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JEWEL

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完結済小説:金襴の蝶

2014年07月28日
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「それにしても、こんなクソ寒い中でバーベキューをするなんざ、近藤さんは変わっているな。」
「バーベキューは夏だけのものじゃないぞ、トシ。」
バーベキューコンロで肉を焼きながら、勇はそう言うと笑った。
「まぁ、そうだな。」
ダウンジャケットを着こんだ歳三は、そう言うとコンロの近くに置いてある座椅子の上に腰を下ろした。
「トシ、そんなところに居たら火傷するぞ。」
「大丈夫だよ。」
「寒がりな所は相変わらず変わっていないな、トシ。」
「皆さん、料理の下ごしらえが出来ましたよ!」
下ごしらえを終えた女性陣と千尋が野菜と魚介類を持って中庭に出ると、そこから食欲をそそる肉の匂いがした。
「美味しそうな匂いだねぇ。」
「ええ。つね達も、遠慮せずに食べろ!」
「あなたがそうおっしゃるのなら、有難くいただきます。」
「勇、あんたはいつもつねさんに甘いんだから。あたしの嫁時代には、そんなことはなかったよ。」
「今と昔とは時代が違うんだよ、義母さん。」
「つねさんは良い時代に勇の女房になったもんだね、羨ましいったらありゃしない。」
近藤の養母はそう言うと、母屋の中へと戻っていった。
「お義母様、一体どうなさったのかしら?」
「いつものことだから、気にするな。」
勇はつねを励ますかのように彼女の肩を叩くと、缶ビールを彼女に手渡した。
「土方先生、ちょっと今宜しいですか?」
「ああ。」
千尋と歳三は、人気のないところへ移動した。
「話って何だ?」
「昨夜、母から僕につきまとっている男の事を話したんです。そしたら、母はその男の事を知っていると言いました。」
「それで、お袋さんは何だって?」
「その男は、もしかすると自分が別れた夫かもしれないと・・」
「お前のお袋さんは、離婚歴があるのか?」
「ええ。前の旦那さんと別れた理由は、子供が出来なかったからだって・・詳しくは、話してくれませんでした。」
「そのこと、荻野の親父さんは知っているのか?」
「ええ。土方先生、このことは誰にも・・」
「わかった。」
歳三と千尋が中庭に戻ると、そこにはダウンジャケットとジーンズ姿の女性が立っていた。
「トシ兄、久しぶり!」
「誰かと思ったら、希(のぞみ)じゃねぇか!」
女性は歳三の姿を見るなりそう叫ぶと、彼を抱き締めた。
「土方先生、この方は?」
「ああ、お前が会うのは初めてだったな。こいつは近藤希、勇さんの義理の妹だ。」
「初めまして、希です。あなたが、トシ兄さんの生徒さん?」
「はい。荻野千尋と申します。」
「千尋ちゃんっていうのね、宜しくね。」
女性―希はそう言って千尋に笑顔を浮かべると、右手を差し出した。
「こちらこそ、宜しくお願いします。あの、希さんお仕事は何をされていらっしゃるのですか?」
「記者よ。世界中を回っているの。日本に帰国するのは久しぶりだわ。」
「希、久しぶりだな!」
「勇兄、久しぶりね!義姉さんも元気そうで何よりだわ。」
「希さん、1年ぶりね。ゆっくりしていってね。」
「ええ。」

千尋が希たちと談笑していると、彼は門の外から自分の事を見つめている男の姿に気付いた。

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最終更新日  2014年07月28日 20時54分14秒
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「ねぇ、何かあったの?」
「実はね、あなたに変な荷物を送りつけてきた人がわかったのよ。」
「え、それは本当なの?」
夕食の後、千尋は育子から自分に汚物を送り付けてきた犯人が警察に自首してきたことを知った。
犯人は、荻野家の近所に住む主婦だった。
犯行の動機について、犯人は自分が苦しい生活をしているのに幸せそうな荻野家が妬ましくてついやってしまったということだった。
「そう。ねえ母さん、僕に変な荷物を送りつけてきた人は、あの人じゃないかって思っていたんだけれど・・」
「それはないわよ。あの人は今、精神病院に居るんでしょう?」
「そうだけど・・土方先生は、あの人から汚物を送り付けられているんだよ。」
「それ、本当なの?」
「うん。この前、土方先生とファミレスで夕食をしていた時、先生が話してくれたんだ。それにね、今日土方先生に家まで送って貰ったとき、変な男が僕の事を見ていたんだ。」
「その人、どんな顔をしていたの?」
「余りよく憶えていないけど、右の頬に傷があったな。母さん、その人を知っているの?」
「ええ、ちょっとね・・」
育子はそう言って千尋を見たが、彼女は男について何かを知っているようだった。
「明日、近藤先生の家でバーベキューパーティーがあるんだ。」
「そう、わかったわ。おやすみなさい。」
「お休み。」
部屋に戻った千尋は、ベッドに寝転がると目を閉じ、そのまま眠った。
「近藤先生、おはようございます。」
日曜日、千尋は歳三とともに近藤宅を訪れると、近藤達は既にバーベキューの準備を中庭で始めていた。
「荻野君、よく来たな。」
「何か僕に手伝う事はありますか?」
「済まないが、台所で食材の下ごしらえをしてきてくれないか?」
「はい、わかりました。」
千尋が近藤家の台所に入ると、そこでは女性陣が食材の下ごしらえをしていた。
「あの、近藤先生に言われて来たのですけれど・・」
「荻野君だっけ?あんたは海老の背ワタを取っておくれ。」
「わかりました。」
近藤の養母からそう言われた千尋が海老の背ワタを取っていると、台所に近藤の妻・つねが入ってきた。
「お義母さん、遅れてしまって申し訳ありません。」
「つねさん、あんたは野菜を切っておくれ。」
「はい。あなたが、荻野君ね?」
「はい。初めまして、奥様。」
「奥様なんて呼ばなくてもいいわ。荻野君、忙しいのに来てくれて有難う。」
「いいえ、こちらこそ。わざわざ招待してくださって有難うございます。あの、これ母が作ったパウンドケーキです。」
「まぁ、有難う。後でいただくわね。」
つねは千尋からパウンドケーキを受け取ると、それを冷蔵庫の中に入れた。
「何だかこういった賑やかなことをするのは、久しぶりだねぇ。」
「そうですね、お義母様。」
「まだ勇とトシが学生だった頃、二人はよくつるんではあたしが二人の飯の世話をしたもんさ。」
「近藤先生と土方先生は、昔から仲が良かったんですか?」
「二人は同じ学校に通っていたからね。家も近かったから、自然と仲良くなってつるむようになったのさ。」
「そうなんですか・・」
「人と仲良くするのに、理由なんて要らないのさ。」
「そうですね。」

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最終更新日  2014年07月28日 19時55分27秒
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2014年07月27日

「如月先生、お話って何ですか?」
「あなた、まだ土方先生とはお付き合いしているの?」
如月は家庭科室に入るなり、そう言うと千尋を見た。
「いいえ。」
「じゃぁどうして、いつも数学準備室に居るのかしら?あなた、まだ土方先生に未練があるの?」
「どうして僕にそんなことを聞くんですか?」
「どうしてって、あなたはわたしの最大の恋敵だからに決まっているじゃないの。」
如月は大袈裟な溜息を吐きながら、椅子の上に腰を下ろすと、髪先を指で弄んだ。
「如月先生は、土方先生の事を狙っているんですか?」
「ええ、そうよ。彼ほど素敵な男は、何処を探したって居ないわ。たとえ彼が既婚者でも、わたしは彼の奥さんから土方先生を奪える自信はあるわ。」
「そうですか・・」
「土方先生の奥さんのことはともかく・・あなたが土方先生の事を諦めてくれればいいの。これ以上彼につきまとわないと、この場で約束なさい。」
「それは出来ません。」
千尋がそう言って如月を見ると、彼女は般若のような顔をして自分を睨んでいた。
「そう・・あなたがそんな態度をわたしに取るのだったら、わたしにも考えがあるわ。」
「では、僕はこれで失礼いたします。」
千尋はそう言って如月に頭を下げると、家庭科室から出て行った。
「千尋、今日から部活休むって聞いたけど・・」
「うん、ちょっとね。じゃぁね、平助。」
「またな、千尋!」
放課後、千尋は教室を出ると、歳三が待っている数学準備室へと向かった。
「土方先生、失礼いたします。」
「時間通りだな。それじゃぁ千尋、家まで送っていってやるよ。」
「はい。」
歳三と千尋が校舎から出て、駐車場へと向かっていると、校門の近くで一人の男が自分達を睨んでいることに千尋は気づいた。
「どうした?」
「校門の近くに、男の人が・・」
千尋がそう言って男が立っている場所を指すと、そこにもう男は居なかった。
「嫌がらせをされていることを、警察には言ったのか?」
「ええ。担当の刑事さんは、力になってくれると言ってくれましたが・・こういった嫌がらせとかストーカー被害って、警察はなかなか調べてくれないんですよね。」
「ああ。警察は事件が起きねぇと動かねぇもんだ。」
歳三がそう言いながら車を発進させて職員専用口から出ようとしたとき、車の前に一人の男が立ちはだかった。
「危ねぇだろう、気をつけろ!」
咄嗟にブレーキを踏み、車を急停止させた歳三はそう言いながら突然車の前に飛び出してきた男に向かって怒鳴ったが、男は無言で歳三を睨みつけた。
「おい、俺達に何か用か?」
「・・別に。」
男は助手席に座る千尋の方を見ると、そのまま歳三に背を向けて校舎から外へと出て行った。
「何だ、あいつ・・君が悪いやつだな。」
「あの人、この前プールで僕に話しかけてきました。」
「そいつに何かされなかったか?」
「ええ。」
「千尋、これからは一人きりになるんじゃねぇぞ、わかったな?」
「わかりました。」

千尋が帰宅してリビングに入ると、育子が溜息を吐きながらキッチンで夕食を作っていた。

「ただいま。母さん、何かあったの?」
「ええ・・後で、話すわね。」
「わかった・・」

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最終更新日  2014年07月27日 15時37分52秒
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『まー君、今日帰国するのよね?気を付けて帰って来てね。』
「わかっているよ、母さん。」

ホテルの部屋でスーツケースに着替えや家族への土産を詰めながら、真紀はスマートフォンで養母と話していた。

『まー君、オリンピックまで無理しちゃだめよ。わかっているわね?』
「うん、わかっているよ。それじゃあ、もう切るね。」
普段自分の事を気に掛けない癖に、真紀がフィギュアスケートの選手として有名になってから、養母は急に“慈愛に満ちた母親”を演じるようになった。
真紀はそんな彼女が鬱陶しくて堪らないが、宮下家の養子とならなければ好きなスケートに打ち込むことが出来なかった。
スーツケースの蓋を閉めながら真紀が溜息を吐いていると、スマートフォンがメールの着信を告げた。
彼がメールを開くと、それは双子の弟・千尋からのものだった。

“大会優勝おめでとう。オリンピックも頑張ってね、千尋より”

弟からのメールを読み終えた真紀は、笑いながらスマートフォンの電源を切ってベッドに入った。

『今、宮下真紀選手がデンマークから帰国しました。』

千尋が自宅のリビングでテレビを観ながら宿題をしていると、画面に真紀の記者会見の様子が映っていた。

『大会優勝おめでとうございます。オリンピックへの意気込みを聞かせてください。』
『オリンピックでは、必ずメダルを獲りたいと思います。』
『それは金メダルということでよろしいでしょうか?』
『さぁ、それは皆さんの想像にお任せいたします。』
記者たちに向かって微笑む真紀の姿を見た千尋は、そのままテレビを消した。
「ただいま。」
「母さん、お帰り。」
「さっき、真紀ちゃんの記者会見がテレビでやっていたわね。」
「お兄ちゃんなら、きっとオリンピックで金メダルを獲ると思うよ。」
「そうね。ねぇちーちゃん、あなたに今朝荷物が届いていたわよ。」
「有難う。」
育子から荷物を受け取った千尋が段ボール箱を開封すると、中から激しい腐敗臭が漂って来て思わず顔を顰めた。
「どうしたの?」
「わかんないけど・・」
千尋がそう言いながら段ボールの蓋を開けると、中には腐った生ごみと死後三週間経った猫の死体が入っていた。
「一体誰がこんな嫌がらせを・・」
「母さん、警察呼んで。」
「わかったわ。」

その日から、千尋宛てに汚物が送られてくるようになった。

「お前のところにも、汚物が届いたんだな?」
「ええ。土方先生のところに届いた物と同じような物が、僕宛に届いたんです。差出人が誰なのかはわかりませんが・・もしかすると、あの人が腹いせにやっているんじゃないかって思うんです。」
「あの女は今、精神的におかしくなっているからな。千尋、今日は何時に帰るんだ?」
「暫く部活を休むことにしたので、4時には帰ります。」
「そうか。」
「それじゃぁ先生、また放課後に。」
千尋が数学準備室から出て廊下を歩いていると、彼は突然如月に呼び止められた。
「荻野君、ちょっと話があるんだけれど、いいかしら?」
「はい・・」
「じゃぁ、家庭科室に来て頂戴。」

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最終更新日  2014年07月27日 14時30分28秒
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2014年07月26日

翌日、千尋は学校の帰りに小学生の頃から通っているスポーツジムへと向かった。

「千尋君、お久しぶりね。」
「お久しぶりです。」
「今日は泳ぎに来たの?」
「ええ。」
更衣室で水着に着替えた千尋は、プールサイドで準備運動をした後、25メートルプールの中に入り、クロールで三往復した。
タオルで濡れた身体を千尋が拭いていると、そこへ一人の男がやって来た。
「あの、もしかして宮下真紀さんですよね?」
「いいえ、違います。」
「そうですか・・」
男はそう言うと、千尋に背を向けてプールから去っていった。
「千尋、お前もここのジムの会員なのか?」
「ええ。母がここの会員なので、家族会員として登録しているんです。」
「そうか。」
「土方先生は、どうしてこのジムに?」
「最近デスクワークが多くてな、運動不足を解消するために毎日来ているんだよ。」
歳三はそう言うと、千尋の隣で準備運動を始めた。
「あら、土方先生。先生もこのジムの会員さんですか?」
「如月先生・・」
背後で声がしたので歳三が振り向くと、そこには紺色に白い水玉模様のビキニを着た如月が立っていた。
「こんにちは、如月先生。」
「荻野君、あなたも居たのね。」
「先生も、ここのジムの会員さんなんですか?」
「ええ、そうよ。でも、土方先生とこんなところで会えるなんて思っていなかたわぁ。毎日ここに通おうかしら?」
歳三に気があるような如月の言葉を聞いた千尋は、嫉妬で胸が痛んだ。
「それじゃぁ、また。」
「ええ、また・・」
如月がプールの奥へと消えてゆくのを見送った歳三は、安堵の溜息を吐きながらプールに入った。
「如月先生、土方先生に気があるんじゃないんですか?」
「あの人、一昨日俺の家に来たんだよ。琴子の悪口を言って勝手に帰っていったがな。」
「そうですか。土方先生、後でお話ししたいことがあるんですが・・」
「もうここから出ようか?」
「はい・・」
ジムから出た二人は、近くにあるファミリーレストランに入った。
「話ってのは何だ?」
「実は昨日、僕が家に帰ると、母方の祖父母がうちにやって来て、あの人に会ってくれないかって僕に頼んだんです。」
「朱莉さんの両親がお前の家に来たのか?」
「ええ。母さんはあの人たちを家に上げてしまったことを僕に詫びて泣いていました。母さんは何も悪いことをしていないのに・・」
「それで、お前はあの人たちにどう返事をしたんだ?」
「あの人と会うのは断りました。あの人はもう、僕の母親ではありませんし、僕にとっての家族は、荻野の両親だけです。」
「そうか・・」
「それに先生、母と昨夜ここに食事に来た時、妙な視線を感じました。何だか気味が悪いです。」
「千尋、これから帰るときは俺に連絡しろ。家まで送っていってやるから。」
「土方先生にご迷惑はかけられません。」
「俺は教師として、当然のことを言っているだけだ。」
「有難うございます、その言葉に甘えさせていただきます。」

二人の会話を奥のテーブル席で聞いていた男は、舌打ちをして伝票を持ってレジへと向かった。

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最終更新日  2014年07月26日 16時05分58秒
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「千尋、さっきはどうしたんだ?」
「あいつら、真紀のサインが欲しいって言ってきたんです。僕は無理だって言っても、向こうは簡単に諦めてくれなくて・・」
「そうか。有名人の兄貴を持つと大変だな。」
「ええ。こんなの、一度や二度じゃありません。双子だから、余計に厄介なんですよね。」
千尋はそう言って溜息を吐くと、歳三から手渡されたクッキーを食べた。
「そういやぁ、真紀の担任と昼休みに少し話をしたんだが、あいつこのままだと留年するかもしれねぇな。」
「海外遠征を繰り返していると、出席日数が足りなくなるのは当然です。学業との両立は、レベルが上がれば上がるほど難しいです。」
「眞岡先生は真紀の事を特別扱いしないって言っていたからなぁ。これからどうなるんだか・・」
「それは、僕たちが心配することじゃないですよ。」
「そうだよな。なぁ千尋、真紀とは最近会っているのか?」
「いいえ。昔はよくお互いの家を行き来していましたけれど、今はメールで連絡し合っているだけです。」
「そうか。」
「土方先生、奥様が娘さんを置いて実家に帰ってしまわれたんですって?」
千尋の言葉を聞いた歳三は、思わずコーヒーを噴きだしてしまった。
「それ、誰から聞いた?」
「眞岡先生からです。」
「へぇ、そうか・・」
「あの人、変なんですよね。授業中に関係のないことを突然話し出したりして、みんな気味悪がっています。」
「そういやぁ、昼休みに眞岡先生と話している時、ほとんど先生一人が喋っていたような気がしたな・・」
「あんまりあの人と関わらないほうがいいですよ。」
千尋はそう言うと、鞄を持って椅子から立ち上がった。
「それじゃぁ、僕はこれで失礼しますね。」
「気を付けて帰れよ。」
千尋が学校から帰宅すると、リビングには一組の老夫婦が養父母とソファに向かい合わせになるようなかたちで座っていた。
「ただいま・・」
「ちーちゃん、お帰りなさい。こちらの方は、あなたのお祖父さまとお祖母さまよ。」
「初めまして、荻野千尋です。」
「あなたが、千尋君ね。」
和服姿の老婦人はそう言ってソファから立ち上がると、千尋に優しく微笑んだ。
「あの、うちに何のご用でしょうか?」
「千尋君、あなたのお母様に会いたくない?」
「え?」
「あなた達を産んだお母様・・朱莉(あかり)がね、あなた達に会いたくて堪らないってこの前うちに電話してきたのよ。ねぇ千尋君、わたし達と朱莉に会ってくれないかしら?」
千尋が返答に困り、育子の方を見ると、彼女は俯いて唇を噛んでいた。
「あなた方の娘さんとは会いたくはありません。」
「そう・・」
「来るだけ無駄だったな。」
憤然とした様子でソファから立ち上がった老人は、そう言って妻の手を掴むとリビングから出て行った。
「母さん、どうしてあの人達を家に上げたの?」
「あの人達と会いたくなかったんだけど、勝手に家に上がり込んできたから、追い出せなくて・・ごめんね、ちーちゃんに嫌な思いをさせてしまったわね。」
「母さんの所為じゃないよ。ねぇ、今日は父さんの帰りは遅いの?」
「ええ。夕飯は要らないって言っていたから、二人で外食でもしましょうか?」
「うん。」

千尋が育子とともに近くにあるファミリーレストランに入ると、奥のテーブル席から視線を感じた。

「ちーちゃん、どうしたの?」
「何でもない・・」

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最終更新日  2014年07月26日 11時58分54秒
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2014年07月25日

「眞岡先生、お話とは何でしょうか?」
「宮下真紀についてなんですが・・彼がフィギュアスケートの選手として活躍していることは、土方先生もご存知ですよね?」
「ええ。それが、どうかしましたか?」
「宮下真紀の出席日数が全然足りないんです。このままいけば、留年するかもしれません。」
「まぁ、それは仕方がないでしょう。」
「わたしは宮下が有名なスポーツ選手だからといって、特別扱いはしません。彼の本業は勉強です。」
「眞岡先生、それはわたしではなく、宮下本人に言ってください。」
眞岡の話はもっともだが、そんな当たり前のことを自分に言われても困る。
「土方先生は、宮下とは付き合いが長いんですか?」
「さぁ・・」
「話は変わりますが、如月先生は土方先生の事を前から狙っているようですよ?」
「へえ、そうですか・・」
昨夜の如月の様子を思い出しながら、歳三はそう言って眞岡を見た。
「土方先生の奥様は、子供が入院しているというのに子供を土方先生に押し付けて実家に帰っていると、如月先生から聞きました。」
「琴子は、結婚前から自分の都合を常に優先してきた奴ですから・・それは母親になっても、変わらないでしょう。」
「まぁ、そういう一部の親が子供を虐待したりしますよね。大阪で幼い子供二人を自宅に閉じ込めて餓死させた女も居ますし・・子供よりも、自分の都合を優先する人は、子供を産むべきじゃないと思います。」
眞岡はそう言って軽く咳払いすると、コーヒーを一口飲んだ。
「あ、さっきのは土方先生の奥様のことを非難しているつもりではないですよ。あくまでも、僕個人の意見です。」
「わかっています。琴子が娘を産んだ時、あいつはまだ遊びたい盛りの年頃でしたからね。同級生がお洒落して遊びに行ったりしている時に、赤ん坊の世話をしなければならないのがあいつには我慢ならなかったんでしょう。」
「土方先生は、優しい人なんですね。」
「え?」
「僕が土方先生の立場だったら、すぐに奥さんを家に連れ戻して、離婚を言い渡します。」
「眞岡先生は、厳しいんですね。」
「ええ。僕は理想が高いので、35になっても独身なんですよ。時々母親からは早く孫の顔が見たいと催促の電話がかかってきます。」
「それはこたえますね。」
「一度結婚相談所に登録して、お見合いパーティーに何度か出てみたのですが、収穫なしでした。相手の女性たちが結婚する男に求めるのは、安定した収入と、自分をどれほど愛してくれるかという愛情の深さだと気付いた時点で、婚活をする気をなくしてしまいました。一生独身でも、今の時代お金さえあれば、生きていけると思うんです。」
「そうですか・・」
「すいません、僕が土方先生を呼び出したのに、自分の話ばかりしちゃって・・」
眞岡はそう言って苦笑すると、再びコーヒーを一口飲んだ。
「とにかく、土方先生は奥様を甘やかし過ぎているんじゃないですか?このままだと、奥様に完全に舐められてしまいますよ?」
「眞岡先生、ご忠告、有難うございます。」
「宮下の事は、僕が一度親御さんを学校に呼んで、じっくりと三人で話したいと思います。」

眞岡がそう言ったとき、昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴った。

「僕の話に付き合ってくださって、有難うございました。」

歳三が教室に入ると、何やら千尋の周りに数人の生徒達が集まって騒いでいた。

「おいてめぇら、もう授業始まってるぞ!」

歳三の姿に気付いた生徒達は、バツの悪そうな顔をして千尋の席から離れた。
千尋の様子が少しおかしいことに気づいた歳三は、放課後彼を数学準備室に呼び出した。

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最終更新日  2014年07月25日 21時07分46秒
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「すいません、連絡もせずに突然押しかけちゃって・・」
「いえいえ、どうぞ。」
「それじゃあ、失礼いたします。」

歳三が自宅に如月を招き入れると、彼女はリビングに入ってすぐキッチンの流し台に溜まっている食器の山を見た。

「すいません、散らかっていて・・」
「もしよければ、わたしが洗いましょうか?」
「いいえ、お気遣いなく。」
歳三はそう言うと、流し台に溜まっている食器を洗い始めた。
「先生の奥さん、どちらにいらっしゃるんですか?」
「家内は実家に帰っています。何でも、高校の同窓会があるとかで・・」
「美砂ちゃんを家に置いて行ったんですか?信じられないですね。」
「あいつは俺が仕事で家を空けている時、俺が帰って来るまで美砂と二人きりだから、たまには息抜きをしたいんでしょう・・」
「でも、普通病気の赤ん坊を連れて行くでしょう?何だか、奥さんってお子さんに薄情なんですね。」
如月の言葉を聞いた歳三は、思わず食器を洗う手を止めた。
「すいません、わたし少し言い過ぎましたね。」
「いいえ、気にしていませんから。」
「美砂ちゃんの様子はどうですか?」
「熱が下がって、快方に向かっています。明日、見舞いに行こうと思っています。」
「そうですか。土方先生、何か困ったことがあったら言ってくださいね、力になりますから。」
「有難うございます。」
「それじゃぁ、わたしこれで失礼しますね。」

如月は歳三に頭を下げると、リビングから出て行った。

(一体如月先生は何をしに来たんだ?)

翌朝、歳三が出勤すると、職員室でパソコンに向かっていた如月が椅子から立ち上がり、彼に会釈した。
歳三が自分の席に座ってノートパソコンの電源を起動させていると、鞄の中にしまっていたスマートフォンがメールの着信を告げた。

『暫く実家でゆっくりとしています。帰って来るまで美砂の世話を宜しくお願いします 琴子』

妻からのメールを読んだ歳三は、それを返信せずに削除した。
娘が肺炎になって入院したというのに、同窓会に出席する方が大事なのだろうか。
普通なら、同窓会が終わった後すぐに帰って、娘の様子を見に病院に行くだろうに。
琴子は美砂の事が心配ではないのだろうか。

「土方先生、ちょっといいですか?」
「はい・・」

歳三がノートパソコンから顔を上げると、そこには宮下真紀の担任である眞岡信二が立っていた。

「宮下真紀の事で、先生にお話をしたいことがあるのですが・・今、宜しいでしょうか?」
「今は忙しいので、後で宜しいでしょうか?」
「そうですか。では昼休みに、化学室でお待ちしております。」

眞岡はそう言って歳三に頭を下げると、職員室から出て行った。

「土方先生、朝のHRに遅れますよ。」
「はい。」

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最終更新日  2014年07月25日 20時10分05秒
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2014年05月14日

「琴子、久しぶり~!」
「久しぶり美紀子、元気にしてた?」
「うん。ねぇ、ここには琴子一人で来たの?格好いい旦那様はどうしているの?」
「ああ、あの人なら家で留守番しているわよ。」
「娘さんの世話を押し付けてここに来たの?」
「だって、いつもあたしばかり美砂の世話や家事ばかりして、不公平じゃない?たまには息抜きしたいわよ。」
「ねぇ、同窓会終わったらどうするの?」
「暫く実家に泊まるわ。だってあの人と結婚してから全然こっちに帰って来てなかったんだもん。」
「そう・・」
「ねぇ美紀子、折角今日みんなで集まったんだからさぁ、同窓会終わったら二次会やらない?」
「そうねぇ・・」
「ねえ、琴子に一体何があった訳?」
「さぁ・・でも普通赤ちゃん置いて同窓会に出るかしら?」
「ちょっと神経疑っちゃうわよねぇ。」
「あの子昔から変なところがあったけれど、子供産んでからますます変になってきたわよねぇ・・」
元クラスメイト達はカラオケボックスで浜崎あゆみを熱唱する琴子を冷ややかに見つめながら、そんなことを囁き合っていた。
「じゃぁ、またね。」
「じゃぁね~」
上機嫌でカラオケボックスを後にした琴子は、そのまま実家に向かった。
「ただいま~」
「琴子、あんた帰るならこっちに電話一本くらいしなさいよ!」
「いいじゃない、家族なんだから連絡なんて要らないでしょう?」
「急に来られても困るのよ。」
「ねぇお母さん、あたしの部屋まだあるわよね?」
「あるけど・・あんた、いつまでここに居るつもりなの?」
「一週間くらい。美砂は旦那が見てくれるから大丈夫よ。」
「大丈夫って・・あんた、赤ちゃんを置いてよく同窓会になんか行けるわね!」
「いいじゃない、たまには息抜きくらいさせてよ!お母さん、あたしもう寝るから、明日の朝起こしてね!」
琴子はそう母・千紗に怒鳴ると、自分の部屋へと引っ込んでしまった。
「姉ちゃん、また歳三さんと喧嘩したの?」
リビングでテレビを観ていた琴子の弟・雅史は、そう言うと千沙を見た。
「そうみたいね。雅史、余り琴子を怒らせるような事を言わないでよ。」
「わかった。でもさぁ、姉ちゃんがこのまま実家に居座る気だったら、俺も考えるからね。」
翌朝、千沙が琴子を起こしに彼女の部屋に行くと、琴子はベッドの上でいびきをかいて寝ていた。
「琴子、起きなさい。」
「まだ寝かせてよ~」
「今日東京に帰るんでしょ?」
「まだ帰らないわよ。」
琴子はそう言うと、頭からシーツを被って寝た。
「姉ちゃんは?」
「まだ部屋で寝ているわよ。」
「しょうがねぇな、姉ちゃん。あれでよく結婚できるよなぁ。あ、でき婚だったから仕方ないか。」
「あんた、朝っぱらからそんな話をしないで。朝ごはんが美味しく食べられないでしょう。」
「はいはい、わかったよ。」

東京では、歳三がキッチンでコーヒーを淹れていると、突然マンションのインターフォンのチャイムが鳴った。

「は~い、どなたですか?」
『土方先生、如月です。』
「すいません如月先生、今部屋が散らかっているので少しお待ちいただけますか?」

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最終更新日  2014年05月29日 15時39分25秒
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「肺炎ですね。暫く入院して様子を見ましょう。」
「先生、娘はよくなりますか?」
「そんなに心配しなくても大丈夫ですよ、お父さん。落ち着いてください。」
歳三は病院で自宅へ電話を掛け、琴子に美砂が肺炎に罹り、暫く入院することを伝えた。
『そう。それじゃぁ、あなた暫く美砂の世話頼むわね。』
「おい、お前母親だろう?まさか美砂が入院しているっていうのに、同窓会に行くつもりじゃねぇだろうな!?」
『行くに決まっているじゃない!あたしだってたまには息抜きしたいのよ!大体何よ、あなたは今まで好き勝手な事ばかりして・・』
受話器越しに響く琴子の怒声を聞いた歳三は、そのまま無言で受話器を元の場所に戻した。
翌朝、歳三が病院から帰宅すると、リビングのテーブルには一枚のメモが置かれていた。

“同窓会に行ってきます、美砂のこと頼むわね 琴子”

歳三はそのメモを細かくちぎると、それをごみ箱に捨てた。

「土方先生、おはようございます。」
「おはよう・・」
「顔色、少し悪いですね?何かあったのですか?」
「ああ・・娘が入院しちまってな。」
「そうですか、それは大変ですね。何かわたしに手伝えることはありますか?」
「そのお気持ちだけで嬉しいです。」
「そうですか、それじゃぁわたしはこれで失礼いたします。」
家庭科教師の如月絵梨は、そう言うと歳三に背を向け職員室から出て行った。
「トシ、美砂ちゃん入院しているのか?」
「ああ。琴子のやつ、美砂が入院しているっていうのに、高校の同窓会に行きやがった。」
「困ったことがあれば、いつでも俺に言えよ。」
「ありがとう、近藤さん。」
昼休み、歳三は学校を出て車で病院に向かった。
「美砂ちゃん、今はお薬飲んで寝ていますよ。」
「そうですか。すいません、ご迷惑をお掛けしてしまって・・」
「いいえ。奥様は今どちらに?」
「高校の同窓会に行っています。暫く実家の方に泊まるから、美砂の世話を宜しく頼むと・・」
「困ったお母さんですねぇ。」
「ええ、そうですね・・」
歳三は看護師の言葉に苦笑いしながら、ベッドの上で寝ている美砂を見た。
「土方先生、さようなら。」
「おう、気を付けて帰れよ。」
「トシ、今日は早めに帰ったらどうだ?」
「わかった。」
「気を付けて帰れよ!」
学校を出た歳三は、自宅の近くにあるスーパーで買い物をしていると、そこへカートを押した絵梨が現れた。
「土方先生も買い物ですか?」
「ええ、まぁ・・如月先生は?」
「息子が明日遠足なので、そのお弁当作りの材料を買いに来たんです。」
「そうですか・・それじゃぁ、俺はこれで。」
歳三はそう言ってカートを押すと、絵梨の前から去っていた。
何故か、歳三は彼女が苦手だった。
「ただいま・・」
誰も居ないリビングでそう呟いた歳三は、スーパーで買ってきた食材を冷蔵庫の中に入れた。
テレビの近くには、今朝取り込んだ洗濯物が散乱していた。

(アイロンがけくらいしろよ・・)

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最終更新日  2014年05月29日 15時39分09秒
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