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JEWEL

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連載小説:双つの鏡

2019.03.04
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「家事当番制か、悪くねぇな。お前達二人だけで家事を任せる訳にはいかねぇ。後の事は俺が上手くやっておくから、お前は仕事に戻れ。」
「はい。」
千尋が自室へ戻ると、てる達が彼の方へ駆け寄って来た。
「どうなりました?」
「土方さんは前向きに検討してくれるそうです。」
「それは良かったわぁ。これから家事が少し楽になりますねぇ。」
「そうですね。」
歳三が家事当番制を設けた事により、千達二人にかかっていた家事の負担が少なくなり、その空いた時間を衣装の仕立てや劇の稽古に回せるようになった。
「おい総司、この脚本書きやがったのは誰だ?」
「わたしです。」
「何で俺がロミオと背中合わせで大立ち回りした後に心中ってなるんだよ!原作だとジュリエッタは毒を飲んで死んだ振りして、ロミオがジュリエッタが死んぢまったって勘違いして自害して、ジュリエッタがその後を追うんだろうが!こんなのまるで歌舞伎じゃねぇか!」
「土方さん、頭が固いなぁ。ひとつの作品を読んで、星の数ほど一人一人の読者の解釈や感想が違うんですよ。劇をやるにしても、それぞれ自分が思った結末を脚本にしてもいいと思うんです。」
「確かに、それはそうだが・・」
「わたし、原作の結末も良いと思うんですが、それよりも駆け落ちして追手と大立ち回りするロミオとジュリエッタの姿も良いと思ったから自分なりに脚本書いてみたんです。」

こうして、歳三達は会津藩に劇を披露する日を迎えた。

会場は屯所がある西本願寺内に設けられた舞台という事で、会津藩士達だけではなく、西本願寺の信徒達も集まり、舞台の前は大変賑わっていた。

「何だか緊張するな・・」
「大丈夫ですよ、練習通りにしましょう。」
「はい!」

舞台に女装した隊士達と歳三が現れると、観客達はどっと笑った。
劇は滞りなく進み、いよいよラストの大立ち回りのシーンとなった。

「ロミオ、ジュリエッタ、ここから先は通さねぇ~!」
何故か追手役の隊士は、歌舞伎口調でそうセリフを言いながら見栄を切った。
「ジュリエッタ、お前ぇを一生守り抜くぜ。」
「お前様ぁ~」

背中合わせに戦う近藤と歳三に、観客達から声援が送られた。

劇は大成功で終わり、劇の後、歳三達は島原で打ち上げと称した宴会を開いた。

「みんな、今日は良くやってくれた!今夜は無礼講だから、とことん飲もう!」

近藤の言葉を聞いた隊士達は、一斉に歓声を上げた。

「てめぇら、局長があぁ言ったからってハメ外すんじゃねぇぞ!」

歳三はそう言って隊士達に注意したが、彼らはもう聞いていなかった。

「副長、お疲れ様でした。」
「あぁ、明日は筋肉痛になるな。」
「まだ若いんですから、大丈夫ですよ。」
「そうか?それにしてもこうしてみんなと集まって飲むのは久しぶりだな。」
「そうですね。こうして皆さんとまたお酒を飲める日が来ますよ。」
「そうだといいな。」

そう言った歳三の横顔は、どこか寂しそうだった。

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最終更新日  2019.10.30 21:12:02
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「土方さん、只今戻りました。」
「おう、戻ったか。それで、どうだった?」
「注文を引き受けて下さるそうです。」
「そうか、これから忙しくなるな。」
「土方さん、ジュリエット役を本当に演るつもりですか?」
「会津中将様直々の頼みとあっちゃ断れないだろう。」

歳三はそう言いながら溜息を吐いた。

数日後、大坂から色とりどりの反物と、歳三が姉に注文した着物が届いた。

「千、これから劇に出る奴を大広間に集めろ。」
「はい!」

劇に出演する者達を大広間に集めた千は、衣装を作る為千尋達と協力して彼らの採寸をした。

「結構時間がかかりますね、全ての衣装を二人で仕上げるのは。」
「ええ。」
「ごめんください、誰かおりませんかぁ?」

千が来客の応対の為に屯所の正門前へ向かうと、そこには風呂敷を抱えている十数人の女性達の姿があった。

「あの、貴女達は・・」
「うちらは大坂の梅澤屋から参りました。」

女性達の中からまとめ役と思しき中年女性が千の前に出てきて、一通の文を彼に手渡した。

その文には、劇の衣装を仕立てる手伝いとして、うちの女中達をそちらへ派遣する旨が書かれていた。

「暫くの間、お世話になります。どうぞ宜しゅうに。」
「こちらこそ、宜しくお願い致します。」

梅澤屋から派遣されて来た女中達は皆働き者で、衣装の仕立ての他に炊事などの家事全般を手伝ってくれた。

「いつもわたくし達二人で家事全般をこなしているので、大いに助かります。」
「うちらは大所帯分の食事を作るのに慣れてますけど、二人やと大変でしょう?」
「えぇ。ほかに家事をする者が居ないので、結局わたくし達がすることに・・」
「それやったら、家事を当番制にしたらどうでしょう?こんなに沢山働き盛りの男はんが居てはるんやから、交代して家事をやったらお二人の負担も軽くなると思うんです。」
「それは良い考えですね。」

梅澤屋の女中・てるの話を聞いた千尋は、早速この案を歳三に話した。

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最終更新日  2019.03.04 00:00:42
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2019.02.28
千が総司から頼まれていた事を話すと、歳三の顔がみるみる険しくなっていった。

「何で俺が、女装して舞台に立たねぇといけねぇんだ!」

(やっぱりそう来るだろうと思った。)

歳三の予想通りの反応に、千は内心溜息を吐きながら、これからどう歳三を説得しようかと考えていた。

「副長、斎藤です。」
「入れ。」
「失礼いたします。」

斎藤が副長室に入ると、千は何処か気まずそうな顔をしていていた。

「手短に用件を話せ。」
「会津藩の使いの者から、文が届きました。」
「わかった、少し待て。」

歳三は会津藩からの文に目を通すと、怒りの余りそれを握り潰してしまった。

「副長?」

斎藤が歳三によって丸められた文に目を通すと、そこには歳三がジュリエッタとして舞台に出るようにとだけ書かれていた。

「これは・・」
「近藤さんはどこだ?」
「局長は大坂に出張中です。」
「そうか・・千、白松屋に文と俺が頼んだ着物の代金を届けてくれ。斎藤、三番隊の巡察に千を同行させろ。」
「承知しました。」

千は三番隊の巡察に同行するかたちで、梅澤翁が滞在している白松屋へと向かった。

「おこしやす。」

白松屋に千が入ると、奥から女中が出て来た。

「新選組の者ですが、梅澤様はいらっしゃいますか?」
「梅澤様はお二階の突き当りのお部屋にいらっしゃいます。」
「ありがとうございます。」

千が梅澤翁の部屋へと向かうと、彼は快く千を迎えてくれた。

「土方はんの使いの者ですか。お忙しい中わざわざ来てくれて、おおきに。」
「いいえ、こちらこそ。」

梅澤翁は歳三の文を読んだ後、満面の笑みを浮かべ、千にこう言った。

「これも何かの縁や、うちがこの注文、全部お引き受けしましょう。」
「ありがとうございます。」

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最終更新日  2019.02.28 06:00:23
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「馬鹿を言うな、千!ネズミなど飼える訳がないだろう!」
「それはやってみないとわからないでしょう?」

千はそう言うと、自分の腕の中で暴れているネズミの頭を撫でた。
するとネズミはウトウトし始め、瞬く間に千の腕の中で熟睡した。

「米を食べようとしただけで動物に手をかけようとするなど、貴方達は本当に武士ですか?」
「何だと!?」
「武士ならば多少の事で全く動じぬというのが武士というものです。そんな事すらわからぬとは、嘆かわしい。」

千尋がそう言って千を馬鹿にした隊士達をにらみつけると、彼らの間に険悪な空気が流れた。

「おいてめぇら、朝っぱらから何していやがる!?」
「副長、おはようございます。朝からこの二人がつまらぬことをしようとしていたので、わたくしが止めただけの事です。」
「つまらねぇ事?」
「えぇ、米を食べようとしたネズミを彼らが殺そうとしたのです。」

歳三の視線が、隊士達から千が抱いているネズミの方へと移った。

「無駄な殺生はするな。」
「は、はい!」
「千、俺の部屋に来い。」
「わかりました。」

千が歳三と共に副長室に入ると、中は火鉢が置いてあるお陰で厨房よりも暖かった。

「ここなら、あいつらは簡単に手出しできねぇだろう。」
「は、はい・・」
「お前ぇがそのネズミを飼う事については何も言わねぇ。ただ生き物を飼う以上、最後まで責任を持って世話しろ、わかったな?」
「はい、わかりました!」
「それじゃぁもうお前は仕事に戻れ。」
「あの、土方さん、もうひとつ話したいことが・・」
「もうネズミの話は済んだだろう?まだ何かほかにあるのか?」
「実は・・」

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最終更新日  2019.02.28 00:00:35
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2019.02.25
「この前会津中将様から何か新選組で催し物をやってくれないかと頼まれましてね。それで、その催し物を何にするのかを迷っていましてね。」
「それで、この本の劇をやろうと思ったのですね?」
「そうなんです!でも、土方さんがこのジュリエッタ演ってくれるかなぁ?」
「え?ジュリエット役を土方さんがするのですか?沖田さんではなく?」
「わたしは体調が優れなくて、長時間舞台に立てる自信がなくて・・それに、わたしの代わりに女役を演じてくれる方がいるかどうか・・」
「それは、そうですね・・」
「だから、土方さんにジュリエッタ役を演ってくれるように、千君から頼んでくれませんか?」
「え・・」
「荻野君に頼んでも、断られてしまいそうで・・だから、お願いします!」

(困ったなぁ・・)

溜息を吐いた千は、千尋の部屋に入ると、彼もまた溜息を吐いて頭を抱えていた。

「どうしたんですか、荻野さん?」
「話は沖田先生から聞きましたね?」
「えぇ。もしかして、荻野さんも沖田さんから同じことを頼まれたのですか?」

千の問いに、千尋は黙って頷いた。

「局長は完全に乗り気ですし、沖田先生はあの通り。どうすれば良いのかわかりません。」
「僕もです。」

二人で何とか総司からの頼みを断ろうと考えている内に、二人はいつの間にか眠ってしまった。

翌朝、千が眠い目を擦りながら布団の中でモゾモゾとしていると、突然厨房の方から悲鳴が聞こえた。

「何かあったのですか?」
「荻野、そいつを捕まえろ!」

千達が厨房に入ると、彼らの足元を丁度一匹のネズミが駆けていくところだった。
千がネズミの尻尾を掴んで捕まえると、ネズミは不満そうにキーキーと鳴き、少し太めの身体を揺らした。

「こいつ、俺達の米を食おうとしてたんだ!」
「水に沈めて殺しちまおうぜ!」

隊士達の言葉を理解しているのか、ネズミは千の腕の中で暴れ、悲鳴のような鳴き声を上げた。
薄茶と白のまだら模様のネズミは、千を円らな黒い瞳で助けてくれと彼に訴えているかのように見つめてきた。

「この子、僕が飼ってもいいですか?」

そんな言葉が、千の口から自然と突いて出て来た。

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最終更新日  2019.02.25 06:00:14
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「はぁ~、今日も疲れたぁ。」

千はそう言うと、湯船に浸かって溜息を吐いた。

「体力ないぞ、千。お前俺達よりも若いだろう?」
「そんな事言われても、一日中家事をしていたら筋肉痛で辛くて。」
「副長付きの小姓は大変だよなぁ。隊務のほかに家事もしねぇといけねぇんだもんな。」
「特に食事の支度が大変で、毎日献立を考えるのが大変で・・」
「それはそうだな。俺んちは食べ盛りの兄貴や弟達抱えて、母ちゃん毎日大変だっただろうな。」

隊士達と風呂場でそんな事を話していると、そこへ歳三が風呂場に入って来た。

「てめぇら、後がつかえているだろう、早くあがれ!」
「は、はい!」

慌てて隊士達が風呂場から出ていくと、千も湯船からあがった。

「ちゃんと髪乾かせよ、千。風邪ひいたら大変だからな!」
「はい!」

千が髪を布で拭いて乾かしていると、歳三が風呂場から上がってきた。

同性の裸など今まで見ても何とも思わない千なのだが、何故か歳三の裸体は少しなめまかしく見えた。

(僕、変なのかな?)

「おい、何じろじろ見てんだ?」
「す、すいません!」

歳三はじろりと千尋を睨みつけると、髪を布で拭いて乾かし始めた。

「千君、こっちへいらっしゃい。」
「沖田さん、急にどうしたんですか?」
「ちょっと寒くて、人肌が少し恋しくなりました。」
「沖田さん、身体の具合は大丈夫なのですか?」
「この前軍医さんから頂いた薬を飲んだら、少し咳が治まりました。」

総司はそう言うと、枕元に置いてある本を手に取った。

「この本知っていますか、千君?何でも、エゲレスの劇作家の作品なんですって。」

総司が千に見せた本は、シェイクスピアの有名な作品『ロミオとジュリエット』だった。

「知っていますよ。その本がどうかしたんですか?」
「実はね・・」

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最終更新日  2019.02.25 00:00:23
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2019.02.21
「荻野さんが考え事するやなんて珍しいですね。」
「そうですかね?わたくしだって考え事する時あってありますよ。」
「そうですか。それよりも火傷してなくて良かったです。」

山崎はそう言うと、念の為千尋の右腕を消毒した。

「山崎さん、おられますか!?」

慌ただしい足音が廊下から聞こえて来たかと思うと、勢いよく襖が開き、中へ血塗れとなり気絶している平田を連れた天童が入ってきた。

「何があったんや?」
「厄介事に巻き込まれまして・・お願いします、どうか平田を助けてやってください!」

山崎が平田を診療台の上に寝かせて傷を見ると、彼は胸を何者かに袈裟斬りにされ、その傷は深かった。

「天童は外へ出てくれ。荻野さん、すいませんが治療の手伝いを・・」
「わかりました。」

山崎は平田の出血を何とか止めようとしたが、動脈を斬られている所為か出血はますます酷くなってゆき、それと比例して平田の顔からはどんどん血の気が失せていった。

「そこにいるのは、天童か・・?」

意識が混濁し始めた平田は、そう言うと千尋に向かって手を伸ばした。

「桂先生に伝えてくれ・・坂本が、薩摩の西郷と手を組もうとしている・・」

やがて平田は、そのまま息を引き取った。

「平田は?」
「残念ですが、先程息を引き取りました。」
「そんな・・荻野さん、平田は最期に何か言っていませんでしたか?」
「いいえ、何も。」

千尋が吐いた嘘に、天童は簡単に騙された。

「そうか、平田がそんな事を・・」
「これで、天童と平田が長州の間者だという事がわかりましたね。副長、これからいかがなさいますか?」
「まだ天童を泳がせておけ。奴が長州の間者だという確固たる証拠を掴むまで、動くなよ。」
「わかりました。では、わたくしはこれで失礼致します。」

千尋が副長室から出て行った後、歳三は眉間に皺を寄せ、大きな溜息を吐いた。

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最終更新日  2019.02.23 22:27:38
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「おい、天童と平田はどこだ?」
「さぁな。」

千尋は夕飯を食べながら、天童と平田の姿が大広間にない事に気づいた。

「あ~、疲れた。」

夕飯の後、厨房で皿を洗いながらそう言って溜息を吐いた。

「早く手を動かしなさい。明日は早いのですから。」
「はい、わかりました。」

千達が漸く眠れたのは、子の刻(午前0時)を過ぎた頃だった。
疲れ果てた千は、その夜は珍しく悪夢を見なかった。

「おはようございます、荻野さん。」
「おはようございます。」

翌朝、千は眠い目を擦りながら厨房に入った。

「毎日大人数分の食事を作るのは大変ですね。」
「慣れればどうって事ありませんよ。それにしても天童さんと平田さんは一体何処に行ったんでしょうね?」
「さぁ・・」

朝食の支度をしながら、千尋は天童達の正体を少し考えていた。

二人が桂の事を知っているという事を考えると、彼らは倒幕派の人間だろう。

それが確かなら、天童は何故嘘を吐いて新選組に入ったのか。

前から平田とは知り合いで、天童とは間者同士で連絡を取り合っていたのだろうか。

「荻野さん、袖!」

千の声で我に返った千尋は、自分の着物の袖が煮え立った鍋の中に入っている事に漸く気づいた。

「怪我はないか、荻野!?」
「はい、申し訳ございません、斎藤先生。考え事をしていて、気がついていませんでした。」
「すぐに山崎君に診て貰え。」
「はい、わかりました。では、わたくしはこれで失礼致します。」

千尋はそう言って斎藤に向かって頭を下げると、山崎が居る診療室へと向かった。

「山崎さん、いらっしゃいますか?荻野です。」
「どないしたんですか、それ?」

山崎はそう言うと、千尋の焦げた片袖を見た。

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最終更新日  2019.02.21 00:00:32
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2019.02.19
そっと千尋が茂みの中を覗くと、そこには天童と平田という名の隊士が互いに睨み合っている。

「何故お前があの方からの信頼を得ているんだ?」
「それは貴方よりわたしの方が優秀だからですよ。」
「何だと!?」

平田が天童の胸倉を掴むと、彼は邪険に平田の手を振り払った。

「余り大きな声を出さないで下さい。わたし達の計画は外には決して洩(も)らしてはいけないと、あの方から言われた筈でしょう?」
「あぁ、わかっているさ。」
「それにしても、あの荻野とかいう副長付きの小姓、なかなかの切れ者だな。俺よりも年下だが、何だか肝が据わっている。」
「それは貴方が精神的に幼いからそう見えるだけでしょう?」
「それはそうかもしれないが、あの蒼い瞳、どこか魔性めいたものがあるな。」
「魔性ねぇ・・あの桂先生が一時的に惚れこむだけの魅力を持っている、という事でしょうか?」
「まぁ、そういう事だ。」
「そんな下らない話はもう終わりにしましょう。」
「あぁ、そうだな。」

平田は軽く咳払いすると、天童と小声で何かを話し合った。

(もう少し、この二人を泳がせた方がよさそうですね。)

千尋はそう思いながら、ゆっくりとその場から去っていった。

一方、千は厨房で夕飯の支度に追われていた。

毎日隊士達の食事を作るのはかなりの重労働である事に千が気づいたのは、彼が新選組の屯所で暮らし始めてすぐの事だった。
現代だとスイッチを押せばすぐにガスが出するし、水道の蛇口を捻ると安全な水が出る便利さに慣れきってしまった千は、幕末で炊事をする事の大変さを痛感しているのだった。
ふと、母がどんな思いで今まで自分を育ててくれていたのかを想像すると、千は母に会いたくて急に泣きそうになった。

「どうした、千?」
「いえ、葱で少し目が痛いだけです。」
「そうか。」

千は葱のみじん切りをもう終えている事に気づいていた斎藤だったが、彼を慮(おもんばか)って何も言わなかった。

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最終更新日  2019.02.19 06:00:20
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歳三に会わせろと言ってきている男は、大坂の呉服問屋の主で、何でも注文していた着物の代金を歳三が踏み倒した為、その取り立てに来たのだという。

「失礼ですが、貴方のお名前をお聞かせ願えませんでしょうか?」
「わたしは梅澤屋の宗介と申します。」
「梅澤様ですね。大変申し訳ございませんが、副長はただいま外出しておりますので、こちらにお名前とご住所をご記名頂けないでしょうか?」

千尋はそう言うと、懐紙と筆、硯を男に手渡した。

「ありがとう。ほな、後で土方さんによう伝えてくれへんか。早う着物の代金払うてくれへんと、商売上がったりやとな。」

はじめは語気が荒く喧嘩腰な口調で話していた梅澤翁は、千尋に自分の氏名と住所を記した懐紙を手渡した時には、穏やかな笑みを浮かべていた。

「後日副長にわたくしが伺って参りますので、数日お時間を頂けませんでしょうか?」
「構わんわ。わたしは三条の白松屋という旅籠におりますよって、土方さんに連絡取れたら文を送ってくんなはれ。文を受け取り次第こちらにまた伺いますよって。」
「承りました。」

梅澤翁を屯所の門前まで送った後、千尋はすぐさま副長室へと向かった。

「副長、荻野です。今よろしいでしょうか?」
「少し待て。」

暫くすると、歳三が副長室の襖を開け、千尋を中へと招き入れた。

千尋は歳三に梅澤翁の氏名と住所が書かれた懐紙を手渡しながら、梅澤翁が話していた事を彼に伝えた。

「着物か。確か二月前に姉貴の為に注文していたのを忙しくてすっかり忘れちまってた。お前が居てくれて助かった。」
「いいえ、滅相もございません。梅澤様は三条の白松屋という旅籠に滞在されております。」
「後で俺が白松屋に文を使いの者に寄越しておこう。」
「わかりました。ではわたくしはこれで失礼いたします。」

千尋が副長室から出ると、中庭の茂みの方で誰かが言い争う声が聞こえた。

「一体どういう事だ、これは!?」
「それはわたしにもわかりませんよ。それよりも平田さん、そんなに大声を出さないでください、誰かに聞こえでもしたらどうするのですか?」

そう言って男を窘(たしな)める天童は、何処か醒めた目をしていた。

「誰も聞いていないさ。それにしても天童、よくあの土方の隠し子だと嘘を吐いてここへ潜入できたな?」
「土方には女の噂が絶えないと知っていましたし、江戸で少し情報収集しましたからね。まぁ、子供のふりをして土方の事を父上と呼ぶのは反吐が出ましたけれど。」

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最終更新日  2019.02.19 00:00:26
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