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JEWEL

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完結済小説:胡蝶の唄

2014.09.21
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光明が忽然と姿を消したことを知り、咲子は自分の前に座っている帝の顔が曇っていることに気づいた。

「主上、どうかなさいましたか?」
「いや・・」
「あの安倍光明ならば、きっと無事に帰ってくることでしょう。」
「そうだな・・」
(光明、無事に帰って来てくれ・・)
陰陽頭である光利が何者かの呪詛によって倒れ、陰陽博士である光明が自宅から失踪したことにより、陰陽寮は大混乱に陥っていた。
「光利様がこのまま死んでしまったら、陰陽寮はどうなってしまうのだろう?」
「止めろ、縁起でもない事を言うな!」
「でもさぁ・・」
陰陽生たちがそんな話をしながら仕事をしていると、そこへ天文博士の土御門安人が通りかかった。
「どうした、お前達。何を騒いでいる?」
「安人様・・」
陰陽生達から光利が倒れたことを知った安人は、すぐさま安倍邸へと向かった。
「安人、来てくれたのか。」
「叔父上、光利の様子は如何ですか?」
「余り芳しくない。それに、光明が邸から姿を消した。」
「光明が?彼の行くところに何処か心当たりがおありですか?」
「わからぬ。」
光安はそう言うと、溜息を吐いた。
「光利が倒れたのは、何者かがあいつに呪詛を掛けたことがわかっておる。」
「そうですか・・」
「だが、光利に呪詛を掛けた者がわからぬ。安人、その者を探し出してはくれまいか?」
「わかりました。」
安倍邸を後にした安人が帰宅すると、彼の帰りを使用人たちが出迎えた。
「お帰りなさいませ、安人様。」
「父上は?」
「お館様でしたら、寝殿におられます。」
安人が寝殿に向かうと、そこでは父が継母と酒を酌み交わしていた。
「父上、只今戻りました。」
「安人、遅かったな。どこに行っておった?」
「安倍家に行き、光利の容態を聞いてきました。」
「そうか。」
「安人、そなたに良い縁談があります。」
「またそのお話ですか、義母上。」
安人はそう言うと、不快そうに顔を顰めた。
「そなたもいい年だ。そろそろ身を固めぬとな。」
「相手は自分で選びます。」
「まったく可愛げがないこと・・」
寝殿から出て行く義理の息子の背中を睨みつけた安人の義母・梅の方はそう言うと溜息を吐いた。
「まぁ、あいつにはあいつの考えがあるのだから、暫く放っておいてやれ。」
「殿はあの子に甘すぎます。大体あの子は、わたくしにいつも反抗的な態度を取ってばかり・・」
「それはそなたがあいつに干渉するからだ。もうあいつは子供ではないのだから、放っておいてやった方がいい。」
「ですが・・」
梅の方がそう言って夫を見ると、彼は少し眠そうな顔をしていた。
「少し飲み過ぎたようだ。」
「そうですか。」

夜が更け、光明が目を開けると、そこは薄暗い洞窟の中ではなく、何処かの民家のようだった。

「お目覚めでしたか。」
「そなたは・・」
「わたくしは瑠璃と申します。」

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Last updated  2014.09.21 12:13:28
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2014.09.20

安倍邸で華やかな宴が開かれている頃、吉野の山奥では一人の男が祭文を唱えていた。
彼の前には、光明の名が書かれた藁人形が置かれてあった。

(もうすぐだ・・もうすぐ、呪いが完成する!)

護摩壇で仄かに照らされた男の左頬には、醜い火傷の痕があった。

「兄上、今日は疲れましたね。」
「ああ。父上たちが集まると、碌な事がないな。」
宴が終わり、光明の部屋で寛いでいた光利は、そう言うと烏帽子を脱いで結っていた髪を解いた。
「兄上、わたしはこれからどうすればよいのでしょうか?」
「何も深く考える事はない。お前はいつも通りの生活を送っていればいい。」
「わかりました。兄上、実は兄上にご相談したいことが・・」
光明がそう言って兄の方を見ると、光利は急に喉を掻き毟り苦しみ出した。
「兄上?」
「逃げろ・・光明・・」
「兄上、しっかりしてください!」
「どうした?」
「父上、兄上が突然苦しみ出して・・」
光安は光利の傍に跪くと、彼の身体に漆黒の蛇が巻き付いているのが見えた。
「光明、光利は何者かに呪詛を掛けられている。」
「そんな・・」
「落ち着け、今すぐ加持祈祷の準備をしろ。」
「わかりました。」
部屋を出た光明が加持祈祷の準備をしようとすると、護摩壇の前に一人の男が立っていることに気づいた。
結い上げていない髪はほうぼうに乱れ、男が纏っている赤い狩衣も襤褸(ぼろ)同然だった。
「何者だ!」
「そなたが、あの女の腹から生まれた子か?」
男はそう言って光明を見た。
その目は、まるで生気を宿していない死者のそれに似ていた。
「ようやく見つけたぞ・・」
「やめろ、近づくな!」
光明は男を睨むと、祭文を唱え始めた。
「そんなものを唱えても、無駄だ。」
男は口端を歪めて笑うと、右手で光明の頭を掴んだ。
その瞬間、光明の脳内に様々な映像が浮かんでは消えた。

―やはり、あやつは殺すべきだったのだ!

暗闇の中から響く男の野太い声を聞いた後、光明は意識を失った。

「漸く目覚めたか。」

洞穴の天井から滴り落ちた雫を頬に受け、光明が目を開けると、そこには先ほど安倍邸で見た男が護摩壇の前に座っていた。
「ここは何処だ?」
「我が家だ。」
「貴様、兄上に何をした!?」
「わたしは何もしておらぬ。あの蛇は何者かがお前の兄に向かって放ったものだ。」
「貴様、何者だ?」
「そなたに名乗るほどの者ではない。」

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Last updated  2014.09.20 21:45:50
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2014.09.19

「兄上は生前、桐壺女御と親しくしておった。幼くして実の母君様を亡くされた兄上にとって、彼女は母君様のような存在だったのであろう。」
宏昌と帝が腹違いの兄弟であることを知っていた光明だったが、自分の母親が彼と噂があった桐壺女御であるということが未だに信じられずにいた。
「兄上が流刑先で自害した時、彼女は美鈴を身籠っておった。腹の子を守る為、彼女は実家で出産し、その子を立花家に託した。」
「何故、桐壺女御様は大事な御子を立花家に託したのですか?」
「立花家には北の方と側室、そのどちらにも子宝が恵まれず、家の存続が危ぶまれておった。桐壺女御と立花家の側室である霧の方は、母方の従妹同士であった。」
「そうでしたか・・主上のお話を聞いて美鈴様が何故男であるのに姫として育てられているのかがわかりました。」
「光明、余と同じ名を持つ縁を持つ者よ、どうか美鈴を守ってやって欲しいのだ。これからそなたと美鈴が余の血縁者であるということが宮中の者達に知られれば、美鈴は権力闘争の激しい渦の中に巻き込まれてしまうであろう。」
「承知いたしました。」
清涼殿から辞し、兄が居る陰陽寮へと戻った光明は、周囲の好奇に満ちた視線を感じながら兄の部屋に入った。
「兄上、失礼いたします。」
「光明、主上とは何を話していたのだ?」
「実は・・」
光明が自分と美鈴の出生の秘密を光利に話すと、彼は渋面を浮かべて溜息を吐いた。
「そうか。これから宮中が騒がしくなりそうだな。」
「はい・・」
「もうお前が帝の甥であることが陰陽寮内に知られている。色々と面倒な事が起こるだろうが、慎重に行動するように。」
「わかりました、兄上。」
光明はそう言って光利に頭を下げると、彼の部屋から出て行った。
「光明様、お館様から文が届いております。」
「父上から?」
父・光安からの文を受け取った光明が自室でその文を読むと、そこには今宵邸で管弦の宴を開くから予定を明けておくようにとだけ書かれてあった。
「光明様、失礼いたします。」
「どうした、芳次。何か困ったことでもあったのか?」
部屋に陰陽生の芳次が入って来たので、光明は懐に父の文を隠した。
「ええ。陰陽寮内では、光明様が帝の兄君様の御子であるということが知れ渡ってしまって、変な噂が飛び交っているのです。」
「変な噂?それはどのような噂だ?」
「光明様が、次の帝となられる梨壺女御様の皇子を差し置いて、東宮の座を狙っているのではないかと・・」
「馬鹿な事を!誰だ、そんな馬鹿馬鹿しい噂を流した者は!」
「それは、わたしにはわかりません・・」
芳次は光明から怒鳴られ、俯いた。
「怒鳴って済まなかったな、芳次。」
光明はそっと芳次の肩を叩くと、彼に仕事に戻るように言った。
その日の夜、安倍邸で管弦の宴が開かれ、その席で光明は父や親族達からそろそろ結婚してはどうかと言われた。
「その年でまだ身を固めないと、変な噂が立ってしまうぞ。」
「噂が立っても結構です。わたしはまだ結婚する気はありませんから。」
「だがな光明・・」
「父上、光明には光明の考えがあるのです。そんなに結婚を急かさないでください。」
光利がそう言ってすかさず光明に助け舟を出すと、父は渋面を浮かべて黙り込んでしまった。
「兄上、助けてくださって有難うございます。」
「礼など要らん。それにしても、父上には相変わらず困ったものだ。」

光利は溜息を吐くと、池に船を浮かべて風流を楽しんでいる貴族達の姿を眺めた。

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Last updated  2014.09.19 11:07:55
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2014.09.18

「主上(おかみ)、先ほどわたしと美鈴様のことを“兄と弟”とおっしゃりましたが、それはどういう事でしょうか?」
「言葉通りだ。美鈴は女のなりをしているが、そなたと同じ男なのだ。」
「何と・・」
美鈴が男であることを知った光明は、驚愕の表情を浮かべながら美鈴を見た。
「主上、いつからお気づきになっておられたのですか?」
「そなたと初めて会った時から、気づいておった。華奢な身体つきをしていても、同じ男であるそなたのことを気づかぬ筈がないであろう。」
「主上・・」
帝は御帳台から起き上がり、そっと美鈴の手を握った。
「美鈴、そなたが兄君の遺児であることがわかった以上、そなたとこの宮中で暮らしたいのだが、そなたはどうじゃ?」
「わたくしは、まだ頭が混乱していて、どうすればよいのかわかりませぬ・・」
「そうか。そなたはもう桐壺に戻ってもよいぞ。」
「わかりました。ではこれで失礼いたします。」

美鈴が桐壺へと戻ると、彼女に代わって針仕事をしていた淡路が主の帰りを出迎えた。

「姫様、お帰りなさいませ。主上のご容態は如何でしたか?」
「お元気そうだったわ。」
「そうでしたか。」
「針仕事を手伝わせてしまってごめんなさいね、淡路。」
「いいえ、これくらい平気です。いつもやっておりますもの。」
美鈴は淡路とともに針仕事をしながら、これから自分がどうなってしまうのか不安になった。
「主上、美鈴の事をどうなさるおつもりなのですか?」
「我が親族としてこの宮中に迎えることにする。」
「それでは、帝亡き後、あの子が次の帝となるのですか?それではわたくしの皇子の立場はどうなるのです?」
「落ち着け、咲子。」
「これが落ち着いてなぞいられますか!」
自分が産んだ皇子ではなく、帝の兄の遺児である美鈴が次の帝になるかもしれないと思った咲子は、そう言って帝を睨んだ。
「あの子の父親は謀反人ですよ。そんな者を宮中に迎えようなどと・・」
「黙れ!」
帝から初めて怒鳴られた咲子は、恐怖で顔を強張らせながら帝を見た。
「主上・・」
「兄上は余の亡き母上によって無実の罪を着せられ、弁解をすることなく自害したのだ。兄上は謀反人などではない。今度兄上の事を侮辱したら、そなたでも許さぬぞ。」
「申し訳、ございませぬ・・」
「わかればよい。光明、そなたと二人だけで話したことがある。」
「わかりました。」
清涼殿から辞し、梨壺へ戻った咲子は、御帳台の中で眠る皇子の寝顔を眺めながら、絶対に息子を次の帝にしてみせると誓った。
(あの者に東宮の座を渡してなるものか!)
「光明、そなたもさぞや驚いたであろう?」
「ええ。まだ頭が混乱しております・・」
「そなたは、これからどうするつもりじゃ?」
「わたくしは陰陽寮に属するただの陰陽師にございます。これからもただの陰陽師として、主上の為に働きたいと思っております。」
「そうか。そなたならそう言うと思っておった。」
帝はそう言うと、光明の顔を見た。
「そなたは、兄上が愛した女人に似ておるの。」
「その方は、どなたなのですか?」
「兄上が愛した方は、兄上との思い出が詰まった桐壺に居られる。そなたも知っておろう?」
「桐壺女御様が、わたしと美鈴様の実の母上様なのですね?」

光明の問いに、帝は静かに頷いた。

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Last updated  2014.09.18 14:14:18
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2014.09.17

※BGMとともにお楽しみください。



―雛若、久しいな。

闇の中を彷徨っていた光明帝は、黄泉の住人となった宏昌と十五年ぶりに再会した。
「兄上、わたくしは兄上を助けられませんでした。」
―そのことでお前を責めるつもりはない。わたしがただ、愚かだっただけなのだ。
「ですが・・」
―この世で唯一心残りがあるとすれば、彼女との間に出来た御子達の成長を見られなかっただけだ。
「兄上、その御子達とは一体誰の事なのですか?」
―それは・・
「女御様、主上(おかみ)が意識を取り戻しました!」
「それはまことか!?」
「はい!」
咲子が帝の寝所へ向かうと、彼が寝かされている御帳台の前では薬師と陰陽師達が集まっていた。
「主上!」
「咲子、心配をかけてしまって済まなかった。」
「いいえ。ご気分は如何ですか?」
「少し眠ったら良くなった。それよりも咲子、お前に頼みがある。」
「何でございましょう?」
「あの子を・・美鈴をここへ呼んできてはくれぬか?」
桐壺では、美鈴が先輩の女房達から言いつけられた針仕事を淡々とこなしていた。
「それが済んだら、向こうの物もお願いね!」
「はい、わかりました。」
「姫様がこのような事をなさらなくても、わたくしがやりますのに。」
「あなたがわたくしを手伝ったら、あの方たちに何を言われるかわかったものではないわ。」
「ですが・・」
「美鈴様、おられますか?」
「はい。」
針仕事の手を止めた美鈴が御簾の近くに寄ると、帝の使いである女房が廊下に立っていた。
「主上があなたを呼んでおられます。」
「わかりました、すぐに参ります。」
「姫様、針仕事はわたくしがいたします。」
「済まないわね、淡路。」
桐壺を出た美鈴が清涼殿へと向かうと、そこには梨壺女御と安倍兄弟の姿があった。
「主上、意識が戻られて何よりです。」
「美鈴、こちらへ。」
「はい。」
美鈴がそう言って帝の前に座ると、彼はじっと美鈴の顔を見た。
「そなたが、兄上がこの世に残した忘れ形見だとは気付かなかった・・」
「主上、美鈴姫が宏昌様の遺児だというのは、本当ですか?」
「ああ。兄上が余の夢の中に現れ、美鈴がこの世に遺した自分の血を分けた宝だと余に教えてくれたのだ。」

帝の口から自分が彼の兄君である宏昌の遺児であるという衝撃的な事実を告げられ、美鈴は驚きのあまり絶句した。

「そして兄上は余にこうも言ったのだ。安倍光明もまた、自分がこの世に遺した血を分けた宝だと。」
「では主上、我が弟と美鈴姫は・・」
「二人は同じ父を持つ兄と妹・・いや、兄と弟だ。」
「まさか、そのような事が・・」

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Last updated  2014.09.17 11:39:58
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2014.09.16
宏昌が佐渡で自害して暫く経った頃、母の身に異変が起きた。
宴の最中に突然倒れ、そのまま床に臥せってしまった。

「女御様のご容態は芳しくありません。」
「一体母上に何があったのだ?」
「先ほど薬師が女御様を診察したのですが・・女御様のお顔が・・」
「母上の顔が、どうかしたのか?」
「それは言えませぬ。」
「そこを退け!」

光明は薬師を押し退け、御帳台の中で寝ている母の顔を見た。
美しかった母の顔は醜く腫れあがり、顔全体に疣(いぼ)のようなものが出来ていた。
「これは、一体・・」
「おそらく、女御様の顔の疣は呪詛によるものでございましょう。」
御帳台の傍に立っている一人の陰陽師が、そう言って光明の前に現れた。
「そなたは?」
「お初にお目にかかります、主上(おかみ)。わたくしは陰陽博士の、棚橋康秀(たなはしのやすひで)と申します。」
そう言った陰陽師・棚橋康秀は、そっと光明に近づいた。
「主上、あなたの後ろに宏昌様がおられます。」
「兄上が?」
光明が背後を振り向くと、そこには誰も居なかった。
「居らぬではないか。」
「いいえ、今この場に、宏昌様がおられます。主上には、そのお姿が見えないだけでございます。」
「康秀、わたしはどうしたら兄上のお姿が見られるようになるのだ?」
「死者を見られる者と、見られぬ者がこの世には居ります。」
康秀はそう言って優しく光明の肩を叩くと、彼を見た。
「主上は、死者が見えませぬ。」
「康秀、兄上はわたしに何か伝えたいことがあるから、ここに居るのであろう?」
「はい。宏昌様は、御子達を頼むと申されております。」
「御子達だと?兄上は妻帯していなかったはず・・」
「わたくしは、これで失礼いたします。」
康秀は光明に頭を下げると、そのまま弘徽殿から去っていった。
病に臥せっていた母は数日後、息を引き取った。
母の後を追うようにして、父も流行り病に倒れて息を引き取った。
立て続けに帝と弘徽殿女御が亡くなり、宮中では流刑に処された宏昌が二人を祟り殺したのではないかという噂が流れた。
「康秀、兄上は父上と母上を祟り殺したというのは、本当なのか?」
「いいえ。宏昌様が死しても尚この世にとどまっておられるのは、自分の血をひいた御子達の身を案じているからでございます。」
「その御子達を探せば、兄上は成仏できるのだな?」
「はい。」

光明は宏昌の遺児達を探すよう部下に命じたが、何年経っても彼らを探し出すことはできなかった。

(兄上、いつか必ずあなた様の御子達をわたしが探し出して差し上げます。)

それから十五年もの歳月が経ち、光明は漸く宏昌の遺児を探し出したのだった。
しかし、その所為で光明の中で宏昌を救うことが出来なかった罪悪感という名の澱(おり)が、一気に胸の中から溢れ出てしまったのだった。

「光利、どうすれば主上は助かるのじゃ?」
「それは、わたくしどもにはわかりませぬ。主上の生命力を信じるしかありませぬ。」

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Last updated  2014.09.16 21:27:52
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2014.09.15

※BGMとともにお楽しみください。


「主上のご容態は?」
「芳しくありません。」
「そうか・・」

咲子はそう言うと、帝が寝ている御帳台の方を見た。

(主上、どうか・・どうかわたくし達の元へ帰って来てくださいませ。)

清涼殿で帝の為に加持祈祷が行われている頃、当の本人は夢の世界を彷徨っていた。
「雛若、そんなところに居たのか。」
いつものように弘徽殿の中庭で遊んでいると、元服を終えたばかりの兄・宏昌が声を掛けてきた。
「兄上。」
自分を優しく見つめる兄の紫紺の双眸が、好きだった。
母親が違っていても、光明(こうめい)にとって宏昌は唯一無二の親友であり、良き相談相手であった。
「そなたももうじき元服を迎えるな。」
「兄上、わたしが元服しても会いに来てくれますか?」
「それはどうかな。雛若が良い子にしていたら、会いに行くよ。」
「兄上、わたしをからかわないでくださいませ。」
「冗談だ、冗談。お前が元服しても、毎日会いに行くよ。」
「約束ですよ、兄上。」
「ああ、約束だ。」
あの頃は、兄とは寝る時以外はいつも一緒で、光明と兄は仲の良い兄弟と宮中では評判だった。
だが、自分が元服してから兄はいつしか弘徽殿から遠ざかるようになり、次第に兄とは疎遠になっていた。
「母上、何故兄上は弘徽殿に来られないのですか?」
「それは、わたくしにもわからぬ。」
母は兄が密かに謀反を企てているという噂を聞き、その噂を流した者を密かに呼び出した。
「あの噂は本当なのか?」
「ええ。宏昌様は聡い方です。ですが、その聡さは、必ず帝に災いを齎すことでしょう。現に、宏昌様は謀反を起こし、主上の座を脅かそうとしておいでです。」
その者の讒言に惑わされた母は、宏昌を帝に対して謀反を企てた罪人として捕えた。
「何かの間違いです!わたしは、謀反を企てようとしたことはございません!」
「見苦し言い訳など聞きとうない!」
宏昌は佐渡へ流刑に処された。
「母上、何故兄上を信じてくださらないのですか!兄上は謀反など起こすような方ではございません!」
「吾子よ、そなたはまだあの者の本性を知らないから、そんな暢気(のんき)な事が言えるのです。そなたはもう東宮になったのですから、そのような暢気な考えはお捨てなさい。」
宏昌は流刑先の佐渡で自害し、父が亡くなった後、光明は帝として即位した。
「まったく、最期まで人騒がせな者だったのう。」
「ええ。ですが宏昌様を流刑に処して得をしたのは、女御様ではございませぬか?」
「何を馬鹿な事を。まぁ、宏昌を消しておいてよかった。そうしなければ、あの者が帝になっていたからな。」

兄を佐渡に流したのが母だと知った時、光明はこの世の全てに絶望した。

(兄上・・わたしの所為で・・)

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Last updated  2014.09.15 22:04:46
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2014.09.14

「美鈴と二人きりで話したいことがある故、そなたたちはもう下がれ。」
「はい、女御様。」
女房達が局から出て行き、咲子は美鈴と二人きりになった。
「そなたは、主上(おかみ)の亡き兄君に似ておる。」
「主上に、兄君様がおられたのですか?」
「ああ。とても優秀な方だったが、謀反の疑いを掛けられ流刑先で自害した。」
「まぁ、そのような事が宮中で起きていたなんて、信じられませんわ。」
「宮中では他人の足元を掬う事ばかり考えている連中が多い。己のためならば他人を陥れても良心の呵責を感じぬ者がおる。」
「では女御様、主上の兄君様はそのような者達によって陥れられたとお考えでございますか?」
「ああ、そうじゃ。あの方は優秀な方であったが、お優し過ぎたところがあった。他人の讒言(ざんげん)に惑わされ、流刑に処された。」
咲子はそう言うと、宏昌が流刑になった時の事を思い出していた。
「何故です?何故わたくしが謀反などを起こそうとお思いになっておられるのですか、父上!」
「そなたは聡い男じゃ。その聡さがいずれこの日の本に災いを齎(もたら)すことがあると、ある者から忠告されたのじゃ。」
宏昌は、実の父親である先代の帝に謀反の疑いを掛けられ、流刑に処された。
宮中では宏昌を次の帝に推す者達と、宏昌の弟君である今の帝を推す者達との間で権力闘争が起きていた。
宏昌が流刑に処されたのは、彼を宮中から追放しようとする者達の陰謀だったのではないか―そんな噂が一時期宮中に流れたことがあった。
しかし宏昌が流刑先の佐渡で自害したことにより、真相は闇の中に葬られた。
宏昌と男女の仲にあった桐壺女御は、宏昌との子を腹に宿していた。
もしその時の子が生きていたら、男女関係なく美鈴のように美しく成長している筈だ。
「女御様、どうかなさいましたか?」
「いや、何でもない。美鈴、宮中での生活には慣れたか?」
「ええ。桐壺女御様にはよくしていただいております。」
「そうか・・」
咲子はそう言うと、そっと美鈴の手を握った。
すると、彼女は美鈴の手首に巻かれている水晶の腕輪を見つけた。
「それは、どうしたのじゃ?」
「ああ、これは光明様から頂いた物です。」
「そうか・・」
光明から水晶の腕輪を貰った美鈴に、咲子は一瞬嫉妬してしまった。
「女御様、主上がお越しになられます。」
「そうか。」
咲子が美鈴とともに帝を出迎えると、彼は美鈴の顔をじっと見つめた後、こう言った。
「兄上に良く似ている・・もしやそなた、あの時の子か?」
「主上?」
「わたしは、あの時ああするしかなかった・・兄上を流刑に処さなければわたしの身が危ないと、あやつらに唆されて・・」
帝の異変に気づいた咲子が彼の元へ寄ろうとしたとき、突然帝は両手で頭を抱えて倒れた。
「主上、しっかりなさいませ!」
「誰か、薬師を呼べ!」

梨壺で帝が原因不明の病に倒れたという知らせを受け、光利と光明が帝の寝所に向かうと、帝は御帳台の中で高熱に魘(うな)されていた。

「一体主上に何があったのですか?」
「わかりませぬ。ただ、立花家の姫を見た途端、突然両手で頭を抱えて苦しみだして・・」

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Last updated  2014.09.14 11:18:01
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2014.09.13

弘徽殿女御(こきでんのにょうご)達が屋敷の火災に巻き込まれて焼死したことは、瞬く間に宮中に広がった。

「これで、わたし達を脅かす者はいなくなったな、咲子。」
「はい、父上・・」

弘徽殿女御が死んでから、危篤状態に陥っていた皇子の容態は快方に向かっていた。

しかし、弘徽殿女御・睦子と咲子は、入内するまでは仲の良い友人同士だった。
咲子は睦子の事を“姉上”と呼び、睦子もまた咲子のことを、“吾(わ)が妹よ”と呼んでいた。

(姉上、いつからわたくし達は互いにいがみ合い、憎しみ合うようになってしまったのでしょうか?こんなことになるくらいなら、入内などしなければよかった・・そうすれば、わたくしはいつまでも姉上と仲良く暮らしていけたのに・・)

自分が睦子を追い詰めてしまったのではないか―そんな思いに耽っていた咲子は、何者かの視線を感じ、ふと御簾の向こうを見た。
すると、丁度自分の前を一人の青年が通り過ぎようとしているところだった。
「父上、あの方はどなたです?」
「咲子、あれはあの安倍兄弟の弟君・光明様だ。何でも、弘徽殿女御の父親に巣食っていた大蛇を一撃で仕留めたそうだ。」
「まぁ、そうですの。」
御簾越しに見た安倍光明の端正な美貌は、咲子の心に一瞬のときめきを齎(もたら)した。
「咲子様、主上(おかみ)がお見えになりましたよ。」
「わかりました。」
皇子の様子を見に来た帝は、皇子の顔が元通りになったのを見て、笑顔を浮かべた。
「すっかり良くなったようだな。皇子の身に起きた怪異は、全てあの女が死んで何もなかったようだ。」
「そうですね・・」
「どうした、咲子?顔色が悪いぞ?」
「少し疲れているのです。」
「そうか。それよりも咲子、最近桐壺に入内してきた立花家の姫の事を知っておるか?」
「ええ、確か美鈴姫といいましたわよね。それがどうかなさいましたか?」
「あの姫、宏昌に似ておるな・・」
「宏昌様に、ですか?」
帝の口から、亡き兄君の名が出てきたので、咲子は首を傾げた。
「ああ。あの姫は、宏昌と同じ紫の瞳を持っておる。何やらあの姫と余には、縁があるようだ。」
「まぁ、そうですか・・」
咲子は帝の言葉にそう言って笑ったが、美鈴がどんな顔をしているのか一度彼女と会いたくなった。
「え、梨壺女御様がわたくしにお会いしたいとおっしゃられておられるのですか?」
「すぐに梨壺にいらしてください。」
美鈴は突然梨壺女御に呼び出され、淡路とともに梨壺へ向かうと、主である梨壺女御を囲むように、彼女の女房達が貝合わせに興じていた。
「あの、梨壺女御様に呼ばれてきたのですが・・」
「そなたが、美鈴姫か。」
局の奥から出てきた咲子は、美鈴の顔を見て驚愕の表情を浮かべた。
彼女は、余りにも宏昌君に似ていた。
(主上のお言葉は正しかった・・もしや、この子は・・)
「あの、わたくしの顔に何かついておりますか?」
「いや・・そなたがあまりにも、ある方と瓜二つなので、驚いていたのじゃ。」
「ある方とは?」
「それは、この場では言えぬ。」

咲子の強張った顔を見た美鈴は、彼女が何かを隠していることに気づいた。

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Last updated  2014.09.13 23:04:39
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2014.09.12

(兄上、あれは?)
(静かにしろ。)

光明と光利が弘徽殿女御の父親の背後に迫る蛇の存在に気づくと、弘徽殿女御の父親は、梨壺女御の父親への呪詛の言葉をつぶやき続けていた。
すると、蛇は父親が抱える負の感情を糧にするように、徐々に大きくなっていく。

(もしや、あの蛇は弘徽殿女御の父親に・・)
(彼が自ら生み出した怨念の塊だ。)

「どうされましたか、お二人とも?」
「いえ、何でもありません。」
「もしや、“蛇主様”にお気づきなのですか?」
弘徽殿女御の父親は、そう言うと口端を上げて笑った。
「わたし達はこれで失礼いたします。」
「この方の存在を知られた以上、あなた方を無事に帰す訳には参りません。」
弘徽殿女御の父親は、自分の背後に控えている蛇に目配せした。
すると、その蛇は鎌首を擡(もた)げたかと思うと、鋭い牙を剥いて光利と光明に襲い掛かって来た。
「危ない、光明!」
我に返った光明は、蛇の巨大な尾で光利が寝殿から弾き飛ばされていくのを見た。
「兄上!」
「ほう、よそ見をするなど、随分と余裕でいらっしゃるのですね。」
耳元で自分を嘲笑う声が聞こえたかと思うと、弘徽殿女御の父親が太刀で光明に斬りかかって来た。
「いつからあの化け物を・・」
「“蛇主様”は、わたしの願いを叶えてくださるのです。憎いあの女を殺したいとわたしが囁くたびに、この方はわたしの願いを叶えてくれる・・たとえば、あの忌々しい女が産んだ皇子を呪ってくれたり・・」
「やはり、皇子様の呪詛はあなたが・・」
「あの女の血をひく皇子など要らぬ!これ以上あやつらには好き勝手はさせぬ!」
弘徽殿女御の父親がそう叫ぶと、彼の心に共鳴するかのように、大蛇が鋭い牙を剥き出しにし、口の中から毒液を撒き散らした。
寸でのところで毒液をかわした光明だったが、毒液で溶かされた床はシュウシュウと不気味な音を立ててドロドロになっていた。

(くそ、どうすれば!)

蛇からの攻撃をかわしながら、光明は大蛇にどう致命傷を与えようかと考えていた。
その時、何かが光明の頬を掠めた。
光明の背後に忍び寄っていた大蛇は悲鳴を上げた。
彼が大蛇を見ると、大蛇の両目は潰れ、眼球があった場所からは大量の血が噴き出していた。
「今だ、光明!」
光明は、腰に提げていた太刀を抜き、刃を蛇の額に突き立てた。
「何ということだ・・あの方が、お倒れになられるなんて・・」
「もう観念なさい。あなたが憎悪で生み出した“蛇主様”は、もう居ないのです。」
光利がそう言って彼の肩に手を置くと、彼はうなだれた。
「今まで何だったのだ、わたしがしてきたことは、全て無駄だったというのか!」

弘徽殿女御の父親は、そう叫ぶと近くに置いてあった灯台を引き倒した。

炎はまるで蛇が這うように床に燃え広がった。

「光明、ここから出るぞ!」
「ですが・・」
「彼らはもう手遅れだ。」

光利がそう言って弘徽殿女御の父親を見ると、彼は娘と孫娘とともに炎の中で倒れて息絶えていた。

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Last updated  2014.09.12 16:04:18
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