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JEWEL

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連載小説:双つの鏡

Aug 7, 2020
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※BGMと共にお楽しみください。

『あなたが、伝説のサムライね?』
『初めまして、トシゾウ=ヒジカタと申します。』
『良い男ねぇ。』

歳三が自分を招待してくれたバリルー伯爵夫人に挨拶すると、彼女はそう言って笑った。

『ブリュネ、何だか俺注目されてねぇか?』
『あなたは社交界の注目の的ですからね。これから色々と忙しくなりますよ。』
『そ、そうか・・』

歳三はブリュネと共に貴族達に挨拶回りをしていると、楽団がワルツを奏で始めた。

『トシゾウ様、わたくしと踊ってくださいな。』
『抜け駆けは狡いわ!わたくしと・・』

突然歳三の目の前に、色とりどりのドレスや宝石で着飾った令嬢達が群がって来た。

『お嬢さん方、そんなに慌てなくても、わたしは居なくなりませんよ。』
『まぁ、トシゾウ様ったら・・』

令嬢達からの誘いを上手く断った歳三は、人気のないバルコニーへと向かった。
空に浮かぶ月を眺めながら、歳三は昔、京で総司と共に見た月の事を思い出していた。

“綺麗な月ですね。”
“あぁ、そうだな・・月に照らされたお前の横顔も綺麗だ。”
“土方さんったら・・”

そう言って照れ臭そうに笑う総司の姿を、歳三は今でも忘れる事が出来ない。

(総司、お前にもう一度会いたい・・会ってお前ぇを抱き締めてぇ・・)

感傷に浸りながら歳三が月を眺めていると、突然彼は誰かの両手で目を塞がれた。

(誰だ?)

歳三が振り向くと、そこには誰も居なかった。

(気の所為か・・)

バリルー伯爵邸を後にした歳三が帰宅すると、玄関前に小包が置かれている事に気づいた。

(何だ?)

『あら、今帰って来たんだね。それ、あんた宛の小包だよ。』
『そうですか、ありがとうございます。』

下宿屋の女将に礼を言うと、歳三は部屋に入って小包を解いた。

すると、その中には有名宝飾店の箱に入った、エメラルドのネックレスがあった。

―土方さん。

そのエメラルドは、総司の魂が宿っているように歳三は感じた。

―わたしの魂は、いつも貴方の傍に居ますよ・・

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Last updated  Aug 8, 2020 07:29:40 PM
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Jul 26, 2020
シャーロットから拒絶された青年は、無言でその場から立ち去った。

『お祖母様、あの人は・・』
『彼はお前とは一切関わり合いのない奴よ。』
『は、はい・・』

シャーロットが中庭から去った後、千はジョンにあの青年の事を尋ねたが、適当にはぐらかされてしまった。

『あぁ、チャールズ様かい?あの方は、とっくにこの家から勘当されたんだよ!』
『どうして勘当されてしまったのですか?』
『あの方は大の博打好きでねぇ、大奥様はそれにお怒りになってねぇ・・』

料理番のチェイスが菜園で野菜を収穫するのを手伝いながら、千は彼女の話に耳を傾けた。

『チヒロ様、こちらにいらっしゃったのですか?』

レイノルズ伯爵家執事・アッシュは、そう言いながら菜園に入って来た。

『大奥様がお呼びですよ。』
『わかりました。』

千がアッシュと共にシャーロットの部屋へと向かうと、彼女は渋面を浮かべながら何かを読んでいた。

『お祖母様、失礼致します。』
『お入り。』
『お話とは何でしょうか、お祖母様?』
『チャールズの事だが、あの者はもうこの家の者ではないから、余り関わらない方がいい。』
『はい、わかりました。』
『あいつの事はチェイスから色々と聞いているだろうから、もうわたしの方からは何も言わないよ。それよりも、今年のクリスマスの事だが・・』

千がレイノルズ伯爵家へやって来てから半年が過ぎ、レイノルズ伯爵家にとって一年で最も賑やかな季節―クリスマスがやって来た。

『チヒロ、メリークリスマス。』
『お祖母様、メリークリスマス。』
『こうして家族揃って食事をするのは久しぶりだね。神に感謝を!』
『神に感謝を!』

乾杯の合図と共に、レイノルズ伯爵家の華やかなクリスマスパーティーが始まった。

『チヒロ、パリからお前宛に小包みが届いているよ。』
『ありがとうございます、お祖母様。』

シャーロットから小包みを受け取った千が自室でそれを解くと、そこには美しい真紅の包装紙に包まれた有名宝飾メーカーの箱があった。
その箱を開けると、そこには美しいアメジストのネックレスが入っていた。

『一足早い誕生日プレゼントだと思って受け取ってくれ。メリークリスマス -T-』

そのメッセージカードを読んだ時、千は誰がこのネックレスを自分に贈ったのかがわかった。

(土方さん、メリークリスマス。)

一方、パリでは、歳三はブリュネと共にある貴族のパーティーに出席していた。

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Last updated  Jul 26, 2020 03:53:09 PM
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Jul 20, 2020
一週間の自宅謹慎中、歳三は身体が鈍らぬよう、素振りをブリュネ邸で行う事にした。
朝の空気の中で素振りを行っていると、なんだか試衛館の頃に戻ったようだった。

『イジカタさん、おはようございます。』
『ブリュネさん、おはよう。』

歳三が素振りを終えてリビングルームに入ると、ブリュネがそう彼に挨拶した後、一通の手紙を手渡した。

『この手紙は、先程あなた宛に届きました。』

ブリュネから手紙を受け取ると、差出人の名前は、“チヒロ=レイノルズ”と書かれていた。

『ありがとう。』

ブリュネから手紙を受け取り、歳三は自室で千の手紙を読んだ。

『拝啓土方歳三様、ブリュネさんからあなたが軍で性的嫌がらせを受けた事を知り、あなたが心配で手紙を書きました。僕は毎日が忙しくて目が回りそうですが、何とかやっています。どうか、こんな事で屈しないで下さい。』

歳三は微笑んだ後、千からの手紙を大切そうに机の引き出しの中にしまった。

「大奥様、失礼致します。」
「フランツ、あの子はどう?」
「彼は良くやってくれていますよ。日々努力していますし、勉強家です。」
「そう‥彼はきっと、良い意味でこの国を変えてくれることでしょう。」
「わたしも、そう思っておりますよ。」

シャーロットはフランツと共に窓の外を見ると、そこには庭園でレイノルズ家の猟犬と戯れている千の姿があった。

『犬の扱いがお上手でいらっしゃいますね。今まで犬を飼育された事が?』
『いいえ、でも動物が好きなんです。』
『そうですか。犬は賢いですからね、動物好きな人はすぐにわかるのでしょう。』

レイノルズ伯爵家の猟犬番・ジョンが千とそんな話をしていると、邸の中から背が高い乗馬服姿の青年がこちらにやって来る事に気づき、慌てて彼は目を伏せた。

『誰かと思ったら、青い血を汚した女の息子じゃないか。』

青年はそう言うと金色の睫毛を揺らしながら、蔑んだような目で千を見た。

『初対面だというのに、失礼な方ですね。あなた、お名前は?』
『使用人風情が、僕に偉そうな口を利くな。』

青年はそう言って千を手に持っていた乗馬鞭で叩こうとしたが、その前に千が彼に足払いを喰らわせた。

『ごめんなさい、足が滑ってしまいました。』
『貴様、よくも・・』
『チャールズ、一体何の騒ぎなの!?』
『大奥様、これはご機嫌麗しゅう・・』
『お前の顔など見たくもない、さっさとここから出ておゆき!』

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Last updated  Jul 20, 2020 02:32:58 PM
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Jul 14, 2020

※BGMと共にお楽しみください。

男―アランと会った翌日、歳三は自分を見る周囲の冷たい視線に気づいた。

(何だ?)

歳三がブリュネの元へと向かっている途中、廊下で数人の兵士達が自分の事を待ち伏せしていた。

その中には、アランの姿があった。

『おいアラン、こいつかよ?ブリュネの愛人ってのは?』
『あぁ。』
『随分と綺麗な顔をしているな。こいつ、本当に男か?』
『服を脱がせて確めようぜ。』

兵士の一人がそう言って歳三の軍服の牡丹に手をかけようとすると、彼は歳三に突き飛ばされて壁まで吹っ飛んだ。

『てめぇ、何しやがる!』
『気安く俺に触るんじゃねぇ!』
『やっちまえ!』

アラン達はそう叫ぶと、一方的に歳三に飛び掛かって来た。

『・・これは一体、どういう事だ?』

廊下での騒ぎを聞きつけた上官達は、すぐさま歳三達を執務室へと連れて行った。

『こいつが新入りの癖に生意気なので、ここの掟を教えてやろうと・・』
『貴様ら三人は営倉で一週間謹慎していろ!』
『何だって、そんなのあんまりだ!』
『たまたま通りがかった者達が、君達が彼に一方的に暴力を振るっているのを見たんだ!』
『こんなのは不公平だ、父上に訴えてやる!』

アランはそう叫ぶと、仲間を引き連れて執務室から出て行った。

『君も、もう行って良い。処分は後で知らせる。』
『あぁ、わかったよ。』
『“はい、わかりました”だ!』
『はい、わかりました!』

廊下での一件を聞いたブリュネは、その日の夜自宅の書斎に歳三を呼び出した。

『イジカタさん、今回の事は、アラン達が悪いです。わたしが彼の代わりに謝罪致します。』
『俺は気にしてねぇよ。こういうのは、良くある事だろう?』
『それは違う!確かに差別は存在します。しかし、それに慣れてはいけないのです!人を肌の色で優劣をつけるのは間違っている!』
『・・俺は今まで、理不尽な身分差別を受けて来た。生まれや身分だけで一生が決まっちまう世の中に、俺は抗いたかった。俺は武士になりたかった。ただそれだけで、俺は茨の道を歩いた。』

歳三は一旦言葉を切ると、ブリュネが淹れてくれた紅茶を一口飲んだ。

『海を渡ってこの国に来て、俺が本当に戦うべきなのはもっと別のものなのだと気づいたんだ。』
『イジカタさん・・』

数日後、歳三には一週間の自宅謹慎処分が下された。

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Last updated  Jul 14, 2020 09:43:54 PM
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Jul 11, 2020
ブリュネの元を訪ねてきた歳三は、長旅での疲れがたたって熱を出し、三日間寝込んでしまった。

漸く彼が目を覚ましたのは、歳三がブリュネ邸を訪れてから四日目の事だった。
『イジカタさん、お目覚めになられましたね。』
『済まねぇな、ブリュネさん。急に押し掛けて来て、ぶっ倒れちまって・・』
『いいえ、長旅お疲れ様でした。お腹は空いていませんか?朝食をお持ち致しますね。』
『悪い・・』

歳三はそう言ってブリュネに礼を言うと、ベッドに横になった。

一方、レイノルズ伯爵家では、突然姿を消した歳三を捜し回っていた。

『一体あいつは何処に消えたんだ?』
『落ち着きなさい、アーノルド。彼は自分なりの考えがあってここを出て行ったのよ。そっとしておきなさい。』
『ですが・・』
『もうこの話は終わりにしましょう。』

千が朝食を終えて自室へと戻ろうとした時、彼はアーノルドに呼び留められ、彼の書斎へと向かった。

『お話とは、何ですか?』
『単刀直入に聞こう、あの男と君は一体どんな関係なんだ?』
『それは、答える事が出来ません。』
『そうか。では、彼が今何処に居るのか知らないか?』
『土方さんが今何処に居るのか、僕にもわかりません。』
『わかった・・』
『失礼致します。』

千はアーノルドに一礼すると、書斎から出て行った。

『あの子から何か聞き出せた?』
『いいや。彼は口が堅いな。』
『まぁ、あの男が居なくなってホッとしたわ。』

ブリュネ邸に歳三が滞在してから一ヶ月が経った。

歳三はブリュネの紹介で、フランス軍に入隊した。

『イジカタさん、とてもお似合いですよ。』
『そうか?』
『えぇ。ハコダテでも洋装姿がさまになっていました。』
『まぁ、あの時の服は全てフランス製だったからな。それにしても、肩回りが窮屈で仕方ねぇなぁ。』
『それは我慢して下さい。』

ブリュネと歳三がそんな話をしていると、そこへ一人の男がやって来た。

『ブリュネ、そいつが今日入隊して来た奴か?』

まるで珍獣でも見るかのような目つきで男は歳三を見ると、少し不快そうに鼻を鳴らしながら去っていった。

『ブリュネさん、さっきのは?』
『あいつは、わたしの同僚です。余り気になさらないで下さい。』
『わかった・・』

そう言った歳三だったが、何だか嫌な予感がした。

その予感は、数日後に的中した。

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Last updated  Jul 11, 2020 08:54:54 PM
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Jul 6, 2020
『何だ、てめぇは?』

歳三はそう言って女を睨みつけると、彼女はおもむろに服を脱ぎ始めた。
「何しているんだ、やめろ!」
『女将さんから頼まれたんです・・』
慌てて歳三が女に自分のコートを羽織らせると、女はそう言って啜り泣いた。
「女将は何処だ!」
「あらぁ、今頃あの子とお楽しみだと思っていたのにぃ。」
「余計なサービスは不要なんだよ!」
「わかりましたよ。」

女将はそう言うと、溜息を吐いた。

翌朝、歳三はロンドン行きの汽車に乗った。

(これからどうなるのかは、俺自身の力だけだな・・まぁ、今まで自分自身の力だけでやってきたんだ、何とかなるさ。)

ロンドンのキングスクロス駅は、人で溢れ返っていた。
歳三は、ジェイドから渡された金が入った鞄を盗まれぬよう、雑踏の中を歩いた。

(フランスへ手っ取り早く行くには、船に乗るのが一番だな。)

歳三が港へと向かうと、丁度フランス行きの船が停泊していた。

「運が良いぜ。」

歳三はそう呟きながら二等船室に入ると、そこには先客が居た。
数人の褐色の肌をした青年達は、歳三と目が合うと、嬉しそうに微笑んだ。

『あんた、どこから来たんだい?』
『日本からだ、あんた達は?』
『あたしらは、スペインから来たのさ。出稼ぎでロンドンで働いていたけれど、仕事をクビになってね、フランスで少し働いて、スペインに帰ろうと思ってさ。』
『そうか。俺は知り合いに会いにフランスに行くんだ。』
『へぇ、そうかい。』

その日は、青年達と共に楽しい夜を過ごした。

「やっと着いたか。」

歳三は船から降りると、大きく背伸びした。

『兄さん、元気でね。』
『あぁ、皆も元気でな!』

青年達と港で別れた歳三は、一路パリへと向かった。

『旦那様、お客様がいらっしゃってます。』
『わたしに客?』
『はい。トシゾウ=ヒジカタ様とおっしゃる方で・・』
『すぐに通しなさい。』

ブリュネが玄関ホールへと向かうと、そこには疲れ切った表情を浮かべた歳三が立っていた。

『イジカタさん、どうして・・』
『ブリュネさん、会いたかった・・』

歳三はそう言うと、気を失った。


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Last updated  Jul 6, 2020 12:30:05 AM
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『どうしたんだい、こんな時間にまだ起きているなんて?』
『お祖母様・・』
千が自分の部屋に戻ると、そこにはシャーロットの姿があった。
『何かあったような顔をしているね?わたしに話してごらん。』
『実は・・』

千は、図書室で盗み聞きしていた会話をシャーロットに話すと、彼女は一通の手紙を千に手渡した。

『これは?』
『フランス軍の、ジュール=ブリュネ宛にわたしが書いたものだ。お前の恩人の男を、イザベラ達に気づかれる前にここから逃がしなさい。』
『お祖母様・・』
『今夜ここで話した事は、誰にも言ってはならないよ。わかったね?』
『はい・・』

翌朝、千は歳三を朝食の後自室に呼び出した。

「千、どうしたんだ?」
「土方さん、この手紙を持って、今すぐフランスへ渡ってください。」
「何だ、急に?」
「イザベラさん達が、あなたの正体に気づきました。彼らに気づかれる前に早く・・」
「わかった。」

歳三は千の話を聞いた後、部屋で荷物をまとめて出て行こうとしたが、その前にジェイドに見つかってしまった。

『その様子だと、ここから出て行くんだね?』
『・・あぁ。』
『話はシャーロット様から聞いている。この金を今後の生活費の足しにしてくれ。』
『ありがとう。』

歳三はジェイドから金が入った鞄を持つと、レイノルズ伯爵邸の裏口から外へと出た。
その日は朝から雪が降っており、昼過ぎになるとそれは吹雪へと変わった。

(クソ・・フランスに着く前に凍え死んぢまうな。)

ロンドン行きの汽車に乗る前に、歳三はダラムの街にある一軒の宿屋へと入った。

「いらっしゃい、旦那。」
「部屋をひとつ、頼む。」
「あいよ。お兄さん、良い男だねぇ。今夜、あたしと遊ばないかい?」
「悪ぃが、今夜は疲れているんだ。」
「あらぁ、残念ねぇ。」

宿屋の女将は豊満な胸の谷間を歳三に見せつけながら、彼を部屋へと案内した。

選ぶ宿を間違ったかなーそう思いながら歳三は粗末なベッドの上で眠った。

その日の深夜、歳三は誰かが部屋に入って来る気配を感じて目を覚ますと、彼の前には一人の女が立っていた。


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Last updated  Jul 6, 2020 12:00:11 AM
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Jun 22, 2020
『大奥様、大変です!』
『ジョージ、どうしたのです?そんなに大声出して。』
『ジェイド様が、お戻りになりました!』
『何ですって!?』

レイノルズ伯爵家の女主人・シャーロットは、ジョージの言葉を聞いて思わずワイングラスを握り潰しそうになった。

『大奥様、大丈夫ですか?』
『本当に、ジェイドが生きているの?それは間違いないわね!?』
『はい大奥様、実は・・』

ジョージが次の言葉を継ごうとした時、ダイニングルームの扉が開き、一人の男が入って来た。

漆黒の髪をなびかせ、紫紺の瞳を煌めかせたその男―ジェイドは、荒い息を吐きながらシャーロットの元へと駆け寄った後、彼女の前に跪いた。

『只今戻りました、シャーロット様。』
『あなた、お帰りなさい!』
『アリス、ただいま。そちらの方達は誰だい?』
『こちらはチヒロさん、わたし達の親戚よ。』
『そうか・・初めまして、ジェイドといいます。シャーロット様、わたしは先に部屋に戻って休みます。』
『えぇ、そうね。ジェイド、また後で話しましょうね。』
『はい。』

ジェイドはそう言ってダイニングルームから出て行った。

『チヒロ、貴女はこの家を継ぐ気はあるのね?』
『はい。』
『その答えを聞いただけで満足よ。明日からお前にはレイノルズ伯爵家次期当主になれるよう、一流の教育を受けて貰います。』
『わかりました。』

夕食を終えた後、千がメイドに案内された部屋に入ると、そこは青い小花模様の壁紙に囲まれた、上品で優しい雰囲気に包まれていた。

『ここは、どなたのお部屋です?』
『エミリーの部屋よ。』
『大奥様・・』
『そんなに堅苦しい呼び方は止めて頂戴。お祖母様と呼んで。』
『お休みなさい、お祖母様。』
『お休みなさい、チヒロ。』

その日の夜、千はベッドで寝返りを打っていると、何処からか狼が吠える声が聞こえた。

中々眠れずに千が広い屋敷の中を歩いていると、図書室の方から誰かが言い争っているような声が聞こえて来た。

『あの男は危険だ!』
『チヒロが連れて来た男のこと?彼は危険そうには見えないわ!』
『お前は何も知らないからそう言う事が言えるんだ!わたしはあの男が同族を悪魔のように屠っていたのを、この目で確かに見たんだ!あの男は悪魔だ!』

アーノルドとイザベラの会話を盗み聞きしてしまった後、千は静かに自分の部屋へと戻った。

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Last updated  Jun 22, 2020 12:00:17 AM
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Jun 15, 2020
『さぁ、こちらです。』

馬車から先に降りたアーノルド達は、一足先に正面玄関からレイノルズ伯爵邸の中へ入っていったので、千も歳三と共にアーノルド達に続いて伯爵邸の中に入ろうとすると、ジョージが歳三の腕を掴んだ。

『申し訳ありませんが、あなた様は裏口の方へ・・』
『彼はわたくしの客人です、使用人扱いしないで頂きたい。』
『これは、大変失礼致しました。』

ジョージはそう言って歳三に向かって頭を下げた。

『以後、気をつけなさい。』

千が威嚇するかのようにジョージを睨みつけると、彼はそのまま裏口へと回った。

「さぁ、行きましょうか。」
「あぁ・・」

千達がレイノルズ伯爵邸の中へと入ると、玄関ホールには揃いの黒ワンピースの上にレースのエプロンとキャップ姿のメイド達が二人を出迎えた。

『アーノルド様達はダイニングルームへと先に向かわれましたので、案内致します。』
『ありがとう。』

二人がダイニングルームへと向かっている頃、そこではレイノルズ伯爵家の者達が千尋について話し合っていた。

『あなた、本当にあの子はこの家を継ぐつもりなのかしら?』
『どうやら、彼はそのつもりのようだ。』
『冗談じゃないわ!お父様は一体何をお考えだったのかしら、裏切り者の妹の子に全財産を相続させるなんて!』
『落ち着いて下さい、お義姉様。』
『お黙り、アリス!あのアイルランド男はまだ生きているの?死んでくれたらわたくしとしては嬉しいのだけれど!』
『イザベラ、言葉が過ぎるぞ!』

アーノルドがそう言って妻を窘(たしな)めると、ダイニングルームに千と歳三が入って来た。

『遅れてしまって、申し訳ありません。』
『ジェイド、お前、生きていたの!?』
『お義姉様、彼はジェイドではありませんわ。彼と瓜二つの顔をしていますけれど。』
『あら、そうなの。』
『みんな、揃ったね。』

凛とした声がダイニングルームに響き渡った後、ジョージに車椅子を押されながら、一人の老婦人が千達の前に現れた。

『あなたが、チヒロね?』
『はい・・お祖母様。』
『さてと、全員揃ったから夕食にしようか。』

老婦人がそう言って手を打つと、料理を載せた使用人達がダイニングルームに入って来た。

重苦しい空気の中、千達は只管(ひたすら)ナイフとフォークを動かし、黙々と食事をしていた。

暫く経った頃、突然ジョージが慌てふためいた顔をしてダイニングルームに入って来た。

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Last updated  Jun 15, 2020 03:00:05 AM
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『彼はわたしの夫で、ジェラルディンの父親の、ジェイドです。彼は、仕事で渡米した後、行方不明になりました。』
『それは、いつ頃ですか?』
『確か、五年前だったと・・娘が生まれてすぐだったと思います。』

五年前といえば、米国は南北戦争が激しくなっていた時期だ。

『ご主人は、その時どちらに?』
『アトランタです。そこには、彼の実家があるので・・』
『そうですか、ご主人、早く見つかると言いですね。』
『ありがとうございます・・』

明朝、千と歳三はアリスとジェラルディン、そしてアーノルドと共にパリを発ち、船で英国へと向かった。

港には、英国行きの客船へと向かう乗客達や、港湾労働者達で溢れ返っていた。

『はぐれないようにしろよ。』
『はい・・』

人波の合間を縫うように千達が客船の方へと向かっていると、歳三が自分に向かって手を差し出してきた。

「ありがとうございます。」
「なぁ千、あの母娘の事だが・・」
「アリスさん達の事ですか?何か気になる事でも?」
「アーノルドの奴、アリスさんと知り合いなんじゃねぇかって・・」
「どうして、そんな事を?」
「それは、後で話す。」
「わかりました・・」

彼らは船で英国へと向かった後、汽車でレイノルズ伯爵家の領地があるノーサンバーランドへと向かった。

『羊ばかりだな。』
『まぁ、北へ行けば自然とそうなるさ。それにしてもチヒロ、本邸に着いたらお前に話したい事がある。』
『わかりました。』

一行を乗せた汽車がダラム駅に着くと、彼らの到着を待っていたかのように黒い燕尾服姿の老紳士が汽車の中に入って来た。

『アーノルド様、チヒロ様、アリス様、ジェラルディン様、長旅お疲れ様でございました。外に馬車を待たせてありますので、どうぞあちらへ。』
『わざわざお出迎えありがとう、ジョージ。』

アーノルドは笑顔を浮かべ、老紳士ことレイノルズ伯爵家の執事長・ジョージに労いの言葉を掛けた。

駅舎の外で待っていた二台の馬車では、アーノルドとアリス、ジェラルディン母娘と、千と歳三がそれぞれ乗り込んだ。

「あれが、レイノルズ伯爵邸か・・」

千はそう呟くと、首に提げているカメオのペンダントを握り締めた。

「大丈夫だ、自分を信じろ。」
「はい・・」
「俺がついているから、安心しろ。」

歳三はそう言って不安がる千の手を優しく握った。

『大奥様、アーノルド様がお帰りになられました。』
『そう・・わたくしもあの子の顔を見に行こうかね。』
『お供致します。』

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Last updated  Jun 15, 2020 01:00:06 AM
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