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JEWEL

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連載小説:金と黒

2021年10月27日
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カテゴリ:連載小説:金と黒
「まぁ、おかしな事をおっしゃるのね。」
ヴィクターの言葉を聞いた女は、そう言って笑った。
「わたくしが売っているのはハーブです。」
「では・・」
「女はいつの時代も、己の命を削ってまでも美を手に入れるつもりですわ。」
「何だと?」
「砒素は、鮮やかな緑を生み出すものですわ。量を間違えてしまうのは、命取りになりかねませんわ。」
「何が言いたい?」
「ジェニー、これは一体どういうことなの!?」
ヴィクターと女が睨み合っていると、店のドアベルが鳴り、中に太った女が入って来た。
その顔は、ツィテと同様、醜く腫れ上がっていた。
「あらあら、お可哀想に。」
「笑い事じゃないわよ!」
太った女はそう叫ぶと、ある物をカウンターに叩きつけた。
それは、ツィテが口にしたのと同じ茶葉だった。
「痩せるって言うから買ったのに、何なのよこれは!」
「茶葉には確かに痩せる効果はありますが、個人差があると、ご購入の時にはっきりと説明したでしょう?」
「でも・・」
「返金なら致します。」
女は太った女にそう言うと、金貨が詰まった袋と小瓶を彼女に渡した。
「ありがとう。」
店から上機嫌な様子で出て行った女をヴィクターが見送ると、女は彼に先程太った女に渡した物と同じ小瓶をカウンターに置いた。
「それは?」
「あの方の、顔の腫れを治す解毒薬ですわ。これを、ツィテ様に飲まして差し上げて下さいな。」
「わかった・・」
「またのお越しを、お待ち申し上げておりますわ。」
女は不敵な笑みを浮かべると、店の奥へと消えていった。
「本当に、これを飲めば腫れが治るのですか?」
「はい。」
「ありがとうございます、先生。」
女の言葉に嘘はなく、彼女から渡された解毒薬を飲んで眠った後、あの酷く腫れ上がった顔はすっかり元に戻っており、ツィテは鏡で己の顔を見た後、思わず安堵の溜息を吐いた。
「良うございましたね、お嬢様。」
「えぇ。もう怪しいものには手を出さないわ。」
「その方がいいでしょう。」
「そうか。そのハーブ店の女店主がどうもあやしいな。」
「わたしも、そう思います。ルドルフ様、どちらへ?」
「少し野暮用へな。」
「はぁ・・」
ルドルフが言う、“野望用”とは、すなわち女との密会だ。
「お前も来るか?」
「いいえ、結構です。」
「何だ、つれないな。」
ルドルフはそう言うと、そのままヴィクターに背を向けて歩き出した。
「お帰りなさい、あなた。」
「ただいま。」
ヴィクターが帰宅すると、妻のエレーヌが彼を出迎えた。
「随分と疲れているわね。」
「あぁ、色々とあってね。」
「そう。」
エレーヌと共に夕食を食べながら、ヴィクターはあのハーブ店の謎めいた女店主の事が寝るまで頭から離れなかった。
「最近、吸血鬼騒ぎがこの近辺で起きているのですって。:
「へぇ、それは物騒だね。」
「何でも、その吸血鬼を見た人間は、その恐ろしさで気が狂ったそうよ。あなたも気をつけてね。」
「わかったよ。」
吸血鬼なんて、昔のおとぎ話の中にしか登場しないものだと、ヴィクターは“その日”まで信じていた。
「じゃぁな。」
「あぁ、またな。今夜はお前と久しぶりに会えて良かった。」
“その日”、ヴィクターは学生時代の友人と久しぶりに会って楽しく酒を酌み交わした。
上機嫌で、少し酒に酔いながらヴィクターが夜の街を歩いていると、路地裏の方から変な“声”が聞こえて来た。
(何だ?)
耳を澄ませてみると、その“声”は徐々にヴィクターの元へと近づいて来た。
(おいおい、嘘だろ・・)
すっかり酔いが醒めたヴィクターは、その“声”の主―巷を騒がしている吸血鬼を見て、恐怖の余り失神した。
“吸血鬼”が彼の喉元にその鋭い牙を食い込ませようとした時、その首は宙に舞った。
「ったく、面倒かけさせやがる・・」
そう言って吸血鬼の血で濡れた刃を払った黒髪の女は、舌打ちした後その場から離れようとした。
しかしその前に、彼女は銃を背後から突きつけられていた。

「動くな。」

(厄介だな・・)






最終更新日  2021年10月28日 21時43分15秒
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2021年10月16日
カテゴリ:連載小説:金と黒
―今年に入って三人目ですって・・
―恐ろしいわ・・
―犯人は吸血鬼なのかしら?
「お嬢様、マリー様からお手紙が届きました。」
「そこへ置いておいて頂戴。」
「はい。」
マリーの友人であるツィテは、髪をブラシで梳いた後、彼女が自分に宛てた手紙の封を切った。
そこには、また人が死に母が狂っている事などが書かれていた。
「お嬢様、客間にお客様が・・」
「わかったわ。」
親友からの手紙を読み終えたツィテは、自室から出て、階下にある客間へと向かった。
そこには、自分の元婚約者であるユリウスの姿があった。
「お久しぶりですわね。一方的にわたくしとの婚約を破棄したあなたが、今更わたくしに何のご用かしら?」
「ツィテ様、どうか・・」
「イザベル、お客様のお帰りよ!」
ユリウスはまだ何か言いたそうな顔をしていたが、その前に屋敷から叩き出された。
「朝から嫌な気分だわ。」
「お嬢様、どちらへ?」
「すぐに戻るわ。」
ツィテがそう言って屋敷から出ると、“ある場所”へと向かった。
「おやお嬢様、いらっしゃいませ。」
「“例の物”をお願い。」
「かしこまりました。」
ハーブ店の店主・ジェニーは、ツィテにそう言って金貨が詰まった袋と引き換えに、“例の物”を取り出した。
「どうぞ、これからもご贔屓に。」
「ええ。」
ツィテは、帰宅した後に、“例の物”をティーポットの中に入れた。
「お嬢様、ロザリア様がお見えです。」
「わかったわ。エリー、この“お茶”をロザリア様に。」
「わかりました。」
「あら、どうしたの?辛気臭い顔をして・・」
「ロザリア様、お忙しいのに一体何のご用でしょうか?」
「あなた、これからどうするつもりなの?」
「あなたに、関係ないでしょう?」
「大ありよ!あなたが独身だと、わたくしの立場が・・」
「お茶、冷めない内にどうぞ。」
「ありがとう。」
ロザリアは、何の疑いもなくツィテが“例の物”を入れたお茶を飲み干した。
「では、また暇があったら来るわね。」
「ええ、お待ちしておりますわ。」
厄介な客人が去り、ツィテは安堵の溜息を吐いた。
「お嬢様、どうかなさいましたか?」
「疲れたから、部屋で休んでいるわ。」
「はい。」
ツィテは自室に入ると、そのまま着替えもせず寝台の中に横になり、そのまま眠ってしまった。
「ん・・」
彼女が目を覚まして窓の外を見ると、そこは漆黒の闇に包まれていた。
一体、自分はどれほど眠っていたのだろう―そんな事を思いながらツィテが乱れた髪を整えようと鏡で自分の顔を見た瞬間、彼女は悲鳴を上げた。
「何なの、これ!」
「お嬢様、どうされたのですか?」
「わたしの顔が~」
「ひぃぃ~!」
ツィテの顔は、醜く腫れ上がっていた。
すぐさま医師が彼女を診察したが、原因が判らず治療のしようがなかった。
「ツィテ様、最近何か妙な物を口にされた事はございませんでしたか?」
「妙な物・・あのハーブ店で貰った、茶葉しか思いつかないわ。」
「それは、今もまだこちらにございますか?」
「ええ。」
医師は、ツィテから渡された“例の物”が入った茶葉を手に取ると、その臭いを嗅いだ。
「この茶葉を、暫く預からせて頂いてよろしいでしょうか?」
「えぇ、どうぞ。」
医師はツィテから預かった茶葉の成分を調べると、その中には人体に有害な物が含まれている事に気づいた。
「ルドルフ様、今よろしいでしょうか?」
「ヴィクターか。どうした?」
「この茶葉に、微量ですが砒素が含まれていました。どうやら、怪し気なハーブ専門店で、“美容茶”として売り出されているようです。」
「そうか。その店の主を調べろ。」
「はい。」
医師・ヴィクターは、ツィテが“毒茶”を購入したハーブ店へと向かった。
「あら、珍しい事。」
黒猫を抱いた店主の女は、そう言って蠱惑的な笑みを口元に浮かべた。
「いらっしゃいませ。」
「貴様か、砒素入りの茶を売ったのは?」






最終更新日  2021年10月16日 22時16分13秒
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2021年09月24日
カテゴリ:連載小説:金と黒

弔いの鐘が、村中にこだました。

―またなの?
―よく人が死ぬわね。
―半年前にも、あそこの大奥様が・・
村人達はヒソヒソとそんな話をしながら、仕事に精を出していた。
「オリヴィア、何をしているんだい、早くあっちのテーブルに酒を運びな!」
「はぁい。」
自分をこき使う女将に向かって内心舌を突き出しながら、オリヴィアは狭い店内を忙しく歩き回っていた。
まだ昼だというのに、店はそれなりに賑わっていた。
娯楽も何もない村では、気心が知れた友人達と酒を飲みながら他愛のない話をするしかないのだ。
―なぁ、聞いたか?あそこのお屋敷、また人が死んだらしいぜ。
―あそこ、呪われているんじゃねぇか?
客達の話を聞きながら、オリヴィアは彼らが高台にあるあの屋敷の事を話している事に気づいた。
あの屋敷には、ハプスブルク家と縁がある貴族が住んでいるというのだが、その姿を一度も自分達は見た事がなかった。
村人達は彼らが吸血鬼か、魔女などの闇の眷属なのではないかという馬鹿らしい噂が広まっていた。
その屋敷では、良く人が死ぬという異常事態が起きているからだろうか、その噂を本気で信じている者達が多い。
「オリヴィア、お疲れさん。」
「お疲れ様です。」
「これ、余ったからやるよ。」
「ありがとうございます。」
店主のグスタフは、時折店の残り物をオリヴィアに分けてくれる。
バスケットの中を覗くと、そこには揚げ立てのドーナツが入っていた。
グスタフが作るドーナツは絶品で、幼い弟達がよく喜ぶのだった。
「今日は、送っていかなくていいのかい?」
「はい。」
「そうか。銃は持っているね?」
この地域には熊がよく出没する為、村人達はナイフや銃で武装していた。
「勿論よ!」
「最近、ここらには山賊が出て来るから寄り道せずに帰るんだよ。」
「ええ!」
店から出たオリヴィアは、宵闇に包まれた街をランプ片手に掲げながら歩いていると、一台の馬車から目にも止まらぬ速さで彼女の前を通り過ぎていった。
馬車は、あの屋敷の方角へと消えていった。
(一体、何なの?あの屋敷で変な集会でも開いているの?)
オリヴィアがそんな事を思いながら家路を急いでいると、その屋敷では故人を偲ぶ会が開かれていた。
「あぁ、また一人死んでしまったわ。この家でもう何人、死んでしまったのかしら?」
「お母様・・」
「呪われているのよ、この家は!」
喪服姿の老婦人は、そう叫ぶと気を失った。
陰鬱な集まりが終わった後、マリーはドレッサーの前で結い上げていた髪を解いて溜息を吐いた。
「お嬢様、今よろしいでしょうか?」
「どうぞ、入って。」
「失礼致します。」
屋敷の執事長が銀の盆に載った蜜蝋が捺された手紙をマリーに手渡すと、彼女はその封を切った。
そこには、流麗な文字で、彼女の幼馴染からお茶会の誘いの旨が書かれていた。
(お茶会、ねぇ・・)
マリーは下書き用の紙を引っ張り出すと、幼馴染の手紙の返事をそこに書き始めた。
“親愛なる、我が愛しの友へ・・”
(これで良いわ。)
「この手紙を、メアリーの元へ届けて頂戴。」
「かしこまりました。」
オリヴィア達が住む村から遠く離れたウィーンの歓楽街では、一人の娼婦が殺されていた。

彼女は、全身の血を抜かれていた。






最終更新日  2021年09月30日 22時05分32秒
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