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JEWEL

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完結済小説:螺旋の果て

Feb 15, 2012
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その送り主は、襄の孫娘・アリスからだった。

“祖父はあなた達にとても会いたがっています。是非来てください。”

手紙が届いてから4ヶ月後、巽達はボストンへと向かっていた。
「漸く会えるんだな・・」
「よかったね、お祖父ちゃん。」
巽の胸には、長兄・総司に対する申し訳なさと、襄に謝罪したい思いで一杯になった。
父・歳三は晩年総司と絶縁してしまったことをしきりに後悔していると呟いていた。

『何であんなつまらねぇ理由で息子を絶縁させたんだろう。孫が出来たと素直に喜べた筈なのに・・』

歳三は総司と和解できず、総司はアメリカで病死し、孫・襄とも会うことなく最愛の妻の後を追った。
巽はその父の代わりに、襄に会って両親の事や総司の事を話したかった。
そんな事を考えている内に、襄と会う約束の時間が迫って来た。
襄との待ち合わせ場所は、ボストン市内の公園だった。
5月の新緑に囲まれたそこは、家族連れやランチタイムのひとときを過ごすビジネスマンで賑わっていた。
巽はそっと、木製のベンチに腰掛けた。
メールでは会いたいと言っていたが、本当に襄は来てくれるのだろうか?
もし急に会いたくないと言ってきたらどうしようか―そんなことを考えている内に、巽はこちらへと近づいてくる老人に気づいた。
『あなたが、タクミ=ヒジカタさんですか?』
『はい、そうです。』
巽はベンチから立ち上がると、自分を見つめている老人を見た。
『あなたが、襄さん?』
『そうです。』
『済まなかった、襄!今まで連絡も取らないでいて・・』
『もういいんです、こうして会えたんですから。』

襄はそう言うと、巽を抱き締めた。
こうして2人は、82年振りの再会を果たした。

長い間彼らは互いの家族の事などを話しあった。

『これで父や母に良い報告が出来るよ。きっと総司兄さん達も天国で喜んでくださるだろう。』
『そうですね。休みが取れたら日本に伺います。その時までお元気で。』
『ああ。』

笑顔で襄と別れた巽は、天国に居る両親や総司は喜んでくれただろうかと思っていた。

瞬く間に5月の再会から半年が過ぎ、襄が家族を連れて来日し、宿泊先のホテルで襄と巽達は感謝祭を過ごした。

『見て、初雪よ!』

窓の外を眺めていた真由がそう叫ぶのを聞いた巽と襄が窓の外を見ると、そこには白い雪が舞い散り始めていた。

『父と母は、初雪が降った夜に出会ったんですよ。』
『そうですか。天国の二人がわたし達を祝福してくれたんでしょうね。』
『えぇ・・』

感慨深げに窓から初雪を眺めていた巽は、涙を流していることに気づいた。

(お父さん、お母さん、これで思い残すことはありません。)

巽と襄の交流は、2013年5月に巽が亡くなるまで続いた。

巽の部屋には、自分の家族と襄の家族が映っている写真と、両親たちと写真館で撮った家族写真が仲良く机に並べられている。

あの初雪の日―歳三と千尋が運命の出逢いをした夜から、100年以上の時を越え、断ち切られていた家族の絆は漸く結ばれたのだった。

―完―






Last updated  May 26, 2016 02:51:37 PM
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登が祖父の病室に戻ると、巽が妹からブログの使い方を教えて貰っているところだった。

「簡単にできるんだなぁ。」
「うん。それよりもお祖父ちゃん、どうしてブログなんか始めようと思ったの?」
「ちょっと探したい人が居てな。」
「探したい人って、健一じいちゃんが言っていた襄って人?」
「ああ。初めて会った時は13歳だったが、もう90代になっている筈だ。」
巽はそう言ってマウスを動かしながら、PCの画面を見つめていた。
「じゃぁお祖父ちゃん、ブログだけじゃなくてフェイスブックもやってみたら?」
「フェイスブック?」
「実名登録のソーシャルネットワークサービスよ。顔写真と自分のページを載せれば、世界中の人と交流できるのよ。」
「そうか、それもやってみようかな。」

数日後、巽は自分のフェイスブックのページを開き、ある人を探している旨を英語で書いた。

“音信不通のまま亡くなった兄の息子・襄を探しています。どなたか情報を知っておられる方は、下記のメールアドレスにご連絡ください。”

こんなもので情報が集まるものかと半信半疑であった巽だったが、ユーザー達からの反応は素早く、襄の事を知っているという彼らからの情報は1000を超えた。
だがその大半は面白半分な嘘ばかりで、やはり襄を見つけることはできないのではないかと、巽は落ち込んでいた。
一方、アメリカ・ボストンにある会社のオフィスで、巽のページを1人の老人が見ていた。
「会長、どうかされましたか?」
「わたしの事を、フェイスブックで探している人が居るんだ。」
老人はそう言って秘書に巽のページを見せた。
「メールしてみたらどうでしょう?もしかして彼は会長の親族なのかもしれません。」
「そうだな・・そうしてみよう。」
老人はデスクに飾られている家族の写真をちらりと見ると、巽にメールを出した。
「お祖父ちゃん、どう?情報集まった?」
「いいや。人一人探すのにこんなに苦労するとは思わなかったよ。」
そう言って巽は溜息を吐いた時、メールが一通入っていることに気づいた。
また面白半分に偽の情報を送ってきた輩だろうと彼がそのメールを開くと、そこには今は亡き長兄・総司とその息子・襄が映っている写真が載っていた。

“わたしはジョー・ネイルズです。両親とともにサンフランシスコで暮らしていましたが、今はボストンで会社を経営しています。もしあなたがわたしの親族なのなら、お返事をください。”

「どうしたの?」
「襄からメールが来た。ボストンで会社を経営しているそうだ。」
「そう、良かったね!」
「これで父や母に良い報告が出来る。」
そう言った巽は、満面の笑顔を浮かべていた。
それから、海を越えて襄と巽は時間の許す限りメールの遣り取りをした。
内容は日々の他愛のないことだったが、それだけでも2人は嬉しかった。
やがて一度だけでいいから会ってみたいと巽は思い、その旨をメールに書いて襄に送ると、彼も会いたいと返事を書いて来た。
「アメリカに行きたいんだが・・」
「お祖父ちゃん、襄さんに会いたいのね?」
「ああ、会って話がしたいんだ。」

巽は入所していた介護施設を出て、梨沙達と一緒に暮らすことになった。

「狭い所だけれど、我慢してね。」
「1人で居るよりも、楽しいよ。」

孫娘夫婦の世話になりながら、巽は襄と会う為の準備をしていた。
そんな中、1通のエア・メールが届いた。






Last updated  May 26, 2016 02:51:01 PM
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Feb 14, 2012
写真には今は亡き健一の曾父母・歳三と千尋、そして少年時代の父と叔母・椿と、見知らぬ青年が映っていた。

「お義父様、この方は?」
「あぁ、これは父が絶縁した長男の総司兄さんだ。」
巽はそう言って愛おしそうに青年の顔を撫でた。
「父には前妻が居てな、母は血の繋がらない兄と姉を愛情深く育ててくれた。だから総司兄さんがアメリカから帰国して5歳年上の女性を妊娠させて結婚したと聞いた時、両親は彼らと絶縁した。あの時の母の嘆きようは、まるで昨日の事のように憶えているよ。」
「まぁ、そんな事が・・それで、総司さんはどちらに?」
「アメリカで暮らしていたんだが、34歳で死んでしまった。今更だが、総司兄さんの息子・純に、両親の無礼を詫びたい。」
「お父さん、今まで苦しんできたんだね?でもあの頃はお祖父さんには逆らえなかったんだろう?」
「ああ。父の言う事は絶対だった。だがな、あの時総司兄さんと父の仲を取り持とうと努力していれば、あんな結果にはならなかったのかもしれない・・」
巽はそう言って言葉を切ると、激しく咳き込んだ。
「大丈夫ですか、お義父様?今日は冷え込みが厳しいから、お休みになられた方が・・」
「そうだな。辛気臭いことを考えてしまった所為かな。お休み。」
「お休みなさい、お父さん。」
翌朝、ダイニングに泣きはらした目をした梨沙が入って来た。
「梨沙、少しは反省したか?その顔を見ると一晩中泣いていたようだが?」
巽がそう言って彼女に声を掛けると、彼女は首を横に振った。
「泣いてなんかいません。おじいちゃん、迷惑をかけてごめんなさい。」
「謝るのはわたしじゃないだろう?」
「お父さん、お母さん、ごめんなさい。」
梨沙は両親に無礼な態度を取ったこと、迷惑をかけた事を謝罪した。
「梨沙、お前がいずれ親になる時、この言葉を憶えておきなさい。“親孝行したい時に親はなし”。」
「解りました、おじいちゃん。」
反抗期を迎え、親に何かと反発していた梨沙も、やがて社会へと出て荒波にもまれ、母親となった。
「ほら登、さっさと支度して!」
「そんな事言っても、まだ髪が決まらないんだよ!」
「髪くらい手櫛で整えなさいよ、みんな待ってるのよ!」
洗面台の前で整髪料片手に格闘する長男・登の尻を梨沙は叩くと、夫と娘が待っている車の助手席へと乗り込んだ。
「登はまだなのか?」
「そうなのよ。」
「もうお兄ちゃん放っておけばいいじゃん。」
長女の真由は携帯片手にそう言って溜息を吐いた。
「ごめん、遅くなった!」
「あんた、家の戸締りはしたんでしょうね?」
「したよ!」
「ったくもう、あんたの所為で約束の時間に遅れるじゃない!さ、あなた車出して!」
「わかった。」
隆と梨沙達が乗った車は、登達の曾祖父・巽が入所している房総半島の介護施設へと向かった。
「お祖父ちゃん、元気だった?」
「真由、久しぶりだな。」
113歳となった巽は、足腰が弱ったこと以外はぴんぴんとしていた。
「お祖父ちゃん、何してるの?」
「いやぁ、ブログというもんを始めようと思ってな。お前達がしているのを見てわたしもやろうと思ってな。」
「お祖父ちゃん、まだまだ若いね。じゃぁあたしが教えてあげるね!」
真由が巽にブログの使い方を教えている頃、登は施設の中庭で携帯片手に誰かと話していた。
「今は祖父ちゃんの所に居るって言ってるじゃん!話なら学校で聞くから!」
『もういいよ、登の馬鹿!』
「ったく、なんだよもう・・」

登は携帯の電源を切ると、溜息を吐いて祖父と妹がいる病室へと戻っていった。






Last updated  May 26, 2016 02:50:43 PM
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敗戦を迎えて暫くは食糧難に喘いでいた巽達であったが、それも10年、20年も経つと食糧をはじめ物流などが安定し、いつも食糧を探しに靴の底がすり減るまで駆けずり回る必要もなくなっていった。

「お父さん、明日はお仕事で忙しいの?」
「ああ。」
「運動会では太郎や他のクラスのお父さんは来るのに、どうしてうちだけ来ないの?」
巽の孫にあたる健一の長男・忍はそう言って唇を尖らせて拗ねた。
「忍、我がままを言ってはいけませんよ。お父さんはわたし達の為に汗水垂らして働いてくださっているのよ。それに運動会は来年もあるでしょう?」
「でも僕だけ仲間外れだなんて嫌だ!」
忍はそう叫ぶと、食事の最中であるのに席を立ち、ダイニングから出て行った。
「申し訳ありません、お義父様。わたくしの躾が至らないばかりに・・」
健一の妻・耀子がそう巽に詫びると、彼は笑ってこう言った。
「余りきつく叱っては駄目だ。わたしも幼い頃、仕事で忙しい父に対して我がままを言ったものだ。健一、今は仕事で精一杯だと思うが、何とか都合をつけて日曜には忍の学校に行ってやりなさい。」
「はい・・」
高度経済成長の最中、朝方から出勤し帰宅するのは午前様という日々を毎日送っていた健一は、遠回しに父親から家庭を蔑ろにしていることを非難され、俯くしかなかった。
「あなた、梨沙の事ですけれど・・」
「梨沙がどうかしたのか?」
「この前、学校から連絡があって・・あの子ったら近所の文房具屋で消しゴムを盗んだんですのよ。」
「何だと!そんな大切な事をどうして言わなかったんだ!」
夫婦共用の寝室で、耀子が長女・梨沙が起こした事件の事を夫に報告すると、彼は目を剥いて怒り出した。
「あなたはお仕事でお忙しいでしょうし、余計な心配を掛けたくなかったんです。」
「梨沙は僕と君の娘だ。あいつは今部屋か?」
「ええ。」
「梨沙をここへ呼べ。」
耀子が寝室を出て梨沙の部屋のドアをノックすると、中から返事がなかった。
「ママ、入るならノックしてよ!」
思春期に入り、反抗期真っ只中である中学1年生の梨沙は、そう言って母矢を睨みつけた。
「ノックしましたよ。中から返事がないから入っただけじゃないの。」
「あ、そう。何の用なの?」
「お父様がお呼びですよ。」
梨沙は不貞腐れた顔をして、夫婦共用の寝室に入って来た。
「パパ、話ってなに?」
柱に気だるそうに凭れかかった娘の頬に、健一は平手を打った。
「何すんのよ、痛いじゃない!」
「親に向かってその態度はなんだ!人様のものを盗んでおいて反省もなしか!」
「お金払ったんだからいいでしょう!」
「何だと!」
健一は護身用の木刀を握り締めると、それを梨沙の前に振り翳した。
「そこへなおれ、梨沙!今日という今日こそはお前のその腐れ切った性根を叩き直してやる!」
「やれるもんならやってみろってのよ、クソジジイ!」
「あなた、わたくしに免じて許してあげてください!梨沙、あなたもお父様にお謝りなさい!」
寝室での騒ぎを聞きつけて、巽が寝室に入って来た。
「夜中に何の騒ぎだ!梨沙、お前は頭を冷やす為に外で寝ろ。」
「こんなに寒いのに?おじいちゃん、本気なの!?」
「お前は両親に対して無礼な事をしているのがわからんのか!」
巽はまるで鞭を振るったかのような厳しい声で梨沙を黙らせると、健一達の方へと向き直った。
「2人は離れに来なさい。」

巽が使っている離れの和室に健一と耀子が入ると、巽はおもむろに1枚の写真を見せた。






Last updated  May 26, 2016 02:50:32 PM
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Feb 13, 2012
「ただいま戻りました。」
「お帰りなさい、椿さん。」

椿が嫁ぎ先である高円家の玄関へと入ると、義母・恵子が彼女を迎えた。

「さっき陽輔がかんかんになってきて帰ってきたけれど、向こうで何かあったの?」
「ええ。」
椿は姑に、父の遺産は全て弟夫婦が相続したことを告げると、彼女は深い溜息を吐いた。
「巽さん達はあなたのお父様をお支えになっていたものね。陽輔があんな事をしなければ、お父様の心証を悪くしなかったものを。」
「ええ。お義母様、子ども達は?」
「外で遊ばせていたら、疲れたようでお部屋で休んでいるわ。それにしても椿さん、もう大丈夫なの?」
恵子の視線が、椿の丸みを帯びた下腹へと移った。
「大丈夫です。」
「陽輔は身重の妻を家に置いて、毎晩飲み歩いて・・わたしの教育ができてなかったのねぇ。」
恵子は再び溜息を吐くと、椿の為に温かい飲み物を淹れてくるといって席を立った。
1人になった椿は、これから夫とどうするのかを考えていた。
二児の母として、陽輔の妻として今まで頑張ってきたが、陽輔が問題を起こすたびに何かと父に金を集って来たので、歳三は自分が生きている内に子ども達を連れて実家に帰って来いと言っていた。
だがもうその父もおらず、もうすぐ3人目が生まれるというのに、子ども達を養える金もない。
「なんだ、居たのか?」
「あら、居て悪いかしら?」
椿が顔を上げて陽輔を見ると、彼はまた何処かへ出掛けるようだった。
「また夜遊びでもなさるつもり?3人目が生まれるというのに・・」
「飲まなきゃやってられないんだ。なぁ椿、巽さんに頼みこんで少しは金を・・」
「お断りします。あなたが夜遊びを止めたら、お金が溜まりますよ。」
「何だその言い草は、夫に向かって!」
陽輔は妻の態度に腹が立ち、彼女の髪を掴んで床に倒した。
「痛っ!」
乱暴に押し倒されたので、椿は下腹部を強打した。
「陽輔、何をしているの?」
恵子は床に蹲る椿へと駆け寄ると、彼女は破水していた。
「早く車を出しなさい、病院へ運びます!」
恵子の言葉に、陽輔はぶすっとした顔をして外へと出て行ってしまった。
「椿さん、大丈夫よ。」
病院へ運ばれた椿は、そこで元気な女児を出産した。
「椿さん、陽輔と別れたいのならわたしがいつでも力を貸しますよ。もうあの子を息子とは思いませんから。」
「ありがとうございます、お義母様。」
出産した椿が娘を連れて帰宅した時、陽輔の姿は何処にもなかった。
居間の机には、『探さないでください』という書き置きだけが置かれていた。
椿は3人の子供たちを連れて高円家を出て、実家へと戻ってきた。
「お義姉様、お帰りなさい。」
「ごめんなさいね、静江さん。お父様の事でバタバタしているというのに・・」
「いいえ。困った時はお互い様ですわ。」
実家に出戻った義姉に対して労いの言葉を掛ける静江を見て、弟は良くできた嫁を貰ったものだと椿は思った。
歳三の死から9年が経ち、戦争による食糧難や物資難が著しくなり、巽達は何とか家族の分の食糧や物資を調達し、それで空腹を凌いでいた。
「いつまでこんな事が続くのでしょうね?」
「全くだわ。最近暑いわね。」
「ええ、本当に。」
静江が今や野菜畑と化したテニスコートで鍬を振るっていると、巽が何やら慌てた様子で走って来た。
「どうなさったの、あなた?」
「静江、ラジオをつけろ!緊急放送がある!」

静江が慌てて鍬を放り出し、居間にあるラジオのスイッチをつけると、そこから天皇陛下の御声が雑音に混じって聞こえてきた。

それは、敗戦を知らせる“玉音放送”だった。






Last updated  May 26, 2016 02:49:56 PM
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「まさか、こんなに早くあいつが俺の前から居なくなるとはな。」

千尋の葬儀を終えた後、歳三はそう呟いて乾いた笑い声を上げた。

「お父様・・」
「総美も死んで、総司に続いて千尋まで・・俺の前から1人ずつ居なくなっちまう。」
歳三は溜息を吐き、妻の笑顔の遺影を見つめた。
これまで自分を陰に支えてきた千尋を失い、歳三は体調をしばしば崩すようになっていた。
「心配だわ、最近お食事も余り召し上がらないし。」
「やはりお義母様がお亡くなりになられたことで、寂しい思いをなさっているのではないかしら?」
静江はそう言って、歳三が手をつけていない昼食の膳を見た。
「お父様、入りますよ?」
「入れ。」
「失礼します。」
巽が歳三の部屋に入ると、彼は億劫そうにベッドから起き上がった。
「最近静江が心配しておりますよ。せめて食事をとってください。」
「そうしたいんだが・・身体が最近言う事を聞かなくてな。そういえば健一はどうしてる?」
「あいつならまだ学校ですよ。」
「確か来年小学校を卒業するんだったな。百貨店で入学祝いでも買っておくか。」
「まだ早いですよ、お父様。」
「そうだな。」
歳三はそう言って苦笑すると、巽を見た。
「なぁ巽、これは天罰なのかな?息子を冷たくこの家から追い出した罰が、下ったのかな?」
「そんな事はありませんよ。総司兄様も、もう許してくださっています。」
「そうか・・」
歳三はゆっくりと目を閉じると、巽の手を握り締めた。
「おやすみなさい、お父様。」
「おやすみ・・」
それが、歳三が遺した最後の言葉だった。
千尋が亡くなってから数ヵ月後、歳三はその後を追うようにして67年の生涯を終えた。
「お父様、まだ教えて頂きたいことがあったのに、逝かれるだなんて!」
「まだ親孝行をしていませんのに・・」
千尋の死後、体調を崩した歳三の看病をしていた巽と静江は、涙を流しながら父の死を悼んだ。
その後、歳三の遺産について顧問弁護士の井上が土方家にやって来た。
「死後、わたしが所有する土地は次男の嫁・静江さんに、現金は次男・巽に全て分与する。」
「まぁ、それだけなの?」
「ええ、この遺言書に異存がありませんのでしたら、サインをお願い致します。」
巽が財産相続の旨が記された書類に署名しようとした時、長女・椿の夫である高円陽輔が部屋に入って来た。
「一体どういうことですか!僕達にだって貰う権利はある筈でしょう!」
「何を言っているんですか、お義兄様!お義父様の許可なしに新事業を立ち上げるという友人の口車に乗せられて詐欺に遭ったのは、お義兄様でしょう!」
静江は義父・歳三の金を浪費した挙句詐欺に遭った義兄に対して非難の声を上げると、義姉の椿が慌てて夫の腕を掴んで部屋へと連れ出した。
「何をするんだ、離せ!」
「あなた、みっともない事はよして頂戴!弟夫婦に父の遺産は相続されたのだから、もうわたくし達は諦めるしかないの!」
「お前はなんて薄情な女なんだ!それでも俺の妻か!」
「妻だから申しているのです!あなたの所為で家族がどれだけ苦しんだと思っているの!?」
「もういい!」
陽輔は乱暴に妻の手を振りほどくと、土方家から出て行った。
「申し訳ございません、見苦しいところをお見せいたしまして・・」
椿がそう言って夫の無礼を弟夫婦に詫びると、彼らは何も言わなかった。
「お義姉様、今日は体調を崩しておられるのにわざわざ来てくださり、ありがとうございました。」

帰り際、静江から労いと感謝の言葉を聞いた椿は、夫との諍いで疲れた心が癒されるのを感じた。






Last updated  May 26, 2016 02:49:43 PM
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Feb 12, 2012
「どういうことです、理哉さんが死んだなんて・・」
「どうやら、仕事の最中で移動する際に乗っていた汽車が脱線したそうだ。」
「何ということでしょう。お可哀想に・・」
千尋は突然の理哉の死に、嘆き悲しんだ。
いつも自分に冗談を言っては笑わせてくれた理哉が、もう居ないなんて信じられなかった。
「理哉小父様が亡くなられるだなんて、信じられませんわ。昨年の元旦に元気なお姿を見せてくださっておられたのに・・」
巽の妻・静江がそう言って溜息を吐いた。
「ああ、僕も信じられないよ。残された梨枝子小母様や純君がどんな思いをしているか・・」
「お義父様はもっと辛そうなお顔をしておりましたわ。理哉小父様を実の弟のように可愛がっていたんですもの・・」
土方家は理哉の訃報を受け、上海で遺された彼の妻子に想いを馳せながら、彼の冥福を静かに祈った。
「社長、お電話です。」
「誰からだ?」
「川島興産の三島という方からです。」
「すぐに繋げ。」
歳三はそう言って電話番が繋いだ電話を取った。
『もしもし、土方社長?』
「これは三島さん、こんな時間に何のようでしょうか?」
『実は、貴社の株を売っていただけませんか?』
「このような時期、どこの会社も己の宝を他所へ渡すような真似はいたしませんよ。申し訳ございませんが、お断りいたします。」
『お待ちください、あの・・』
三島が尚も言い募ろうとしたところを、歳三は受話器を乱暴に置いた。
「社長、お客様です。」
「またあの三島とかいう奴じゃねぇだろうな?」
「いいえ。ただ社長を出せと・・」
今日は来客の予定はない筈だと思いながら歳三が仕事していると、俄かに廊下の方が騒がしくなった。
「困ります、社長は今仕事中で・・」
『離せよ、僕のパパは死にそうなんだ!』
社長室のドアが開き、襄が入って来た。
『一体これは何の真似だ?相手を訪問する時は向こうの都合を聞くのがマナーだというのが知らないのか?』
歳三はそう言って襄を睨み付けると、彼はつかつかと歳三に近づいた。
『パパを助けてよ!パパは死にそうなんだ!』
『ふん、そう言われてもお前のパパと俺は縁を切ったんだ。』
歳三は帯封がついた金が入った封筒を襄に手渡した。
『薬代にはなるだろう。これを持ってここから出て行け。』
襄は屈辱に震えながら、封筒を握り締めて社長室から出て行った。
「社長、今のはあんまりではありませんか?いくら絶縁しているとはいえ、総司様の事が気にならないのですか?」
「ああ。絶縁した息子の事よりも、今はやらないといけない事が山ほどあるんだ。」
「そうですね。」
その年の10月、末期の肺結核に冒された土方総司は、両親と和解することなく、アメリカで妻子と妻の両親に看取られながら、34年の短い生涯を終えた。
『あの人達は酷いわ、わたし達にこんな仕打ちをして・・』
『ママ、泣かないでよ。これから僕がパパの代わりにママを守るよ。』
襄は、父を助けてくれなかった歳三への激しい憎悪を募らせていった。

1936(昭和11)年、二・二六事件後、政権は軍部が掌握することとなり、日本を黒雲が次第に覆い尽くそうとしていた。
「あなた、起きて下さいな。」
「どうしたんだ、静江?」
「お義母様が・・」
妻の切迫した表情を見た巽がリビングへと入ると、そこにはペルシャ絨毯の上に倒れたまま動かない千尋の姿があった。

「誰か、医者を!」

数分後医師が呼ばれたが、千尋の意識は回復することなく、息を引き取った。
52歳の、波乱と幸福に満ちた生涯であった。






Last updated  May 26, 2016 02:49:28 PM
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1930(昭和5)年、東京。


第一次世界大戦、関東大震災を乗り越え、土方歳三は土方財閥設立50周年記念パーティーを帝国ホテルの宴会場を貸し切って行っていた。

「本日は弊社の設立50周年記念パーティーにお忙しい中来て下さり、この土方歳三、恐悦至極の思いでございます。今後とも何かと宜しくお願い致します。」

壇上にて挨拶を述べる歳三は、還暦を過ぎたとは思えぬ程背筋を正し、常に丹田に力を込めるようにして歩き、招待客に笑顔を振りまいていた。
「お父様、立派だこと。還暦を過ぎても全く老けている気配などないわ。」
長女の椿はそう言って、隣に立っている母・千尋を見た。
「ええ。お父様はとても精力的な方ですからね。椿、今夜はパーティーに出てよかったの?」
「大丈夫よ。剛と晃はお義母様に見ていただいておりますから。」
女学生の頃、“わたくしは一生独身を貫くわ”と言っていた椿だったが、今では二児の母と大学教授の二足のわらじを履きながら、仕事と主婦業を両立している。
「あちらのお義母様が、あなたに理解ある方で良かったわ。それにしても、巽の姿が見えないわねぇ。あなた、ご存知ないの?」
「いいえ。」
千尋と椿が末息子の姿を探していると、入口の方が急にざわめき始めた。
「あら、どうしたのかしら?」
千尋がさっと入口の方へと向かうと、そこには長年絶縁していた長男・総司とその妻・アビー、そして13歳の長男・襄(じょう)の姿があった。
「お久しぶりです、お母様。」
「あら、あなた方をこちらに招いた憶えはなくてよ。」
千尋はそう言って警備の者を呼ぼうとしたが、その時総司が彼女の前に土下座した。
「13年前、わたしはとんだ親不孝な真似をしてしまいました。どうか、許して下さいませんか!」
「いいえ、許しません。あなたとわたくしはとうに親子の縁を切った身です。いくらあなたがここで額を床に擦りつけようとも、許すわけにはまいりません。解ったのなら、さっさとここから出てゆきなさい!」
「奥様、どうなさいましたか?」
歳三の右腕である斎藤が、ただならぬ様子の千尋と総司達の間に割って入った。
「斎藤、塩を持ってきなさい。」
「ですが奥様・・」
「土方に恥を掻かせるおつもりですか?」
斎藤が塩を持って来ると、千尋はそれを一摘み握ると総司へとぶつけた。
「さぁ、お帰りなさい!」
「奥様、おやめください!人の目がございます!」
「お黙りなさい!この恥知らずめ、よくもこの場に顔を出せたものだわね!」
実母のように深い愛情を注いでくれた継母の、余りにも冷淡な態度に、総司は涙も流さず、唇から血が出るまできつく噛み締めながら、その場から動こうとしなかった。
『パパをいじめるな!』
父が義祖母の罵倒と冷たい仕打ちに耐えているのを見兼ねた襄は、彼の手を引っ張った。
『パパ、帰ろうよ。』
『そうだな、帰ろう・・』
総司はそう言うと、息子の手を握りながらパーティー会場を後にした。
「兄上、待って!」
パーティー会場から出て行く長兄の姿を、巽は呼び留めたが、彼は哀愁漂う背中を見送ることしかできなかった。
「総司兄様が、来ていたのね。」
「うん・・」
「13年も音信不通だったのに、どうしたのかしら?」
「さぁ・・」
巽は嫌な予感がして、総司と連絡を取らなければと思った。
「一体どういう事だ、これは!」

翌朝、千尋はリビングから響く怒声で目を覚まし、慌てて一階へと降りていった。

「どうなさったの、あなた?」
「千尋・・理哉が・・死んだ!」






Last updated  May 26, 2016 02:47:49 PM
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総司とその妻・アビーは結局歳三達と和解せぬまま、再び渡米した。

「お兄様、お手紙頂戴ね。勿論お父様達には内緒で。」
「ああ。急に来て、さっさと帰ってしまって済まないな。」
総司はそう言って椿を抱き締めた。
「時間が解決してくれると思うわ。お母様達だって頭に血が上がってあんな事おっしゃったけれど、距離を置いてみたら冷静になると思うのよ。」
椿はそう言って兄を励ましたが、あれ以来両親は総司の存在をまるで忘れたかのように彼の話をしようともしない。
「じゃぁね、身体にお気をつけて。」
「ああ。」
兄夫婦が船に乗り込むのを見送った椿が帰宅すると、千尋が何やら総司の部屋の前でメイド達にてきぱきと指示を出していた。
「お母様、何をなさってるの?」
「何をって、総司の物を処分するんですよ。あの子もそのつもりであんな女と結婚したんですからね。」
「お母様、こんなの酷過ぎるわ!」
椿はそう言うと千尋が総司の物を運び出そうとするのを止めた。
「これくらいしないと、わたくしの気持ちが収まらないのよ、止めないで!」
「千尋、よさないか。」
歳三が見兼ねて2人の間に割って入ったが、千尋は歳三の手を邪険に振り払った。
「放っておいて!あの子ときたら・・年上の女に騙されて可哀想に!」
千尋は金切り声を上げて泣き叫ぶと、床に蹲った。
「千尋を部屋へ運べ。」
「承知しました。さぁ奥様、こちらへ・・」
「あの親不孝者め・・絶対に許さないわ・・」
総司への恨み事を吐きながら、千尋は部屋へと入っていった。
「さっきのを見ただろう?千尋はあの女に手塩にかけて育てた息子を奪われて悔しいのさ。」
「そうなの。亡くなられたわたくしのお母様に代わって総司兄様やわたしを育ててくださったんだものね。渡米しただけでもおさびしいのに、突然結婚だなんて・・お兄様もお兄様だわ、結婚なさったのなら連絡ひとつ寄越せばよかったのに。」
港では兄の味方をしようと思っていた椿であったが、息子を盗られた千尋が悲嘆する様子を目の当たりにし、結婚の挨拶に事前の連絡なしに来る兄夫婦の非常識さに彼女は腹が立った。
「ねぇ姉上、あれから全然連絡が来ないけど、どうなったのかなぁ?」
「さぁね。また突然帰国するんじゃなくて?」
学校から帰った巽がそう言って姉に兄夫婦の事を尋ねると、彼女はどこか冷めた口調でその話を切り上げた。
兄夫婦が渡米してからもう4年余り、向こうから連絡は一切なく、両親も姉も彼らの事は口にしない。
まるで彼らの存在を忘れ去ろうとしているかのように。
「巽、あなたこれからどうするつもりなの?」
「父上の会社を継ぐために、働いてみるよ。」
「そう、それは良かったわ。何処かの誰かさんと違って、あなたは年上の女に騙されないと思うから。」
「よさないか、千尋。」
「明日早いからもう部屋で休むよ。」
巽はそう言ってリビングから出て行き、部屋で休んだ。
翌日、彼は歳三ととともに就職先の会社へと向かった。
「わざわざついてこなくてもよかったのに。」
「社長には何かと面倒を掛けるからな、挨拶をするだけだ。」
「そう、ならいいけど・・」
巽は歳三につられて社長室へと向かうと、そこには既に丸顔の人の良さそうな社長が椅子に座っていた。
「社長、今日からうちの倅がお世話になります。」
「いいえ。土方君、今日から頑張りたまえよ。」
「宜しくお願い致します。」
社会人としての一歩を歩み始めた息子を、歳三は目を細めて見ていた。
息子が居る会社を後にした歳三は、街中で1人の少年とぶつかった。
「ああ、済まないね。」
「財布、出して貰おうか?」

歳三がそう言うと、少年は舌打ちして財布を彼に渡すと、雑踏の中へと消えていった。






Last updated  May 26, 2016 02:47:38 PM
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4年振りにアメリカから帰国したかと思ったら、急にお腹の大きい白人女性を連れて来た息子の言葉に、歳三と千尋は余りにも驚いて言葉が出なかった。

「どういうことなの、ちゃんと説明して頂戴!」
「お前、留学中に女を孕ませて結婚しただと?それを報告する為に帰国したってのか!」
怒り狂う両親を前に、総司は妻・アビーの存在を彼らが快く思っていないことに気づいた。
「解ったよ、ちゃんと説明するよ。」
場所を玄関ホールからリビングに移し、総司は妻の隣に腰を下ろし、彼女との出逢いから結婚に至るまでの経緯を話した。
総司とアビーが知り合ったのは、総司が大学3年の時にアルバイトしていたカフェで、アビーがコーヒーのおかわりを頼むついでに彼に話しかけてきたことが始まりだった。
当時彼女は大学を卒業し、大手新聞社の花形記者として活躍していて、総司が父の会社を継ぐために大学で経済学を専攻していることを話すと、アビーは『是非あなたの家族の事を知りたい』と言われ、時々2人きりで会うようになった。
やがて彼女と意気投合し、恋人として付き合うようになった。
そろそろ結婚しようという時期に差し掛かり、アビーの妊娠が判った。
彼女の両親に挨拶を済ませ、総司はアビーと小さな教会で結婚式を挙げた。
そして自分の両親に彼女を紹介する為に帰国したという。
「そうなの。じゃぁこれからどうするの?」
「どうするって、向こうのご両親と暮らすよ。本当ならここで一緒に暮らしたいんだけれど、彼女が慣れない土地で暮らすのは嫌だって言うから・・」
「全く、久しぶりに帰ってきたと思えば、年上の女の尻に敷かれるだなんて・・わたくし、あなたの亡くなられたお母様にどう顔向けしたらいいのか解らないわ!」
千尋はそう叫ぶなり、溜息を吐いた。
『ソウジ、どうしたの?』
隣で総司と両親の会話を聞いていたアビーが、にこにこしながら夫を見た。
どうやらこの緊迫とした雰囲気に彼女は気づいていないらしい。
『アビーさんとおっしゃったわね?うちの総司は将来、この土方家を継ぐ長男なんですのよ。あなたの勝手な都合で大事な長男である総司をアメリカに連れて行くなんて、わたくしは認めませんからね。』
千尋がそう言ってアビーに英語で食ってかかると、彼女も切り口上で言い返してきた。
『家族とともにいることが、何が悪いんです?それにソウジは友人も家族も居ない日本でわたしが出産するのは心細いだろうからと、納得してくれたんですよ!』
『あら、それはどうかしら?あなた、上手く総司を丸めこんだのではなくて?』
『どうしてそのような言い方をなさるんです?わたしの何処が気に入らないんですか?』
『あなたの全てよ!年上だということ自体気に入らないのに、嫁の両親と同居だなんて!長男の嫁は夫の両親と同居する事が当たり前なのよ!』
『アメリカでは妻や夫の両親の家とは互いに行き来します。それが普通です!』
『あら、ここは日本です!“郷に入っては郷に従え”という言葉を知らないの?あなたはそれでも新聞記者なの?』
女同士が繰り広げる激しい言い争いに、総司と歳三は口を挟む余地がなかった。
『とにかく、総司をあちらへ連れて行くのなら、今後一切連絡してこないで頂戴ね!今日限り、あなた方とは縁を切ります!』
千尋はソファから立ち上がると、リビングから出て行った。
「これからどうなるのかしら?」
椿は斎藤に着替えを手伝って貰いながら、真新しいドレスを着て鏡の前で一周した。
「さぁ、それは旦那様と奥様がお決めになることです。それよりも今夜の舞踏会、楽しんで来てくださいね。」
「ええ。」
椿は斎藤にそう言って笑うと、意気揚々と部屋から出て行った。
「椿、舞踏会楽しんでいらっしゃい。」
「ええ、解ったわ。お兄様は?」
「さぁね。あの女とホテルに泊まってますよ。まぁ会うつもりもないけれど。」
「お母様・・」
「お兄様の事よりも、自分の事を心配なさい。」

千尋は椿に笑顔を浮かべたが、目が笑っていないことに彼女は気づいていた。






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