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JEWEL

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完結済小説:胡蝶の唄

2014.09.11
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「ただいま帰りました、父上。」
「敏明、宮中の様子はどうであった?」
「何も変わりはありませんでした。」
「そうか。」
敏明が帰宅すると、寝殿で寛いでいた父・実敏(さねとし)がそう言って彼を見た。
「父上、ひとつお聞きしたいことがあるのですが・・」
「何だ?」
「何故、安倍兄弟を憎むのですか?」
「それはまだ、そなたに話すことはできん。」
「そうですか・・」
「時期が来たら話す。もう部屋にさがってもよいぞ。」
「わかりました、失礼いたします。」
父の言葉に納得がいかなかった敏明だったが、それ以上彼を追及することなく、寝殿から出て行った。

敏明の脳裏に、安倍光明の端正な美貌が浮かんだ。

自分と同じ陰陽寮に属しながら、陰陽得業生(おんみょうのとくごうしょう)として宮中で一目置かれ、陰陽師として優れた才を持っている彼を、敏明は密かに嫉妬していていた。
才能と美貌という二つの武器を持っているにも関わらず、それらに対して光明があまりにも無頓着なことにも敏明は何故か苛立っていた。
宮中を支配できる力を持ちながら、何故その力を発揮しようとしないのか。
「敏明、どうしたのじゃ?」
「母上、何でもありません。」
「また宮中で嫌な事でもあったのか?」
「いいえ。」
「それよりも、明日の夜、あの安倍兄弟が弘徽殿女御様のお父君に宴に招かれたそうじゃ。」
「それは、本当なのですか?」
「間違いない。あの兄弟は、澄ました顔をして上の者に取り入るのが上手いのう。」
敏明の母・槇の方はそう言うと溜息を吐いた。
「敏明、あやつらに負けてはならぬぞ、良いな。」
「はい、母上。」
弘徽殿女御の父親に管弦の宴に招かれた光明と光利は、彼の下らないお世辞に時折愛想笑いを浮かべながら屋敷の中に魔物の気配がしていることに気づいた。
「兄上、先ほどからわたし達を何者かが見ているような気が・・」
「それはまだ言わぬ方がよい。」
「何故ですか?」
「それは・・」
「お二人とも、どうなさったのです?余りお飲みになっておりませんね?」
弘徽殿女御の父親は、そう言うと二人に微笑んだ。
「今日は気分が優れないので、そろそろ失礼いたします。」
「そうおっしゃらずに、どうぞ。」
彼はそう言うと、光明が持っている盃に酒を注いだ。
「弘徽殿女御様のおかげんは如何ですか?何でも、体調を崩されてこちらにお戻りになられたとか?」
「ああ・・娘は、あの忌々しい男の所為で心を病んでしまったのですよ。」
先ほどから感じていた魔物の気配と視線は、ますます強くなってきている。
「梨壺女御様が、憎いですか?」
「ええ。あの女とあの女の父親に、地獄の苦しみを味あわせてやりたいです!」
光利が梨壺女御の話を弘徽殿女御の父親にふると、彼は目を爛々と輝かせながらそう言って大声で笑った。
その時、彼の背後に巨大な蛇が忍び寄っていることに光明は気づいた。
だが、彼は蛇には全く気付くことなく、梨壺女御への呪詛の言葉を延々と吐き続けている。

「あの女が憎い・・あの女さえ、居なければ・・」

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Last updated  2014.09.11 13:24:36
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2014.09.10

「光明、何かわたしに隠していることはないか?」
「いいえ。」
「そうか・・先ほど、桐壺女御様の局からお前が出て来るのを見たとわたしに報告した者が居たんだが・・」
光利はそう言って光明を見ると、彼は少しばつの悪そうな顔をして俯いた。
「兄上、先ほど桐壺女御様からこんな物を受け取ったのです。」
光明が兄に宏昌の遺髪を渡すと、彼は険しい表情を浮かべて唸った。
「お前、もしかして反魂の術をしようとしているのか?」
「桐壺女御様から頼まれました。誰にもわからぬよう、宏昌様を甦らせて欲しいと。」
「そんなことをしたら、どうなるのか、聡いお前は解っているだろう!?」
「ええ、解っております。」
「今すぐにでも、桐壺女御様の元に行ってこれを返して来い!」
「それは出来ません、兄上。先ほどその頼みを引き受けると、桐壺女御様に返事をしましたから。」
「そうか。お前はこれからどうするつもりなのだ?」
「桐壺女御様には、反魂の術を試みたものの失敗に終わったとご報告申し上げるつもりです。」
「そうか。桐壺女御様は、一体なぜそのような事を・・」
「わかりません。兄上、確か宏昌様は謀反の疑いを掛けられ、流刑先で自害したと聞いておりますが・・何故、桐壺女御様は宏昌様の遺髪をお持ちになっておられたのですか?」
「宏昌様と桐壺女御様は昵懇の仲で、人目を忍んで逢瀬を重ねていたという噂を以前聞いたことがある。」
「そうですか・・」
「桐壺女御様は宏昌様の御子を身籠ったが、死産したという。」
「そのような噂があったなんて、知りませんでした。」
「知らないのは当然だ。人の噂など七十五日も経つと消えていってしまう。女房達の退屈しのぎにはなるだろうが。」
光利は、そう言うと扇で口元を覆った。
「わたしも、宮中の女房達に変な噂を立てられたことがあるぞ。」
「それは、どのような噂ですか?」
「わたしが未だに身を固めないのは、弟であるお前と男色の関係になっているのではないかというくだらないものだ。」
「馬鹿馬鹿しい!」
「まぁ、噂というものはたいてい下らないものだ。弘徽殿女御様に関する噂だって、本当のものなどひとつもないに違いない。」
「そうですよね。」
「だが、桐壺女御様の噂には興味がある。もし、女御様が死産されたという御子が今も生きていたら?」
「女御様は、自分の手元にその御子を置いておきたいでしょうね。」
「ああ。」
「陰陽頭様、今お話ししても宜しいでしょうか?」
二人が話していると、そこへ一人の陰陽生が彼らの元にやって来た。
「すいません、お話し中でしたか・・」
「いや敏明、構わないよ。」
「それでは兄上、失礼いたします。」
「光明、また会おう。」
「はい。」
光利は、部屋から出て行く光明にそっと懐紙を手渡した。
自分の部屋に戻った光明がその懐紙を見ると、そこには光利の字でこう書かれてあった。

『高田敏明に気をつけろ。』

「あの、光明さまと先ほど何を話されていたのですか?」
「ただの下らない噂話だよ。」
「そうですか。」

そう言った敏明の目は笑っていなかった。

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Last updated  2014.09.10 13:35:18
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2014.09.09

「女御様?」

桐壺女御のただならぬ様子に何かを感じた光明は、彼女から一歩あとずさった。

「そなたには、ある者を甦らせて欲しいのじゃ。」
「甦らせるとは・・一体どなたを甦らせて欲しいのですか?」
「それは、主上のお兄君、宏昌様じゃ。」
「宏昌様を甦らせて、どうなさるのです?」
「それはそなたには関係のないことじゃ。そなたは、宏昌様を甦らせればよいのじゃ。」
「それは出来ませぬ。反魂の術は、禁忌中の禁忌。」
「誰にもわからなければよいではないか。」
「そんな・・」
「宏昌様を甦らせれば、そなたにはそれ相応の報酬と、身分を与えよう。」
「本気なのですか、女御様?」
「そなた、わらわが戯言でそなたにこんな事を頼むと思っておるのか?」
そう言った桐壺女御の目は血走っていた。
「わかりました、お引き受けいたします。」
「では、さっそくかかるがよい。」
桐壺女御は、桐の箱からある物を取り出した。
それは、帝の兄・宏昌の遺髪だった。
「これを使え。よいか、宏昌様のことは誰にも知られてはならぬぞ。」
「承知いたしました。」
宏昌の遺髪を受け取り、桐壺女御の局から出た光明は、じっと自分の方を見ている少女の視線に気づいた。
彼女は、先ほど宣耀殿の中庭で見かけた立花家の姫君だった。
「何か、わたしに用か?」
「先ほど、助けていただいて有難うございました。」
美鈴はそう言って光明に頭を下げると、御簾越しに自分が作った勾玉を彼に手渡した。
「これは?」
「幸運のお守りです。」
「大事にしよう。そなた、名は?」
「美鈴と申します。」
「美鈴殿、出会いの記念に、これを受け取って欲しい。」
光明は懐から水晶の腕輪を取り出すと、それを美鈴の掌に載せた。
「厄除けのお守りだ。宮中は禍々しい気に満ちている。水晶は邪悪なものを払うといわれているから、肌身離さず身につけておくように。」
「有難うございます。」

美鈴と別れ、陰陽寮に戻った光明は、懐から桐壺女御から渡された宏昌の遺髪を取り出した。
反魂の術で宏昌を甦らせろと自分に命じた桐壺女御の目的がわからない限り、今は動かないほうがいいだろう。
「光明、ここに居たのか?」
「陰陽頭様・・」
「そんな堅苦しい呼び方をしないでくれ。いつものように兄上と呼んでくれと言ったじゃないか?」
突然部屋に入って来た陰陽頭・安倍光利は、そう言うと弟に向かって優しく微笑んだ。
「兄上、わたしに何かご用ですか?」
「実は、明日弘徽殿女御様のお父君主催の宴に誘われてね。よかったら、お前も一緒に来ないか?」
「わたくしも、ですか?」
「ああ。色々と、お前に相談したいことがあるらしい。」
「そうですか。わかりました、その宴に出席いたします。」

呪詛騒動の渦中に居る弘徽殿の女御の父親が、自分に何を相談したいのか―それを知る為、光明は兄とともに彼が主催する宴に出席することになった。

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Last updated  2014.09.09 11:51:36
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2014.09.08

「ねぇ淡路、宣耀殿について何か噂を聞いていて?」
「そういえば、あそこでは何年か前に、一人の女房が庭の木で首を吊って死んだという噂がありますよ。何でもその女房は、道ならぬ恋に敗れ、夜な夜な男に対して呪詛の言葉を吐きながら彷徨っているとか・・」
「まぁ、怖いわね。お前の話を聞いて、噂が本当なのか確かめてみたくなったわ。」
「いけません、姫様!」
入内した日の夜、美鈴は淡路を連れて宣耀殿の中庭へと向かった。
そこは華やかな後宮の中で一際荒れ果て、すぐにでも女の亡霊が出てきそうな気配がした。
「姫様、お戻りになりませんと・・」
「少し確かめるだけよ。」
「ですが・・」
「何だか陰気な所ね。すぐにでも幽霊が出てきそうだわ。」
美鈴はそう言うと、道ならぬ恋に敗れた女が首を吊ったといわれている木を見た。

ここには、本当に女の霊が彷徨っているのだろうか。

美鈴がそっと木の前に立つと、突然強い風が吹いた。
「姫様、何やら不吉なものの気配がいたします。」
「もう戻りましょう。宮中の噂話なんて、所詮嘘なのね。」
淡路とともに宣耀殿から出ようとした美鈴は、突然何者かに手を掴まれた。
「淡路、何処に居るの!?」
「わたくしはここに居りますよ、姫様。」
淡路は自分の前に立っている。
では、自分の手を掴んでいる者は一体誰なのだろう?

「そなた、ここで何をしておる!」
「きゃぁ!」

背後から突然何者かに肩を叩かれ、美鈴が悲鳴を上げて振り向くと、そこには白の直衣を着て烏帽子を被った男が立っていた。
「驚きました・・女の幽霊がわたくしの手を掴んだのかと・・」
「ここには陰の気が満ちている。迂闊に立ち入ってはならぬ。」
「まぁ、ご忠告有難うございます。」
「そなた、もしや立花家の姫か?」
「ええ、そうですが・・あなた様は?」
「わたしは陰陽寮の安倍光明だ。早くここから出ろ。」
「姫様、早く桐壺に戻りましょう。」
「ええ、わかったわ。」
桐壺に戻った美鈴は、そのまま御帳台の中に入って寝た。
「安倍様、さっき桐壺女御様からの使いで文が届きました。」
「桐壺女御様から?」
「はい。」
桐壺女御からの文を受け取った光明は、その文に目を通すと、そこには衝撃的な事実が書かれていた。
「どうされましたか、光明様?」
「明憲、支度を手伝ってくれ。桐壺に行ってくる。」
「わかりました。」
桐壺に行った光明は、そこで女御と初めて対面した。
「女御様、お初にお目にかかります。光明と申します。」
「そなたが、次期陰陽頭と目される安倍光明か。今宵そなたを呼び出したのは、少し込み入った用があるからじゃ。」
「込み入った用とは?」
「そなたたちは、もう下がるがよい。」
「はい、女御様。」

桐壺女御つきの女房が退出し、光明は女御と二人きりになった。

「これで内緒話が出来るな。」

そう言うと桐壺女御は、口端を歪めて笑った。

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Last updated  2014.09.08 13:40:18
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2014.09.07

「美鈴、遅いわね。」
「あき子様、落ち着かれなさいませ。」
美鈴が先ほど入内したと聞いたあき子は、彼女が弘徽殿にやって来るのを落ち着かない様子で待っていた。
「あき子様、申し上げます。」
「お前は確か、美鈴つきの女房よね?美鈴は一緒なの?」
「姫様は、先ほど桐壺へ移られました。」
「桐壺へ?この弘徽殿ではなく、美鈴は桐壺に行ったというの?」
「はい・・」
「そう、わかったわ。」
あき子は落胆した表情を浮かべると、そのまま自分の部屋に入った。
「あき子様、どうかお気を落とさずに・・」
「わたくし、これくらいのことで気を落としてなんかいないわ。」
あき子はそう言って笑ったが、自分を裏切った美鈴に対して密かに激しい憎しみを抱き始めていた。
「そなたが、あの美鈴姫か。」
桐壺女御・玲子は、そう言うと美鈴を見た。
「初めまして、桐壺女御様。」
「確か、弘徽殿のあき子様とそなたは親しかったのではないか?何故、そなたは弘徽殿ではなく、桐壺に入ると決めたのだ?」
「弘徽殿では、最近妙な噂を聞きましたので・・」
「そうか。弘徽殿は今回の騒動で、色々と疑われておるからな。あき子様と知己の仲であるそなたが弘徽殿ではなく桐壺(ここ)に入ったのは、周りから疑いの目で見られるのを避けようとしたからであろう?」
「はい、そうです。」
「そなたは美しい顔をしているだけではなく、聡い子なのだな。」
桐壺女御は美鈴の言葉を聞くと満足気に笑った。
「梨緒(なしお)、あれを持って参れ。」
「はい、女御様。」
女御の傍に控えていた一人の女房が、美鈴の前に螺鈿細工が施された美しい和琴を出してきた。
「これを、出会いのしるしとしてそなたに授けようぞ。」
「このような高価な物、頂けません。」
「何を遠慮しておる、女御様からの贈り物を受け取るのが礼儀というものですよ。」
女御つきの女房・梨緒は、そう言うと美鈴を睨んだ。
「有難く、頂戴いたします。」
桐壺女御に向かって深く頭を垂れ、美鈴は和琴を受け取った。
「初めての宮仕えで、何かとわからぬことがあろう。梨緒、美鈴に色々と宮中でのしきたりというものを教えてやるように。」
「はい、女御様。」
桐壺女御が部屋から退出した後、梨緒は美鈴の手を突然掴んできた。
「あなた、あき子様と親しいんですってね?」
「ええ、そうですが・・」
「余り弘徽殿の方々と親しくしてはいけないわ。今、呪詛騒動で色々と弘徽殿に疑いの目が向けられていることは、あなたも知っているでしょう?」
「はい・・」
「あと、宣耀殿(せんようでん)の中庭には夜遅くに立ち入らないこと。」
「何故、立ち入ってはいけないのでしょうか?」
「それはね・・」
「梨緒、何処に居る!?」
「そのことは後で話すわ。とにかく、このふたつの言いつけは必ず守ってね!」

梨緒はそう言うと、美鈴に背を向けた。

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Last updated  2014.09.07 13:19:45
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2014.09.06

「姫様、起きてくださいませ。」
「おはよう、せり。」
入内当日の朝、美鈴は女房達に着替えを手伝って貰うと、父と彼の正妻が居る寝殿へと向かった。
「父上、おはようございます。」
「美鈴、昨夜は良く眠れたか?」
「はい。」
「これから宮中で色々と大変な事があるだろうが、頑張るのだぞ。」
「わかりました、父上。」
「美鈴、お家の為に、しっかりと宮中での勤めを果たすのですよ。」
「はい、北の方様。」
出立の時間となり、美鈴は美しい装飾が施された牛車に乗り込んだ。
「おい見ろよ、あれ!」
「立花左大臣の一の姫、美鈴様が入内されるぞ!」
「宮中であんな騒ぎがあっている最中だというのに、よく立花の左大臣は娘を入内させる気になったものだな。」
「この際混乱に乗じて、帝のお気に入りになろうと企んでいるのだろうよ。」
沿道に集まる民たちの声を聞きながら、美鈴は牛車の中で檜扇を握り締めた。
「姫様、民の声などお気になさいませぬよう。」
「ええ、わかっているわ。」
一方、梨壺で皇子の治療に当たっていた薬師は、彼が何者かに毒を盛られていることに気づいた。
「なに、皇子が何者かに毒を盛られただと?」
「はい。弟子の話によりますと、皇子様は唐渡の毒薬を何者かに盛られたようです。」
「だが、あの顔の腫れ具合、毒を盛られただけでは出来まい。」
「光明さまは、毒薬に“特殊なもの”を混ぜているのではないかと・・」
「その“特殊なもの”が何なのかわかったのか?」
「それは現在調査中です。」
「調査が進み次第、余に伝えよ。」
「は・・」
薬師が清涼殿から退出した後、帝は自分の隣に座っている安倍光明を見た。
彼は次期陰陽頭と目されている優秀な青年陰陽師で、梨壺女御の皇子の治療に薬師とともにあたっている。
「光明、今回の騒動をそなたはどう思っているのだ?」
「皇子様を初めてご覧になった時、何者かの強い邪気を感じました。」
「強い邪気というのは、やはり弘徽殿の・・」
「弘徽殿女御様のものではございませんでした。」
「それでは一体誰が皇子を呪ったのだ?」
「それはわたくしにもわかりかねます。」
「そうか・・」
帝はそう言うと、清涼殿の上空を覆う黒雲を見上げた。
皇子が倒れてから、いつしか清涼殿の上空には禍々しい黒雲に覆われ、これは近々災いが起きる凶兆ではないのかと貴族たちが噂をしていることを帝は知っていた。

(一体、これからわたしたちはどうなるのだろう・・)

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Last updated  2014.09.06 20:49:04
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2014.09.05

「あき子様、遅れてしまいまして申し訳ありませんでした。」
「美鈴、あき子様の隣に座りなさい。」
「はい、父上。」
助睦に言われるがまま、美鈴はあき子の隣に腰を下ろした。
「あき子様、突然いらっしゃるなんて思いませんでしたわ。」
「あなた、最近宮中で流れている噂の事を聞いていて?」
「ええ・・」
「梨壺の方に何かあったら、いつもお母様が悪者にされるのよ。悔しいったらありゃしない!」
あき子はそう言って手に持っていた扇を乱暴に閉じた。
「美鈴、あなた入内した後、何処の女御様にお仕えするのか決まっていて?」
「いいえ。」
「ならば、弘徽殿に仕えなさいな。そうすれば、一日中わたくしと一緒に居られるでしょう?」
「考えておきますわ。」
そう言ってあき子を見た美鈴は、彼女から顔をそらした。
美鈴とあき子は歳が近いこともあり、幼い頃から仲良くしていたが、美鈴は最近あき子の高慢な態度が鼻につくようになり、彼女を避けるようになった。
「あき子様、そろそろお戻りになりませんと。」
「ええ、わかったわ。美鈴、今日はあなたと久しぶりに会えて嬉しかったわ。また弘徽殿で会いましょう。」
「あき子様、さようなら。」
傍仕えの女房とともに寝殿から出て行ったあき子の背中を見送った美鈴は、深い溜息を吐いた。
「父上、わたくしの入内は・・」
「呪詛騒動がこのまま収まらぬと、お前の入内話も白紙に戻ることになりそうだ。」
「それでもよいと、わたくしは思っております。」
「馬鹿な事を申すな!」
助睦から突然怒鳴られ、美鈴は恐怖で身体を震わせた。
「父上・・」
「今までそなたを女として育ててきたのは、何の為だと思っているのだ!」
「一体何のお話をされているのですか、父上?」
「済まぬ、わたしとしたことがつい興奮してしまった。美鈴、もう部屋に戻れ。」
「わかりました。」
数日後、美鈴が女房達と碁に興じていると、霧の方が部屋に入って来た。
「北の方様。」
「美鈴、明日お前を入内させることに決まったぞ。喜びなさい。」
「まぁ・・」
「お前達も、明日の為に準備をぬかりなくするように。」
「はい、北の方様。」
梨壺の呪詛騒動が収まらないうちに、美鈴は宮中に入内することになった。
「ねぇせり、何だか妙だとは思わない?梨壺の呪詛騒動が収まるまで、わたくしの入内は延期された筈ではなくて?」
「何故姫様の入内が早まったのか、わたくしにはわかりません。それよりも、明日の為によくお眠りになった方がよろしいかと思います。」
「そうね。おやすみ。」
美鈴が眠った後、寝殿には霧の方と弓の方、助睦が集まり、美鈴の入内について話し合っていた。
「殿、呪詛騒動が収まらぬ宮中にあの子を入内させるなど、正気ですか?」
「これはわたくしと殿が決めたこと。側室であるそなたが口を挟む資格はありませんよ。」
「わたくしはあの子の母親ですよ!」
「そなた、北の方であるわたくしに逆らうつもりか!?」
霧の方がそう言って弓の方を睨みつけると、彼女はさめざめと泣きだした。
「美鈴はこれから魑魅魍魎(ちみもうりょう)が跋扈(ばっこ)する宮中でやっていけるのかしら・・純粋なあの子が、心配でなりませんわ。」
「そなたが心配しなくとも、あの子はしたたかな子だ。母親のそなたに似て、宮中でもうまくやっていけるだろうよ。」

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Last updated  2014.09.05 13:56:29
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2014.09.04
「姫様の入内が遅れるって、本当かしら?」
「何でも、宮中で呪詛騒ぎがあったそうよ。」
「梨壺女御様が御産みになられた皇子が、原因不明の病に陥ったとか・・」
「まぁ、それは大変ね。」
「きっと弘徽殿女御様が帝の寵愛深い梨壺女御様に嫉妬して皇子に呪詛を掛けたのでしょう。」
御簾越しに聞こえる女房達の声を聞きながら、美鈴は御帳台の中で寝返りを打った。
「姫様、起きていらっしゃいますか?」
「ええ。ねぇ、宮中で呪詛騒ぎが起きたって本当なの?」
美鈴の言葉に、彼女に仕えている女房の一人・五十鈴(いすず)が頷いた。
「ええ、弘徽殿女御様が梨壺女御様に嫉妬し、皇子に呪詛を掛けたというのが宮中で流れている噂でございます。」
「弘徽殿女御様って、どんな方なの?」
「今の帝のご正室で、お父君は宮中で権勢を振るっている方です。ですが、今では梨壺女御様が皇子を御産みになられて、梨壺女御様の父君が弘徽殿女御様の父君よりも権力を持っております。」
「どうして自分の娘が皇子を産んだら、宮中で権力を持つの?」
「それは、梨壺女御様が御産みになられた皇子が、将来帝になるからですよ。」
五十鈴の説明に、美鈴は納得したように頷いた。
貴族の娘として、宮中の権力争いについて何度か父親から話を聞き、梨壺女御の父親が外戚として宮中で権勢を振るっていることを美鈴は理解した。
「でも弘徽殿女御様は帝のご正室でしょう?そのご正室を蔑ろにされて、梨壺女御様のお父君は帝の怒りを買わないのかしら?」
「実はここだけの話ですが・・帝は中宮様である梨壺女御様をご正室になさろうとお考えのようでして。」
「まぁ、そんなことをしてはいけないのではなくて?いくらご正室の弘徽殿女御様が、皇子を御産みになっていないからといって・・」
「何を騒いでおるのだ?」
「北の方様・・」
話に夢中になっていて、美鈴達は霧の方が部屋に入ってきたことに気づかなかった。

「北の方様、ご機嫌麗しゅうございます・・」
「そなたの口からそのような堅苦しい挨拶など聞きたくありません。美鈴、そなたの入内が少し延びることになりました。その理由は、お前も知っていますね?」
「はい。梨壺女御様の皇子が、呪詛を掛けられたからでございますね?」
「皇子様のご容態が安定するまで、そなたの入内は暫く延期すると、帝から文が届きました。入内が延びたからといって、安心してはなりませんよ、よいですね?」
「はい・・」
「そなたたちも、いつ入内できてもいいように、支度を調えるように。」
「はい、北の方様。」
霧の方が部屋から出て行った後、女房達は安堵の表情を浮かべた。
「北の方様は、何故こちらにいらしたのでしょうね?」
「さぁ・・」
「美鈴、美鈴はおるか!」
「はい父上、わたくしはここに居ります。」
助睦が何やら慌てふためいた表情を浮かべながら自分の部屋に入って来た美鈴は、訝しげな視線を彼に送った。
「どうなさったのですか?」
「早く支度をしろ、あき子内親王様がお前に会いに来ておられる!」
「まぁ、あき子内親王様が?」
「内親王様を待たせてはならぬぞ!」
助睦はそう美鈴に言うと、部屋から出て行った。
「姫様、早くお召し替えを。」
「わかったわ。」

弘徽殿の女御と帝の一の姫であるあき子内親王の突然の来訪に戸惑いつつ、慌てて身支度を済ませた美鈴は、彼女と父親が待つ寝殿へと向かった。

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Last updated  2014.09.04 13:03:53
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2014.09.03

「ねぇ、お聞きになりまして?」
「立花左大臣の一の姫が、近々入内するというお話なら、聞きましたわ。」

弘徽殿女御の元に仕える女房達は、美鈴の入内について色々と噂話をしていた。

「何でも、一の姫様は天から舞い降りた天女のような美しい方だとか・・」
「あら、それでしたら弘徽殿女御様も負けておりませんわ。」
「まぁ、そうでしょうけれど・・主上(おかみ)の専らのお気に入りは、梨壺にいらっしゃるあの方ではなくて?」
「しっ、声が大きいわよ!」
女房達はそう言って声を潜めると、主が寝ている部屋の方を見た。
幸い、彼女は女房達の話に聞き耳を立てていないようだ。
「それにしても、主上は弘徽殿女御様というお方がいらっしゃるというのに、何故梨壺女御様にご執心なのかしら?」
「あら、それはあなた・・」
「女御様が皇子を御産みになられたから?」
「それもあるけれど、梨壺女御様の御父君が、弘徽殿女御様の評判を落としたいがために色々と宮中に言って回っているのではなくて?」
弘徽殿女御の父と、帝の寵妃である梨壺女御の父は犬猿の仲であり、梨壺女御の父は、政敵である弘徽殿女御の父と娘を宮中から追い出そうとして、あることないことを帝に吹き込んでいるというのが宮中で流れている噂である。
そんな父親の行動を苦々しく思っている梨壺女御は、再三父親に帝に変な事を吹き込むなと注意しているにも関わらず、父親の暴走は止まるどころか加速する一方であった。
その原因は、昨年春に梨壺女御が帝との間に皇子を出産したからだった。
外戚として宮中で権勢を振るうようになった梨壺女御の父は、ますます弘徽殿父娘への嫌がらせをするようになった。
「弘徽殿女御様が御産みになったのは、姫君様ばかり・・」
「せめて、皇子でも産んでくだされば、あんな狸親父に嫌味を言われずに済んだものを・・」
女房達の囁く声を聞きながら、弘徽殿女御は密かに唇を噛んだ。
『睦子よ、何故そなたが産んだ子は姫ばかりなのだ?梨壺女御は皇子を産んだというのに・・一体何のために、お前を入内させたと思っておるのだ!?』
弘徽殿女御・睦子(むつこ)が長い産みの苦しみの果てに授かった娘を抱いた時、父からは出産への祝福の言葉ではなく、男を産めなかった呪詛の言葉を贈られた。
それからというもの、父は何かと梨壺女御と自分を比べるようになり、いつしか彼女の心の中には梨壺女御への激しい憎悪が芽生え始めていた。

(妾にこんな惨めな思いをさせる梨壺女御が産んだ皇子なぞ、死んでしまえばよい・・!)

「咲子(さきこ)、どうしたのだ!?」
「主上、皇子が突然苦しみ始めて・・」
「誰か、薬師を呼べ!」
そう言って皇子を抱き上げた帝は、彼の顔が醜く腫れあがっていることに気づいた。
「これは薬師ではだめだ、陰陽師を呼べ!」
「主上、どうかこの子を御救い下さいませ!」
梨壺女御の皇子が、突然高熱を出して倒れた―その知らせは、瞬く間に宮中に広がった。
「昨夜、梨壺に陰陽師と薬師が呼ばれたそうよ。」
「薬師はともかく、陰陽師が呼ばれるなんて・・もしかして、何者かが呪詛を・・」
「滅多な事を言うものじゃないわよ!」
「どうした、何を騒いでおる?」
「女御様・・」
弘徽殿女御がそう言って女房達を見ると、彼女達は一斉に俯いた。
「何かあったのか?」
「昨夜、梨壺女御様の皇子が、高熱を出しました。噂によると、何者かに強力な呪詛を掛けられたとか・・」
「そうか・・」

(妾が、昨夜あんな事を願ったから・・)

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Last updated  2014.09.03 21:28:33
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2014.09.02
月明かりの下、立花左大臣家の一の姫・美鈴は自分の部屋で今日も琴を弾いていた。

「姫様、もうお休みになられませんと。」
「わかっているわ。」
乳母であるせりからそうたしなめられ、美鈴は琴を片付け御帳台の中に入った。
同じ頃、宮中では美鈴の父・立花助睦(たちばなのすけむつ)が管弦の宴に出ていた。
「助睦よ、余の元へ参れ。」
「はい、主上。」
この国を治める帝・光明に呼ばれた助睦が彼の元へと向かうと、帝の隣には彼の妃である弘徽殿女御が座っていた。
「女御様、お久しぶりでございます。」
「助睦、そなたの娘のことを妾も聞いたぞ。そなたの娘は空から舞い降りた天女のごとき美しき女子であるとか・・」
「めっそうにもございませぬ、女御様。」
「助睦よ、主上はそなたの娘の話を聞いて、娘に会いたいと言ってきかないのじゃ。」
女御の話を聞いていた助睦は、彼女が美鈴を入内させろと遠回しに自分に対して命じていることに気づいた。
「女御様、娘の入内について、すぐにお返事をするわけには参りませぬ。これは、わたくしだけでの問題ではございませんので・・」
「そうか。助睦、そなたは話がわかって助かる。」
弘徽殿女御は、花がほころぶかのような笑みを助睦に浮かべると、空になった彼の盃に酒を注いだ。
「お帰りなさいませ、お館様。」
「美鈴は起きているか?」
「姫様なら、先ほどお休みになられました。」
「そうか・・」
宮中から戻って来た主の顔が優れないことに気づいたせりは、宮中で何かあったのだと勘でわかった。
「あなた、お帰りなさいませ。」
寝殿で夫を出迎えた助睦の正妻・霧の方は、夫の顔が曇っていることに気づいた。
「あなた、宮中で何かありましたの?」
「ああ。実は・・」
助睦が妻に宴で弘徽殿女御から言われたことをそのまま話すと、彼女の顔は苦悩に満ちた助睦の顔とは対照的に、喜びに輝いていた。
「まぁ、それは大変名誉なことではありませぬか。」
「お前、美鈴が男であることを知っていて、そんなことを申しておるのか?」
「ええ。あの子が漸くこの家の為に役に立つときが来たのです、断る必要などありません。」
「お前は、美鈴に相変わらず冷たいのだな。」
「誰が好きこのんで、側室(あの女)の子であるあの子を、正妻であるわたくしが愛せることができましょう?」
霧の方は冷たい目で夫を睨みつけると、そのまま寝殿から出て行った。
「北の方様、先ほどのお言葉はあまりにもひどすぎるのではありませんか?」
「わたくしは本当の事をあの方に言っただけです。」
北の対屋にある自室に戻った霧の方は、そう言うと側室である美鈴の実母・弓の方が住んでいる東の対屋を見た。
「弓の方様、お館様がお見えです。」
「まぁ助睦様、こんな夜遅くにどうなさいました?」
「弓の方よ、これからわたしの話を落ち着いて聞いてはくれまいか?」
助睦は、側室の弓の方にも美鈴が近々入内することを告げた。
「あの子が入内するとは・・それで、霧の方様は何とおっしゃっておられるのですか?」
「霧の方は、あの子が入内することを喜んでいる。」
「まぁ・・わたくしの子を、あの方はこの家から早く追い出したくて堪らないのですね。」

弓の方はそう言うと、袖口で涙を拭った。

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Last updated  2014.09.02 19:07:12
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