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薄桜鬼 現代パラレル二次創作小説:誠食堂ものがたり

2021.11.21
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「薄桜鬼」の二次創作小説です。

制作会社様とは関係ありません。

二次創作・BLが嫌いな方はご遠慮ください。


「八郎、何でてめぇがここにいる?」
「働きに来たんだ。」
「言っとくが、うちは即戦力を求めている。お前ぇみたいな金持ちの社会勉強なんざお呼びじゃねぇんだ。」
「僕を余り見縊らないでくれる?」
「へぇ、そう言うのなら、お前ぇが接客業が務まるのかをとくとこの目で見てやろうじゃねぇか!」
歳三は、そう言うと八郎を睨んだ。
「南蛮チキン定食三つ、鶏の唐揚げ定食四つ、親子丼二つ上がったよ~!」
「はいよ!」
八郎はテキパキと店内を歩き回り、客からの注文を聞き取った。
「やりますね、伊庭さん。」
「ふん、あれ位出来る。」
「まぁ、いいんじゃないんですか、雇っても。伊庭さんはこの店の戦力になりますよ。」
「そうか。」
「トシ、伊庭君を雇ってくれないか?」
「あんたがそう言うんなら、仕方ないな。」
「ありがとう、トシ!」
「大袈裟だなぁ、あんた。」
歳三はそう言って溜息を吐くと、沢庵を壺の中から取り出した。
(また、腐っていやがる。)
「邪魔するぞ。」
「てめぇ、いい加減にしやがれ!」
歳三はそう叫ぶと、沢庵を千景の顔に投げつけた。
「また懲りずにあそこへ行ったのですか。」
「うるさい、出せ。」
千景は天霧から白いレースのハンカチを受け取り、沢庵で汚れた顔をそれで拭いた。
ハンカチは黄ばんだ。
「はい、アップルパイです!」
「頂きます!」
「美味いな、伊庭君のアップルパイ。何処で作り方を習ったんだ?」
「実は僕、パティシエになりたくて、今一人暮らしをしながら、調理専門学校に通っているんです。アップルパイの作り方は、母から習いました。」
「へぇ、何で実家から出たんだ?」
「金持ちにも、色々と事情があるんだよ。」
「そうか。」
「僕は、いつか自分の店を持ちたいんだ。」
「夢を持つのは、いい事だ。」
「そうですよね!」
八郎が誠食堂のメンバーとなってから、店の人手不足は解消した。
彼は、良く働いてくれるし、何より愛想がいい。
「今日は忙しかったですね。」
「そうだな。まぁ、クリスマスシーズン中だから、ランチタイムのデザートに出しているケーキも好評ですし。」
「まぁな。それにしても、最近弁当の無料配布に並んでいる路上生活者の年齢層が少し変わっているような気がするんだ。」
「確かに。女性や若者が多いような気がするな。」
 ある日の夜、歳三達はそう言いながら酒を飲んでいた。
「コロナで会社が倒産したり、アルバイト先から解雇されたりして、路頭に迷ったりしている人が多くなっているからな。」
「そうですよね。」
「総司は?」
「部屋で休んでいますよ。それよりもトシさん、来年彼受験ですよね?」
「あぁ。」
「店は上手くいっていますし、総司君の成績なら良い高校に行けますよ。」
「まぁ、こればかりは本人が決めるしかねぇな。」
「学歴は関係ないといいますけど、やっぱり高校位は出ておかないと・・」
「うちはお前ぇの家みたいに余り教育に金をかけられねぇが、あいつの為になるなら何だってやってやりてぇ。」
「あ、そういえばトシさん、来週の金曜空いています?」
「今の所、何も予定は入っていないが、何かあるのか?」
「実は、父がトシさんの事を気に入ってね、一度会ってみたいと言っているんだ。」
「へぇ・・」
「まぁ、そんなに緊張しなくてもいいよ。ほんの、ささやかな集まりだから。」
「そうか。」
八郎から彼の実家のホームパーティーに誘われ、歳三はその週の金曜日、勇と共に伊庭家へと向かった。
「なぁ、どこもおかしくないか?」
「あぁ、大丈夫だ。」
「二人共、デート楽しんでくださいね。」
「総司、済まないな、受験勉強が忙しいのに留守番を頼んで。」
「いいですよ。気を付けて行ってらっしゃい。」
「わかった。」
歳三と勇を玄関先で見送った後、総司はケージの前で自分を見つめる“もちお”と目が合った。
「今日は、僕達だけだね。」
(これの何処が、“ささやかな集まり”なんだよ!)
伊庭家のホームパーティーに出席した歳三は、リビングの中央に氷の彫像が置かれている事に気づき、えらい所に来てしまったと思った。
「トシ、俺達ここに来て大丈夫か?」
「あぁ。」
あらかじめ、勇はスーツ、歳三は訪問着でこのパーティーに行こうと思い、パーティーの前に基本的なマナーを身につけようと、駅前の大型書店で冠婚葬祭やマナーについて書かれた本を読み漁っていた。
「あ~、何だか緊張するな・・」
「大丈夫だ。」
「トシさ~ん!」
歳三と勇がそんな事を話していると、そこへ八郎がやって来た。
「八郎、これが、“ささやかな集まり”なのか?」
「そうだよ。」
(金持ちの感覚はわからねぇな・・)
歳三がそんな事を思いながら苦笑していると、そこへいつも歳三から沢庵ビンタを喰らっている風間千景がやって来た。
「今夜のお前は美しいな。」
「は?」
「俺の所へ来い。そうすれば、一生贅沢させてやる。」
「俺ぁお前ぇみたいな金で物を言わせるような奴は嫌いだね。」
「何だと!?」
「心は金で買えねぇって事さ。」
「わかった・・行くぞ、天霧。」
「はい。」
(あいつ、何かひっかかるんだよなぁ・・)
「トシ、どうした?」
「俺、あいつと会った事があるんだが、思い出せねぇんだ。」
「そうか。まぁ、無理に思い出さなくてもいいだろう。」
「そうだな・・」
伊庭家のパーティーから帰ると、総司は居間で勉強をしていた。
「こんなに遅くまで起きていて大丈夫か?」
「ええ。むしろ寝ようと思ったら、目が冴えちゃって・・」
「そうか、余り無理するなよ。」
「はい。」
「勝っちゃん、明日は店を休もうぜ。色々と疲れたぜ。」
「そうだな。」
歳三達がそんな事を話している時、千景は風間邸のダイニングで遅めの夕食を取っていた。
(向こうは、俺の事は憶えておらぬのか・・)
「どうしましたか、風間?」
「あの者・・土方といったか・・向こうは、俺と会った事すら憶えていないらしい。」
「まぁ、それはそうでしょう。まだお互い子供だったのですから。」
「そうか・・」
千景は、何故か自分が生まれる前の記憶―すなわち前世の記憶を持っていた。
はじめは、時折夢に現れる自分と瓜二つの顔をした男が最初誰なのかわからなかったが、やがてそれは自分の前世である事に気づいた。
夢の中で現れるのは、いつも一人の男だった。
美しく艶やかな黒髪をなびかせ、宝石のように美しい紫の瞳に、千景は夢の中でありながらもいつも魅せられていた。
その男といつか会ってみたい―そう思いながら千景が、“運命の日”を迎えたのは、彼の十歳の誕生日パーティーでの事だった。
主役ではあったが、このパーティーを開いた父親の目的は、社交だった。
大人達の社交場で子供が退屈するのは当たり前で、千景は母屋から人気のない中庭へと抜け出した。
明治の頃、風間家の何代目かの当主が贅を尽くして専門の職人に作らせた美しい薔薇園は、月明かりに照らされて美しい姿を客達に見せていた。
噴水の前まで千景が来ると、そこには先客が居た。
真紅の地に美しい白梅の模様が描かれている、一流の職人の手によるものと思しき美しい振袖と、漆黒の帯を締めたその少女は、眉間に皺を寄せた後、千景を睨みつけながら、彼にこう言い放った。
「何見てんだ、てめぇ?」
(やっと見つけた。)
夢の中でしか会えなかった男と“運命の出会い”を果たした千景は、感動の余りその少女の唇を塞いだのだった。
「何しやがる、この変態!」

冬空に、小気味いい音が薔薇園に響いたのだった。

あれからもう十年以上経ったが、千景は未だにあの少女―もとい土方歳三に恋をしていた。

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最終更新日  2021.11.21 21:47:10
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2021.10.23




「薄桜鬼」の二次創作小説です。

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「おはよう、総司。昨夜はよく眠れたか?」
「はい・・」
そう言った総司の顔は、少しやつれていた。
どうやら、“きなこ”の夜泣きは一晩中続いていたようだった。
「眠気覚ましのコーヒー、淹れておいてやったぞ。」
「ありがとうございます。」
「トシ、引っ越しの準備は進んでいるか?」
「あぁ。」
家族が増え、手狭になったマンションの部屋からの引っ越しを勇が決めたのは、引っ越し先のマンションが店から徒歩五分という近距離にあるからだった。
今住んでいるマンションは、店から片道徒歩三十分かかる距離で、部屋の広さは勇と歳三、猫の二人と一匹暮らしには充分だが、猫と犬、ファンシーラットと総司という新しい家族と暮らすには狭過ぎた。
「断捨離は大方終わったぜ。」
「そうか。」
「僕も終わりましたよ。元々、荷物は少ない方だったから楽でしたよ。」
「そ、そうか・・」
「嫌だなぁ、そんな悲しい顔をしないで下さいよ。僕は、あなた達の家族となれて幸せなんですから。」
「総司~!」
「勝っちゃん、遅れるぜ。」
「あ、じゃぁ行って来る!」
勇はそう言うと、慌ててトースターからトーストを取り出すと、それを咥えてそのまま玄関から出て行った。
「お父さんがスーツなんて珍しいなぁ。」
「雑誌の取材を受けるんだとよ。」
「へぇ。」
「まぁ、コロナ禍でみんな大変な中、うちだけ繁盛しているものなぁ・・」
「引け目を感じる事、ないんじゃないんですか?今は苦しいですけれど、何とかなりますって!」
「あぁ、そうだな・・」
歳三と総司は、朝食を済ませた後、食堂でランチの仕込みをした。
「今日は、お客さん少ないですね。」
「緊急事態宣言が発令されてから、まだ数週間しか経ってねぇからな。」
「そうですね。そういえば最近、SNSで大量注文詐欺に遭っている飲食店が増えているんですって。」
「うちも気をつけねぇとな。」
歳三がそんな事を総司と話していると、店に備え付けてあった電話がけたたましく鳴った。
「はい、誠食堂です。」
相手は何もしゃべらず、一分間黙った後、電話を切った。
「いらっしゃいませ!」
「チキン南蛮定食ひとつ!」
「は~い!」
緊急事態宣言発令から数週間たったが、ランチタイムになると弁当を買いに来るサラリーマンやOLが長い行列を作っていた。
「あ~、疲れた。」
「夕飯の仕込み、今の内にしておきます?」
「そうだな。」
総司が夕飯の仕込みを店の厨房でしていると、また電話がかかって来た。
「出なくていい。」
「え?」
電話がけたたましく鳴った後、数秒後にまた鳴った。
「イタズラ電話ですかね?」
「そうだろうな。それよりも総司、宿題はちゃんとやっているか?」
「えぇ。」
中学校に入学してから、総司はNPO法人が経営する学習塾へと通い始めた。
そこには、総司のようにと読字障害や算数障害、発達障害などを抱える子供達が通っている。
「この前、学校のテストで満点取りました!」
「へぇ、凄いじゃねぇか!」
「小学校の時と違って、中学校には学習支援のボランティアの方が来てくれて、学校の先生よりも良く勉強を見てくれます。」
「そうか。総司、学校は楽しいか?」
「少しは。でも、コロナの所為で大抵クラスの大半はオンライン授業だし、給食は黙食だし、部活も中止になって、剣道教室も中止になって再開のメドが立っていなくて・・」
「町内会のイベントも中止になって、みんなコロナの所為でイライラしちまっているし。」
「本当に終息するんでしょうかね?」
「さぁな。俺達が今出来る事は、コツコツと地道に働く事だ。」
「そうですね。」
その日、深夜になっても勇は家に帰って来なかった。
スマホに何度も掛けたが、繋がらなかった。
一睡も出来ずに二人が彼の帰りを待っていると、突然玄関のチャイムが鳴った。
『警察です。』
「警察が、うちに何のご用でしょうか?」
『実は、ご主人が夜間病院に運ばれまして・・』
「え!?」
警察によると、勇は昨夜轢き逃げ事故に遭い、意識不明の重体だという。
「どうして、こんな事に・・」
「ご主人は、轢き逃げに遭った後、すぐに通行人によって救護されてこちらの病院に運ばれたので、一命を取り留めました。」
歳三と総司が、勇が搬送された病院で彼の担当医からそんな説明を受けていると、そこへ勇の両親がやって来た。
「お久しぶりです、お義父さん、お義母さん。」
「トシさん、勇の様子は?」
「一命を取り留めましたが、意識不明の重体です。」
「そうか。」
「二人共、今日は疲れたでしょう。病院の近くにホテルを取っているから、そこで休みましょう。」
「はい・・」
「ねぇ土方さん、お父さんは死なないよね?」
「あぁ、大丈夫だ。」
勇は轢き逃げに遭ってから数日後、意識を取り戻した。
「心配かけて、済まなかったな二人共・・」
「良かった。」
「お父さん、お店の事は僕達に任せて、しっかり身体を治して下さいね。」
「あぁ、わかった。」
勇が入院している間、歳三と総司は店を切り盛りして、家事も二人で分担した。
「お父さん、早く帰って来ないかなぁ。」
「あぁ、そうだなぁ。」
轢き逃げ犯が捕まったのは、勇の事故から一月後の事だった。
犯人は無免許の上に飲酒運転をしていた。
「被害届を取り下げろ?」
「はい・・」
「待って下さい、向こうが100%悪いのに、被害届を取り下げろっておかしくないですか?」
「それは・・」
「もしかして、向こうから何か言われたのですか?」
「はぁ・・」
「では、あちらには被害届は決して取り下げないつもりだと、お伝え下さい。」
「わかりました・・」
「ったく寝言は寝て言えってんだ。」
「トシ、俺は大丈夫だから・・」
「わかったよ。それにしても、ふざけた事を抜かしやがる。」
「暫く店の事はお前に任せてもいいか、トシ?」
「あぁ。なぁ勝っちゃん、食堂の新メニューの事なんだが・・」
「へぇ、クッキーか。」
「まぁ、アレルギーがあるお客さん用に作る予定なんだが、試作品が出来たら試食してくれねぇか?」
「あぁ、わかった。」
勇の退院は、二月かかった。
季節はすっかりクリスマスソングが町中に響く頃になっていた。
「ほぉ、ハムスターのクッキーか。可愛いなぁ。」
「猫のクッキーも作ってみたぜ。」
「へぇ、いいじゃないですか。ねぇ、今日は早めにお店を閉めて、お父さんの退院祝いのパーティーをしましょうよ。」
「そうだな。」
三人はその日は店を早く閉めて、自宅マンションの部屋で勇の退院祝いのパーティーを開いた。
「もうすぐクリスマスですね。ケーキ、どこで買いますか?」
「いつもの所でいいんじゃないか?」
「そうだな。」
「ねぇ、来年のクリスマスもお正月も、家族みんなで過ごしましょうよ。」
「あぁ。」
年末年始の時期は、コロナ禍でも商店街は活気に満ちていた。
誠食堂の新作、“どうぶつクッキー”は、SNSで話題となりそれと比例して客足もコロナ以前のように戻って来た。
だが、そこでひとつの問題が出て来た。
それは、人手不足だった。
人件費を余りかけないようにしていた勇だったが、人手が足りないと店の回転率が悪くなっている事に気づき、漸く彼はアルバイトを雇う事にした。
「SNSで呼びかけてみるか?」
「それだと、安全性が低いですよ。やっぱりここは、タウン誌や求人サイトに広告を出した方がいいですよ。」
「そうか・・」
「求人広告を出すのは、俺に任しておけ。」
「ありがとう、トシ。」

数日後、一人の青年がアルバイトの面接に来た。

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最終更新日  2021.10.23 22:51:02
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2021.10.14




「薄桜鬼」の二次創作小説です。

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「お宅の息子さんの所為で、うちの子は今度の大会に出られなくなったのよ!」
「それはうちの子も同じですが、何か?」
歳三がそう言って加害生徒の親を睨むと、彼女は一瞬怯んだが、彼を睨みつけながらこう言い放った。
「まともじゃない子は、親もまともじゃないのね!」
「はぁ!?じゃぁ何か、一方的に一人の人間を袋叩きにしたあんたの子の方がまともだってのか!」
「何ですって!?」
「言っておくが、あんたらのガキがしたのは犯罪だ!未成年だからって何でも許されると思うなよ!」
「二人共、落ち着いて下さい!」
「うるせぇ!先生、もしかして俺達をここへ呼んだのは、示談にしろとかいうんじゃねぇだろうな!?」
「そ、それは・・」
「もう警察に被害届は出したので、俺達はこの件を“なぁなぁ”で済ませるなんて思わないで下さいね!」
「は、はい・・」
「ちょっと先生、何納得しているのよ!?」
「うちの子の将来がかかっているのよ!」
「てめぇら、自分らの子が悪い事をしたのに、“ごめんなさい”も言えねぇのか!」
「ひぃ・・」
「トシ、もうその辺にしておけ。」
「帰るぞ、勝っちゃん!」
「待てって!」
呆然としている佐原達を教室に残し、歳三はその場から去っていった。
「お帰りなさい。」
「ただいま。」
「学校に呼び出されたのは、僕の事件の事でしょう?」
「あぁ。」
「それよりも、さっきこんなFAXが来てたよ。」
「サンキュ。」
総司からFAXを受け取った歳三は、それを見て絶句した。
“店を閉めろ。さもなければ店を焼く。”
「何これ・・」
「総司、警察に連絡しろ。」
「わかった。」
警察が通報を受けて土方家に来た時、総司は少し不安そうな様子でレティシアの頭を撫でていた。
「総司、部屋へ行ってろ。」
「わかった。」
「このFAXの送り主について心当たりは?」
「いいえ。コロナも終息したっていうのに、気味が悪い・・」
「何かわかったら、こちらから連絡致しますので。」
「お願い致します。」
謎のFAXが送られて来てから、店の前に大量の吸い殻が捨てられるようになった。
「ったく、一体誰が・・」
「ねぇ、この吸い殻全部口紅ついているよ?」
「じゃぁ犯人は女か?」
「それは警察に調べて貰おうよ。」
吸い殻を店の前に捨てた犯人は、総司の同級生の母親だった。
彼女は今回の事件で自分の子どもが停学処分になった事を知り、逆恨みでやってしまったと、警察で自白した。
「何でうちの子が・・」
「まだわからないのか、お宅のお子さんは傷害事件を起こしたんだ。下手すりゃ被害者は死んでいたのかもしれないんだぞ!」
「うわぁぁ~!」
「良かったね、犯人捕まって。」
「そうだな。それよりも総司、怪我の具合はどうだ?」
「少し良くなったよ。でも、ギブスの中が蒸れて臭いのが嫌かな。あと一週間で取れるからいいけど。」
「そうか。」
「ねぇ、前はホームレスの炊き出しをしていたけれど、どうしてやめちゃったの?」
「実は、変なメールが届いてな。“これ以上炊き出しをするつもりなら、店に火を放つ”ってやつだ。」
「犯人は、まだ見つからないの?」
「あぁ。」
「変な人も居るんだね。」
「さてと、今日は弁当を作る日だから、手伝ってくれ。」
「わかった。」
一週間後、総司の左腕のギブスが取れた。
「あ~、辛かった。」
「良かったなぁ、とれて。」
「うん。これで、あの臭さとはさよならだ。」
「ただいま~。」
歳三と総司がそんな事を話していると、丁度町内会の会合を終えた勇が帰宅した。
「お帰り。」
「いやぁ~、久々にみんなに会って、色々と話が弾んでつい長居してしまったよ。」
「コロナの所為で中々会えなかったから、仕方ねぇよ。」
「明日のランチの仕込み、終わったよ~」
「総司、ありがとう。」
「どういたしまして。」
「コロナも終息したし、また無料弁当配布サービス、再開するか。」
「公園でもするの。」
「いや、知人の厚意で、都内のカトリック教会で出来る事になったんだ。」
「そうか。あの脅迫メール、まだ誰が送ったものなのかわからねぇのか?」
「あぁ。」
勇はそう言うと、歳三が淹れてくれたコーヒーを飲んだ。
「はい、お父さん。」
「お、ドーナツか。」
「この前、新しくオープンしたドーナツ屋さんのクーポン貰ったから、買って来たんだ。」
「そうか、ありがとう!」
「おい勝っちゃん、甘い物ばかり食っていると太るぜ?」
「すまん・・」
「この前病院の健康診断で“太り過ぎ”って言われたんだろ?」
「う・・」
「明日から、俺とウォーキングしよう!」
「わかった・・」
「僕も付き合うよ、リハビリがてらに身体を動かしたいし。」
「ありがとう、総司!」
こうして勇は、歳三と総司と共に毎朝ウォーキングする事になった。
「はぁ、はぁ・・」
「この位でへばるなんて、情けねぇな。」
「父さん、そんなに疲れます?」
「俺は、お前達と違って、運動不足だから・・」
勇はそう言うと、首に巻いているタオルで額の汗を拭った。
「それにしても、朝早くに身体を動かすのは気持ちがいいなぁ。」
「あぁ、そうだな。」
「さ、少し休憩して歩きましょう。」
「わかった。」
公園でひと休みした後、勇は歳三達と公園内を一周した。
「なぁ、何処かで声が聞こえないか?」
「気のせいだろう?」
「いや、あっちの方から・・」
勇はそう言った後、突然遊歩道の方へと走り出した。
「待てって!」
「どうしたんですか、父さん!?」
歳三と総司が慌てて後を追うと、彼は段ボール箱の前に座り込んでいた。
その中には、“誰か飼って下さい”という貼り紙と共にゴールデンレトリバーの子犬と、ファンシーラットが恐怖で震えていた。
「酷いな・・」
「あぁ。」
「とにかく、この子達を動物病院へ連れて行こう。」
「わかった。」
犬とファンシーラットの飼い主は現れず、歳三達は子犬を“きなこ”、ファンシーラットを“もちお”と名付けた。
「ハムスターは飼った事はあるが、ファンシーラットははじめてだなぁ。」
「それに、ハムスターと違ってケージも大きいやつが必要らしい。」
勇は帰宅途中で寄った書店で購入したファンシーラットの飼育本に目を通しながらそう言った後、溜息を吐いた。
「まぁ、今日は色々とペットショップに行ったりして忙しかったから、疲れただろう?後は俺と総司がケージの組み立てをやっておくから、あんたは休んでくれ。」
「わかった、お休み。」
勇が寝室に消えた後、歳三と総司は“きなこ”と“もちお”のケージを組み立てた。
「お~いもちお、きなこ、お前達も休め。」
歳三の言葉を理解したかのように、二匹はそれぞれのケージの中に入って休んだ。
「俺達も寝るか。」
「うん。」
その日の夜、歳三達が寝室で休んでいると、突然リビングの方から“きなこ”の鳴き声が聞こえた。
「どうした?」
「子犬って、夜泣きするんですよね。」
総司はそう言って“きなこ”を抱き上げると、自室へと引き上げた。
「暫くこの子、僕の部屋で寝かせます。」
「わかった。」

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最終更新日  2021.10.14 19:58:49
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「薄桜鬼」の二次創作小説です。

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「どうした、勝っちゃん?」
「なぁ、今週末だったよなぁ、運動会?」
「そうだが、それがどうした?」
「さっき、学校からこんなメールが届いてな。」
勇はそう言うと、歳三にスマートフォンの画面を見せた。
「どれどれ・・」
そこには、“運動会中止のお知らせ”というメールが表示されていた。
「総司、楽しみにしていたのにな。」
「勝っちゃん、俺に良い考えがあるぜ・・」
歳三はそう言うと、ある事を勇の耳元で囁いた。
「え、運動会中止なの?」
「あぁ。だから、今日は俺達と公園でピクニックしよう!」
「本当!?」
「あぁ、本当だ。でもチロとレティシアはお留守番だ。外の世界は動物には危険だからな。」
「わかった!」
運動会当日、勇達は総司を連れて近所の公園へと向かった。
「うわぁ、おいしそう!」
「総司、沢山食べろよ!」
「いただきま~す!」
公園で三人が楽しくピクニックをしていると、そこへ制服姿の警察官二人組がやって来た。
「すいません・・」
「おじさん達は、僕のパパだよ。」
「そうなのかい?」
「はい。」
「すいません、俺達実は、まだ籍を入れていないんで、ちょっと勘違いさせちゃったようで・・」
歳三は、そう言って左手薬指にはめている結婚指輪を警察官達に見せた。
「失礼しました。」
「総司、これからお前が好きな所へ連れて行ってやるぞ。」
「じゃぁ、もう家に帰ろう。チロとレティシアが心配だし。」
「そうだな。」
三人が帰宅すると、レティシアがリビングのドアを爪で引っ掻く音が聞こえた。
「ただいま。」
「チロ、レティシア、お留守番ありがとうな。」
勇がレティシアの頭を撫でると、彼女は嬉しそうに喉を鳴らした。
「チロ、ただいま。」
総司がそう言いながらチロのケージを覗くと、チロは少し苦しそうな様子で鳴いていた。
「お父さん、チロがおかしいよ!」
「何だって!?」
勇達がチロを動物病院へと連れて行くと、チロは軽い肺炎と診断された。
「季節の変わり目は、小動物にとっては体調を崩しやすい時季ですからね。」
「先生、チロは治るの?」
「わからないけれど、総司君がチロちゃんの事を看病したら、きっと治るよ。」
「わかりました・・」
それから総司は、チロの看病を必死にした。
 その結果、チロの肺炎は奇跡的に完治した。
「総司君、ありがとう。チロちゃん、元気になって良かったね。」
「うん!」
「なぁトシ、今回は良かったが、いつかあいつはチロとレティシアと“別れる”日が来るかもしれん。その時はあいつの傍に居てやろう。」
「あぁ。」
総司が勇達の家族となって、三年の月日が経った。
中学校に入学した時、総司の背が急に伸び始めた。
それと同時に、彼は食堂の仕事を手伝うようになった。
「じゃぁ、行って来ます。」
「行ってらっしゃい。」
「チロ、行って来ます。」
総司はチロの遺影の前に手を合わせると、自宅から出た。
チロはあれから元気になったが、寿命には勝てなかった。
彼は、桜舞う季節に二年十ヶ月で亡くなった。
最期まで、彼は生きる事を諦めなかった。
総司達は、チロを看取った後、彼の遺体をプランターに埋め、“小さな親友、ここに眠る”という小さな墓石をその上に置いた。
「なぁトシ、最近総司に変わった様子はないか?」
「ないが、どうしたんだ?」
「実は、あいつの部屋をこの前掃除した時、こんな物を見つけたんだ。」
「これは・・」
勇が歳三に見せたものは、“死ね”と書かれた一枚の画用紙だった。
「なぁ、もしかして・・」
「こういう事は、本人が打ち明けてくれるまで何もしない方がいい。」
「そうか。」

(また、か・・)

歳三がランチの準備をしていると、外から妙な視線を感じた。
ねっとりと、絡みつくような視線。
毎回、高級スーツを着てこの店に沢庵ビンタを喰らいに来るキンキラ男のものではない、”誰か“の視線。
「トシ、どうした?」
「いや、少し疲れが溜まっていて・・」
「そういえば、ここ最近休み無しで働いていたからなぁ。三日位、店を休みにするか。」
「いいのか?」
「俺達はロボットじゃない。身体を休めないと、元も子もないぞ。」
「そうだな。」
こうして、歳三達は店を三日休む事になった。
「それで?何かあるんだろう、トシ?」
「あんたには何でもお見通しみてぇだな。」
帰宅した歳三は、溜息を吐いて勇の方を見た。
そして彼は、数日前から何者かに見られている事を勇に話した。
「そうか。」
「なぁ勝っちゃん、さっき誰かとスマホで話していたよな?」
「あぁ、実は、母さんからの電話だったんだ。」
「お袋さんから?」
「あぁ。今度心臓の手術をする事になったから、その前にトシと総司君に会いたいって・・」
「そうか。総司には俺の方から伝えておく。」
歳三がそう言って寝室に入ろうとした時、彼のスマートフォンが鳴った。
「もしもし、土方です。え、総司が病院に運ばれた!?」
総司が通う学校の教師から、彼が病院に運ばれたという連絡を受けて二人が病院へと駆け付けると、診察室から左腕を三角巾で吊った総司が出て来た。
「総司!」
「土方さん、近藤さん・・」
「一体、何があったんだ!?」
「沖田君の保護者の方ですね?はじめまして、沖田君のクラス担任の、佐原と申します。」
「先生、総司はどうしてこんな怪我をしたんですか!?」
「実は・・」
担任の佐原の話によれば、総司は帰宅途中に近所の公園を通りかかったところ、同級生達とトラブルになり一方的に殴られたのだという。
「加害者達は、総司君と同じ剣道部の部員でした。」
「先生、実はこの前息子の部屋を掃除していたら、こんなものを見つけたんです。」
「それは・・」
勇が例の画用紙を佐原に見せると、彼は渋面を浮かべた。
「心配かけて、ごめん・・」
「謝るな。腹減っただろう?夕飯すぐに用意してやるからな。」
「うん・・」

その後、夕食を食べながら総司はポツリポツリと勇達に学校の話をした。

剣道部で一年生でありながら、大会出場メンバーに選ばれた事。

その所為で、同級生達から嫌がらせを受けた事。

「そうか、辛かったな・・」
「一番辛いのは、試合に出られない事だよ。大会に初めて出場できるから、一生懸命練習していたのに・・」
「総司・・」
夕食後、総司は自室に引き籠もってしまった。
「暫く、そっとしておいておこう。」
「それにしても、総司が今まで辛い思いをしているなんて知らなかったな。」
「俺達に、心配を掛けさせまいとしていたんだろう。」
「そんな気を遣わなくてもいいのに。」
「とにかく、明日学校で詳しい話を先生から聞いてみよう。」
「あぁ。」
翌日、二人が佐原と総司の事で教室へと向かうと、そこには先客が居た。
「皆さん、お揃いになったようですね。」
教室に入って来た佐原は、そう言った後軽く咳払いした。
「あなた方が、沖田君の保護者の方?」
「えぇ、そうですがあなたは?」

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最終更新日  2021.10.14 19:49:22
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「薄桜鬼」の二次創作小説です。

制作会社様とは関係ありません。

二次創作・BLが嫌いな方はご遠慮ください。


「ですが・・」
「とにかく、これ以上あの子に関わらないで下さい!」
院長の坂田みどりはそう言うと、歳三達を睨みつけた後、院長室から出て行った。
「取りつくしまがない、というのはこういう事だな。」
「あぁ・・」
「帰ろう、総司君の事が心配だし、店の仕込みはまだやっていないし・・」
歳三達が施設を後にしようとした時、一人の職員が彼らの元へと駆け寄って来た。
「待って下さい!」
「あなたは、確か病院で会った・・」
「勝っちゃん、この人と知り合いなのか?」
「トシ、この人なんだ、沖田君の事をノートにまとめて渡してくれたのは。」
「はじめまして、小田と申します。あの、ここだと何ですから、何処か静かな所でお話しましょうか?」
「はい。」
施設を出た後歳三達が向かったのは、二十四時間営業のファミリーレストランだった。
「沖田君が発達障害だと気づいたのは、わたし自身がそうだからです。」
「え?」
「見た目は普通の人と変わらないんですが、わたしは二年前、三十歳の時にASD(自閉症スペクトラム症候群)と診断されました。
当時、勤めていた職場でいじめに遭って、その所為でうつになってしまって・・メンタルクリニックで、漸く今まで抱えていた違和感の正体がやっとわかったんです。」
そう言った小田沙織は、少しぬるくなったミルクティーを飲んで溜息を吐いた。
「今の仕事は、障害者雇用で採用されて、以前の職場は一般採用枠雇用だったのですが、見た目が普通だから、報連相が出来ない時点で“社会人失格”の烙印を押され、マルチタスクも出来ない、雑談が出来ない・・それらの事が重なってわたしは職場で孤立し、心を病みました。それ以前にも・・中学・高校時代にも、いじめに遭いました。もっと早くわかっていたら、あんなに辛い思いをしなくて済んだのに・・だから、沖田君にはわたしのような辛い思いをさせたくないんです!」
沙織はそう言葉を切ると、歳三達に頭を下げた。
「どうか、あのこをあなた達の“家族”として迎えてあげて下さい!」
「わかりました。」
歳三達が帰宅すると、リビングでは総司がレティシアと、新しく家族となったゴールデンハムスターのチロと遊んでいた。
「お帰りなさ~い!」
「こら総司、駄目だろう、チロをレティシアが居るリビングに連れて来たら。」
「大丈夫です、ほら・・」
レティシアはチロを睨みつけながら恐る恐る近づくと、チロは彼女の鼻を噛んだ。
レティシアは悲鳴を上げ、キャットタワーへと逃げていった。
「まるで、トムとジェリーだな?」
「総司、チロはちゃんとケージに入れておけよ。ハムスターは小さいから、ちょっとした事で死ぬことがあるんだからな。」
「うん!」
「うんじゃなくて、“はい”だろ。」
「はい!」
その日の夜、歳三と勇が寝室で休んでいると、総司が居る和室の方から悲鳴が聞こえた。
「何だ!?」
二人が和室に入ると、総司が泣き叫んでいた。
「総司、どうした?」
「いやだ、いやだ~!」
「大丈夫だ、ここにはお前をいじめる奴は誰も居ないから!」
二人は総司が泣き止むまで、彼を抱き締めた。
「やっと寝たな。」
「あぁ。」
「俺達に会うまで、この子は色々と辛い思いをしてきたんだ。俺達が、この子を支えてやろう。」
「わかった。」
歳三と勇は、総司を自分の“家族”として正式に迎える為、家庭裁判所に居た。
「遅いですね?」
「えぇ・・」
総司の母親・みきは、五分遅れてやって来た。
「すいませ~ん!」
彼女は、酒臭かった。
「あの子、もう要らないからあんた達にあげる~」
みきはあっさりと、総司の親権を放棄した。
「総司君、元気でね。」
「さようなら。」
こうして総司は、歳三達と“家族”の一員となった。
「おはよう、総司。もうご飯出来てるぞ。」
「はぁ~い!」
総司は味覚過敏で食べられる物が少なかったが、何故か勇と歳三の手料理だけは食べられた。
「総司、もうすぐ運動会だな。」
「うん・・」
「お弁当作って見に行くから、楽しみにしてろよ!」
「わかった・・」
総司の顔が何処か暗い事に、歳三は気づいた。
「総司、何か俺達に隠している事ねぇか?」
「ないよ・・」
「じゃぁ、これはどうしたんだ?」
歳三はそう言うと、総司に授業参観日のプリントを見せた。
「僕、誰も来てくれないから、それ・・」
「いいか、お前ぇはもう一人じゃねぇ。俺達が居るだろ!」
「ごめん、なさい・・」
「謝るな。」
歳三はそう言うと、総司を抱き締めた。
「そうか・・」
「なぁ勝っちゃん、何とか都合をつけて行ってやろうぜ。」
「あぁ、俺達は家族だからな!」

そして、授業参観日当日。

「なぁ勝っちゃん、おかしくねぇか?」
「大丈夫だ。それにしても、トシのスーツ姿は久しぶりに見るな。」
「そうか?まぁ、ここ三年ばかり着物ばかり着ていた所為か、ネクタイの締め方を忘れちまったよ。」
「はは、トシは顔が良いから何でも似合うな。俺がネクタイを締めてやろう。」
「ありがとう。」
「髪、伸びて来たな。」
「そろそろ切らねぇとな・・」
「いや、そのままにしてくれ。」
「あんた、俺が大学卒業した時、髪切って凄く落ち込んでいたよな?」
「あぁ、お前の黒髪は綺麗だから・・」
「まぁ、昔あった長さまで伸ばすのもいいかな?」
「トシ・・」
「おいおい、そんな顔するなって、調子が狂う。」
「あぁ、済まない・・」
「じゃぁ、行って来る。」
授業参観日の教室は、何処か子供達は浮足立った様子だった。
「なぁ総司、お前の母ちゃん、来るのか?」
「来る訳ねぇじゃん、こいつ母さん居ねぇし。」
「お前んち、父ちゃん二人だもんなぁ。」

総司は、歳三が来るのを待っていた。

そして五時間目の算数の時間が始まった。

「今日は、分数の引き算をしま~す!」
「は~い!」

総司は他のクラスメイト達が次々と手を挙げているのを見ながら、問題を解いていた。
その時、教室の扉が開いて、歳三が入って来た。

彼は漆黒のスーツに身を包み、肩先までの長さがある黒髪をハーフアップにしていた。

―誰、あの人・・
―イケメンじゃない?

「あれ、誰の父ちゃん?」
「俺の父さんだよ。」
「え~!」
「いいなぁ、あんなイケメンが父ちゃんとか、うらやましい~!」
「そこ、静かにしなさい!」

総司は、少し誇らしげな気持ちになった。

「先生、さようなら~」
「みんな、寄り道しないで帰るのよ~」
「は~い!」

放課後、保護者の懇親会が行われた。

「はじめまして、沖田総司の養父の、土方歳三です。」
「あぁ、何処かのホストさんかと思ったら、総司君のお父さんでしたか。」
「皆さんに、お伝えしたい事があるので、こうしてこちらに参りました。」

歳三はそう言って軽く咳払いすると、総司の発達障害について話した。

「あの子は、今まで皆さんにご迷惑ばかりお掛けしてきましたが、あの子はとても良い子です。ですからどうか、あの子を温かい目で見守ってやってください、お願いします!」

そう言って深々と頭を下げる歳三を、他の保護者達は温かく迎え入れてくれた。

それから数日経ち、食堂に千景がやって来た。

「またてめぇか?」
「そんな顔をするな、歳三。俺はただここには飯を食いに来ただけだ。」

白スーツ姿の千景がそう言って空いているカウンター席に腰を下ろすと、歳三は間髪入れず沢庵で彼の顔を叩いた。

「またここに居たのですか、風間?」
「天霧、これから俺は・・」
「さぁ、帰りますよ。」
「だから・・」
「帰 り ま す よ。」

天霧は歳三達に一礼すると、千景を無理矢理席から立たせ、店から出て行った。

「一体何がしたいのですか、あなたは?沢庵ビンタをされにわざわざ高級ブランドの白スーツを着て・・」
「俺はただ、あいつに会いたいだけだ。」
「しつこい男は嫌われますよ、大概になさい。」
「うるさい、早く車を出せ。」
「はい・・」

天霧は溜息を吐きながら、車のハンドルを握った。

「なぁ、あいつは一体何しに来たんだろうな?」
「さぁな。それよりもトシ、どうしてあんなにあの人に冷たくするんだ?」
「あいつとは昔付き合っていたんだが、色々とあってな・・別れたんだ。」

歳三は、静かに千景と付き合っていた頃の話を、勇に話し始めた。

歳三と千景が初めて会ったのは、彼が、“メンバーの頭数が足りないから”と無理矢理女装させられて参加した合コンだった。
その時歳三は腰下までの長さがある黒髪をシニョンでまとめ、真紅のドレスとハイヒール姿だった。
長身の持ち主でありながら何処か中世的な美しさを持った歳三は、同性にも異性にもモテた。
その日の合コンも、歳三ばかりが男性陣に声を掛けられ、うっとうしくなった彼は足早にその場を後にした。
飲み足りなかったので彼はホテルのショットバーでカシスオレンジを数杯飲んでいたが、酒に弱い彼はすぐに泥酔してしまった。
そして翌朝気が付くと、ホテルのベッドの上で千景と共に全裸で寝ていたのである。
その日以来、歳三は千景に彼が住むマンションの部屋に呼ばれ、抱かれた。
そんなある日、歳三が住むマンションの部屋に突然、千景の秘書と名乗る男が訪ねて来た。

“坊ちゃまはいずれ風間家を継がれるお方。どうか坊ちゃまと別れて下さい。”

その時歳三は、彼が風間家の御曹司である事を知った。

「それで、彼とはどうなったんだ?」
「別れた。まぁ、あいつとは身体から始まった関係だからな。後腐れなく別れたから良かった。」
「そうか・・」
「向こうは、まだ俺に未練があるみたいだが、俺はあんたしか要らねぇ。」
「トシ・・」
「勝っちゃん・・」
「トシ・・」
二人が見つめ合っていると、そこへ一人の青年が店に入って来た。
「トシさ~ん!」
「てめぇ・・」
「やっと見つけましたよ、トシさん!僕と結婚して下さい!」
青年はそう叫ぶと、歳三に大輪の薔薇の花束を差し出した。
「悪いな、俺は・・」
「え、まさか・・」
青年は、歳三と厨房に居る勇を交互に見た後、床にくずおれた。
「嘘だ、トシさんが人妻だなんて・・」
「オイ落ち着け、俺はまだ・・」
「嫌だ、トシさんは僕のだぞ!」
「どさくさに紛れて変な事言うな。」
「トシ、その人は・・」
「あぁ、こいつは大学時代の後輩で、伊庭八郎だ。」
「トシさん、トシさぁ~ん!」
「うるせぇ、黙れ。」
「トシさ~ん!」
暫く青年は歳三から離れようとしなかった。
「僕、ずっと幼稚園の頃からトシさんの事を想っていたんですよ、それなのに~!」
「何でここがわかったんだ?」
「インスタですよ。」
「済まんトシ、店の宣伝になるかと思って、アカウントを作ったんだ。」
「そうか。それよりも八郎、いい加減離れてくれ、仕事が出来ねぇ。」
「わかったよ~!」

(はぁ、調子狂う・・)

歳三がそんな事を思いながら厨房で皿洗いをしていると、そこへ勇がやって来た。

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最終更新日  2021.10.14 19:47:42
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「どうした、トシ?浮かない顔して?」
「いや、何でもない。」
「公園で見かけたあの子の事が気になっているんだろう?」
「どうして、そんな・・」
「何年、お前と暮らしていると思っているんだ?」
「敵わねぇな、あんたには。」
「あの子は、児童養護施設に引き取られたそうだ。」
「そうか。そこではちゃんと、飯食えているのかな?」
「そうだと思いたいな。」
勇はそう言って溜息を吐きながら、無料弁当の仕込みを終えた。
「コラ、教室から出て行かない!」
「先生、また沖田君が・・」
二人が営む食堂の近くにある小学校で、一人の少年は今日もまた癇癪を起こして学校から飛び出していった。
「沖田君、待ちなさい!」
結局少年―総司は、施設のスタッフに引き取られていった。
「全くもぅ、こんなに散らかして!少しは片付けようとか思わないの!?」
「ごめんなさい・・」
「さっさと片付けなさい!」
総司は俯きながら、散らかった物を机の上から片付け始めた。
「あの子は一体、どういうつもりなのかしら?」
「本当よね。やっぱり、あんな親に育てられたんじゃぁねぇ・・」
「あのままじゃ、誰も・・」
物心ついた頃から、父は居なかった。
母親は水商売をしていて、総司はいつも放っておかれた。
総司は、ADHD(注意欠陥・多動性障害)と、LD(学習障害)のひとつである、読字障害(ディスレクシア)を抱えていたが、彼も母親もわからなかった。
“あんたの所為で、あたしの人生滅茶苦茶よ!”
母の交際相手は、母と共に総司を殴った。
彼が死んで施設に入った総司だったが、そこは安息の地ではなかった。
“何で片付けないの!?”
“好き嫌いせずにちゃんと食べなさい!”
“もう、何でみんなと同じように出来ないの!”
小学校に転校した途端、総司は周囲に溶け込めず、いつも癇癪ばかり起こしていた。
“沖田君の字、変なの!”
“もう、ちゃんとみんなと同じように書きなさい!”
(どうして、僕だけ怒られるの?)
総司は、まるで出口の見えないトンネルの中を歩いているかのようだった。
「あ、沖田君また残している!」
「もぅ、駄目でしょう!」
食事の時間は、総司にとって最も苦痛な時間だった。
彼は感覚過敏で、聴覚と味覚が人一倍敏感だった。
だから、施設で出される食事は口に合わず、いつも残していた。
総司が食べられる物といえば、カップラーメンやレトルト、冷凍食品、スナック菓子などだった。
勉強が出来ない分、運動は得意だった。
スポーツ、特に週に一度市民会館で行われている剣道教室で汗を流していると、嫌な事を全て忘れてしまうのだった。
「一度精神科に診せた方がいいわね。」
「何を言っているの、沖田君はああいう“性格”なの!うちがちゃんとあの子を“躾け”れば、“治る”ものなの!」
「でも・・」
「いちいちあの子に構っている暇なんかないのよ!」
院長からそう言われ、スタッフの一人は黙るしかなかった。
そんな中、事件は起きた。
いつものように総司が食事を残していると、それを目ざとく見つけた院長が、彼を黒板の前に立たせた。
「ちゃんと反省するまで、ここに立っていなさい!」
「ギャ~!」
酷い癇癪を起こした総司は、そのまま食堂を飛び出し、自分の私物が入ったリュックサックを掴むと施設から出て行った。
行く当てもなく、総司は夜の街を彷徨った。
その日、東京を含む関東地方は大雪に見舞われていた。
雪が舞い散る中、総司は寒さに震えながら、ズボンのポケットから一枚の名刺を取り出した。
そこには、誠食堂の住所が書かれていた。
住所を頼りに総司が道を歩いていると、彼はゴミ捨て場に捨てられたハムスターケージを見た。
その中には、怯えた顔で自分を見つめているゴールデンハムスターが床材の中から現れた。
放っておけず、総司はハムスターケージを抱えて歩き出した。
「やっと終わったな、勝っちゃん。」
「あぁ。」
「俺、暖簾を外してくる。」
「わかった。」
暖簾を店の中へとしまおうとした時、歳三は店の前に何故かハムスターケージを抱えている少年が立っている事に気づいた。
「おい、大丈夫か?」
「助けて・・」
「トシ、どうした?」
「勝っちゃん、そいつを病院へ連れて行け!俺はハムスターを夜間の動物病院へ連れて行く!」
「あぁ、わかった・・」
少年を勇に任せ、歳三はハムスターを夜間診察してくれる動物病院へと向かった。
そこは良くレティシアを診てくれる所で、ハムスターなどの小動物を診てくれる所だった。
「この子は?」
「ゴミ捨て場に捨てられていたんです!」
「そうですか・・」
ハムスターは寒空の下長時間放置されていたが、内臓には異常なかった。
「最近多いんですよね、コロナ禍で在宅勤務が増えたから動物を飼って捨てる人が。犬猫もそうだけれども、ハムスターは生体の値段が安いから、子供の遊び相手にとかいう安易な理由で飼って捨てる人も多いし、学校で飼って面倒見れなくなって捨てる人が、ここ数ヶ月増えているんですよ。」
「ハムスターは夜行性だし、ストレスに弱いから学校では向いていないのに。」
「そうですよ。それに、動物をぬいぐるみとか何かと勘違いしている人が多いですよね。動物を飼うのをいっそ免許制にして、虐待したりしたら剥奪するというシステムにした方がいいと、僕は常々思っているんですよ。」
「本当にそうですね。」
「お宅は猫ちゃん飼われていますから、お部屋はちゃんと分けておかないといけませんね。」
「えぇ。」
歳三がキッチンカーでハムスターを連れて帰宅すると、先に帰宅していた勇が、リビングの隣にある部屋で、ペットショップで購入したハムスターの飼育用品を棚に整理していた。
「お帰り、トシ。」
「ただいま。勝っちゃん、あの子は?」
「あの子は、脱水症状を起こして入院中だ。養護施設の方が来て下さって、あの子が抱える実情をこのノートに書いて下さったんだ。」
「そうか・・」
それは、B5サイズの方眼ノートだった。
そこには、“総司君の取り扱い説明書”というタイトルがつけられていた。
中を開くと、そこには総司少年のこだわりや、得意な事や苦手な事が十ページにわたって詳細に綴られていた。
“大きな音(クラクションや学校のチャイム音、水洗トイレの音、赤ちゃんの泣き声)などが苦手です。”
“酸味が強い物(ネギ、キムチなど)、カレーライスが苦手です。”
”二つの事が同時に出来ません。“
“部屋の片づけが苦手です。”
“常に落ち着きがなく、自分の思い通りにならないとすぐに癇癪を起こします。”
それらを見た後、歳三は彼が発達障害なのではないかと疑った。
「トシ、どうした?」
「なぁ勝っちゃん、あの子うちで引き取れねぇか?」
「難しいな・・俺達は法的には、“結婚”していないからなぁ。」
「そうだな・・」
日本には、近年同性パートナーの結婚を認めようとしている動きが高まってきているが、“少子化に拍車がかかる”という反対意見もあり、未だ法改正には至っていない。
「まぁ、あの子が俺達の所に来たのは何かの縁だ。」
「あぁ・・」
数日後、歳三と勇は総司を精神科へと連れて行き、そこで知能検査を受けた。
「先生、あの子は・・」
「そうですね、こちらのノートを拝見する限り、総司君にはADHDの特性がありますね。母親の育児放棄と身体的・精神的虐待を受けて来たのは、その特性が原因だったのでしょうね。育児は定型発達の子でも大変なのに、発達障害を持つ子の育児は更に大変です。総司君はまだいい方で、中には成人して三十代や四十代となってから発達障害と判る方が多いんです。」
「そうなのですか・・」
その日の夜、勇と歳三は今後の事を話し合った。
「店をやりながら育児をするのは大変だぞ。」
「そうだが・・」
「一度、あの子が居た施設に行ってみよう。」
「あぁ。」

二人が店の定休日に総司が居た児童養護施設へ向かうと、六十代と思しき女性が二人を出迎えた。

「沖田君は、決して発達障害なんかじゃありません!あの子の“性格”は、こちらが厳しく躾ければ治りますから!」

院長の言葉を聞いた二人は、驚きの余り絶句した。

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最終更新日  2021.10.14 19:44:40
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「薄桜鬼」の二次創作小説です。

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「勝っちゃんは休んでいてくれ。」
「わかった。」
歳三は勇にそう言うと、奥の休憩室から出た。
「どうした、坊主?」
「あの、お弁当まだありますか?」
そう言って五百円玉を握り締めた小学校高学年位の少年は、季節は真冬だというのに、半袖だった。
「坊主、少し待ってな。」
歳三はそう言うと、厨房へ向かい、唐揚げ弁当を作り始めた。
「はいよ。お代は要らねぇ。」
「ありがとうございます!」
「学校は、どうしたんだ?」
「行ってません・・四月から。父さんは僕が小さい時に死んで、母さんはいつも夜遅くまで働いています。新しいお父さんは、一日中お酒ばかり飲んで寝てる・・」
少年はそう言うと、唇を噛み締めながら俯いた。
彼がその“新しい父親”から虐待を受けているのは明らかだった。
「坊主、何か困った事あったら、ここに電話しな。」
そう言って歳三が少年に弁当と共に渡したのは、自分のスマートフォンの番号が書かれたメモだった。
「ありがとうございます・・」
弁当を持って自分に向かって一礼した少年は、何処か悲しそうな眼をしていた。
「シ、トシ!」
「あ、済まねぇ、少しボーっとしちまって・・」
「大丈夫か?顔色が悪いぞ?」
「ちょっと・・奥で休んでくる・・」
「そうした方が良い。」
ランチのピークが過ぎ、ディナーの下ごしらえを勇に任せた歳三は、奥の休憩室で仮眠を取った。
「大丈夫か、トシ?」
「あぁ・・」
「少し熱があるな。」
勇はそう言うと、そっと歳三の額に掌を当てた。
「今日は俺一人で大丈夫だから、病院へ行った方がいいぞ?」
「あぁ、そうする・・」
歳三は店を早退して、病院へと向かった。
「風邪ですね。まだ寒さが厳しいし、余り無理しないで下さいね?」
「はい・・」
一週間分の薬を貰い、歳三は帰路に着く途中、公園であの少年を見かけた。
もうすぐ日が暮れようとしているというのに、少年はじっとブランコの上に座ったままだった。
一瞬歳三が声を掛けようとした時、少年の元に中年の男がやって来た。
男は、一言二言何か少年に言うと、拳で彼の頬を殴った。
少年は、男から殴られても顔色ひとつ変えず、とぼとぼとした様子で男の後ろについていった。
家で夕飯の支度をしていても、歳三はあの少年の事が気になってしまい、カレーを焦がしてしまった。
「済まねぇ・・」
「焦げたカレーも美味いぞ!」
「そ、そうか・・」
「今日は早く寝た方がいい。」
「わかった・・」
寝室のベッドで横になっていると、半分開いたドアの隙間から、レティシアが入って来た。
「何だ、俺を心配してくれているのか?」
歳三はそう言ってレティシアの頭を撫でると、彼女はゴロゴロと嬉しそうに喉を鳴らした。
「お休み。」
温かい布団の中で眠りながら、歳三はあの少年の事を想った。
彼はちゃんと、食べているのだろうか。
夜中の二時頃、遠くから消防車のサイレンが聞こえた。
「トシ、お前も起きたのか。」
「何があったんだ?」
「数軒先で火事があったそうだ。」
「そうか。」
火事の様子が気になった二人は、マンションから出て火元の家の方へと向かった。
「危ないから下がって!」
「ねぇ、あそこ沖田さんの所じゃない?」
「本当だわ、あそこ・・」
「またあいつ酒飲んで暴れたのよ、きっと。」
「男にだらしない母親を持った子供が可哀想ねぇ。」
近所の住民達がそんな事を話していると、燃え盛る家の中から遺体が入った袋を消防隊員が運び出していた。
「たっちゃん、たっちゃん!」
「危ないから、下がって!」
「いや~、たっちゃん!」
いつの間にか住宅街の前に停められていたタクシーの中から飛び出してきた水商売風の女が、金切り声を上げて髪を振り乱していた。
「家が火事だっていうのに、こんな時間まで・・」
「どうせまた、“お仕事”なんでしょう?」
「子供をほったらかしにして・・」
「総司君は?まさか・・」
「おい、あれ総司君じゃないか!」
消防隊員の一人に抱きかかえられながら、火傷を負ったあの少年が家の中から出て来た。
「・・何だ、生きてたの。あんたが死ねば良かったのに。」
母親が、押し殺したかのような声でそう呟いたのを、歳三は聞き逃さなかった。
母親ならば、子供が無事である事を手放しで喜ぶべきではないのか。
だが、世にはこの女のような、母性の欠片すらない者が居るのだ。
たとえば、子供にまるでペットの犬猫につけるかのような変な名前をつけたり、子供を己のアクセサリーのように着飾らせたりする、一部の親。
「トシ、帰ろう・・」
「あぁ・・」
歳三は、救急車に乗せられてゆく少年を見送ると、勇と共にその場を後にした。
「あの子、どうなるんだ?」
「母親があんな様子だと、施設行きだろうな。」
「そうか。」
「お前が気に病む事はない。それよりも、風邪を早く治さないと。」
「あぁ、そうだな・・」
キッチンカーが二人の元にやって来たのは、あの火事から数日後の事だった。
「どうだ、いいだろう?」
「あぁ・・」
歳三は、浅葱色にドクロのデザインがあしらわれたキッチンカーを見て、若干笑みを引き攣らせた。
「なぁ勝っちゃん、何でドクロにしたんだ?」
「いやぁ、格好良いだろ?」
「そうだな・・」
「キッチンカーも来た所だし、これから巡る所を決めないとな!」
そういえば、勇はドクロが大好きなのだという事を、歳三は今思い出した。
「熱、少し下がってきたな。」
「あぁ。」
「余り無理しないでくれよ。」
風邪を治した歳三は、その週の水曜日、勇と共に新しいキッチンカーで新宿へと向かった。
公園に着くと、他のボランティア団体がホームレスへの無料炊き出しをしていたが、歳三達のキッチンカーの前には温かい食べ物を求める人々が長蛇の列を作った。
「あと一時間でなくなるな。」
「あぁ。」
三百個用意していた無料弁当は、正午前には残り十個のみとなっていた。
「無料弁当いかがですか~?」
「とても美味しいですよ~!」
公園で炊き出しをしている歳三の姿を、千景は車の中から眺めていた。
「出せ。」
「かしこまりました。」
キッチンカーを勇が自宅マンションへ向けて運転していると、背後から一台の車がついて来ている事に気づいた。
「どうした?」
「あの車、さっきからこの車について来ているんだが・・」
「あやしいな。」
二人の車が交差点で信号待ちをしていると、彼らの車を尾行している赤いスポーツカーは、信号を無視して何処かへと消えていった。
「何だったんだ、あれ?」
「さぁ・・」
毎週水曜日、その赤いスポーツカーは二人のキッチンカーを交差点まで尾行し、去っていった。
「ったく、気味が悪いったらありゃしねぇ。」
「一度、警察に相談してみるか。」
勇は赤いスポーツカーに尾行されている事を警察に相談したが、まともに取り合ってくれなかった。
「事件が起きねぇと駄目か。」
「まぁ、今のところ危害が加えられていないし・・」
「そうだな。」
キッチンカーで炊き出しを勇達がいつものように公園でしていると、そこへ一人の少年がやって来た。
「唐揚げ弁当ひとつ、お願いします。」
「あいよ!」
歳三がそう言って少年の方を見ると、彼の左手には痛々しい火傷の痕があった。
(もしかして、この子は・・)
「ありがとうございました。」

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最終更新日  2021.10.14 19:44:02
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「薄桜鬼」の二次創作小説です。

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その食堂は、東京の都会の、片隅にひっそりと佇んでいた。

浅葱色に「誠」の字を白く染め抜いた暖簾が目印で、店の中に入ると、壁一面にメニューが貼られていた。
この食堂の一番人気のメニューは、女将手作りの沢庵が添えられた、「塩むすび定食」である。
一見地味でありながら、海苔のパリっとした食感と、ホカホカで美味しい白米との相性が抜群なのだ。
これを目当てに毎日来る客も居て、店はそれなりに賑わっていた。
「トシ、チキン南蛮定食上がったぞ!」
「はいよ!」
店を切り盛りするのは、白い割烹着姿が眩しい、女将の土方歳三と、その夫の近藤勇である。
元々は大手飲食チェーンで勤務していた二人であったが、会社員生活に早めに終止符を打ち、コツコツと貯めていた金で駅前から少し離れた路地裏に、自分達の“城”を建てたのだった。
「なぁ、こんな所でいいのか?駅前のガード下だったら、もっと客が・・」
「あそこは集客が見込めるが、ここだと家賃が向こうより安いしいざという時に助かるだろ。」
「へぇ・・」
最初は勇の言葉に歳三は疑問を持っていたが、やがてコロナウィルス感染拡大により、飲食店は軒並み営業自粛を強いられるようになり、駅前の飲食店は高額な家賃が払えず、次々と閉店していった。
しかし、路地裏の近藤達の店は、そのあおりを受けなかった。
だが、外出自粛を含む「緊急事態宣言」が発令され、店は閑古鳥が鳴くようになり、一時期勇は店を閉めようかどうか悩んでいたのだが、歳三が、“宅配やテイクアウト中心に暫くやってみないか”と提案を出し、店の経営は徐々に開店当時の活気さを取り戻しつつあった。
営業時間は、午前八時から、午後十時まで。
酒類の提供は店主の意向で一切せず、モーニングとランチ、ディナーのみでやっている。
「ふぅ、忙しかった。」
モーニングの提供時間を終え、歳三は溜息を吐いて店の裏で煙草を吸った。
この店を二人でやらないかと勇から言われたのは、四年前のクリスマス・イヴだった。
『会社を辞めて、どうするんだ?』
夕食にワインを飲みながら、歳三が勇にそう尋ねると、彼は溜息を吐いた後、“もう今の仕事が嫌になった”とこぼした。
外食チェーン企業に二人が就職して、もう四年目を迎えようとしているが、毎日十六時間労働と過酷なノルマ、そして上司からのパワー・ハラスメントに耐える日々を送っていた。
勇は、学生時代の溌溂さが消え、いつも死んだ魚のような目をしていた。
“良いんじゃねぇか、あんな会社に義理立てする意味なんてねぇよ。それに、このままだとあんた死んぢまうぜ?”
“ありがとう、トシ。”
それから勇は会社を退職し、歳三は彼が退職した二月後に会社に退職届を出した。
『本当に辞めるのかね?君は若手のホープとして期待していたというのに、残念だよ。』
“短い間でしたが、お世話になりました。”
散々社員をこき使い、苛めておいて、辞めるとなると急に媚びて社員を引き留めようとする会社には、もう未練など残っていない。
晴れ晴れとした気持ちで会社から出た歳三は、天を仰いで溜息を吐いた。
その後、不動産業者と共に店舗の物件探しに奔走し、今の物件を見つけたのだった。
「トシ、朝から働いて疲れただろう?ランチまでまだ時間があるから、少し家に戻って休んだらどうだ?」
「あぁ、そうするよ。ランチの仕込みももう終わっているしな。」
歳三はそう言って店の裏口から外に出て、近くの駐輪場へと向かった。
そこに停めていた自転車に跨った彼が向かったのは、店から片道十分位かかるマンションだった。
ここの六階に、歳三と勇は暮らしている。
以前住んでいたのは、会社から二駅分離れたマンションに住み、毎朝満員電車に揺られていたが、店を始めてからはそこを引き払い、ストレスフリーの生活を送っている。
マンションのエントランスでオートロックを解除した後、歳三はエレベーターで六階の部屋へと向かった。
「ただいま~」
歳三がそう言いながら玄関先で靴を脱いでいると、カリカリという音がリビングの方から聞こえて来た。
彼がリビングのドアを開けると、一匹の美しい毛皮を持った猫が、甘えた声を出しながら歳三の足元に擦り寄って来た。
「そんなに甘えて、俺に会いたかったのか?」
歳三はそう言って屈むと、愛猫の頭を撫でた。
彼女は、保護猫カフェで会って、勇と共に一目惚れした子だった。
コロナ禍で、“暇潰しに”ペットを飼い、“思っていたのとは違う”、“懐かないから要らない”と、身勝手な理由で動物を捨てる人が増えている。
歳三は幼少の頃から、いつも周りには動物が居て当たり前の生活を送っていたし、最期まで彼らの面倒を見ていた。
動物を「家族」として迎えるのなら、それは当然の事であり、飼い主として当然の務めだと思っていた。
だから、動物の命をまるで汚れた食器や壊れたゲーム機か何かのように捨てる人間が許せなかったし、理解したくもなかった。
勇と相談し、彼女―“レティシア”がこの家にやって来たのは、昨年の暮れの事だった。
「今ごはんやるからな、待ってろよ。」
歳三がそう言うと、彼女はまるで彼の言葉が解るかのように、嬉しそうに鳴いた。
愛猫が美味そうにご飯を食べている姿を見ながら、歳三も少し遅めの昼食を取った。
といっても、前日の売れ残った弁当なのだが、捨てるよりは良い。
「ご馳走様でした。」
歳三はそう言って胸の前で合わせると、食べ終わった弁当の容器と、レティシアの餌皿を軽く洗った後、少しこたつに入って休んだ。
年明けのような厳しい寒さではないが、まだ一月という事もあり、肌寒い日が続いていた。
そろそろ戻ろうかと歳三が思っている時、不意にこたつの上に置いてあったスマートフォンがけたたましく鳴った。
「勝っちゃん、どうした?」
『トシ、うちの弁当に虫が入っているという苦情が来て・・』
「わかった、すぐ行く!」
歳三は慌てて部屋から出て自転車で店へ戻ると、そこにはスマートフォンを振りかざしているパーカー姿の男が、周囲を威嚇するかのように大声で怒鳴っていた。
「てめぇ、何こんな物売ってんだ?」
「申し訳ありません・・」
周囲の客達は、ヒソヒソとそのクレーマーの方を時折見ながら、『あれ絶対わざとだよね?』と囁き合っていた。
「お客様、このお弁当はいつ購入されましたか?」
「二日前だよ!」
「あれ、おかしいですね?うちのお弁当は、いつも作り置きはしてない筈なんですが・・それに、このカメラには、あなたが何かをうちの“お弁当”に入れている姿が映っているんですけれど?」
 歳三はそう言うと、男にこの店の監視カメラの映像を見せた。
「そ、それは・・」
「警察、行きましょうか?」
「すいません・・」
男は歳三の通報を受け、駆け付けた警察に逮捕された。
「トシ、済まなかったな。」
「これ位、どうって事ねぇよ。」
歳三はそう言って勇に微笑むと、レジへと向かった。
「ありがとうございました~」
その日の夜、最後の客を送り出した後、歳三は暖簾を店の中へ入れた。
「はぁ、疲れた。」
「さてと、店じまいして帰るとするか。」
「おう。」
歳三達が店を出て帰宅した時には、もう午後十一時を回っていた。
「今日の売り上げは先月と比べて上がっているな。」
「まぁ、ほとんど宅配とテイクアウトだけどな。段々客足が戻って来たから、嬉しいぜ。」
「そうだな。それよりもトシ、そろそろ新しい事を始めないか?」
「新しい事?」
「あぁ。キッチンカーをやろうと思うんだ。店の定休日に、公園でホームレスの炊き出しをしようと・・」
「へぇ、いいじゃねぇか。弁当は店の厨房で作るんだろう?」
「ああ。今、食事も満足にできない人が沢山居る。それに、店が一番大変だった時に、支えてくれたのは常連さん達だった。だから、今度は俺がみんなに恩返しをしたいんだ。」
「いいじゃないか。」
「キッチンカーは、知人から一週間後に譲り受ける事になっていて、保健所の許可も下りている。」
「そうか。となると、あとは弁当の値段だな?」
「店で出しているものと同じだから、三百円前後で出せると思う。」
「なぁ、思い切って百円にしねぇか?あ、それよりも無料で出さねぇか?三百円だと高いだろ?」
「そうだな・・」
それから二人は、一晩中キッチンカーの事について語り合った。
「おはよう、トシ。」
「おはよう、勝っちゃん。」
翌朝、歳三と勇は二人で並んで台所に立って朝食を作った。
今日は、週に一度の定休日だ。
「なぁ、来週からキッチンカーするんだろ?弁当のメニューはどうするんだ?」
「塩むすび弁当はどうだ?あれなら単価が安いだろう?」
「そうか。」
翌日、歳三が店の厨房でキッチンカー用の弁当を作っていると、店の引き戸がガラガラと大きな音を立てて開き、白いスーツ姿の男が中に入って来た。
「すいません、まだ準備中で・・」
「急に会社を辞めたかと思ったら、こんな所に居たのか、歳三。」
「てめぇ、ここには何しに来やがった?」
「貴様を口説きに来ただけだ。」
白スーツの男―風間千景は、塩が入った壺を握り締めて自分を睨みつけている元恋人を見た。
「帰れ!」
「フン、強情なのは昔から変わらないな。」
「てめぇの顔なんざ見たくもねぇ!」
歳三は塩が入った壺をカウンターに置くと、奥から沢庵を取り出し、それを千景の顔に叩きつけた。
「・・また来る。」
「畜生、てめぇに出す飯はねぇ!」
沢庵塗れの白スーツ姿の主を見た千景の秘書・天霧は、また彼が何かを“やらかした”のだとわかった。
「“覆水盆に返らず”ですよ、風間。」
「うるさい、出せ。」
「・・かしこまりました。」
天霧は溜息を吐きながら、店の手前にある道路に停めていた車のエンジンを掛けた。
「いらっしゃいませ~」
「塩サバ定食、ひとつ!」
「はいよ!」
店が開き、モーニングには出勤前に腹ごしらえをしようと、サラリーマンやOLが次々とやって来た。
「ご馳走様でした!」
「また来てくださいね!」
「あ、お弁当の注文、お願いします!」
「はい!」
コロナ禍でテレワーク(在宅勤務)となる企業が多い中、テレワークが出来ない接客業や教師、配達業者などがランチ時に店にやって来ては弁当を注文するので、漸く歳三達が遅めの昼食を取れるようになったのは、昼の二時位だった。
「なぁ、キッチンカーが届くのは明日なんだが、これから店と同時進行で進めるのは、少し難しいかもしれないな。」
「あぁ。定休日にやるとしても、一日中やる訳にはいかねぇな。ちゃんと時間を決めねぇとな。」
そんな事を二人が話していると、店の入り口の方から子供の声が聞こえて来た。
「すいませ~ん、誰か居ませんか!?」
(何でこんな時間に子供が?)
「トシ、どうする?」

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最終更新日  2021.10.14 19:43:01
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