイリッシュ・ダンスを踊り始めた。
「俺達も踊ろう。」
「うん!」
ウォルフと手を繋ぎ、アレックスは彼と共に踊りの輪へと加わった。
楽しい夜は、静かに更けていった。
「何だか、今日はとてもいい気分だ。」
「そうでしょうね。」
「アシュリー、ウォルフのことはお前に任せられそうだ。わしはまだくたばらんが、もう年だ。いつお迎えが来るかわからん。」
そう言って窓の外に浮かぶ月を眺めるヘンドリックスの横顔は、どこか哀愁を帯びていた。
「さてと、休むとするか。今日は疲れた。」
「おやすみなさい、おじい様。」
「おやすみ。」
翌朝、朝食の席に現れたヘンドリックスは、上機嫌だった。
「さてと、これから一週間後の舞踏会へ向けて気を引き締めないといかんぞ!」
「はい、お義父様!」

タンバレイン夫人は、どこか浮き足立っているように見えた。

彼女にとってこれから迎えるクリスマス休暇に伴う冬の社交シーズンは、パーティー好きの彼女が一番好きな季節なのである。

「お父さん、あまり飲み過ぎないようにしてくださいね。」
「ふん、馬鹿にするな、ジョージ。わしはまだ元気だ!」

ヘンドリックスはそう言って豪快に笑った。

アレックスは、競馬場で再会したメグのことが気になってしかなく、一日中上の空だった。
何をしていても、思い浮かぶのは母の顔ばかりだった。

「・・レックス、アレックス!」
「あ、ごめん・・またボーっとしてたね。」

ウォルフはそんなアレックスの変化に気づいていた。

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Last updated  2012.10.04 22:29:28
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「ママ・・」

アレックスは母達が消えていった出口をいつまでも見つめていた。
まさか、こんな場所でメグと再会するだなんて、夢にも思わなかった。

「アレックス?」
「ウォルフ・・」
肩を叩かれてアレックスが振り向くと、そこには心配そうな顔をしたウォルフが立っていた。
「あんまり遅いから、心配したんだぞ?」
「ごめん・・」
次々と溢れてくる涙を拭ったアレックスを見たウォルフは、そっとハンカチを差し出した。
「何があったのかは知らないが、早く戻ろう。爺さんが心配してるぞ。」
「うん、わかった・・」
ハンカチで慌てて目元を拭ったアレックスは、ウォルフに売店で買った飲み物と食べ物が入った紙袋を渡すと、女子トイレへと入った。
洗面台で化粧が崩れていないことを確認したアレックスは、ウォータープルーフのマスカラをつけていて良かったと思いながら女子トイレを後にしようとした時、マンディと偶然鉢合わせしてしまった。
だが、彼女は全くアレックスに気づいておらず、友人達とペチャクチャ喋りながら洗面台を独占した。
「これからパーティーだから、気合入れていかないと!」
「そうよねぇ、あんた今失恋したばかりなんでしょう、マンディ?」
「そうよ、あいつったら陰でコソコソとアンジェラに会ってたんだから!浮気現場に突撃して、あいつの股間にスタンガンを食らわせてやったわよ!」
「やるじゃん!」
マンディとその友人達は、良家の令嬢とは思えぬ下品な笑い声を上げた。
彼女達の脇をアレックスは擦り抜け、女子トイレから出て行った。
「遅かったな、どうした?」
「トイレが混んでまして。この暑さですもの、化粧が崩れてしまっているんじゃないかと心配で・・」
「そうか。」
ヘンドリックスはすんなりとアレックスの嘘を信じたらしい。
「今夜は祝勝会を開くぞ!何せわしの馬が優勝したんだからな!」
その夜、ヘンドリックスの宣言通り、タンバレイン邸では華やかな祝勝会が開かれた。
「全く君の馬は負け知らずだな、ヘンドリックス。流石サラブレッド王と呼ばれただけあるな。」
「はは、そうだろう?」
友人達に囲まれたヘンドリックスは始終上機嫌だった。

彼らが来るまでは。

「今晩は、ムッシュー・タンバレイン。勝利の美酒に酔いしれるのに相応しい素敵な夜ですこと。」

ロシアン=セーブルの毛皮を羽織り、黒いドレスを纏ったブルネットの女性がやって来た途端、和気藹々としていた周りの空気が急に張り詰めた気がした。

「貴様、何しに来た?負け惜しみでも言いに来たのか?」
「あら、そんなこといたしませんわ。わたくしも正式な招待を受けたのよ、ちょっとは歓迎してくださらないこと?」

美女がそう言うと、ヘンドリックスに嫣然とした笑みを浮かべていた。
だが彼女とは対照的に、ヘンドリックスの顔は徐々に険しくなっていた。

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Last updated  2012.10.04 22:27:28
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