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JEWEL

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連載小説:紅蓮の涙~鬼姫物語~

2012年02月28日
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「ねぇ、あの人達、わたし達に協力してくれるかしら?」

凛は女中が煎茶とともに持ってきた茶菓子を口に放り込みながら、許婚である金髪の男を見た。

「さぁ、どうでしょうかね。彼らは彼らなりに我々を出し抜こうとするかもしれませんよ。その時は、どうするおつもりです?」
「決まってるじゃない、2人とも血祭りに上げてやるわ。」
凛はそう言って笑った。
「彼らとあなたとのご関係は詳しく知りませんが、その口ぶりからすると、長いお付き合いのようですね?」
「まぁね。話せば長くなるわ。お前が生まれるずぅっと前から、あの2人とは色々とあってね。」
凛の脳裏に、紅蓮の炎に焼かれた村の光景が浮かんだ。
暴虐の限りを尽くし、村を焼き払った時のあの快感は、何百年経っても忘れることが出来ない。
「あの頃は、楽しかったわ・・今でも、色々と楽しいけれどね。」
「お嬢様、お客様がいらっしゃられましたけど、いかがなさいますか?」
襖越しに女中が躊躇いがちに主に声をかけた。
「お客様?どなたかしら?」
「銀髪に紅い瞳をした、綺麗な男の方ですが・・」
「通して頂戴。」
暫くすると、鬼神―己を惟と名乗っている―が現れた。
「久しぶりよのぅ、凛。その顔だと、また悪知恵を働かせておるのか?」
「あらぁ、あなたも同じの事を考えているんじゃなくて?そうそう、紹介するわ、こちらはわたしの許婚で、榊様とおっしゃるのよ。」
凛は優雅に右手を聖人の方に向けた。
「初めまして。どうやらあなたも、凛さんとは長い付き合いのようですね。」
「凛、この男気に入ったぞ。人間でも卑しい俗物以外の者がおったとは・・長い間生きていてこのような奴に会うたのは初めてじゃ。」
真紅の瞳を煌めかせ、鬼神はじぃっと聖人を見た。
「気に入ってくれてよかったわぁ。だってあなたが気に入らないと、わたし達の計画が台無しになってしまうもの。」
凛はけたたましく笑いながら、鬼神を見た。
「計画とな?もしやあの鬼姫を我が花嫁に迎える計画か?」
「まったく、自分の事しか考えていないのは相変わらずねぇ。あなたとわたしにとって一石二鳥の計画を、さっき思いついたのよ。」
「ほう?詳しく聞かせて貰おうか?」
鬼神はそう言って凛を見た。
その頃、新撰組屯所では、美津と四郎に土方の雷が落とされていた。
「一体何処行ってやがった!?脱走を企てたんじゃねぇだろうな!?」
「いいえ、決してそのような事は考えておりません。皆さまにご迷惑をおかけし、大変申し訳なく思っております。」
美津は土方に向かって頭を下げた。
「土方さん、いいじゃないですか、2人とも戻って来たんですし。それにあんまり怒ると、皺が増えますよ。」
土方の隣に座っていた沖田がそう言って笑った。
「今回は許してやる。だが、二度目はねぇと思え!」
土方は眉間に皺を寄せ、不機嫌そうにそう怒鳴ると、乱暴に襖をピシャリと閉めて副長室を出て行った。
「土方さんたら、最近カッカッし過ぎですよ。放っておくと血圧上がってしまうかもしれないなぁ・・ねぇ、あなた方もそう思うでしょう?」
にこにこ笑いながら沖田はそう言って美津と四郎を見た。
「今まで何処に行ってらしたんです?まさか、長州の者と会っていたわけではないですよね?」
「実は・・」
四郎は沖田の耳元で何かを囁いた。
「成程、そうですか・・有力な情報を得ましたよ、ありがとう。」
真顔で沖田は四郎に礼を言い、副長室を出て行った。
「土方さん、待ってくださいよぉ~!」
「何だ総司、俺は今忙しいんだ、後にしてくれ。」
不機嫌そうな顔をした土方は、そう言って弟分を見た。
「先ほど、有力な情報を得たんですよ。話だけでも聞いてくださいます?」
「・・あそこの店で詳しく聞かせろ。」

土方と沖田は近くの飲み屋へと入って行った。






最終更新日  2012年04月01日 22時24分53秒
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「姫様っ!」

美津を人質に取られた四郎は、抜刀した。

「刀をお捨てなさい、さもないとあなたの愛しい人が死ぬことになりますよ。」
聖人は美津の首筋に刃を突き立てながら、冷静な口調で言った。
「貴様たちは一体何を企んでいる!」
「そんなに怒ることないでしょ、四郎?わたし達はただ退屈を紛らわしたいだけなのよ。」
凛は笑みを浮かべながら2人の様子を見ていた。
「少しお話ししましょうか?あなたが刀を捨ててからね。」
「信用できん、刀を捨てたら不意打ちする気だろう?」
「そんな卑怯な真似はしませんよ。まぁ、それもあなた次第ですが。」
聖人の浅葱色の瞳が、残忍な輝きを放ちながら美津を見た。
「わたしに何をさせるつもりだ、貴様ら。」
「やっと聞いてくれたわね、肝心なこと。じゃあ教えてあげるわ、お前がすべき事を。」
凛はけたたましく笑いながら四郎へと駆け寄り、彼の耳元で何かを囁いた。
「わたしに・・汚れ仕事をしろというのか?姫様の命を盾に取り姫様を裏切るように命じて、今度は汚れ仕事をしろと・・貴様らは人の心など持っていない、貴様らは鬼だ!」
四郎はそう叫ぶと、聖人と凛を交互に睨みつけた。
「何とでも言いなさいな。ここでわたしたちの要求を呑んだ方がお前の為よ。お前の大好きな姫様が酷い目に遭わないように済むにはね。」
凛は四郎に顔を近づけ、黄金色の瞳で彼の顔をじっと覗きこんだ。
「さあ、どうするの?今すぐわたしたちに協力すると言うのなら、あなたの大好きな姫様は解放してあげる。それと反対のことを言うのなら、お前と姫様を今すぐ八つ裂きにして野良犬の餌にでもしようかしら?」
四郎は首筋に刃を突き立てられている美津と目が合った。
(彼らに協力しちゃだめ、四郎・・すればあなたはあいつらと同じになってしまう・・)
四郎は暫く美津を見ていたが、凛の方へと向き直った。
「わたしは何をすればいい?」
「賢いわねぇ、お前って。惚れ直したわ。」
凛は四郎にしなだれかかり、美津に向かって勝ち誇ったような笑みを浮かべた。
「聖人、姫様を離してあげて。もう話は済んだから。」
「わかりました。」
聖人はそう言って乱暴に美津の背中を押した。
「姫様っ!」
畳の上に倒れそうになるところを、四郎が寸でのところで抱き留めた。
「わたし達に逆らわない方が身のためよ、お二人さん?もし逆らったら、どうなるかわかるわよね?」
「お前には負けるものか、どんなことがあっても!」
美津はキッと凛を睨みつけながら叫んだ。
「随分と強気ねぇ。昔からあなたは気高くて、凛としていたわよね・・それは今になっても変わってないのね。でもそんな強気な態度がいつまで続くかしら?」
凛は顔を醜く歪ませて大声で笑い始めた。
鬼女の高笑いを見ながら、美津と四郎は彼女に対する激しい怒りを感じていた。
「じゃあ、またね。」
凛の家を出た美津と四郎は、黙って歩いた。
「ねぇ四郎、あなたはあの人達なんかに協力しないわよね?あの女の手先なんかにならないわよね?」
「勿論です。いつか必ず家族の仇を取ってみせます。その日までわたしはあの女には従う気はありません。」
「その言葉が聴きたかったの。」
美津はそう言って四郎に頬笑み、彼の手を繋ごうと自分の手を伸ばした。
「決して姫様のお傍を離れません。死があなたとわたしを分かつまで。」
「約束よ、四郎。わたし、お前の事を信じているから。」

自分に微笑んだ美津の顔は、あの高笑いをしていた狂った鬼女の醜い顔とは違い、天女のような神々しさと美しさに満ちていた。






最終更新日  2012年04月01日 22時23分34秒
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「あらあら、お前は怨霊にまで好かれるのねぇ。」

ゆらゆらと四郎の方へと迫りくる白装束の女を見ながら、凛は呑気にそう言って笑った。

“やっと見つけたぞ、お前様。わちきとともに参りましょう・・”

白装束の女はゾッとするような笑みを浮かべ、青白い手を四郎の頬へと伸ばした。
「わたしに触れるな。」
四郎は女に向かって抜刀し、彼女の胸に白刃を突き刺した。
女の笑顔が醜く歪み、部屋中に断末魔の叫び声が響いた。
耳を聾(ろう)するほどの叫び声に、思わず美津は両耳を塞いで目を閉じた。
「あなたの従者はどうやら怨霊とは縁がないようですね、残念です。」
彼女の隣で聖人が冷静な口調でそう言って溜息を吐いた。

“酷い、お前様・・長年連れ添ったわきちよりも、その小娘を選ぶかえ・・”

袖口で両の目から流れる涙を拭いながら、白装束の女は美津を睨んだ。

“あんなに愛し合ったというのに・・わきちよりもこのみずぼらしい小娘を選ぶとは、許さぬ!”

怒りで醜く顔を歪ませた白装束の女はそう叫ぶと、鋭い爪で美津を引き裂こうと彼女に飛びかかって来た。
美津は咄嗟に両腕で顔を守り、目を瞑った。
再び部屋に断末魔の叫び声が響いた。
「姫様に害をなすものは誰であろうと許さぬ。怨霊であれば、尚更だ。」
四郎は白装束の女を睨みながら、彼女に止めの一撃を加えた。
彼女は白装束を真紅に染めながら、消えていった。
「四郎、彼女は?」
「消えましたが・・完全にというわけでもなさそうです。それよりも姫様、お怪我はありませんか?」
刀を鞘に納め、四郎は美津に振り向きながら言った。
「ええ、わたしは大丈夫よ。お前は?」
「わたしは大丈夫です、姫様。」
「四郎・・」
自分を裏切っても、自分に優しい従者を見て、美津は嬉しくて涙が出そうになった。
「あなたを裏切ったつもりで裏切ったのではありません。あの女が、姫様の命と引き換えに倒幕派の仕事を手伝わせようとしたのです。嘘ではありません。」
そう言った四郎の瞳は、あの頃と同じように美しく澄んでいた。
「お前の事を信じるわ、四郎。お前はわたしを本当に裏切ることなんかできない、いいえ、お前はいつもわたしを・・」
「2人だけの世界は其処までにしたら?観客の立場であるわたしたちはいい加減うんざりだわ。」
凛は背中から何かを取り出しながら、美津と四郎を交互に睨んだ。
「四郎、お前は昔から鬼姫様ばかり見ているのねぇ・・エーリッヒもそうだったわ、あいつを拾ってやったのに、最後はわたしを裏切った・・裏切り者には此処で死んで貰うしかないわねv」
凛はけたたましく笑いながら、白刃を煌めかせて美津と四郎に躍りかかった。
「お止しなさい。」
鈍い金属音がして、聖人が凛と2人との間に割って入った。
「邪魔しないでくれる?今からその2人をなぶり殺しにしたい気分なのに。」
狂気で輝いた瞳をぎらつかせながら、凛は聖人を睨んだ。
「計画をお忘れですか?」
凛にしか聞こえないような声で、聖人はそう呟いて彼女を見た。
彼女は舌打ちして日本刀を下ろした。
「助けてくれて、ありがとう。わたし達はもう行くわ。帰るわよ、四郎。」
「はい、姫様。」
2人が襖を開けようとすると、聖人が美津の黒髪を鷲掴みし、自分の方へと引き寄せた。

「あなた方を、このまま帰すわけにはいきませんよ。」

そう言った彼の瞳には、凛と同じ狂気の光が宿っていた。






最終更新日  2012年04月01日 22時17分05秒
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「本当に、四郎に会わせてくれるの?」

美津はそう言って、自分の前を歩く青年を見た。

「ええ、勿論ですよ。」
青年―榊聖人は天使のような微笑を美津に浮かべた。
「あなたは昔から、あの人を追い続けて旅をしていたのですね?」
「ええ、そうだけど・・あなたとは何か関係があるの?」
「少し興味がありまして。何故そんなに彼女の事を追い続けられるのかと。」
聖人の浅葱色の瞳は、好奇心で輝いている。
「あの女は・・凛は、わたしの憎い仇だからよ。わたしはあの女に、国と両親を奪われた・・」
美津の脳裏に、国と両親を失ったあの夜の事が浮かんだ。
燃え盛る城の前で、嬉しそうに笑う凛。
炎の中で煌めく禍々しい黄金色の瞳を、今まで忘れたことはなかった。
自分の大切なものを全て奪っていった憎い仇。
彼女を倒すまでは、逃がしはしない。
「そこまでして憎いんですね、彼女の事が。許嫁の僕から言わせていただきますと、彼女はあなたが思っているほど酷い女じゃないですよ。」
聖人はそう言って美津を見た。
「あなたは何も知らない癖に。あの女が、わたし達をどれ程苦しめてきたかを・・」
言葉の端々に凛への憎しみを滲ませ、美津は聖人にそっぽを向いた。
凛の“家”に着くまで、2人は一言も口を利かなかった。
暫く歩いて行くと、武家屋敷が建ち並ぶ通りに出た。
その中に、凛の“家”はあった。
「ここですよ。」
彼女の“家”は、昔彼女が住んでいたものよりも少し小さく見えた。
邸の中へと聖人ともに入ると、提灯を持った女中達が2人を恭しく出迎えた。
「お待ちしておりました。お嬢様は奥のお部屋でお待ちになっておられます。」
女中の案内で長い廊下の奥へと歩いてゆくと、突然視線を感じて美津は中庭の方を見た。
中庭には、白装束姿の女が立っていた。
髪は乱れ、紅い櫛しか挿しておらず、その美しい黒い双眸の下には黒い隈に縁取られ、生気を感じさせなかった。
女はじぃっと美津を見ていた。
何かを訴えたいかのように。
(あなたは誰?)
「どうかされましたか?」
「いいえ、何でもないわ。」
そう言って女から慌てて目を逸らすと、突然首筋に生温かい息がかかった。
「もしかして、見たんですか?あの女を。」
聖人は誰もいない中庭を見ながら、浅葱色の瞳を光らせた。
「あなた、彼女を知っているの?」
「ええ、少しは。あまりあの女と目を合わせてはいけませんよ、厄介な事になりますから。」
「・・わかったわ。」
背中に感じたゾクッとした感覚を振り払うかのように、美津は両手で両頬を叩き、女中の後を慌てて追った。
「お嬢様、お客様がお着きになられました。」
「お客様に入って頂きなさい。」
凛の涼やかな声が襖の向こうから聞こえた。
女中が襖を開くと、そこには凛と四郎がいた。
「お久しぶりね、鬼姫様。」
凛は嫣然とした笑みを浮かべて美津を見た。
「四郎、どうしてわたしを裏切ったの?」
「申し訳ありませんでした、姫様。姫様の命を救う為に、わたしは・・」
「言い訳はいいわ、理由をちゃんと話して頂戴。わたしはまだお前を信じているの!だからちゃんと説明して・・」
美津がそう言って四郎に詰め寄った時、閉じていた襖が突風によって急に開いた。
先ほど彼女が中庭で見かけた白装束の女が、じっと彼女と四郎を見ていた。

“やっと見つけたぞ・・”






最終更新日  2012年04月01日 22時16分37秒
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「あなた、誰・・?」

美津はゆっくり顔を上げて、目の前に立っている青年を見つめた。
浅葱色の瞳で、青年は無言で彼女を見つめ返した。
「あなたが噂の、鬼姫ですね。」
青年はそう言って美津にニッコリと微笑んだ。
「あなた、どうしてわたしのことを知っているの?一体何者?」
美津は直ぐに攻撃できるように身構えた。
「そんなに警戒なさらないでください。」
青年はゆっくりと、美津の方へ近づいてきた。
「来ないで!それ以上来たら刺すわよ!」
護身用の懐剣の鞘を抜き、美津はその刃先を青年に突き付けた。
「わたしは敵ではありませんよ。」
青年は向けられた刃に臆することなく美津を抱き締めた。
それは余りにも突然の出来事で、美津は青年の腕の中で目を丸くした。
「あなたには剣は似合わない。剣を下ろして下さい。」
青年は美津の耳元で優しくそう囁きながら、彼女の手から懐剣を抜き取った。
暫くぼうっとしていた美津は、持っていた懐剣がないことに気づき、青年から慌てて離れた。
「あなた、何時の間に・・」
「言ったでしょう、あなたには剣は似合わないと。」
飄々とした口調で青年は懐剣を見つめながら言った。
「あなた、何者?その瞳の色だと、異人との混血かしら?」
「鋭いですね。あなたにもいらっしゃいますものね、異人さんとの混血が。」
(エーリッヒの事を知っている、この男・・)
美津の脳裏に、憎らしい仇の姿が浮かんだ。
この青年は敵だ。
「あなた、あの子に連れられてここに来たんでしょう?」
「あの子?誰のことですか?」
「とぼけないで。わたし、あの女のやり方は知っているんだから。」
言葉の端々に憎しみを滲ませながら、美津は吐き捨てるかのような口調で言った。
「あの女?存じ上げませんね。」
警戒心を露わにした美津を前に、青年は爽やかな口調でそう言って、彼女の肩に手を置いた。
「気安くわたしに触らないでっ!」
金切り声を上げ、自分の手を邪険に払い除ける少女の姿は、まるで自分の縄張りを侵されて威嚇している猫のように青年は見えた。
その姿を見て、彼は少女に恋に落ちてしまった。
「今日はあなたと、あなたの従者についてお話に来たのです。」
「四郎に?あなた、四郎と会ったの?」
自分を睨みつけている少女の黒曜石のような美しい瞳が微かに輝くのを、見逃しはしなかった。
「彼はあなたのことを恋しがっていましたよ。何故、あなたを裏切ってしまったのかと、激しく後悔している様子でした。」
「本当に?」
「ええ、本当ですよ。今から彼に会いに行きましょうか?」
差し出された手を、少女は何の躊躇いもなく握った。
自分を見上げる黒い瞳からは、先ほど見せた攻撃的な光は宿っていなかった。
彼女をあの男に渡したくないと、この瞬間思った。
四郎の裏切りを知り、塞ぎ込んでしまった美津を心配したエーリッヒは、彼女の部屋へと向かった。
「姫様、いらっしゃいますか?」
襖越しに声をかけたが、返事はない。
そうっと襖を開けると、そこには彼女の姿はなかった。
(姫様、一体何処に・・)
屯所中を探したが、美津の姿は何処にもない。
諦めて部屋に戻ろうとした時、井戸で何かが光っていた。
光っていたものを拾い上げると、それは美津が護身用に携帯している懐剣だった。

(姫様・・)

エーリッヒは、妙な胸騒ぎを感じながら、部屋へと戻った。






最終更新日  2012年04月01日 22時16分01秒
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「お父様、お話って何?」

凛が部屋に入ると、“父親”の隣に美しい青年が立っていた。

「凛、紹介しよう。お前の許嫁の、榊聖人さんだ。」
「許嫁?わたしの?」
凛は黄金色の瞳でじっと青年を見た。
「お前、綺麗な瞳をしているわね。人間なの?」
「ええ、人間ですよ。あなたは?」
青年はそう言って凛に微笑んだ。
「・・面白いわね、お前。気に入ったわ。」
凛は鈴を転がすような声で笑った。
「お父上からあなたがある男をここに連れてきたというお話を聞いたのですが、彼に会えますか?」
「ええ、会わせてあげるわ。」
凛は青年の手を掴んで、部屋から出て行った。
一方四郎は凛に与えられた部屋で溜息を吐きながら空に浮かぶ紅い月を見ていた。
(姫様・・)
紅い月を見ると、美津と過ごした昔の、穏やかな日々を思い出す。
身分の違いはあれども、戦など知らずに幸せに生きていた頃の事を。
あの時自分には愛する家族がいたが、今はもういない。
それは美津も同じことだ。
彼女はあの日、自分の国と両親を失った。
あの女―黄金色の瞳をした鬼姫が、彼らから全てを奪い取っていった。
家族、友人・・自分達にとってかけがえのない全てを、あの鬼姫は己の手の中で粉々に砕いて壊してしまった。
決してあの女を許さないと決めたのに、自分は彼女の元で働かざるおえなかった。
今頃美津は、自分を想って泣いているのだろうか。
(姫様、申し訳ありません・・わたしは・・)
今からでも遅くはない。
美津の元へ帰ろう。
ゆっくりと立ち上がり、部屋を出ようとした時、襖が開いて凛と見慣れぬ顔の青年が立っていた。
「四郎、紹介するわね。わたしの許嫁の、榊聖人さんよ。榊さん、こちらがわたしが連れてきた四郎よ。」
「君が、凛さんが連れてきたっていう・・」
青年はそう言ってじろじろと四郎を見た。
「わたしの顔に、何かついていますか?」
「・・いいえ。ただ、あなた綺麗な顔をしているなぁと思って。」
浅葱色の瞳を好奇心で煌めかせながら、青年は四郎を見つめた。
「さてと、行きましょうか。」
「何処へだ?」
「決まっているじゃない、あなたの愛しい鬼姫様のところよ。」
凛は口端を上げて笑いながら、少し青ざめている四郎を愉快そうに見た。
屯所の隊士部屋では、美津が頭から布団を被って声を押し殺して泣いていた。
あの時からいつも傍に居てくれた従者の突然の裏切りは、美津に計り知れない衝撃を与えた。
(四郎・・どうして・・どうしてわたしを裏切ったの?どうしてあんな奴の元に・・)
どんなに泣いても、胸にぽっかりと空いた大きな穴はいつまで経っても塞ぐことはできなかった。
泣き腫らした目を冷やす為に、美津は部屋を出て井戸へと向かった。
空を見上げると、紅い月が浮かんでいた。
あの日―国と両親を失い、四郎とエーリッヒとともに長い旅を始めたあの夜空に浮かんでいたのと、同じ月が。
(四郎・・)
愛しい人の事を思い出し、また目頭が熱くなった。
慌てて井戸で汲んだ水で顔を洗う。

「何を泣いているのですか?」

凛とした声がして、美津はゆっくりと顔を上げた。
目の前には、天使のような美しい青年が立っていた。






最終更新日  2012年04月01日 22時15分26秒
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「ん・・」

美津は黒曜石のような瞳をゆっくりと開いた。

「姫様、目を覚まされたのですね!」
隣でエーリッヒが歓喜に満ちた表情を浮かべながら、彼女の手を握った。
「わたし・・どうしたの?」
「敵に胸を撃たれて・・わたくしとしたことが、申し訳ありません・・」
エーリッヒはそう言って俯いた。
美津は目で愛しい男の姿を探した。
だがいつも自分の傍に居る彼の姿は、何処にもない。
「ねぇ、四郎は何処?何処に居るの?」
「姫様、実は・・」
エーリッヒは懐から四郎の文を取り出し、美津に渡した。
美津は文を読み始めた。
読み進める毎に彼女の顔が蒼白になる。
「そんな・・嘘でしょう・・」
悲痛な叫び声を上げながら美津が投げ出した文には、こう書かれてあった。

“姫様、わたしはあなた様のお命を救う為に、あなた様を裏切るしかありませんでした。わたしは弱い人間です。わたしのことはどうぞ忘れてください。
あなた様との思い出を胸に、わたしはあなた様の元を去ります。
どうぞ、お元気で 四郎“

(四郎が・・わたしを裏切ったなんて、嘘よ・・)
美津にとって四郎の裏切りは、信じ難いことだった。
いつも自分の傍に居て、自分の事を守ってくれた四郎。
これまで何度か辛い目に遭ってきたが、四郎がいつも慰め、励ましてくれた。
だが、もう彼は自分の傍に居ない。
彼は彼女の元へと行ってしまった。
「四郎、戻って来てよ・・」
美津は小さな声で呟くと、四郎の文を握り締めて嗚咽した。
襖越しに、エーリッヒはその声を悲痛な表情を浮かべて聞いていた。
「元気ないわね、どうしたの?」
一方、四郎は凛の“家”で食事を取らずに部屋の隅に座ったまま、美津の事を考えていた。
「・・いいえ、何も。」
「またあの鬼姫様の事を考えているんでしょう?お前はいつも、鬼姫様のことが大事だものね。」
凛はそう言って溜息を吐いた。
「どうしてお前はあの女のことばかり考えてられるのかしら?どうして一度もわたしの事を見てくれないのかしら?」
「あなたのことが、嫌いだからです。」
四郎は凛と同じ空気を吸いたくないと言わんばかりに、部屋を出て行った。
「つれないわねぇ・・ま、その方がいいけどね。」
凛は口端に笑みを浮かべて四郎が手をつけなかった食事を食べ始めた。
「凛は何処に居る?」
「お嬢様でしたら、先ほどあの者の部屋に向かわれたままですが・・」
「今すぐあいつを呼んで来い。」
「かしこまりました。」
男はそう言って溜息を吐いた。
「何かと気苦労が多いようですね。」
凛とした声が室内に心地よく響き、男は部屋に入って来た青年を見た。
日本人にしては珍しい金色の髪を丁髷に結いあげ、色素が薄い浅葱色の瞳をした青年は、人の良さそうな笑みを浮かべて男を見つめた。
「凛は我儘でな・・躾けるのが大変だ。」
「そういえば、この前彼女が幕府側から槍の遣い手をこちらに連れてきたとかで、我々の間では彼女の話は事欠きませんよ。」
「・・褒められたものではないな、それは。」
「わたしは周りの噂など気にはしませんよ。」
青年はそう言って再び男に微笑んだ。
「あんな娘を押しつけられて迷惑だと思っていないか、聖人?」
「いいえ、ちっとも。それよりも、会ってみたい者ですねぇ、お嬢様が連れ来られた殿方を。」

青年の浅葱色の瞳が、きらりと光った。






最終更新日  2012年04月01日 22時14分55秒
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「お前は、確か・・新撰組の・・」

男はそう言って、四郎をじっと見つめた。
男の顔には見覚えがあった。

上洛する半月ほど前、一度江戸の町中で会ったことがあった。
その時、四郎は昼食を取るために、行きつけの蕎麦屋に入ったのだ。
蕎麦屋は昼時とあってか、非常に混雑していた。
四郎は店員に蕎麦を注文し、それが来るのを茶を飲みながら待った。
その時、いかにも武家風の男と町人風の男が、突然激しい喧嘩を始めた。
「何だと貴様、もう一度言うてみよ!」
「へんだ、何度でも言ってやらぁ!おめぇの腰にぶら下げてるもんはどうせ飾りなんだろ、お侍さんよ!」
四郎は2人の様子を何事かと窺っていた。
「どうしたんですか?」
周囲の客に聞いてみると、
「それがねぇ、お侍さんがあちらの男にぶつかってきたんですよ。男は謝れと言ったけどお侍は頑固にも謝ろうとしないんですよぉ。」
という答えが返ってきた。
見て見ぬふりをするか、町人の男に加勢しようかと思いながら蕎麦を待っていた四郎が2人の元へと行こうとした時、背後から声がした。
「2人とも、周りの者に迷惑であろう、控えよ。」
何とも傲岸な口調で壮年の侍が急に立ち上がり、2人の元へとやって来たのだ。
「うるせぇや、お前さんには関係ないだろ、引っこんでろ!」
「そうはいかぬ。大体つまらぬことで何を意地の張り合いをしておるのだ?見苦しいにもほどがあろう。」
壮年の侍に一喝された2人はそそくさと店を出て行った。
「お見事でしたな、さっきのお言葉は。」
四郎はそう言って壮年の侍を見た。
「拙者は当たり前のことをしただけのこと。」
彼は茶を飲み、颯爽と店を出て行った。
あんなに颯爽とした侍には二度と会うことはあるまいと、四郎はその時思ったのだが・・
「あら、彼を知っているの、父様?」
四郎と男が顔見知りであることに気付いた凛が、そう言って“父親”を見た。
「まぁな。凛、お前は向こうへ行っておれ。」
「わかったわ。」
凛はチラリと四郎と父親の方を見ると、部屋を出て行った。
「あなたは、あの時の・・」
「久しいな。済まぬが、そなたには何かと我々に協力してもらう。」
「あなたは一体何をしようとしているのですか?」
「それは知らぬ方がよいかもしれん。そなたの安全にとってはな。」
男の言葉を聞いた四郎は、背筋に悪寒が走るのを感じた。
半月ぶりに会った男の顔は厳めしく、何かが彼の心に棲んでいるような感じがした。
「そなたはあの鬼姫の従者と娘に聞いたが、まことか?」
「はい。それとこの事とはどう関係が・・」
「そなたには関係のないことよ。」
男はそう言って四郎を睨んだ。
「そなたはここで我々に黙って協力すればさえよいのだ。そうすれば鬼姫の命は助けてやろう。話は以上だ。」
有無を言わさぬ口調で四郎を再び睨みつけた男は、静かに部屋から出て行った。
(一体何がどうなっているのだろう・・)
男の正体がわからない四郎は、男の言葉を聞いてますます混乱した。
彼が一体何をしているのか、知らなければならない。
そうしないと自分の身が危ないかもしれない。
巨大な蜘蛛の糸に絡め取られる前に、四郎は自分がここですべき事を考え始めた。
机に筆と硯が置いてあるのを見つけた四郎は、その前に座り、美津への手紙を書き始めた。
たちまち白い紙は、美津への愛の言葉で埋まった。
書き終えた手紙を四郎は懐へとしまった。

(姫様、あなたへの想いは嘘ではありませぬ・・)

その頃屯所では、胸に銃弾を受けた美津が意識を取り戻し、ゆっくりと目を開けようとしていた。







最終更新日  2012年04月01日 22時14分17秒
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「善は急げだわ。早速うちへ来て頂戴。話はそれからよ。」
凛はそう言って鬼姫の忠実な飼い犬を見た。
「姫様を人質に取るつもりか?」
「そんなこと、しないわよ。あなただけに用があるんだもの。」
「姫様を置いてゆく訳には・・」
「あら、こんな状況でもご主人様のことを心配しているの?大した忠犬ぶりだこと。」
凛は馬鹿にしたように口元を少し歪ませて笑みを浮かべた。
四郎は美津を裏切って彼女の命を取るか、美津への忠義心を捨てるかで、葛藤していた。
農民の出である自分に対して城内で唯一温かく接してくれたのは、美津だけだった。
自分は彼女の為なら命を捨てる覚悟もできていた。その気持ちは何時でも変わらなかった。
しかし、こんな状況に陥るなんて思いもしなかった。
自分は悪魔に魅入られてしまったのだ。
「さぁ、来るの?来ないの?大事なご主人様の命を危険に晒していいのかしらねぇ?」
からかう様な凛の声が、四郎の神経を逆撫でする。
「・・わかった・・」
四郎は歯軋りしながら、美津の身体を縁側に下ろした。
「四郎、何処へ行く?」
「・・すまない・・わたしは・・」
今はエーリッヒの顔がまともに見られなかった。
彼がどんな表情を浮かべているのがわかるから。
「お前・・姫様を裏切る気か?」
「こうするしかないんだ・・こうするしか。」
「お前に裏切られたことを知った姫様は、悲しむぞ。それでもいいっていうのか!?」
自分を行かせまいと自分の腕を掴んでいるエーリッヒの腕を、四郎はそっと離した。
「姫様を、頼む。」
そう言ってエーリッヒに背を向け、凛の方へと歩き出した。
「意外とあっさりしてるのね?」
黄金色の瞳を光らせながら、悪魔は自分を見た。
「お前の父親のもとへ連れて行け、話はそれからだ。」
「ええ。」
悪魔は手に持っていた提灯を持ち、屯所を出て行った。
名残惜しそうに縁側の方を振り返ると、そこには悲痛な表情を浮かべたエーリッヒが茫然と立ち尽くしていた。
(すまない、エーリッヒ・・)
四郎はエーリッヒに背を向け、歩き始めた。
「これに乗って貰うわ。」
裏口を出ると、立派な漆塗りの駕籠と担ぎ手が待機していた。
先に駕籠に乗った凛に続いて、四郎もその中に入った。
「出して頂戴。」
漆塗りの高級そうな駕籠を待たせているとは、凛の“家”は余程裕福な商人か、権力を持ってる武士だろう。
多分その武士は、幕府に発言権を持っている人物で、裏では倒幕派と繋がっている・・
四郎は凛の“父親”の正体をあれこれと憶測しながら、駕籠に揺られていた。
「着いたわよ。」
凛はチラリと四郎を見てから、駕籠から降りて行った。
「お帰りなさいませ、お嬢様。」
駕籠から降りると、数人の女中が彼らを出迎えた。
「ただいま。お父様に今会えるかしら?」
「旦那様は今会合の最中でして・・」
「そう、じゃあ暫く待たせて貰うわ。」
凛はそう言ってさっさと邸の中へと入って行った。
四郎は彼女の後を慌てて追った。
「わたしの部屋で父様を待ちましょう。」
彼女に案内されて入った部屋には、西洋の時計や装飾品が置いてあり、和洋折衷な部屋となっていた。
「お前の父上は、一体誰なんだ?」
「お前は知らないのね・・父様は幕府側では知られた存在なのよ。まぁ、下っ端のお前達には関係ないでしょうけど。」
凛は四郎を馬鹿にしたように鼻を鳴らし、座布団の上に静かに腰を下ろした。
暫くすると、茶と菓子を乗せた盆を持った女中が静かに襖を開けた。
「ありがとう、そこに置いておいて頂戴。」
女中は四郎と凛の前に茶と菓子を置くと、入った時と同じように、静かに部屋を出て行った。
「お前は今夜からここでわたしと暮らしてもらうわ。一度でも逃げようとしたら、あなたのご主人様の命はないと思いなさい、いいわね?」
「・・わかった・・」
(お許しください、姫様・・わたしはこうするしかなかったのです・・)
四郎は美津を裏切ってしまったことに、良心の阿責を感じていた。
「さてと、父様はもうすぐこちらにいらっしゃる頃ね。あなたを紹介したら、父様はどんな顔をするのか、楽しみだわv」
鈴を転がすような笑い声を上げながら、凛は四郎を見た。
その時、数人部の足音が廊下に響いた。
「どうやら、会合が終わったようね。」
「凛、いるのか?」
「ええ、父様。」
襖が開き、1人の男が部屋に入ってきた。

「あなたは・・」

男の顔を見た四郎は、驚愕の表情を浮かべた。






最終更新日  2012年04月01日 22時13分13秒
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「姫様、しっかりしてください、姫様!」

胸に銃弾を受けた美津を、四郎は抱き留めた。

「姫様、わたしがわかりますか、姫様!」
四郎は美津の頬を叩いたが、何の反応もなかった。
「お前は余程鬼姫様のことが好きなのね。」
衣擦れの音を立てながら、凛はそう言って想い人を見つめた。
「貴様、姫様に何をした!?」
「あら、わたしは何もしてないわよ?わたしは鬼姫様が邪魔だから人を雇って彼女を撃って貰っただけ。でもまだ死んではいないようね。」
凛は四郎の腕の中で意識を失っている美津を見て、舌打ちした。
「一体何が望みだ!?姫様を亡き者にしようとして・・」
「全く、お前は鈍いのねぇ。」
凛は呆れたように肩を少し竦め、溜息を吐いた。
「お前を手に入れる為に決まっているじゃないの。」
「わたしの心は姫様のものだ。わたしは姫様の為ならば何でもする!」
「主人に身も心も捧げるなんて、まるで忠犬ね。素敵な主従関係だわ。あなたみたいな堅物に色恋のことを話しても無駄のようね。」
凛は口端を歪めて馬鹿にしたような笑みを浮かべながら四郎を見た。
「あなたは、さっき鬼姫様の為なら何でもする、って言ったわよね?その言葉には嘘はないのね?」
「わたしは嘘が大嫌いだ。」
「堅物な上に糞真面目なのね、お前は。まぁ、そっちの方がいいけれど。」
彼女の黄金色の瞳が、闇の中で異様な光を放った。
「お前には少し、協力して貰うわ。」
凛は想い人の男に微笑を浮かべながら言った。
美津は暗い海底に今まさに沈もうとしていた。
(四郎・・何処にいるの?)
呼吸を必死でしながら美津は周囲を見渡したが、そこには誰もいない。
美津が吐いた息が泡となって海上へと昇ってゆくだけだ。
(みんな、何処にいるの?)
「それにしても姫様はお転婆が過ぎて困るわ。」
突然声がして、美津は再び周囲を見渡した。
声は泡の中から聞こえていた。
そこには、数人の侍女達と自分の乳母がいた。
「そうでしょうとも。いい年頃なのに、嫁の貰い手もないんだから。」
「けど姫様はお花やお琴の腕はいいわ。」
「でもあんな性格じゃ・・」
美津はそれ以上聞いていられなくて、目を閉じた。
彼女が生死の境を漂っている頃、四郎は凛を見た。
「わたしに何を望む?」
「わたし達に協力して欲しいの。」
「“わたし達”?」
「ええ。わたしと、わたしの父とともに同じ主義を貫く者達に。言っている意味、わかるわよね?あなたは賢いんだから。」
そう言って凛はまた口端を上げて笑った。
「断る。」
「じゃああなたの大事な鬼姫様がどうなってもいいのね?」
「この卑怯者が!」
「何とでも言えばいいわ。鬼姫様の命はわたしが握っているのよ。それを忘れないことね。」
黄金色の瞳を煌めかせ、凛は四郎を見た。
凛に協力しないと、美津が死んでしまう。
考える時間はない。
「わかった・・協力しよう。」
「ありがとう、あなたならそう言うと思ったわv」
凛は四郎に右手を差し出した。
四郎は力なくその手を握った。
(これで計画通りだわ・・後はお父様がどう動いてくれるか、楽しみだわv)
「忠実な従者を自分の支配下に置くとは・・なかなかの策士だな、あの娘・・」
今までの一部始終を木陰に隠れて見ていた鬼神は、そう言って低い声で笑った。
「あの犬を娘が始末すれば、姫はわしのものになる。」






最終更新日  2012年04月01日 22時12分34秒
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