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JEWEL

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連載小説:狼たちの歌 淡き蝶の夢

Nov 2, 2021
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「さぁ、どうぞ。」
「はぁ・・」
「そんなに硬くならないで。」
そう言って女王の妹であるヴィッキーことヴィクトリアは、歳三に優しく微笑んだ。
「突然こんな所に連れて来られて、不安でしょう?」
「えぇ、まぁ・・」
「ヴィッキー、あなたこの方に聞きたい事があるのではなくて?」
「あぁ、そうだったわ。トシゾウ様、私の子をご存知なの?」
「はい・・」
「あの子は、わたしの手で育てたかったのだけれど・・」
「あなたに、あの子は育てられなかったのよ、だから・・」
「姉様、やめて!」
ヴィクトリアはそう叫ぶと、ティーカップを乱暴にソーサーの上に置いた。
「落ち着きなさい、ヴィッキー。」
「だって・・」
「トシゾウ様、この子は興奮すると少し手がつけられなくなるの。」
「はぁ・・」
「ヴィクトリア様、大変です!」
「まぁ、何があったの、そんなに慌てて?」
「それが・・ヴィクトリア様にお会いしたいという方がいらっしゃって・・」
「わたしに、会いたい人?」
「はい・・」
「トシゾウ様、申し訳ないけれどわたしはこれで失礼させて頂くわ。」
「はぁ・・」
何処か慌しい様子でヴィクトリアが女官達と共に部屋から出て行くのを歳三は戸惑いながら見送った。
「あの子ったら、落ち着きがないのねぇ。」
 エリーザベトはそう言って溜息を吐きながら、紅茶を一口飲んだ。
「妹は、昔から落ち着きがない子でね、乳母達をいつも困らせていたわ。」
そう言って笑みを零すエリーザベトの表情は、とても寛いだものだった。
姉妹の関係は、いまいち歳三にとってはわからないものだが、彼女達のそれは余り険悪なものではなさそうなものだった。
「どうか、あの子の事をよろしくお願いしますね、トシゾウ様。」
「はい・・」
ヴィクトリアの部屋をエリーザベトと共に出て行った歳三が廊下を歩いていると、自分を睨みつけていた金髪紅眼の男と擦れ違った。
「調子に乗るなよ。」
「レオンの事は、気にしなくてもいいわ。」
「はぁ・・」
「今日は少し疲れただろうから、部屋で休みなさい。」
「わかりました。」
「陛下、湯殿の準備が出来ました。」
二人の前に、水瓶を持った女官が数人現れた。
「そう。」
「あの水瓶には何が入っているのですか?」
「牛乳よ。牛乳は美容に良いの。」
「そうですか。」
「では、また夕食に会いましょう。」
「はい・・」
女官達によって用意された部屋に入った歳三は、そのまま寝台の上に寝転がった後、目を閉じた。
「何という事・・」
「そんな、陛下が・・」
「これから、どうすれば・・」
 外が急に騒がしくなったのは、夕方の事だった。
(何だ?)
部屋から出ると、何やら女官達が慌てた様子で湯殿の方へと走ってゆくのを見た歳三が湯殿へと向かうと、その前には人だかりが出来ていた。
「一体、何があった?」
「陛下が、血を吐かれて・・」
「え?」
歳三が湯殿の中に入ると、そこには浴槽の中で死んでいるエリーザベトの姿があった。
(一体、どうして・・)
先程まで、彼女は生きていたというのに。
「陛下・・」
「さぁ、陛下の遺体を外へ・・」
女王の突然の死により、宮廷内は混乱した。
「あぁ、陛下が・・」
「姉様・・」
エリーザベトの死因は、中毒死だった。
「どうやら、浴槽の中に毒が仕込まれていたようです。」
「まぁ・・」
ヴィクトリアは、姉の解剖をした医師の言葉を聞いて絶句した。
「トシゾウ様、これから一体どうすればいいのかしら?姉様の他に、この王国を治める人は居ないわ。」
絶大な魔力とカリスマ性を持った女王急逝の報せを知った国民達は、大いに彼女の死を嘆き悲しんだ。
彼女の葬儀には、全国民が参列した。
「トシゾウ様、こんな時間に呼び出してごめんなさいね。」
「いいえ。」
「あのね・・こんな事をあなたに頼むもどうなのかと思うのだけれど、姉様の代わりに、この国を治めてくれないかしら?」
「は?」
青天の霹靂とは、まさにこの事を言うのだろうか。
「どうして、俺が・・」
「あなたから、姉様と同じ強い魔力を感じるの。」
「魔力?」
「ええ。魔力は人それぞれ違うけれど、あなたのそれは姉様と同じなのよ。姉様の魔力と同じ物を持っている人は、珍しいの。」
「珍しい事なのか?」
「はい。あぁ、勿論ずっと姉様の代わりをして貰うっていう話ではないのよ。暫くの間だけ・・」
「わかった。」
「ありがとうございます、トシゾウ様・・」
「俺が、これからどう女王の身代わりをすればいいのか、教えて下さい。」
「わかりました。」
葬儀の後、歳三は京に居る仲間達に宛てた文を書いた。
「これを、京に居る仲間達に。」
「かしこまりました。」

(これから、忙しくなるな・・)

「土方さん、暫く帰って来られないみたいですよ。」
「そうか。」
「鬼副長が居ない間に、色々とのんびり出来ますよね。」
「それはどうかな・・何せ、トシの代わりに俺が色々と事務仕事をしないといけないからなぁ・・」
勇はそう言うと、副長室の机に積まれている書類の山を思い出し、溜息を吐いた。
「はぁ・・」
ヴィクトリアから頼まれ、歳三がエリーザベトの“代役”として女王を務める事になったのだが、余りの仕事の多さに彼は息つく暇がない程忙殺される日々を送っていた。
女王の仕事量は、膨大且つ多岐にわたるものが多い。
「毎月の衣装代や美容代にこんなに金使うのかよ・・使い過ぎだろう。てか風呂は一日一回位でいいだろ・・」
そう呟きながら、歳三はエリーザベトの私室で彼女の帳簿を見ていた。
「陛下、よろしいでしょうか?」
「いいわよ、入りなさい。」
「失礼致します。」
そう言って部屋に入って来たのは、レオンだった。
「一体、何の用かしら?」
「貴様、一体何のつもりだ?何故、陛下の身代わりをしている?」
レオンはそう言うと、腰に帯びている長剣の切っ先を歳三に向けた。
「お前ぇの主の妹に頼まれたんだよ!」
「嘘を吐くな!」
「本当よ、レオン。」
「ヴィクトリア様・・」
「剣をおさめて、レオン。」
「何故です・・何故、こんな男に陛下の身代わりをさせるのです!?」
「この方は、姉様と同じ魔力の持ち主だからよ。一部の、特に“あの人達”に姉様の死を知られてはならないの。だから、暫くの間この方に、姉様として振る舞って貰う事になったの。」
「そうですか・・」
「レオン、あなたにも協力して貰うわ。あなたは、姉様の懐刀的存在だからね。」
「わかりました。」
ヴィクトリアの言葉を聞いてレオンは渋々彼女の提案を受け入れたが、歳三の事を余り信用していないようだった。
「陛下、ハノーヴァー伯爵がお見えになります。」
「わかったわ。」
(誰だ、それ?)
「ハノーヴァー伯爵は、姉様に媚を売ろうとしている貴族よ。きっと、異端審問官の事で話があるんだと思うわ。」
「異端審問官って、なんだ?」
「教会が管理している所よ。主に、魔力がある子供達を国中から集めているわ。」
「へぇ、厄介な奴らなんだろうな。」
「ええ。だから、彼らと話している時は気をつけて。」
「わかった。」
歳三は女官達に身支度を手伝って貰い、華やかなドレスとティアラを身に着けると、そのまま“謁見の間”へと入っていった。
「陛下、床に臥せられておられたと聞いておりましたが、ご快復されて良かったです。」
そう言って歳三に向かって笑みを浮かべたのは、ハノーヴァー伯爵だった。
「伯爵、あの後どうなっているの?」
「相変わらず、教会は異端審問官の横暴を許しております。陛下、このままでは・・」
「わたしが教会へ直接出向きましょう。」
「それはありがたい!」
「陛下、イリウス司教がお見えになりました。」
「そう。」
「ご機嫌麗しゅうございます、陛下。」
「イリウス、先程ハノーヴァー伯爵から、あなた方が異端審問官の横暴を許していると・・」
「お言葉ですが陛下、わたくし共は、“正しい事”をしているだけです。」
「“正しい事”ですって?」
「はい、わたくし共は、魔力を持たぬ子供達を育成しているのです!」
イリウス司教は、そう言って歳三を見た。
「魔力など、神に背くものです!」
「それをわたしの前で言うのですか?」
「ひっ・・」
歳三から睨まれ、イリウス司教は恐怖の表情を浮かべていた。
「魔力を持たぬ子を育成する、ですって?それは、この国を、そしてわたしを否定する事になるのですよ?」
「も、申し訳ありません!」
「わかればよろしい。これ以上、あなた方の横暴は許しません。」
「ははぁっ!」
“謁見の間”から出た歳三は、大きな溜息を吐いた。
「お疲れ様でした。」
「ったく、疲れたぜ・・」
歳三は寝台に横たわると、そのまま着替えもせずに眠った。
「陛下は?」
「お部屋でお休みになられております。」
「そうか。」
「何か、気になる事がおありなのですか?」
「陛下の様子が、少し変わったように見えないか?」
「はぁ・・」
「ヴィクトリア様に少し探りを入れてみる事にしよう。」
イリウス司教は、そう言うと闇の中に消えていった。
「誰だ?」
歳三が目を覚ますと、部屋で微かに人が居た気配を感じたので、彼は寝台の近くに置いてあった愛刀を取ると、黒衣を纏った刺客が襲って来た。
(何なんだ、こいつ!?)
「そこまでだ!」
「はっ!」
「何だ、てめぇは?」
「エリーザベト女王陛下は剣の達人だと聞いておりましたが、まさかここまで腕が立つとは、聞いておりませんでしたなぁ。」
そう言って笑いながら歳三の前に現れたのは、イリウス司教だった。
「貴様、何のつもりだ」!?」
「それはこちらの台詞ですよ。姿形は女王陛下と同じだが、偽者だ。さてと、我々と一緒に来て頂けませんかな?」
「断る、と言ったら?」
「それは、困りますなぁ・・では、力ずくで・・」
イリウス司教が手を叩くと、部屋に刺客達が入って来た。
「やれるもんなら、やってみやがれ!」
 歳三はそう言うと、刺客達と斬り結んだ。
「トシゾウ様!」
「ヴィクトリア様、来ないでください!」
「イリウス司教、一体これはどういう事なのです!?」
「こやつは陛下の偽者ですぞ!」
「落ち着きなさい!わたくしがトシゾウ様に陛下の身代わりを頼んだのよ。」
「何故、そのような事を?」
「“彼ら”の目を欺く為よ。」
「“彼ら”って、一体誰の事だ?」
「それは明日、お話致します。」
「わたしは認めませんぞ、このような紛い物の女王など!」
イリウス司教はそう吐き捨てると、その場から去った。
「お休みなさい。」
「お休みなさい、ヴィクトリア様。」
(これからが、色々と大変だな・・)
歳三は再び寝台に横になると、そのまま朝まで眠った。
「おはようございます、陛下。」
「おはよう・・」
「さぁ、お召し替えを致しましょう。」
「着替えは、自分でする。」
「そうは参りません。」
女官達によって髪を結われた歳三は、寝台の柱に掴まり、コルセットを締められていた。
「なぁ、締め過ぎじゃないか?」
「いいえ、これ位致しませんと!」
「そうですわ!」
(苦しい・・)
「陛下、どうなさったのですか?」
「いや・・じゃなくて、いいえ・・少し胸が苦しくて・・」
「まぁ、それはいけませんわ!」
「誰か、お医者様を!」

コルセットを締め過ぎて、歳三は軽い貧血を起こしただけだった。

作品の目次はコチラです。

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Last updated  Nov 2, 2021 04:09:54 PM
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Feb 17, 2017
「本当にわたしに似ているわね。まるで鏡に映しているかのようだわ。」
歳三の顔を見た異世界の女王―エリーザベトはそう言うと、自分の傍で控えている金髪紅眼の男の方へと向き直った。
「レオン、彼と二人きりで話したい事があるの。お前は席を外しなさい。」
「お言葉ですが、陛下・・」
「わたしの言う事が聞けないの?」
冷たい光を湛えた紫紺の瞳でエリーザベトが男を睨みつけると、彼はそのまま部屋から出て行った。
「俺と二人きりで話したい事とは何だ、女王様?」
「娘がそちらでお世話になっているようね。アメリアは少し世間知らずなところがあるけれど、己の立場を弁えた子だから、決してそちらにご迷惑をおかけするような事はしないと思うわ。」
エリーザベトの言葉は、自分の娘の事でありながらも、何処か事務的で冷たいものだった。

(アメリアが母親ら逃げ出して来たというのは、嘘じゃねぇな・・)

歳三の脳裏に、母親から逃げて来たと言っていたアメリアの今にも泣きだしそうな顔が浮かんだ。
彼女は実の母親からどんな扱いを受けて育ったのだろうか。
そんな事を歳三が考えていると、扉が軽くノックされた後、金髪紫眼の女性が部屋に入って来た。
「姉様、この方はどなたなの?」
「ヴィッキー、用事があるのならノックくらいなさいな。」
「したわよ。姉様が聞こえなかっただけじゃないの。」

そうエリーザベトに言いながら、女性はチラリと歳三の方を見た。

歳三は彼女が自分の恋人と瓜二つの容姿をしている事に気づいた。

「こちらはわたしの妹の、ヴィクトリアよ。ヴィッキー、こちらの方はトシゾウ=ヒジカタ様よ。」
「初めまして、トシゾウ様、ヴィクトリアです。」
「こちらこそ初めまして、ヴィクトリア様。」
「そんな他人行儀な呼び方はお止しになって。ヴィッキーと呼んでくださいな。」
ヴィクトリアがそう言って笑った時、彼女が右手薬指に嵌めている指輪が、恋人が身に付けている指輪と同じ物である事に気づいた。
「その指輪・・」
「ああ、これ?昔恋人から贈られた物なの。」
「そうなのですか。実はその指輪と同じような物を、見たことがあるんです。」
「それは、本当なの?」
「はい。実はわたしの小姓は、貴方と瓜二つの顔をしているんです。」
「その子の名前は?何というの?」
「雪華といいます。ですが昔、彼は祖母から別の名前で呼ばれていたと、わたしに以前話してくれました。」
歳三がそう言ってヴィクトリアの方を見ると、彼女は大粒の涙を流していた。
「すいません、俺・・」
「いいの、謝らないで。ねぇトシゾウ様、これからわたくしの部屋でお茶でも頂かないこと?」
「は、はい・・」
「姉様、暫く彼をお借りするわね。」
「わたしに断りを入れなくても結構よ、ヴィッキー。」

エリーザベトがそう言って呆れたような顔をして妹の方を見た。

「それじゃぁ行きましょうか、トシゾウ様。」

ヴィクトリアは歳三の腕に自分のそれを絡ませると、そのまま姉の部屋から出て行った。

作品の目次はコチラです。

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Last updated  Feb 17, 2017 05:15:04 PM
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Jan 19, 2017
woman

イラスト素材提供サイト:薔薇素材Mako's様

西本願寺の屯所を謎の男達と共に後にした歳三は、彼らと共にアメーシア王国へと向かった。

「お前らが言う女王陛下の元には、どうやって行けばいいんだ?」
「それはお前が知らなくても良い事だ。」

金髪紅眼の男は、そう言うと歳三を睨んだ。

やがて彼らは、京の町外れまで来た。

そこには、一本の桜の木が生えていた。

「下がっていろ。」

金髪紅眼の男は部下にそう命じると、木の幹に手を置いた後、素早く呪文を唱えた。
すると桜の木が紫の光に包まれ、やがてそれは鋼鉄製の扉へと姿を変えた。
「行くぞ。」
歳三は目の前で起きた現象を信じられずに呆然とした様子でその場に立ち竦んでいたが、男達が扉の中へと入っていくのを見て、慌てて歳三も彼らの後を追った。
扉の向こうには、西洋の街並みが広がっていた。

石畳の道、煉瓦造りの建物。

(ここが、総司が話していた異世界・・)

「おい、何を呆けている、行くぞ!」
「わかったよ。」

歳三が男達と共に街を歩いていると、自分達が道行く人々から厳しい視線を浴びている事に気づいた。

―ほら、あいつらが来たよ。
―頭から取って食われちまうから、近づくんじゃないよ

幼い子供を連れた母親達は子供の手を取って歳三達の前から足早に立ち去り、そのまま自分達の家の中へと入っていってしまった。
「随分とてめぇらは嫌われているようだなぁ?」
「うるさい、黙って歩け。」
暫く歳三達が歩くと、白亜の宮殿が彼らの目の前に現れた。
「中で女王陛下がお待ちだ、行くぞ。」
「ああ、解ったよ。」
男達に両脇を固められ、歳三は宮殿の中へと入った。
広間はフレスコ画で描かれた天使の絵で彩られた天井が広がり、射す光の隙間で白亜の大理石の床が時折硝子のように輝いていた。
「レオン様、お帰りなさいませ。」
広間の廊下を歳三達が歩いていると、彼らの前に深緑のドレスを着た一人の娘がやって来た。
「女王陛下はおられるのか?」
「はい。レオン様、そちらの方は・・」
「余計な詮索はするな。」
「わかりました・・」
娘は金髪紅眼の男に睨まれると、恐怖に顔を引き攣らせて彼に道を譲った。
「陛下、レオンです。例の男を連れて参りました。」
「入りなさい。」

玲瓏とした声が白い扉の向こうから聞こえた。

「失礼いたします。」

扉が開き、男達と共に部屋に入った歳三は自分と瓜二つの顔をした異世界の女王と対峙した。


作品の目次はコチラです。

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Last updated  Jan 31, 2017 06:52:31 PM
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Jan 4, 2017
「副長、わたしにお話とは何でしょうか?」
「武田、お前が隊内であの娘について妙な噂を広めていると総司から聞いたが・・それは本当か?」
歳三の言葉を聞いた武田は、口元を少し歪めて笑った。
「何を根拠にそのような事をおっしゃるのですか、副長?」
歳三は武田を睨みつけたが、武田は飄々とした口調でこう言った。
「他に用が無いのなら、わたしはこれで失礼いたします。」
武田はさっと立ち上がり、副長室から出て行った。
「土方さん、噂の事、武田さんから聞きました?」
「ああ。あいつに上手い事はぐらかされたがな。」
歳三はそう言って溜息を吐くと、文机の前に座って溜まっていた書類の処理を始めた。
「総司、ここは本当に京なのか?」
「何を馬鹿な事を言っているんですか、土方さん?僕達が居るのは、紛れもなく帝がおわす京の都ですよ。まぁひとつ違っている事といえば、向こうの世界―アメーシア王国があるという事だけですかね。」
「前から気になっていたんだが、そのアメーシア王国っていうのはどんな国だ?西洋の国か?」
「まぁ、一言でいえばそうですけど、あちらの国を治めているのはエゲレスと同じ女王なのですよ。その女王というのが、土方さんと瓜二つの顔をしているんですって。」
「俺と同じ顔をしている女王か・・一度でもいいから、その顔を拝んでみてぇもんだな。」
歳三がそう言って笑うと、雪華が湯呑を載せた盆を持って入って来た。
「お茶が入りました。」
「有難う。そこに置いといてくれ。」
「はい。」
雪華がそう言って湯呑を置くと、歳三はちらりと彼の方を見た。
「なぁ雪華、アメリアの様子はどうだった?」
「最近良く眠れているみたいです。でも、噂の事で少し傷ついているみたいです。」
「そうか。噂の事は気にするなとあいつに伝えておいてくれ。」
「解りました。」
雪華はそう言って歳三に向かって頭を下げると、副長室から出て行った。
書類処理を一通り終えた後、歳三は腰下まである長い髪を一房摘んだ。
五稜郭で死んだとき、洋装に合わせて髪は短く切った筈だったが、この世界に飛ばされてから髪は昔の長さに戻ったらしい。
総司から聞いた話が全て本当なのだとしたら、異世界の王国を治める自分と瓜二つの顔をしている女王に一度会ってみたいと思った。
何故自分がこの世界に飛ばされたのかが、彼女に会えば少しは解るのかもしれない―そう思いながら歳三が畳の上に寝転がっていると、外の方が急に騒がしくなった。
「何だ、貴様ら!」
「新選組副長、土方歳三はここに居るか?」
歳三が副長室から外に出ると、そこには真紅の軍服姿の男達が隊士達と睨み合っていた。
「てめぇら、何者だ?」
「土方歳三だな?」
「ああ、そうだが・・てめぇら、俺に何の用だ?」

男達の中からリーダー格と思しき男の一人が歳三の前に現れ、男は歳三を紅い瞳で睨んだ。

「女王陛下がお前に会いたがっている。我らと共に来て貰おうか。」

傲岸不遜な口調でそう言った男は、再度歳三を睨みつけた。

「総司、留守の間近藤さんの事を頼む。」
「わかりました。」

男達と共に屯所から出て行く歳三を、総司は黙って見送った。

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Last updated  Jan 7, 2017 08:54:53 PM
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Dec 12, 2016


イラスト素材提供サイト:薔薇素材Mako's様

「その方が、貴殿の隠し子か?」

歳三達が新八に連れられて局長室に入ると、会津藩士・吉田浩一郎はそう言いながら歳三とアメリアの顔を交互に見た。

「トシ、こちらは・・」
「某は会津藩士の吉田浩一郎と申す。本日こちらへ参ったのは、最近京の街で広がっている噂の真偽を確かめる為である。」
「吉田殿、貴殿は何か誤解をしておられるようだ。ここに居る娘と、わたしは親子ではありません。」
「土方殿、貴殿は江戸でも京でも浮名を流していると、こちらに居る近藤殿が某に話してくれたが・・」
(近藤さん、何で余計な事を言うんだよ?)
歳三が抗議の視線を近藤に送ると、彼は済まなそうな顔をして俯いた。
(済まん、トシ。知っていることを話せと言われたものだから、つい・・)
「娘、名を何と申す?」
「アメリアと申します。」
「土方と並んで座っている所を見ると、まるで実の親子のように見えるな。やはり、噂は確かだったか。」
「暫しお待ち下され、吉田殿。誰かが流布した噂を信じるとは、武士のする事ではございませぬ!」
自分の所為で歳三が不利な立場になってしまったことに気づいた近藤がそう吉田に抗議したが、彼は近藤の言葉を鼻で笑った。
「壬生狼ごときに武士の何たるかを説く筋合いなどない。詮議の日時は追って連絡する故、某はこれにて失礼する。」
吉田はもうこんな場所には居たくないと言わんばかりに、袴の裾を乱暴に払うとそのまま屯所を後にした。
「ったく、俺達を馬鹿にしやがって・・」
「落ち着け、トシ。」
「近藤さん、一体誰がそんな噂を流したんだ?」
「犯人捜しをするのは嫌だが、俺はそれとなく噂の事を平隊士に尋ねてみたんだ。そしたら、噂を流しているのは武田だと・・」
「武田が?」
近藤の口から武田観柳斎(たけだかんりゅうさい)の名を聞いた歳三は、眉間に皺を寄せた。
新選組五番隊組長である武田は、剣技の腕は立つものの、男色家故に隊内外で幾度となく痴情に絡んだ騒動を起こしていた。
「平隊士達の話によると、武田が台所で話をしているアメリア君の姿を見て、トシに瓜二つの顔をしているから驚いていたようなんだ。」
「だから、根も葉もない噂をあいつが広めたっていうのか?」
「ああ。だが俺は平隊士達の話を聞いただけからだな。本人をここへ呼び出して直接話を聞かない事には埒が明かん。」
「そうか。じゃあ俺が直接武田に噂の事を聞いてやるよ。」
歳三はそう言うと、局長室から出て行った。
「あ、副長・・」
「武田は何処に行った?」
「武田さんなら、今巡察中ですが、そろそろお戻りになられる頃かと・・」
「あいつが巡察から戻ったら、副長室に来るように伝えておけ。」
「わ、わかりました・・」
歳三の剣幕に怯えた隊士は、そう言うとそのまま脱兎のごとく中庭から去っていった。
「土方さん、たかが噂如きでカッカし過ぎですよ。」
「その噂の所為で新選組(おれたち)の評判が悪くなったらどうするんだ?」
「元からわたし達に対する京の人々の評判が悪いのはもう慣れっこじゃないですか?今更そんな事を気にしてどうするんです?」
飄々(ひょうひょう)とした口調でそう言いながら、総司は武田率いる五番隊が巡察から戻って来た事に気づいた。
「武田さんが巡察から帰って来ましたよ。もしかして土方さん、武田さんを斬ろうだなんて思っていませんよね?」
「馬鹿、そんな物騒な事を考えちゃいねぇよ。」

総司の言葉を聞いた歳三はそう返して彼に向かって笑ったが、その目は全く笑っていなかった。

作品の目次はコチラです。

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Last updated  Jan 6, 2017 09:42:26 PM
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イラスト素材提供サイト:薔薇素材Mako's様

「失礼ですが、貴方の叔母様はどのような身分の方なのですか?」
「わたしの母は、アメーシア王国を統べる女王です。ヴィクトリア叔母様は、母の妹に当たります。」
「そうでしたか・・では、もしわたしの母が貴方の叔母様ならば、わたし達はいとこ同士ということになりますね。」
「ええ。」
アメリアと雪華がそんな話をしていると、台所に総司がやって来た。
「二人とも、ここに居たんだ。早くしないと朝餉のおかず、なくなっちゃうよ。」
「はい、解りました。」
二人が広間に入ると、そこにはおかずを奪い合う永倉新八と藤堂平助の姿があった。
「新八、俺のおかずを盗るなよ!」
「こういうものは、早い者勝ちなんだよ!」
新八はそう言いながら、平助が残していたおかずを箸で横からかっさらっていった。
「やめねぇか、新八、平助!幹部がそんな下らない事で争っていたら、隊士達に示しがつかねぇだろうが!」
歳三がそう言って二人を睨むと、慌てて新八は平助が残していたおかずを彼の皿へと戻した。
「いつも騒がしくて済まないね。」
「いいえ、いつもの事なのでもう慣れてしまいました。」
雪華は半ば呆れたような顔をしながら、そう言って朝餉を食べ始めた。
「どうしたの、アリシアちゃん?」
「いえ・・何だかこうして皆さんと食卓を囲むということが、今までなくて・・」
アメリアの言葉を聞いた歳三は、彼女がどんな家庭環境で育ってきたのかが容易に想像できた。
「そうか。これからお前は食事を広間で俺達と取ればいい。いちいちお前の部屋まで運ぶのは面倒だからな。」
「有難うございます。あの、後でお話ししたいことがありますので、お時間を・・」
「解った。」
朝餉の後、アメリアと雪華は副長室へと向かった。
「失礼いたします。」
「アメリア、俺に話してぇことってのは何だ?」
「セッカさんは、母親を探す為に変な男達に絡まれて、貴方に助けられたのですよね?」
「ああ、そうだが。それがどうかしたか?」
「実は、セッカさんが先程わたしに見せてくれた指輪と同じ物を持っている人を、わたしは知っているんです。」
「何だと、それは本当か?」
「はい。わたしの叔母のヴィクトリアが、セッカさんと同じ指輪を持っていました。」
アメリアはそう言うと、雪華を見た。
「その指輪がどんなものか、見せてみろ。」
「これです。」
雪華が歳三に首から提げているルビーの指輪を見せると、歳三は眉間に皺を寄せた。
「この指輪・・一度何処かで見たことがあるな。」
「本当ですか?」
「ああ。だが何処で見たのかは思い出せねぇんだ。雪華、悪いが俺がお前を助けた時の事を話してくれねぇか?」
「解りました。」
雪華がそう言って歳三と初めて出会った時の話をしようと口を開きかけた時、突然副長室の襖が勢いよく開いた。
「大変だ土方さん、会津藩の役人が屯所に来てるぜ!」
「会津藩の役人がここに来てるだと?それは本当か、新八?」
「ああ。何でも噂の真偽を直接土方さんに確かめたいんだとさ。」
「噂?どんな噂だ?」
「それが・・アメリアちゃんが、土方さんの隠し子じゃねぇかっていう噂が、京の街で広がっているらしい。」
「はぁぁ~?」

新八の言葉を聞いた歳三は、驚きのあまり声が裏返ってしまった。


作品の目次はコチラです。

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Last updated  Jan 6, 2017 09:45:18 PM
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Dec 10, 2016


イラスト素材提供サイト:薔薇素材Mako's様

夜が明け、アメリアは自分に与えられた新選組の屯所内にある一室で、朝日の光を受けて目を覚ました。

「ん~、気持ちいい!」
アメリアがそう叫びながら思い切り手足を伸ばすと、部屋に雪華が入って来た。
「アメリアさん、土方さんがお呼びです。」
「解りました、すぐに行きます。」
彼女が雪華と共に幹部隊士達が集まる広間へと向かうと、そこでは歳三と丸眼鏡を掛けた男が何やら話をしていた。
「あの・・」
「アメリア、昨夜はよく眠れたか?」
「はい。あの、そちらの方はどなたですか?」
「あぁ、君とは初対面でしたね。初めまして、わたしは新選組総長の、山南敬助(やまなみけいすけ)と申します。貴方が、アメリアさんですね?」
「はい・・あの、これからお世話になります。」
「君の処遇について昨夜局長と副長と共に話し合いましたが、貴方は副長である土方さんの小姓に就くことに決まりました。雪華君、新人のアメリアさんに色々と仕事を教えてあげてくださいね。」
「はい、解りました。アメリアさん、これから宜しくお願いしますね。」
「こちらこそ、宜しくお願いします。」
アメリアはそう言うと、雪華に頭を下げた。
こうして、彼女は歳三の小姓として新選組で働くことになった。
小姓といっても、仕事は主に掃除や洗濯、炊事などの家事全般であり、たまに歳三が幕府の要人との会合に出席するときは護衛として彼と会合に出席するくらいのものだった。
「アメリアさんは、お料理がお上手なのですね。今朝の朝餉、隊士の皆さんが嬉しそうに食べていましたよ。」
「料理や裁縫といった家事は、全て祖母から教えて貰いました。わたしは、母ではなく祖母に育てられましたから。」
「まぁ、そうなのですか。わたしも、祖母に育てられました。でもその祖母は、数年前に病死してしまいました。」
「何だかわたし達、似ていますね。」
「ええ。アメリアさんのお母様は、どのような方なのですか?」
「母は・・わたしにとって恐ろしい人です。国民達には慕われているけれど、母は国民達に全ての愛情を注ぎ、わたしが熱を出しても気にも掛けない人でした。」
アメリアはそう言って口を噤(つぐ)むと、溜息を吐いた。
「嫌な事を聞いてしまいましたね、ごめんなさい。」
「いいえ。それよりも雪華さんは、何故新選組にいらしたのですか?」
「わたしも、貴方と似たような境遇で育ちました。数年前に祖母が病死した時、祖母はわたしの出生に纏わる物を渡してくれました。」
「貴方の出生に纏わる物?」
「はい、これです。」
雪華はそう言って着物の衿元を寛げると、首に提げている指輪をアメリアに見せた。
それは、ダイヤモンドが周りに鏤められたルビーの指輪だった。
「祖母が臨終の際にこれをわたしに手渡し、死んだとされている実母が生きている事を彼女は教えてくれました。わたしはこの指輪を手掛かりに、実母の事を調べようと生まれ育った村から出て京に来た時、運悪く柄の悪い連中に絡まれてしまって、土方さんに助けられて彼の小姓として新選組で暮らすことになったんです。」
「そうだったのですか。」
アメリアはそう言ってルビーの指輪を見た途端、自分の叔母が雪華と同じ指輪を持っていることを思い出した。
「アメリアさん、どうかなさいましたか?」
「いいえ・・その指輪と同じ物を持っている人をわたし知っているんです。」
「その人とは、誰なのですか?」
「ヴィッキー叔母様・・わたしの母方の叔母にあたる、ヴィクトリア叔母様です。」

アメリアがそう言って雪華の方を見ると、彼は驚愕の表情を浮かべながら指輪を握り締めていた。

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Last updated  Jan 6, 2017 09:45:48 PM
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Dec 9, 2016
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浴室でレオンと激しく互いを貪り合った後、エリーザベトが浴室から出ると、数人の女官達が彼女の前に現れた。

「陛下、ハノーヴァー伯爵がお見えになります。早くお召し替えを。」
「解ったわ。」
エリーザベトが鏡台の前に座ると、女官達はそれぞれ彼女の髪を櫛で梳いたり、彼女の爪の手入れをしたりしていた。
「一体伯爵がわたしに何の用なのかしら?」
「さぁ、存じ上げません。あの方は、ただ陛下のお顔が見たいだけなのでしょう。」
「まあ、そうでしょうね。」
エリーザベトがそう言って笑うと、女官達も彼女につられて笑った。
「これは陛下、いつも麗しゅうございます。」
「あら、有難う伯爵。お世辞でそう言って頂けるだけでも嬉しいわ。」
執務室へとやって来たハノーヴァー伯爵は、いつものようにエリーザベトの容姿を褒め称えると、彼女の手の甲に接吻した。
「それで、わざわざわたしに会いたいが故に、領地から遠路はるばる来たというの?」
「はい、陛下。それもありますが、我が領地である問題が起きているのです。」
「ある問題、というと?」
エリーザベトは伯爵の言葉を聞くと、眉間に皺を寄せた。
「ええ。最近異端審問官の横暴が酷過ぎると、わたしの元に領民達からの苦情が殺到しているのです。」
「彼らは異常よ。小さな子供が魔力を持っているとわかれば、徹底的にその魔力を封じ込めようとする。彼らの雇い主が異常者だから仕方がない事だけど。」
エリーザベトは開いていた扇を閉じると、伯爵を見た。
「それで、貴方はわたしに何をして欲しいの?」
「異端審問所の閉鎖を、教会に頼んで欲しいのです。わたくしの力だけでは、彼らを抑えることは出来ません。」
「・・わかったわ。すぐに教会宛に手紙を書きましょう。」
エリーザベトがそう言ってソファから立ち上がると、ノックもなしにエリーザベトの妹・ヴィクトリアが美しい金髪を波打たせながら執務室へと入って来た。
「お姉様、アメリアが居なくなったというのは本当なの?」
「ヴィッキー、今わたしは大切な話をしているところなの。後にして頂戴。」
「お姉様、実の娘が居なくなったっていうのに、どうしてそんなに薄情な態度を・・」
「ヴィクトリア!」
エリーザベトの凛とした冷たい声が、執務室の空気を微かに震わせた。
「ごめんなさい、お姉様。また後で伺う事にするわ。」
「そうして頂戴、ヴィッキー。伯爵、異端審問所の事についてはわたしに全て任せて頂戴。」
「わかりました、陛下。ところで陛下とレオン様がただならぬ関係だという噂が宮廷内に流れておりますが・・」
「噂は事実よ。伯爵、わたしの事は諦めてくださらないかしら?」
「え、ええ・・そう致します。」
伯爵が落胆した様子でエリーザベトの執務室から出て行った後、彼と入れ違いにヴィクトリアが執務室に入って来た。
「お姉様、先程は場を弁えない態度を取ってしまってごめんなさい。」
「いいえ、わたしの方こそ貴方に厳しくしてしまって悪かったわ。でもヴィッキー、あの子は、表向きではわたしの“妹”となっているの。だから人前で、あの子の事をわたしの娘だと言わないで。」
「わかったわ、お姉様。あのね、お姉様にお話ししたいことがあるの。」
「何かしら?」
「レオンの部下から先ほど聞いたのだけれど・・わたしの可愛い天使が・・マリエッテがあちら側に居るって・・もしそれが本当だとしたら、わたし・・」
「ヴィッキー、はやまった行動を取っては駄目よ。その情報は貴方をおびき出す罠かもしれないわ。」
「でも、たとえその情報が嘘だとしても、わたしはあの子に会いたいのよ、姉様!」

そう言ってヴィクトリアは、美しい深紫の瞳を涙で潤ませた。

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Last updated  Jan 6, 2017 09:46:22 PM
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Dec 8, 2016
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イラスト素材提供サイト:薔薇素材Mako's様

エリーザベトに扇子で打たれた頬に血が伝っても、レオンはそのまま彼女の前に跪いていた。

「もう下がりなさい。」
「は・・」
レオンはそう言ってゆっくりと立ち上がり、そのまま謁見の間を後にした。
「レオン様、お待ちください!」
謁見の間から出たレオンが大理石の廊下を歩いていると、エリーザベト付の侍女が彼の方へと駆け寄って来た。
「レオン様、これで・・」
「要らぬ。大した怪我ではないからな。」
「ですが・・」
「俺はしつこい女は嫌いだ。」
レオンはそう言って侍女に鋭い一瞥(いちべつ)を与えると、彼女は慌てて彼に頭を下げて去っていった。

―おい、あれ見ろよ。
―また陛下と痴話喧嘩でもしたのか?

口さがない連中がレオンと廊下で擦れ違うたびに、そんな陰口を叩き合っていた。
だが当の本人はそんなものなど何も感じなかった。
自分が女王の愛人であるという噂など、とうに聞き飽きた。
それに、その噂は事実なのだから、コソコソと女王と密会するなどみっともない事をするのはレオンの性には合わなかった。
レオンは暫く宮殿内の廊下を歩き、目的の場所へとたどり着いた。
そこは、女王専用の浴室だった。
絶大な魔力を持つ『黒蝶王』であるエリーザベトが、その魔力を高める為、一日に四度入浴する習慣があることを、レオンは知っていた。
「陛下は中におられるか?」
「はい。」
女官はレオンの顔を見ると、そのまま浴室の中へと彼を案内した。
「陛下、失礼いたします。」
レオンが浴室に入ると、白い大理石を使った巨大な浴槽の中央に、部屋の主は居た。
抜けるようなエリーザベトの白い肌は湯を弾いて輝いていた。
「来たのね。」
湯煙の中からレオンの姿を確認したエリーザベトは、そう言うと彼に向かって微笑み、彼の方へと近づいた。
「痕が残ってしまうかしら?」
エリーザベトはそっとレオンの白い頬に残る真新しい傷を撫でると、婀娜(あだ)めいた目で彼を見た。
「失礼いたします。」
レオンがゆっくりと服を脱いで裸になるのを、エリーザベトは黙って見ていた。
「陛下、アメリア様は俺が全力を尽くして必ず見つけ出します。」
「その話はもういいわ。それよりもレオン、今からわたしと裸の付き合いをしましょう?」
「ええ、喜んで。」
レオンは女王の黒髪を口づけると、そのまま彼女と浴槽の中で戯れた。
「俺が陛下の愛人であるという噂が宮廷内で広まっています。」
「事実なのだから、そんな噂を気にしない方がいいわ。レオン、もっと早くに貴方と出会っていたのなら、わたしは幸せになれたでしょうね。」
「昔の事を悔やんでも仕方がありませんよ、陛下。それよりも俺とこの先築く未来についてお考え下さい。」
「そうね・・」

エリーザベトは深紫の瞳でレオンを見つめると、そっと彼の唇を塞いだ。

「陛下、貴方を心から愛しております。」
「わたしもよ、レオン。」

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Last updated  Jan 6, 2017 09:47:40 PM
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blacklady.jpg

※このイラストはMARRISA様から頂きました。
無断転載はおやめください。

「母から、逃げてきました。」
「お母さんから?」
総司の問いに、アメリアは静かに頷いた。
「母はいつもわたしに冷たくて・・そんな母の態度に、わたしは耐えられなくなって母から逃げたんです。」
アメリアはそう言ってしゃくりあげながら、首から提げているロケットを握り締めた。
「それは?」
「これは、母がわたしの誕生日にくれた物です。」
「ロケットの中を見せてくれないかな?少しだけでいいから。」
「解りました。」
アメリアはロケットを首から外すと、中に入っている写真を総司に見せた。
そこには歳三と瓜二つの顔をしている女性と、彼女の隣には一人の男性が写っていたが、顔の部分が焼き焦げており、誰なのか解らなかった。
「ねぇ、この人が君のお母さんなの?」
「はい。母はわたしを未婚で産みました。父の顔は、知らないんです。」
「そう・・」

(何だか、この人土方さんに似ているような気がする・・)

「ソウジさん?」
「中を見せてくれて有難う。ねぇアメリアちゃん、もし君さえ良ければ、ここで暮らさない?君とわたしが会ったのも何かの縁だし・・」
「でも、あの方がどうお思いになられるのか・・わたし、さっきあの人に失礼な態度を取ってしまいましたし・・」
アメリアは不安げな表情を浮かべながら、チラリと歳三の方を見た。
「土方さん、この子行く場所がないみたいですよ。」
「それがどうした?若い娘を野宿させる気なんざさらさらねぇよ。」
「お世話になります。」
「アメリア、とか言ったな?ここで世話になる以上、俺達の足を引っ張るような真似はするな、解ったな?」
「はい!」
「土方さん、失礼いたします。」
副長室の襖がスッと開き、雪華が部屋に入って来た。
「ヴィッキー叔母様!」
アメリアは雪華の姿を見るなりそう叫ぶと、彼に抱きついた。
「あの、どちら様ですか?」
「ごめんなさい、人違いでした。余りにも貴方が叔母様と似ていらしたので、つい・・」
「まぁ、そうでしたか。わたしは雪華と申します。」
「アメリアです。こちらで暫く暮らすことになりましたので、どうぞ宜しくお願い致します。」
「こちらこそ。土方さん、島田さんから羊羹(ようかん)を頂きました。」
「わざわざ有難う。そこに置いておいてくれ。」
「解りました。」
雪華はそう言うと、歳三の前に羊羹を載せた皿を文机の上に置いた。
「アメリア、今後のお前の処遇についてだが、一度近藤さん達と話し合ってから明日決める事にした。お前は風呂に入って部屋で休め。雪華、アメリアを風呂まで案内してやれ。」
「わかりました。アメリアさん、わたしについて来てください。」
「はい。」

こうしてアメリアは、新選組に保護されることになった。

一方、アメーシア王国の首都・ラミアに建つ壮麗な宮殿の中にある謁見の間では、宝石を鏤(ちりば)め、銀糸で刺繍を施された漆黒のドレスを纏った一人の女が眉間に皺を寄せながら玉座に座っていた。

彼女の前に跪いているのは、『緋鬼』の隊長・レオンだった。

「女王陛下に申し上げます。アメリア様をあと少しの所で取り逃がしました。」
「報告はそれだけなの?」

威厳に満ちた口調でそう言った女―アメーシア王国を統べる女王・エリーザベトは冷たく光る深紫の瞳をレオンに向けた。

「申し訳ありません。」

無言で玉座から立ち上がったエリーザベトは、持っていた扇でレオンの頬を容赦なく打った。

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Last updated  Jan 6, 2017 09:48:10 PM
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