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JEWEL

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完結済小説:白昼夢

2015.05.18
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歳三と信子の母が死んだのは、歳三がまだ6歳の時だった。

持病を持っていた母は、父の死後信子達とともに気丈に家を切り盛りしていたが、無理が祟って持病を悪化させてしまい、いつものように仕事をしていた職場で倒れてしまった。

信子達が駆けつけた時、母は危篤状態に陥っていた。

「母さん、しっかりして!」

信子がそう母に呼び掛けると、彼女は意識を取り戻した。

「信子・・歳三を・・お願いね。あんたが、あたしの代わりになってね・・」
母は涙を流しながら、信子を見た。
「解ったわ、母さん! 母さんの代わりに歳三を立派に育ててみせるから!」
「そう・・信子、決して歳三を見捨てないでよ・・お願いね。」
母はそう言うと、静かに息を引き取った。
それから信子は、歳三の母親代わりに彼を厳しく躾け、愛情を注いだ。
姉の愛情を受け、愛らしかった弟・歳三は今や土方家の問題児となってしまっている。
「なぁ信子、もう充分じゃないか? 君はお義母さんの代わりに歳三を立派に育てた。でももうあの子は15だ。そろそろ弟離れする時期だよ。」
夕食を食べながら、信子は夫の言葉に首を横に振った。
「わたし、あの時母さんと約束したのよ。“歳三を決して見捨てない”って。あの子が問題を色々と起こしているのは、必ず理由がある筈なのよ。」
歳三は濡れた黒髪をタオルで乱暴に拭きながら、母が死んだ夜の事を思い出した。
あの時自分はまだ6歳だった。
病弱な母は、自分達10人の子ども達を育てるために、身を粉にして昼夜働き詰めの日々を送っていた。
その所為で、母は職場で倒れ、姉と自分に看取られながら亡くなった。
49歳の若さだった。
父親は、歳三が生まれる前に亡くなり、10人兄妹の内7人は、両親の元へと旅立ってしまっていた。
母の通夜の席で、歳三はまだ母の死を信じられずに、姉の信子にしきりにどうしてお母さんは起きてこないの、と尋ねた。

『歳、良く聞きなさい。これからはあたしが、母さんの代わりになるからね。』

母の通夜の後、信子はそう言って歳三に微笑んだ。
四十九日の法要が済み、歳三は漸く母の死を実感した。

(母さんが死んだのは、俺のせいだ。)

幼い自分を養う為に、母は無理をして死んでしまったのだと、歳三はいつの間にかそう思っていた。
そう思うようになってから、歳三は学校でも近所でも問題を起こすようになっていた。
いつしか歳三は、母を自分が殺してしまったのだと思い込むようになり、その思いを何処にぶつけていいのか解らず、ますます荒れていく一方だった。

(俺はもう、生きている価値なんかねぇんだ!)

歳三は乱暴でタオルで顔を拭うと、ベッドに寝転んだ。

(あいつには、悪い事しちまったなぁ・・)

ゆっくりと眠りに落ちてゆく脳裡の中で、総司の怯えた顔が浮かんだ。
まだいたいけな子ども相手に、酷い事をしてしまった。
歳三は、少し総司が羨ましかったのだ。
自分がとうに忘れてしまった純真無垢な心を、総司が持っていたことを。
それが憎らしかったから、彼をわざと傷つけた。
わざと怖がらせた。
彼の涙が見たかった。
だが今は、幼い彼を傷つけてしまったことへの罪悪感が心を占めていた。

(明日にでも、あいつに謝りに行くか・・)

歳三はそう思いながら、眠りに就いた。

煩いサイレンの音が聞こえたのは、深夜の2時過ぎだった。

「歳三、起きなさい!」
「なんだよ、うっせぇなぁ・・」

そう言った歳三が寝ぼけた目を擦りながらベッドから起き上がると、そこには怒りと驚愕が綯い交ぜになった信子が立っていた。

「土方歳三君だね?」

姉の背後には、長身の男が立っていた。
男が纏う張りつめた空気に、歳三は彼が刑事であることに気づいた。

「歳三、あんた、何したの!?」

歳三は窓を開けて逃走を図ったが、その前に刑事の腕が獲物を捉えたイヌワシの鉤爪のように彼の腕に食い込んだ。







Last updated  2015.06.04 23:12:26
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2015.05.15
総司は歳三と河川敷で別れてから、土砂降りの中帰宅した。

「総司、遅かったわね。今まで何処に行ってたの?」
「河川敷・・」
「早くお風呂に入って身体を温めなさい!」

みつに急かされ、総司は風呂に浸かった。
温かい湯船に身を沈めながら、彼は歳三の恐ろしい顔を思い出した。

“総司、俺と死んでくれるか?”

あの時の、歳三の絶望に満ちた琥珀色の双眸が、総司の脳裡から離れない。
彼は一体、何を思ってあんな事を口走ったのだろうか。
血塗れの木刀を渡した時の、物憂げでありながら狂気に孕んでいた。
(歳三兄ちゃん、どうして・・どうしてあんな事したの?)
彼が纏う狂気に怯え、歳三から逃げ出した総司だったが、彼の瞳の奥に潜む真実を知りたいと思った。
「雨が酷くなってきたわねぇ。」
「そうね、大丈夫かしら。」
みつと母と夕食を囲みながら、総司はTVで台風情報を観ていた。
数日後には、大きな勢力の台風が今週末にも関東地方に上陸するという。
「総司、もうすぐ誕生日ね。今年はプレゼント、何が欲しい?」
「ゲーム機がいいなぁ。」
「ゲーム機なんて、目が悪くなるわよ!」
みつはそう言うと、総司を睨んだ。
「みつ、そんな事言わないで。台風が心配だけど、ちゃんとお祝いするからね。」
母はにっこりと総司に微笑むと、彼の頭を撫でた。
「ねぇみつ姉ちゃん、歳三兄ちゃんの事知ってる?」
「歳三って、あの土方さんところの歳三君の事?」
「うん。今日僕ね・・」

みつに歳三に会った事を言おうとした総司は、歳三の言葉を思い出した。

“俺と会ったことは誰にも話すんじゃねぇぞ。”

(姉さんに言ったら殺される・・)

「ううん、何でもない。」
「変な子ねぇ。土方さん家、昔は多摩一帯の土地を所有していた大地主さんだったけど、戦後の農地改革で没落の憂き目に遭ってね、今は大手企業として過去の栄光を取り戻したみたいね。」
「へぇ、そうなんだ。じゃぁ、歳三兄ちゃんは土方家の御曹司なの?」
「まぁそう言えばそうね。でも、問題ばかり起こして色々と大変らしいわ。どうしてそんな事聞くの?」
「別に・・」
大企業の御曹司である歳三が、何故荒れているのか、総司は知りたくなった。
一方歳三は繁華街を彷徨った後、多摩の自宅へと戻った。
(俺はこの家を憎んでいたのに、帰る場所がここしかねぇなんてな・・)
口端を歪め、歳三は我が家を見つめた。
多摩で「土方」と聞けば知る者はいない豪商の家は、江戸の頃は立派な武家屋敷だったが、現代では瀟洒な南欧風の邸宅となっている。
彼は昔からこの家が大嫌いだった。
両親を早くに亡くし、姉夫婦に育てられた歳三は、土方家の財産目当てに近寄って来る連中に嫌気がさしていた。
資産家や国会議員の子息が通う名門私立男子校に在籍はしているが、ほとんど授業には出ておらず、舎弟を連れては夜の繁華街で朝まで遊び歩いている。
「ただいま。」
「トシ、遅かったじゃないの! 何処に行ってたのよ!」
玄関ホールに入ると、姉の信子が歳三に駆け寄ってきた。
「別に。」
「全くあんたって子は・・どれだけあたし達を心配させたら済ませるの!?」
「放っとけよ、出来の悪い弟なんか!」
歳三はそう信子に怒鳴ると、自分の部屋へと向かった。
「全く、あの子はいつになったら更生するのかしら?」
「大丈夫、トシは少し意地を張っているだけだ。そうっとしておこう。」
信子が大きな溜息を吐くと、彼女の夫・彦五郎はそっと彼女の肩を抱いた。
「そうっとしとけないのよ、あたしは母親代わりにあの子を育てて来たんだから。」

信子はそう言うと、母親が亡くなった時の事を思い出した。







Last updated  2015.06.04 23:12:59
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2015.05.14
「おう、誰かと思ったら総司じゃねぇか。」

そう言って自分に笑いかける歳三は、全身ずぶ濡れだった。
肩先まで後少し届きそうな黒髪は、雨に濡れて艶やかに見えた。

「歳三兄ちゃんに、僕、聞きたい事があって・・」
「聞きたい事? 何だ?」
「昨夜、何したの?」
総司がそう言って歳三を見ると、彼の美しい顔が瞬時に険しくなった。
「・・そんな事、知ってどうする?」
「だって、今朝母さんと姉さんが話してたもん! それに、近所のおばさん達だって!」
「それで? お前は俺が昨夜、何をしたのか知りてぇから、ここに来たのか?」
歳三はそう言って総司を睨んだ。
まるでそれは、獰猛な狼のように鋭い目だった。
「そう・・だけど・・」
「知ってどうなる?」
「え?」
「俺が昨夜何をしたのか知って、お前は何をするつもりなんだ、総司?」
「何もしないもん。僕、ただ知りたくて・・」
「そうか・・」
歳三はそう言うと、突然笑い始めた。
(どうしたの、歳三兄ちゃん?)
気が狂ったかのように突然笑い始めた歳三を前に、総司は呆然としていた。
「子どもはいいよなぁ。まだ世間の穢れっていうのを知らなくて済むんだからな。」
総司は、歳三の琥珀色の瞳に少し翳りが見えたことに気づいたが、彼に睨まれて彼の顔をまともに見ることができなかった。
「教えてやるよ、昨夜俺が何をしたのかを。」
歳三はそう言うと、総司に何かを握らせ、目を閉じるように言った。
(なに・・?)
両手の上に載せられたものは、身体を支えきれないほど重いもののようだ。
総司がそっと指先で先端をなぞると、何かの液体がついた。
彼がゆっくりと目を開けると、両手に載っていたものは、木刀だった。
先ほどなぞった先端には、赤黒い血がついていた。
「どうしたの、これ・・」
「ああ、これか? 昨夜他校の先輩と殴り合いになった友達から電話貰ってな。収拾がつかねぇから、これで殴って来たんだ。」
そう言ってゆっくりと顔を上げた歳三の瞳には、獰猛な肉食獣の光が宿っていた。
「ひぃ・・」
総司は、歳三に恐怖を覚えた。
(この人、怖い・・)
「総司、この事は誰にも話すなよ? 話したらお前もタダじゃ済まさねぇからな。」
「歳三・・兄ちゃん?」
歳三は怯える総司の前で屈むと、彼の頭をそっと撫でた。
「俺の言ってる意味、解るよな?」
彼の問いに、総司は静かに頷いた。
「そうか・・」
歳三は総司の首へと両手を伸ばした。
「総司、俺と死んでくれるか?」
「お兄ちゃん、何言ってるの? 今日はなんだか変だよ?」
じっと自分を見つめる黒曜石のような瞳に、歳三は慌てて総司の首から両手を引っ込めた。
「大丈夫だ、お前は殺さない。」
「お兄・・ちゃん・・?」
「早く行け、総司。俺の気が変わらない内に。」

何が何だか解らぬまま、総司は河川敷から去った。
彼がさしている黄色い傘が曲がり角に消えるのを見届けた歳三は、血に塗れた木刀を川へと思い切り放り投げた。

「何餓鬼を怯えさせてんだ、俺・・馬鹿みてぇだな。」

歳三は口端を上げて笑うと、河川敷から立ち去った。
雨は激しさを止まぬどころか、激しくなる一方だった。

歳三は、雨に打たれながらあてもなく歩いた。
脳裡には、総司の怯える顔ばかりが浮かんだ。






Last updated  2015.06.04 23:13:31
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2015.05.13

総司は突然夜中にトイレに行きたくなり、布団から出て部屋を出た。
廊下を歩いていると、外からパトカーのサイレンの音が聞こえた。

(何だろう?)

その時彼は大して気に留めなかった。
翌朝、総司がリビングに入ると、母と姉のみつが何か話をしていた。

「どうしたの、お母さん、姉さん?」
「な・・何でもないわよ。ちょっと今日は雨が降りそうだなぁ~って思っただけ。ねぇ、母さん?」
「そ、そうよ。総司、さっさとご飯食べちゃいなさい。」

総司に話しかけられ、母と姉は適当に話をはぐらかした。

(何かおかしいよ、2人とも僕に隠し事してる。)

一体彼女達が何を話していたのか、総司は気になって仕方無かった。
だが聞いても、何も彼女達は答えてくれないだろう。

「行ってきます。」
「車に気をつけてね。あと、傘忘れないようにね。」
「はぁい。」
とうとう総司は、姉達に何も聞けないで登校した。
家を出て学校へと向かうとすぐ、雨がぽつりぽつりと降り始めた。

(あのお兄ちゃん、濡れてないかなぁ?)

総司はまた、あの「怖いお兄ちゃん」の事を考えていた。

彼は一体誰なのか。

どんな家に住んでいるのか。

そして、どうしてあの時、自分を助けてくれたのか。

(またあのお兄ちゃんに会えるといいなぁ。)

総司がそう思った途端、河川敷の茂みからがさがさと音がしたかと思うと、あの「怖いお兄ちゃん」が現れた。

「あ・・お前あん時の餓鬼じゃねぇか。」
「お兄ちゃん、また会ったね。あのね、一昨日ね・・」
「ガチで勝負したんだな。お前の目、一昨日とは違って見えるぜ。」
そう言うと「怖いお兄ちゃん」は、ぽんぽんと総司の頭を叩いた。
その時初めて、総司は彼の口端が切れていることに気づいた。
「お兄ちゃん、怪我してるの?」
「まぁな。でももう治ったから大丈夫だ。そういや、自己紹介がまだだったな。俺は歳三、土方歳三だ。」
「僕は総司、沖田総司だよ!」
「総司か、良い名前だな。また会おうぜ。」
彼はそう言うと、さっと総司の背を向けた。
「またね、歳三お兄ちゃん!」
総司は歳三の背中にそう叫んで彼に向かって手を振ると、学校へと急いだ。
「ねぇ、聞いた?」
「聞いたわよ~、昨夜派手な喧嘩があったんですって。」
「またあの子達なの? 嫌ぁねぇ。」
小学校の前にある住宅街を総司が通り抜けていると、井戸端会議をしている主婦たちの会話が耳に入った。
「あの歳三って子が上級生呼び出して“やき”を入れたらしいわよ。」
「歳三って・・あぁ、土方さんところの? うちの子、同じ学年だけどあの子荒れてるんですって。」
「怖いわねぇ~、近寄りたくないわぁ~」
主婦達の会話を聞いた総司は、今朝姉と母が何かを話していたことを思い出した。
あれは、歳三の事だったのだ。
(歳三兄ちゃん、一体何したの?)
総司は顔を蒼褪めながら、学校へと急いだ。
「沖田君、どうしたの? 顔色悪いけど・・」
「大丈夫です。」
(学校が終わったら歳三兄ちゃんに聞かなきゃ・・昨夜、何をしたのか。)
その日は一日中上の空で、歳三が昨夜何をしたのか気になった。
「先生、さようなら。」

総司はランドセルを背負うと、校門を飛び出し、一目散にあの河川敷へと駆けていった。

「怖いお兄ちゃん」―歳三は、茂みの中で濡れるのも構わず寝転んでいた。
「歳三兄ちゃん!」

頭上から声が聞こえて歳三が身体を起こすと、そこには肩で息をした総司が立っていた。

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Last updated  2015.05.13 09:21:30
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2015.05.12

翌日、総司は放課後またあの河川敷を1人で歩いていた。

今までと違うことは、あのいじめっ子達が居ないことだった。
昨日あの“怖いお兄ちゃん”から言われた言葉を総司は今朝思い出した。

“男ならガツンとガチでぶつかりやがれ!”

今までいじめっ子達にされるがままになっていた総司だったが、彼の言葉で目が醒めた。
「おい総司、ちょっと金貸せよ。」
総司が男子トイレに入ると、案の定いじめっ子のリーダー格がそう言って彼に詰め寄って来た。
「何でお前に金なんか渡さないといけないの?」
「てめぇ、生意気だぞ、この俺様に向かって!」
険しい顔で自分を睨み付けるリーダー格を、総司は睨み返した。
「吉田君、そうやっていつも人にたかるの止めたら? みっともないと思わないの? 吉田君ん家、貧乏なの?」
総司はわざとリーダー格を挑発し、彼が自分に飛びかかってくるのを待った。
「てめぇ、ぶっ殺す!」
案の定、吉田は大きな身体を揺らしながら総司に向かって殴りかかって来た。
(今だ!)
総司は吉田の攻撃をかわし、彼に足払いを掛けた。
不意を突かれ、唖然としている彼の顔に、トイレ掃除用のモップを総司は押しつけた。
いつもトイレに行った時、こうやって彼にモップを押しつけられ、ランドセルの中から給食袋を抜かれたものだ。
だが、今は違う。
「吉田君、今度僕をいじめたりしたら、殺すよ?」
子どもらしからぬ物騒な台詞を吐きながら、総司は恐怖にひきつる吉田の顔を見て笑った。
「冗談だと思ったら大間違いだよ。じゃぁね。」
総司はさっさと男子トイレから出て行くと、教室に入った。
それから放課後まで、吉田はいつものように取り巻きを引き連れて総司をいじめようとはしなかった。
まさか泣き虫の彼が反撃に出てくるとは思わなかったのだろう。
放課後、総司は河川敷を幸福な気持ちで歩いていた。
いつも家まで、吉田達に殴られながら歩いて来た河川敷が、今は全く違った風景に見えてきた。
(あのお兄ちゃん、今日も来てるのかな?)
総司は「怖いお兄ちゃん」に今日の事を報告したくて、河川敷の周りを見渡したが、そこにはどこも人影がなかった。
少しがっかりしながら、総司は家路に着いた。
「ただいまぁ。」
「お帰りなさい。今日もまたいじめられたの?」
みつがそう言って心配そうに総司を見つめて来たので、彼は首を横に振った。
「ううん、今日は僕をいじめてる子に反撃したよ! そいつ、放課後まで僕の事いじめなくなったよ!」
「そう・・」
みつは少し浮かない顔で弟の報告を聞くと、台所へと向かった。
一方、総司が河川敷で会えなかった「怖いお兄ちゃん」は、繁華街の裏路地で不良達と喧嘩していた。
「てめぇら、この俺を怒らせたら骨の1本や2本じゃ済まねぇぞ!」
彼はまるで般若のような顔で木刀を喧嘩相手に振るった。
「あ、サツだ、逃げろ!」
「畜生、良い所を邪魔しやがって!」
彼は不良達を叩きのめすと、裏路地から立ち去った。
「上手く撒けたな・・」
パトカーのサイレンが遠ざかり、ほっと胸を撫で下ろした彼は、制服の胸ポケットから煙草を1本取り出して口に咥えると、それにライターの火を点けた。
「あの餓鬼、どうしってかなぁ・・」
紫煙を吐きだしながら、彼は鬱陶しそうに前髪を掻きあげた。
「あ、雨降ってきた。」
夜布団に入る前、総司は雨音に気づいて窓際へと向かった。
外では、激しい土砂降りの雨が降っていた。
(あのお兄ちゃん、濡れてないかなぁ・・)
「総司、何やってるの、早く寝なさい。」
「はぁ~い。」

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Last updated  2015.05.12 07:57:54
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2015.05.11

「一体これはどういうことなんだ! わたし達に解るように説明しろ!」
「申し訳ありません・・」

一世一代の晴れ舞台の時に、突然現れた謎の青年によって花婿を奪われた花嫁はショックで会場から飛び出し、控室に籠ったまま出て来なかった。

新婦の父親は怒り心頭の様子で新郎の親族に詰め寄った。

「わたくしどもも、状況がわかりかねますので・・後日、そちらにお伺いすることにいたします。」
そう言って新婦の父親に頭を下げたのは、新郎の姉である信子だった。
「全く、お宅は弟さんにどのような躾をしてたんだね? 結婚式に男と駆け落ちするなど・・」
新婦の父親はぶつぶつと文句を言いながら、信子達に背を向けて廊下を去って行った。
「それにしても、トシがあんな真似するとはねぇ・・これからどうなるんだか。」
「さぁね。まぁ、あちらとは縁がなかったという事にしておきましょうよ。」
信子はそう言うと、溜息を吐いて夫ともに部屋へと戻った。
一方、ホテルを出た新郎と謎の青年は、高速道路のサービスエリア内のレストランで一服していた。
「総司、どうして俺の結婚式が今日だって解ったんだ?」
「あの人が御親切にも教えてくれたんですよ。」
青年―総司がそう言って新郎の前に結婚式の招待状を見せた。
「ったく、あの女、嫌味な事しやがるぜ。ま、今となってはどうでもいいことだがよ。」
新郎は招待状に手を伸ばすと、それをびりびりと引き裂いた。
「土方さん、やっぱりあの人との結婚は嫌だったんですか?」
総司がそう尋ねると、新郎はくすりと笑った。
「知ってるくせに。俺が今まで一番誰が好きだったのかを。」
「土方、さん・・」
総司と新郎―歳三の視線が絡み合い、甘い空気が2人の間に流れ始めた。
「これからは、ずっと一緒に生きような?」
「ええ。」
歳三からのキスを受け、総司はこれまでの事を思い出していた。
総司と歳三が出会ったのは、まだ総司がまだ小学生の頃だった。
歳三は当時15歳で、総司はまだ9歳だった。
2人の姉と母親に愛情を注がれて育ち、真っ直ぐな性格だった総司であったが、片親家庭であることを周囲にからかわれ、その所為でいじめられていた。
いつものように総司は、数人の同級生に囲まれ、いじめられていた。
「何でてめぇん家、親父居ねぇんだよ!」
「うわきで出て行ったんだろ!」
「違う、違うもん!」
いじめっ子達に反論した総司だったが、彼らの声で総司の言葉は瞬く間に掻き消されてゆく。
「てめぇら、ぎゃぁぎゃぁさっきから煩せぇんだよ!」
突然、茂みの中から1人の学生服姿の少年が姿を現し、いじめっ子達に怒鳴った。
「さっきから片親だの、親父が居ないだの、てめぇらには関係ねぇだろうが! 余所ん家のことで餓鬼のくせにがたがた抜かすんじゃねぇ!」
少年の剣幕に押されたのか、いじめっ子達は泣きながらその場から去って行った。
「おい、てめぇもあいつらにやられっぱなしで悔しくねぇのかよ! 男ならガツンとガチでぶつかりやがれ!」
少年はそう言うと、さっさと河川敷から立ち去って行った。
(あの人、怖い・・)
突然目の前に現れ、自分に向かって怒鳴った少年の事が、総司は気になった。
「総司、遅かったわね。また苛められてたの?」
総司が帰宅すると、姉のみつがそう言って心配そうな顔で彼を見た。
「怖いお兄ちゃんが助けてくれた。」
「怖いお兄ちゃん?」
弟の言葉に、みつが怪訝そうな顔をした。
(変な子ね。)
「ちゃんと手を洗ってご飯食べちゃいなさい。」
「はぁ~い。」

その夜総司は、あの“怖いお兄ちゃん”が明日もあの河川敷に居るのだろうかと思いながら寝た。

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Last updated  2015.05.11 07:25:12
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2015.04.12

都内某所にある高級ホテル。

そこではあるカップルの結婚披露宴が行われていた。
高砂席に座るウェディングドレスを纏った新婦は終始笑顔だったが、対する新郎は何故か浮かない顔をしていた。
まるで、この結婚が気に入らないというように。

「ねぇ、どうしたのよ?」
「別に・・何でもねぇよ。」
そう言った新郎の、美しい眦が少し歪んだ。
「体調でも悪いの?」
「何でもねぇって言ってるだろ。ほっとけよ。」
額を触ろうとする新婦の手を新郎は邪険に払いのけると、彼女にそっぽを向いた。
「何よ、折角の結婚式なのに喜んでくれたっていいじゃない・・」
新婦がぼそぼそと呟いて居た時、急に会場内がざわつき始めた。
「土方さん!」
新郎新婦が顔を上げると、会場の入り口には1人の青年が立っていた。
「トシ、あの子と別れてなかったの!?」
突然の恋敵の登場に、新婦は目を剥いた。
「土方さん、こんな結婚は止めてください!」

慌てて制止しようとするスタッフを振り切り、青年は高砂席へと向かってきた。

「総司、待ってたぜ。」

新郎はにやりと口端を歪めて笑うと、青年の手を取り会場から出て行った。
突然の事に呆気に取られる新郎新婦の両親族と、招待客達を前にして、新婦が金切り声をあげて倒れた。

「ったく、お前って奴は、見かけによらず大胆なことするぜ。」
「そうですか?」

ホテルを出た新郎は車に乗り込むと、エンジンを全開にして発進した。
きっと残された新婦は怒り狂っているだろうと思うと、新郎は笑いが止まらなかった。






Last updated  2015.05.06 15:42:02
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