1309574 ランダム
 ホーム | 日記 | プロフィール 【フォローする】 【ログイン】

JEWEL

全40件 (40件中 1-10件目)

1 2 3 4 >

完結済小説:胡蝶の唄

2014.10.09
XML

その日の夜、宮中では信子主催の管弦の宴が華々しく開かれ、光明の妃となるのには相応しい家柄と美貌を兼ね備えた姫君達が集まった。

「光明、この中からそなたが妃にと思った姫君を選ぶのですよ。」
「皇太后さま、わたくしはまだ結婚は・・」
「何を言うのです、あなたはもうじき東宮となられる身。妃を選ばなければ外聞が悪いでしょう?」
信子がそう言って光明を睨んだ時、不意に池に浮かべている船から箏の音が聞こえた。
「あら、何かしら?」
「とてもお美しい方ね・・」
月明かりに照らされ、船の中で箏を弾く美鈴は、深緑の唐衣を纏っていた。
突然現れた謎の姫君に周囲の者達は呆気にとられたが、次第に美鈴の演奏に恍惚とした表情を浮かべながら聞き惚れる者が出来た。
「美鈴、見事な演奏であったぞ。」
「有難きお言葉を頂戴し、嬉しゅうございます。」
美鈴はそう言うと、信子と光明の前で頭を垂れた。
「美鈴、その唐衣はそなたの黒髪に映えて似合うておるぞ。」
信子は美鈴に向かって微笑んだ。
「皆の者、先ほど見事な箏の腕前を披露してくれたのは、光明の妃となる立花家の姫、美鈴じゃ。」

―何ですって・・
―あれが、東宮妃様ですって?

周囲が美鈴を指しながらざわめき始めたのを見た信子は、美鈴を見た。

「皇太后さま、これは一体どういうことなのですか?」
「光明、詳しいことは後で説明する。」

宴が終わり、信子の部屋に呼ばれた光明と美鈴は、彼女の口からある“作戦”を明かされた。
「実は、美鈴をそなたの妃に選ぶことは、はじめから決めておった。」
「そんな・・美鈴様は姫の恰好をしておりますが、れっきとした男子ですよ?男を東宮妃にするなど、前代未聞です!」
「だが美鈴姫が男子であると知っているのはそなたと妾、そして側仕えの者だけじゃ。それゆえ、美鈴姫を東宮妃として迎えても、宮中の者達は暫く何も言わぬだろうよ。」
「つまり、皇太后さまはわたくし達に世間の目を欺き、東宮とその妃を演じろとおっしゃるのですか?」
「そうじゃ。光明、これからは妃である美鈴を守ってやれ。」
「は、はい・・」
「美鈴よ、そなたは兄である夫の光明を生涯支えるのじゃぞ。」
「わかりました、皇太后さま。」

こうして、晴れて光明は東宮の座に就き、美鈴は東宮妃として光明を支えることになった。

男同士で、同じ血を分けた兄弟が夫婦になるなど、宮中にとっては前代未聞の話ではあったが、二人が亡くなるまでその秘密は守られた。

「まったく、皇太后さまはお人が悪いお方だった。」

二人が亡くなってから何年が経った後、すっかり年老いてしまった 光利は当時の事を思い出しながら、光明と美鈴の養子で、実の息子である幸秀(ゆきひで)に今は亡き信子への恨み言をつい吐いてしまった。

「ですがお二人はお亡くなりになられるまで仲睦まじかったと聞いておりますよ?」
「まぁ、同じ血を分けた者同士、何処か気が合うところがあったのであろうな。」

空に浮かぶ赤い月を眺めながら、光利は盃に入った酒を一気に飲み干した。

―完―

にほんブログ村 小説ブログ 恋愛小説(純愛)へ
にほんブログ村






最終更新日  2014.10.09 16:20:29
コメント(6) | コメントを書く

「皇太后さま、本気なのですか?陰陽師如きを東宮にさせるなど・・」
「戯言で妾がそのようなことを申す訳がなかろうが?」
信子は、光明を東宮にすることを反対している女房達を睨んだ。
「いえ・・」
「そなたら、二度と妾に向かって生意気な口を利けぬようにしてやろうか?」
「お許しください、皇太后さま!」
「わかればよいのだ。」
「宴、ですか?」
「そうじゃ。そなたの妃選びを兼ねて、今宵管弦の宴を開こうと思っておる。」
「そうですか・・」
「何処か浮かぬ顔をしておるな?」
「いいえ。」
「そなたは宴が始まるまで、安倍の家でゆっくりしておればよい。」
「わかりました。」
信子の部屋から出た光明は、その足で美鈴が居る桐壺へと向かった。
「光明様、お久しぶりでございます。」
「美鈴様、お元気そうで何よりです。今宵、皇太后さま主催の管弦の宴が開かれるのをご存知ですか?」
「ええ。その宴には、わたくしも出席するつもりです。」
「そうですか。では、またお会いしましょう。」
「ええ。」
美鈴が光明に向かって手を振った後、彼女は背後から誰かに肩を叩かれた。
「あなた、光明様とお知り合いなの?」
「ええ。」
「あの方、陰陽師だというのに東宮になられるんですって?随分と図々しいお方なのね。」
「それは一体、どういう意味ですか?」
女房の言葉に少し怒りを感じた美鈴がそう彼女に問いただすと、彼女は軽蔑したような笑みを口元に浮かべた。
「だってあの方、謀反人の血をひいているのでしょう?それなのに、何故東宮になろうとするのかしら?」
「それは、皇太后さまがお決めになったことです。」
「皇太后さまも、皇太后さまよねぇ。謀反人の息子を東宮になどしようとして、何を企んでいるのかしら?」
「妾が何を企んでいるか、知りたいのか?」
凛とした声が美鈴達の背後から聞こえたかと思うと、彼女達の前には憤怒の表情を浮かべている信子が立っていた。
「こ、皇太后さま・・」
「光明は宏昌の血をひく、皇子であるぞ。故に、東宮となる資格がある。それに宏昌は謀反の罪を着せられただけのこと。今後宏昌と東宮を貶める様な事を言うてみよ。そなたの首を刎ねてやろう。」
「お許しください、皇太后さま。お命だけは、どうかお助けを・・」
「ならば、その口を一生閉じておけ。」
「は・・」
美鈴相手に皇太后の陰口を叩いていた女房は蒼褪めた顔で部屋から出て行った。
「そなた、美鈴といったな?」
「はい、皇太后さま。」
「そなた、妾についてくるがよい。そなたに見せたいものがあるのじゃ。」
「かしこまりました。」

美鈴が信子の部屋に入ると、そこには美しい唐衣が掛けられてあった。

「美しいですね・・」
「そうであろう?この唐衣は東宮妃が纏うものじゃ。」
「東宮妃様が?」
「今宵開かれる管弦の宴は、光明の妃を選ぶことが目的で開くのじゃ。美鈴よ、妾からそなたに頼みたいことがある。」
「頼みたいことでございますか?」
「ちと、耳を貸せ。」

にほんブログ村 小説ブログ 恋愛小説(純愛)へ
にほんブログ村






最終更新日  2014.10.09 09:21:37
コメント(0) | コメントを書く
2014.10.08

「姫様、お聞きになりましたか?」
「淡路、どうしたの、そんなに慌てて?」
「実は、近々東宮の座にあの光明様が就かれるという噂をさっき皇太后さま付きの女房から聞きました。」
「まぁ、それは本当なの?」
「ええ、確かでございます。」
「光明様は主上の亡き兄君の血をひいていらっしゃるから、東宮となられるには何ら問題はないけれど・・周りの者が何と思うかしらねぇ?」
「さぁ・・」
「光明様は、今頃大変でしょうね。」
「そうですわね。それよりも姫様、口を動かすよりも手を動かさねばなりませんよ。」
「うるさいわね、わかったわよ。」

淡路にそう指摘され、美鈴は口を閉じて途中で放り出したままになっていた針仕事を再開した。

―ねぇ、陰陽寮の方からお聞きしたのだけれど・・
―聞いたわよ、陰陽博士様が東宮様になられるんですってね?
―今の陰陽博士様って、安倍兄弟の弟君よね?
―陰陽師が東宮様になられるなんて、前代未聞だわ。

皇太后・信子が光明を東宮にすると宮中に発表して以来、光明は廊下を歩くたびに女達が自分の事を話しているのを聞いて溜息を吐いた。

(まったく、正式に決まった訳ではないのに、騒がしいな・・)

信子が勝手に話を進め、光明を東宮にさせようとしていることに対し、帝は何も言わない。
信子は帝よりも宮中での発言力が強く、陰では“女帝”と呼ばれているほどの権力を持っている。
そんな彼女に、帝が逆らえる筈がない。

(もう皇太后さまに、何を言っても無駄か・・)

「光明、どうした?浮かない顔をしているな?」
「何だ、お前か。」
書物から顔を上げた光明は、自分の前に立っている紫雲を見てそう言って彼を見た。
「おいおい、何だとはないだろう?なぁ、お前が東宮になるってことで、色々と周りが騒いでいるようだが・・」
「あれは皇太后さまが勝手に決めたことだ。」
「あの方は一度決めたことは頑として変えないお方だからなぁ。」
「人の苦労を知らないで、よくそんな暢気な事を・・」
光明がそう言って紫雲を睨むと、部屋の前に女童(めのわらわ)が立っていることに気づいた。
「どうした?」
「あの、皇太后さまがお呼びです。」
「わかった、すぐに行く。」
読んでいた書物を閉じた光明は、そのまま信子の元へと向かった。
「皇太后さま、今日は何のご用でわたくしをお呼びになったのですか?」
「そなた、そろそろ身を固める気はないか?」
「いいえ・・」
「東宮妃となる姫君は、わたくしが選んでおくから、そなたはわたくしのいう事を黙って聞いていればよい。」
「皇太后さま・・」

にほんブログ村 小説ブログ 恋愛小説(純愛)へ
にほんブログ村






最終更新日  2014.10.08 07:24:19
コメント(4) | コメントを書く
2014.10.07

「暫く、考える時間を下さい。」
「わかった。良い返事を待っておるぞ。」
「それでは、わたくしどもはこれで失礼いたします。」
光利は光明とともに信子の元を辞すと、光明を見てこう言った。
「まさかお前、東宮の話を受ける気じゃないだろうな?」
「それは、まだ考えておりません。」
「だが、あの言葉だと皇太后さまに期待を持たせてしまうような言い方だったぞ。」
光利の言葉を聞いた光明は、溜息を吐いた。
「わたしとしては、穏便に東宮のことを皇太后さまにお断りしようとしたのですが・・」
「お前がそのつもりでも、皇太后さまにとっては違う。お前が東宮になる気でいるのだと思っているようだ。」
「そんな・・」
「暫く時間をやるから、じっくりと考えてみることだ。」
「わかりました、兄上。」
「わたしは家に戻る。」

陰陽寮の前で光利と別れた光明は、仕事をしながら東宮の座に就くのかどうかを考えていた。

帝の亡き兄君の遺児であるというだけで、好奇と羨望、憎悪の視線を向けられてきたが、東宮の座に就いたらどうなるのか、考えるだけでも恐ろしい。

(皇太后さまには、お断りの返事を申し上げた方がいいだろう・・)

今まで散々な目に遭ってきたのだ。
もうこれ以上面倒な事に巻き込まれないためには、東宮の話は断った方がいい。

「光明様、いらっしゃいますか?」
「ああ。」
「皇太后さまがお呼びです。」
「わかりました。」

信子付の女房とともに光明が彼女の部屋へと向かうと、そこでは信子と帝が囲碁に興じていた。
「光明、来たか。」
「皇太后さま、東宮の話はお断りしようと・・」
「光明(こうみょう)、そなたはこの者が東宮に相応しい器だと思うか?」
信子はそう言うと、白の碁石を打った。
「わたしは、母上がこの者が東宮に相応しい器だと思うのなら、何も異論はありません。」
「ほほ、そうか。近々高麗の学者を呼び、この者の相を占って貰うとしよう。」
二人の会話を傍で聞いていた光明は、信子が自分を東宮の座に就かせようとしていることに気づいた。
「皇太后さま、わたくしは・・」
「そなたは何も心配せず、わたくしに全てを任せればよいのです。」
光明に反論の余地すら与えず、信子はそう言うと彼に微笑んだ。
兄が言っていた通りになってしまった。
「只今戻りました。」
「皇太后さまとの話し合いはどうだった?」
「話し合いにもならなかった。皇太后さまはわたしが東宮になるのが当然だと思っていらっしゃるようだ。」
「あの方に曖昧な返事をしたお前が悪い。」

光明は光利にそう言われ、溜息を吐いて俯いた。

「もう皇太后さまがお前を東宮にさせたいという気持ちは揺らがないのだから、お前も腹を括ることだな。」

にほんブログ村 小説ブログ 恋愛小説(純愛)へ
にほんブログ村






最終更新日  2014.10.07 10:19:34
コメント(2) | コメントを書く
2014.10.06

「光明、すぐに宮中へ行け。皇太后さまがお前をお呼びだ。」
「皇太后さまがわたくしに一体何のご用でしょうか?」
「それは行かねばわかるまい。」
宮中を震撼させた事件から二月の歳月が経った頃、光明は安倍家当主となった光利とともに宮中へと向かった。
「皇太后さま、ご機嫌麗しゅうございます。」
「堅苦しい挨拶などせずともよい。二人とも、近う参れ。」
「は・・」
二人が信子の前に行くと、彼女が手に持っていた檜扇を開く音が頭上で聞こえた。
「光安の事は、残念であったな。」
「はい・・」
安倍家の先代当主であり、兄弟の父親であった光安は一度も意識が戻らぬまま、事件から一月後に亡くなった。
誰を次期当主にするかどうかで親族たちとの間で散々揉めた結果、嫡男である光利が当主の座に就くことで落ち着いた。
「皇太后さまには、安倍家当主としてのご挨拶がまだでしたので、こうして馳せ参じました。」
「そなたは大変優秀な陰陽師ときいておる。その力を我が国の為に存分に発揮しておくれ。」
「御意。」
「二人とも、おもてをあげよ。」
二人がゆっくりと顔を上げると、そこには古希を迎えたとは思えぬほどの美貌を持った皇太后・信子が彼らを見つめていた。
「そなたが、宏昌の忘れ形見か?」
「はい、皇太后さま。光明でございます。」
「そなた、東宮になる気はないか?」
「は?」
突然信子からそう言われて、光明は間の抜けた声を出してしまった。
「皇太后さま、光明は東宮になるつもりは・・」
「そなたは宏昌の血を継ぐ者、即ち帝となるには相応しい身分の者です。中宮と皇子があのような事になり、帝となるものが居なくなってしまったから、この国は滅んでしまいます。」
「ですが・・」
「光明、どうか老い先短いわたくしの願いを聞いてはくださりませぬか?」
そう言うと信子は、光明の手を握った。
困り果てた光明は光利の方を見て彼に助けを求めたが、光利は首を横に振った。
「皇太后さま、わたくしは宮中では東宮としてではなく、陰陽師として生きていきたいのです。」
「そうか、そなたはそう思っておるのだな・・しかし、わたくしはそなたの事を諦めませんよ。」

それまで光明に対して穏やかな笑みを浮かべていた信子の目が、鋭く光った。

「皇太后さま・・」
「そんな堅苦しい呼び方はしないで。今日からはわたくしの事を、“お祖母様”と呼んでもいいのですよ?」
「ですが、それでは・・」
「漸く長い年月を経て会えたのですから、わたくしは祖母として孫のお前に色々と尽くしてやりたいのです。」

(狡いお方だ、皇太后さまは。)

「皇太后さま・・」
「どうか、わたくしのことを一度でもいいから、“お祖母様”と呼んでおくれ。」

信子は嘘泣きをしながら、光明の手を強く握った。

にほんブログ村 小説ブログ 恋愛小説(純愛)へ
にほんブログ村






最終更新日  2014.10.06 21:12:30
コメント(5) | コメントを書く
2014.10.03
「誰にも、わたくしの邪魔をさせないわ!」

梨壺女御・咲子は鞭のような髪を三人に向かって次々と放った。
光明が太刀でその髪を切ろうとしたが、その髪はまるで鋼のようにできており、太刀の刃が折れてしまった。
「光明、退け!」
光利は懐から壜のようなものを取り出すと、その中にたまっていた液体を咲子に向かって撒き散らした。
彼女は悲鳴を上げ、両手で顔を覆った。
彼女の両目から、煙のようなものが上がっていた。
「兄上、これは何ですか?」
「これは聖水だ。西洋で魔物を祓うものに使われているといわれているが、鬼祓いでも使えるらしいな。」
「そうですか・・」
「光明、これを使え。」
「有難うございます。」
光利から太刀を受け取った光明は、その太刀で咲子へと突進した。
「いやだ・・ひとりはもういやだ・・」
呻きながら、咲子はそう言うと鬼から美女の顔へと戻った。
その美しさは以前のものとまったく変わらぬものだったが、その姿が偽りのものであるということを光明は知っていた。
「お願い、わたしを殺さないで・・」
「黙れ。」
光明は太刀で咲子の首を切断した。
「終わりました、兄上。」
「そうか・・」
光利がそう言って咲子の首を見ると、死んだ筈の咲子の目が開いた。
「う、うぅ・・」
「さようなら、女御様。」
光利は聖水を高く掲げると、それを頭から咲子に浴びせた。
断末魔の悲鳴が上がり、咲子は息絶えた。
「光明様、女御様は?」
「鬼は倒した。」
「そうですか・・」
美鈴はそう言うと、咲子の首が転がっている場所を見た。
「もう行きましょう美鈴様、ここにわたしたちが居る必要はありません。」
「ええ・・」
雪が降る中、美鈴達は荒れ果てた宇治の別邸を後にした。
「これから、わたしたちはどうなるのでしょう?」
「それは、誰にもわかりません。」
「そうですね・・」
「美鈴様、あなたは自分で己の人生を切り開けばよいのです。」

咲子と彼女が産んだ皇子が死に、東宮となる者が居なくなった宮中では、皇太后である帝の母が、帝に思わぬ提案をした。

「光明よ、そなたの兄の遺児である光明という男がおるだろう?その男を、東宮の座に就かせてはどうじゃ?」
「母上、何をおっしゃいます。光明は、東宮としての人生など望んでなどおりませぬ。」
「そなた、何を言う?このままでは、日本は滅びてしまうのだぞ?」
「母上・・」
「妾が何のためにそなたを帝にしたと思うておる。」

光明帝の母である皇太后・信子は、そう言うと帝の手を取った。

「妾の望みは、そなただけなのだ。」

にほんブログ村 小説ブログ 恋愛小説(純愛)へ
にほんブログ村






最終更新日  2014.10.03 20:33:59
コメント(3) | コメントを書く
2014.10.02

「ここが、梨壺女御様のご実家の、別邸ですか?」
「ああ。」
「ですが、こんな荒れ果てたところに梨壺女御様が本当におられるのでしょうか?」
光利と光明、美鈴は梨壺女御が静養しているという宇治の別邸へと向かったが、そこは全く人気がなく、荒れ果てていた。
「この荒廃ぶりを見る限り、何年もここは人が住んでいないのだろうな。」
「一体、何故梨壺女御様はわたくしたちをこのような場所に呼んだのでしょうか?」
「教えてさしあげましょうか?」
突如暗闇の中から声が聞こえ、三人が背後を振り向くと、闇の中かから梨壺女御が姿を現した。
「梨壺女御様、いつからこちらにいらしていたのですか?」
「さっきからよ。それよりもあなた方も、こちらに来ていたのね。」
梨壺女御はそう言うと、口端を歪めて笑った。
その笑みを見た三人は、背筋に悪寒が走るのを感じた。
「梨壺女御様、わたくし達にお話があると聞きましたが・・」
「光明様、あなたは本当に東宮にはならないというの?」
「ええ。それよりも、皇子のお姿が見えませんが・・」
「あの子は、死んだわ。」
「死んだ?」
「ええ。ここに来てから急に体調を崩したかと思ったら、あっという間に死んでしまったの。」

そう言った梨壺女御の表情には、変化がない。

「どうしてわたくしが愛した者は皆、わたくしの元を去っていってしまうのかしら・・」
「女御様?」
「美鈴様、危ない!」

梨壺女御の様子がおかしいことに気づいた美鈴が彼女に一歩近づこうとしたとき、女御の長い髪が突然鞭のようにしなって美鈴を襲った。
「貴様、何者だ!?」
「わたくしは、もう誰にも愛する者を奪われたりはしない・・そう、わたくしは愛する者を守る為ならば何でもするわ・・何でも・・」
そう言って顔を上げた梨壺女御は、鬼となっていた。
「あれは、一体・・」
「あれはもう、梨壺女御様ではない。女御様の身体を借りた化け物だ。」
「それじゃぁ、女御様は・・」

光明は美鈴の問いに首を横に振った。

「わたくしを邪魔する者は許さない・・殺してやるわぁ!」

梨壺女御の身体を借りた化け物は狂気に満ちた言葉を撒き散らしながら、ゆっくりと三人の方へと近づいてきた。

にほんブログ村 小説ブログ 恋愛小説(純愛)へ
にほんブログ村






最終更新日  2014.10.02 20:14:18
コメント(2) | コメントを書く

「光利様、わたしに話したいこととは何でしょうか?」
「単刀直入に聞くが、光明に呪詛を掛けたのはお前ではないのか、実篤?」
「何故、わたしがそのようなことを・・」
「お前があの父親の所為で苦しんでいることを、わたしは知っている。」
光利がそう言って実篤を見ると、彼は酷く狼狽していた。
「わたしは、次期当主の座など望んでなどいない。それなのにあの人は、勝手にわたしが次期当主の座につくと思い込んでいて・・」
実篤が抱える苦悩が、光利は手に取るようにわかった。
幼少のころから優秀な自分達と比較され続け、劣等感を抱えながら生きてきた実篤。
それとは対照的に、宮中で活躍し、注目されている光明。
「わたしは、いつの間にか光明様にとんでもないことをしてしまった・・」
「実篤、今ならまだ間に合う。」
俯き涙を流す実篤の背を、光利はそっと押した。
「光利様・・」
「犯した過ちを悔やむよりも、これ以上自分の良心を裏切るようなことをしてはならぬ。」
「わかりました。」
実篤は光利と別れると、親族たちが集まっている寝殿に入った。
「実篤、光利と何の話をしておったのだ?」
「父上、光明に呪詛を掛けたのはわたしです。」
「何だと、それは本当なのか!?」
「はい。父上、わたしと親子の縁を切らせてください。もうわたしは、安倍家の者ではありません。」
「何故、そのようなことを・・」
「父上、もうわたしを解放してください。わたしは、安倍家の次期当主にはなれません。」
「実篤・・」

親族たちの前で光明に呪詛を掛けたことを告白した実篤は、安倍家から追い出されることになった。

「光明、気分はどうだ?」
「少しよくなりました。実篤は、何処に?」
「あいつは、安倍家から出て行った。」
「そうですか・・あいつには、悪いことをしてしまった・・」
「自分を責めるな、光明。今は自分の事だけを考えろ。」
実篤が掛けた呪詛が解け、光明は光利とともに宮中へと向かった。
「光明様、久しいですね。」
「あなたは、確か美鈴様の・・」
「淡路と申します。姫様が、あなた様にお会いしたいとおっしゃっております。」
「わかりました、すぐに参ります。」
二人が桐壺へと向かうと、そこは内装や女房の装束に至るまですべて黒で統一されていた。
「光利様、光明様、お久しぶりでございます。」
美鈴はそう言うと、二人に向かって頭を下げた。
「美鈴様、お元気そうで何よりです。わたくし達を呼んだのは、どういうご用件でしょうか?」
「実は、梨壺女御様が・・」
「梨壺女御様が、どうされたのですか?」
「桐壺女御様がお亡くなりになられて、梨壺女御様はご自分がお産みになった皇子様が東宮になれないのではないかと不安になっておられます。」
「だからこうして、わたし達を呼んだというわけですね。」
「はい。」
「梨壺女御様はどちらにおられますか?」
「梨壺女御様は体調を崩されて、宇治の別邸におられます。」
「そうですか・・」

その日の昼、光利と光明は、美鈴とともに梨壺女御に会う為に、宇治へと向かった。

それが罠であることを、その時は誰も知る由もなかった。

にほんブログ村 小説ブログ 恋愛小説(純愛)へ
にほんブログ村






最終更新日  2014.10.02 15:06:45
コメント(4) | コメントを書く
2014.10.01

桐壺女御の訃報は、瞬く間に宮中に広まった。

―これから、宮中はどうなってしまうのでしょう。
―もしかして、あの方が東宮様に?
―まさか、そんなことは・・

咲子は、光明が東宮として宮中に上がるのではないかと疑い始め、使いの者を安倍邸に向かわせた。
「どうであった、安倍家の様子は?」
「安倍家当主と、光明様は病に臥せっておられます。」
「何と・・」
「詳しいことはわかりませんが、安倍家では何かが起きているような気がいたします。」
「そうか、ご苦労だったな。もう下がってよいぞ。」
「は・・」

使いの者が下がり、咲子は安倍家で何が起きているのかを知りたくなった。

(光明と当主が病に臥せっているとなれば・・もしかしたら、我が皇子が東宮になる日が来るのかもしれぬ・・)

一方安倍家では、呪詛に掛かり病に臥せった光明の為に連日加持祈祷が行われていた。

「光安の事といい、今回といい・・この家は何か禍々しいものにでも呪われているのではないか?」
「父上、言葉を慎んでください。」
「実篤、もしやそなたが光明に呪詛を掛けたのではないか?」
「馬鹿な事をおっしゃらないでください!」
実篤がそう言って父親を睨むと、彼は少しばつの悪そうな顔をして俯いた。
同い年の従兄弟である光明は、凡庸な自分と比べて幼少のころから陰陽師としての才能があった。
彼とともに英才教育を受けていた実篤だったが、いつも暦の試験で満点を取るのに精いっぱいだった。
それに対して光明は、七つの頃から式神を使役するほどの才能を持ち、彼の兄である光利とともに安倍家期待の星と言われていた。

“光明と光利は腹違いの兄弟で、光明の母親は狐だったそうだ。”

父から光明の出生に纏わる秘密を聞き、実篤は光明が妖狐の血をひいているから天賦の才に恵まれているのだと思った。
本物の天才に、自分ごときが叶うはずがない―実篤は光明と競うことを諦め、これまで波風立てぬ穏やかな生活を送って来た。
だが、野心家の父親は今回の後継者騒動を利用して、息子である実篤を安倍家の次期当主に据えようと企んでいた。
「父上、本当にわたしを次期当主に据えようとお思いになっておられるのですか?」
「何を言う、実篤。これまで兄上たちに蔑ろにされた恨みを晴らす時が来たのだぞ。今回の騒動を利用せずにどうするというのだ?」
「ですが・・」
「そなたは男であろう?男ならば、己の野心に忠実に動かねばならぬ。」
「父上・・」
「これから光明の加持祈祷が行われる。実篤、そなたは己が課せられた使命をわかっておるな?」
「はい・・」

どれほど自分が父に抵抗しようとも、父の考えが変わらぬことなど、実篤はとうにわかっていた。

にほんブログ村 小説ブログ 恋愛小説(純愛)へ
にほんブログ村






最終更新日  2014.10.01 10:08:56
コメント(2) | コメントを書く
2014.09.30

「咲子殿、来てくれたか。」

咲子が桐壺へと向かうと、桐壺女御が痩せた頬を自分に向けた。

「昨夜倒れられたとお聞きになりましたが・・」
「少し疲れが溜まっただけだ。心配をかけてしまったな。」
桐壺女御はそう言うと、御帳台の中から出て咲子の前に立った。
「光明の事を、そなたは何か聞いておるか?」
「いいえ。」
「妾は、あのものを東宮にしたいと考えておる。」
「まぁ、何故です?やはり、宏昌様の遺児だからでございますか?」
「いや、そうではない。あの者ならば、この国をよりよい国にしてくれるだろうと考えておるからじゃ。」
「まぁ・・」
光明にはできて、我が皇子にはそれが出来ぬというのか―咲子はそんなことを思いながら、桐壺女御の横顔を見た。
「咲子殿、そなたは皇子が東宮になれぬと思っているのであろう?」
「そのような事は思っておりませぬ。」
「それはまことか?」
桐壺女御は、じっと咲子の顔を見ると、檜扇を広げた。
「女御様、何かわたくしに言うことはございませぬか?」
「ない。」
「それでは、わたくしはこれで失礼いたします。」

淀んだ桐壺の空気をこれ以上吸いたくなくて、咲子はそう言って桐壺から出た。

(桐壺女御様は一体何をお考えなのだろう?わざとわたくしを試すようなことを言って・・)

梨壺へと戻った咲子は、桐壺女御が自分達親子を陥れようとしているのではないかと疑い始めていた。

一方、安倍家当主・光安が倒れたことで、一族の間で後継者問題が起きていた。

「次期当主は、光利で決まりじゃな。」
「何を言う、うちの実篤の方が次期当主に相応しいとは思わぬか?」
数日前の親族会議で光明を糾弾した父方の叔父は、そう言うと自分の隣に座っている息子を前に押し出した。
「実篤は確かに優秀だが、技能については光利が次期当主に相応しい。」
「そうじゃ。」
光利は内心溜息を吐き、このくだらない会議が終わらないかと思いながら欠伸をかみ殺していた。
そんな中、帝の使いが安倍邸に再び現れた。
「光利様、桐壺女御様が先ほど身罷られました。」
「何と・・」
桐壺女御の訃報を聞き、光利はそのことを光明に伝える為、彼の部屋へと向かった。
「光明、桐壺女御様が・・」
「兄上・・」
そう言って自分に振り向いた光明の顔は、醜く腫れあがっていた。
「その顔、どうした?」
「それが、わかりません・・」
「見せてみろ。」

光明の顔に触れた光利は、光明の顔半分を覆っている疣(いぼ)に呪詛の痕跡があることに気づいた。

「光明、お前の顔に出来ている疣は、呪詛の痕跡がある。」
「そうですか。」
「必ずお前に呪詛を掛けた犯人を見つけてやる。」

にほんブログ村 小説ブログ 恋愛小説(純愛)へ
にほんブログ村






最終更新日  2014.09.30 21:42:44
コメント(6) | コメントを書く
このブログでよく読まれている記事

全40件 (40件中 1-10件目)

1 2 3 4 >

PR

カレンダー

プロフィール


千菊丸2151

お気に入りブログ

12月7日 記事更… New! 紅子08さん

「26文字のラブレ… New! わかつきひかるさん

スーパーで買い物し… New! friendly0205さん

続いています。 New! カエドンさん

グレムリン New! おいら♪♪さん

バックナンバー

日記/記事の投稿

コメント新着

千菊丸2151@ Re[1]:蒼き炎 -60-(12/06) クレオパトラ22世さんへ この作品の時…
クレオパトラ22世@ Re:蒼き炎 -60-(12/06) 今フランス、ナポレオンの少し後の時代の…
千菊丸2151@ Re[1]:蒼―lovers―玉 240(12/26) 風とケーナさんへ ジゼルから贈られた薔…
風とケーナ@ Re:蒼―lovers―玉 240(12/26) 千菊丸様、こんばんは♪ いつも本当にあり…

サイド自由欄

ランキングに参加しております、気が向いたらバナーをクリックしてくださいませ。

PVアクセスランキング にほんブログ村

キーワードサーチ

▼キーワード検索

フリーページ

カテゴリ

ドラマ・映画

(103)

日記

(196)

グルメ

(502)

読書記録

(1422)

大人の発達障害

(11)

連載小説:Ti Amo

(115)

連載小説:VALENTI

(141)

連載小説:茨の家

(40)

連載小説:翠の光

(31)

連載小説:双つの鏡

(174)

連載小説:鬼と胡蝶

(15)

完結済小説:炎の月

(160)

完結済小説:桜人

(70)

完結済小説:白昼夢

(57)

完結済小説:月光花

(401)

完結済小説:暁の鳳凰

(84)

完結済小説:金襴の蝶

(68)

完結済小説:金魚花火

(170)

完結済小説:狼と少年

(46)

完結済小説:翡翠の君

(56)

完結済小説:胡蝶の唄

(40)

小説のこと(短編小説etc)

(194)

連載小説:茨~Rose~姫

(85)

完結済小説:琥珀の血脈

(137)

完結済小説:螺旋の果て

(246)

完結済小説:紅き月の標

(221)

完結済小説:黒衣の貴婦人

(103)

完結済小説:lunatic tears

(290)

完結済小説:わたしの彼は・・

(73)

連載小説:蒼き炎(ほむら)

(60)

連載小説:蒼き天使の子守唄

(40)

連載小説:麗しき狼たちの夜

(221)

完結済小説:金の狼 紅の天使

(91)

完結済小説:孤高の皇子と歌姫

(154)

完結済小説:愛の欠片を探して

(140)

完結済小説:最後のひとしずく

(46)

朝ドラ風連載小説「浜菊の如く」

(1)

連載小説:Black Bird~慟哭~

(6)

連載小説:蒼の騎士 紫紺の姫君

(42)

完結済小説:金の鐘を鳴らして

(35)

連載小説:紅蓮の涙~鬼姫物語~

(151)

連載小説:狼たちの歌 淡き蝶の夢

(13)

完結済小説:宿命の皇子 暁の紋章

(262)

連載小説「女王達の輪舞曲<ロンド>」

(3)

完結済小説:玻璃(はり)の中で

(95)

完結済小説:美しい二人~修羅の枷~

(64)

完結済小説:碧き炎(ほむら)を抱いて

(125)

連載小説:皇女、その名はアレクサンドラ

(63)

完結済小説:蒼―lovers―玉(サファイア)

(300)

完結済小説:白銀之華(しのがねのはな)

(202)

完結済小説:薔薇と十字架~2人の天使~

(135)

完結済小説:儚き世界の調べ~幼狐の末裔~

(172)

二次創作小説:天上の愛 地上の恋「時の螺旋」

(7)

二次小説:進撃の巨人 腐向け小説「一輪花」

(4)

二次創作小説:天上の愛 地上の恋 「蒼き翼」

(11)

二次創作小説:黒執事×薔薇王中世パラレル「薔薇と駒鳥」

(27)

二次創作小説:火宵の月 幕末パラレル「想いを繋ぐ紅玉」

(8)

二次創作小説:火宵の月 韓流時代劇ファンタジーパラレル「華夜」

(7)

二次創作小説:薔薇王韓流時代劇パラレル「白い華、紅い月」

(8)

二次創作小説:火宵の月オメガバースパラレル「その花の名は」

(5)

連載小説:二人の皇太子~アメジストとエメラルド~

(6)

Copyright (c) 1997-2019 Rakuten, Inc. All Rights Reserved.