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JEWEL

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連載小説:紅蓮の涙~鬼姫物語~

2012年10月12日
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1945(昭和20)年、8月。

日本軍の真珠湾奇襲から勃発した太平洋戦争は、広島・長崎の原子爆弾投下によるポツダム宣言受諾により、敗戦した。

だが空襲によって焼かれた東京・大阪などの大都市は焼け野原が広がり、もう米軍機の空爆に怯える日々がなくなったというものの、食糧や衣料品、医薬品などが不足し、先の見えない暗いトンネルの中を、四郎達をはじめとする国民は歩いていた。
四郎は闇市で得たミシンで仕立ての仕事を始め、何とか生計を立てていたが生活は苦しかった。
「四郎、ただいま。」
「お帰り。」
粗末なバラック建ての扉が開き、エーリッヒが疲労を滲ませながら帰宅した。
「今日も駄目だったか?」
「ああ。みんな飢えてるからな。やっぱり早めに出ないと食い物はなかなか手に入らないよ。」
「そうか・・」

四郎はミシンを動かす手を止めると、溜息を吐いた。

「ここんところ、商売上がったりだよ。闇市を警官が巡回しているからなぁ。」
「まぁ、仕方ないだろうよ。さてと、今日もすいとんにするか。」
「わかった。」

四郎は台所とはいえない粗末な炊き場へと向かうと、僅かながらに手に入れたさつまいもをふかし始めた。
その時、誰かが扉を叩く音が聞こえた。

「どちら様ですか?」

四郎が外から声をかけたが、返事は返ってこなかった。
泥棒だろうかと訝しがりながら彼が扉を開けて外へと出ると、そこには美津が立っていた。
白い頬は何故か黒く煤けており、腰下までの長さがあった黒髪は肩の辺りで切り揃えられていた。

「姫様・・姫様なのですか?」

四郎がそう美津に問いかけると、彼女は静かに頷いた。

「わたしよ、四郎・・帰るのが遅くてごめんね。」
「姫様!」

堪らず四郎は、美津を抱き締めた。

「ご無事でよかった、姫様。」
「あなたもね。これでずっと一緒に暮らせるわ・・」
「おい、どうしたんだ・・」

外の異変に気づいたエーリッヒがそう言ってバラックから出てくると、美津の姿を見て絶句した。

「ただいま、エーリッヒ。」
「お帰りなさい、姫様・・」

何処までも澄んだ青空の下、四郎とエーリッヒは漸く美津との再会を果たした。


―第3部・完―


あとがき

少しとびとびな展開になってしまいました。
第4部は少し時間を置いて書きます。






最終更新日  2012年10月12日 19時59分04秒
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1869(明治二)年。

鳥羽・伏見からはじまり、甲州勝沼、会津、仙台と敗走を続けた旧幕府軍は、北へと敗走を重ねた末、蝦夷地へとたどり着き、そこで「蝦夷共和国」を樹立するも、新政府軍によって再び劣勢に立たされることとなった。
四郎とエーリッヒは土方とともに戦ったが、もはや蝦夷地が新政府軍によって包囲されるのは時間の問題だということに気づいていた。

「このまま、負け戦を続けるつもりなのか、土方君!?」
「じゃぁあんたは投降しろってのか、大鳥さん!」

蝦夷共和国に於いて参謀として活躍していた土方は、陸軍奉行・大鳥圭介と毎日のように今後新政府軍に投降するか、徹底抗戦するかで揉めていた。

「君はこれ以上、犠牲者を増やすつもりか?」
「それがどうした、俺にとっちゃ、ここが最期の死に場所なんだ!」

喉奥から振り絞るかのような声を出し、徹底抗戦を訴える土方の言葉を聞いた四郎は、全身を雷で打たれたかのような衝撃を受けた。

土方は、この地で潔く散ろうとしている。

「本当か、それ?」
「ああ、間違いない。副長は死のうとしている。今まで犠牲となった者達の為にも、最期まで戦おうとしているんだ。」
「そうか・・俺達も、副長とともに戦おう。」
「ああ。」

(姫様、もう少し待っていてください、この戦いが終わったら迎えに行きますから。)

首に提げた指輪をそっと握り締めながら、四郎は最後まで土方と戦う決意を固めた。

1869(明治二)年5月。

遂に新政府軍が函館を包囲し、四郎は弁天台場にて新政府軍を迎え撃っていたが、あっという間に孤立してしまった。
孤立した彼ら新選組隊士らを助ける為、新選組元副長・土方歳三は弁天台場へと向かう途中、一本木関門にて被弾し、戦死した。
皮肉にも彼の死後、榎本武揚は全面降伏し、これにより戊辰戦争は終結した。

「終わったな・・」
「ああ。」
「土方さんは今、局長とどんなお話しをされているのかな?」
「さぁな。それよりもわたしたちはこれからのことを考えねばなるまい。死に逝く者が遺した志を、いかに後世に伝えるか・・それが、この戦いを生き抜いたわたしたちに課せられた使命だ。」
「そうだな・・」

エーリッヒはそう言うと、美しく澄み切った空を仰ぎ見た。

その後四郎とエーリッヒは美津の消息を探しつつも、東京で商売を始めながら天下泰平の明治の世を生きた。
だが、彼女の消息はようと知れず、四郎は焦燥を募らせていった。

しかし美津は、彼らのすぐ近くに居た。






最終更新日  2012年10月12日 16時12分21秒
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戦況はますます旧幕府軍が劣勢になるばかりだった。

鳥羽・伏見の戦いで敗れた新選組は、旧幕府軍とともに敗走に敗走を重ねていった。
それとともに、新選組隊士達の肉体的・精神的疲弊が徐々にましていき、些細なことで諍いがたえなかった。
「何だと、やるのか!?」
「ああ、やってやるよ!」

(まただ・・)

甲州勝沼の陣地で四郎とエーリッヒが休憩している時、隊士達が食事の配分を巡って喧嘩をしていた。
「やめないか、お前達!」
「小さなことで争ったってしょうがないだろうが!」
殴り合いに発展する前に、隊士達を四郎とエーリッヒは彼らの間に割って入った。
「うるさい、離せ!」
「いい加減にしろ!」
四郎はそう言うと、隊士の一人の横っ面を張った。
「味方同士で諍いを起こしてどうする?敵に隙を作らせそこを付け込まれ、ますます劣勢に立たされるだけだ!それがわからぬのならここから出て行け!」
「黙れ、百姓風情が!」

四郎の中で、何かが切れる音がした。
気づけば彼は、隊士のことを殴りつけていた。

「てめぇら、何してやがる!」
「副長・・」
「後で俺の所に来い。」
「はい、副長。」
数分後、土方の元へと向かった四郎は、俯いたまま何も言わなかった。

「事情はエーリッヒから聞いた。この事は不問に付す。元々は隊士の諍いを収めようとしたお前を侮辱した隊士が悪い。この事は水に流せ。」
「ありがとうございます、副長。」
「だが二度目はねぇ、覚えておくんだな。」
四郎が漸く顔を上げると、土方が猛禽(もうきん)を思わせるかのような鋭い目で自分を睨みつけていた。

「そのお言葉、肝に銘じます。」

四郎がそう言って土方の元から去ろうとすると、彼は四郎の手を掴んだ。

「生まれのことを罵られても、気にすんな。俺だって散々貧乏百姓だと罵られてきたが、いまや幕臣だ。生まれで人生が決まる時代は、もう終わってんだよ。」

土方の言葉に、四郎は全身が震えそうなほどの感銘を受けた。
そして彼にどこまでもついていきたいと四郎は思った。

「てめぇは骨のある奴だ。」
「ありがとうございます。」
「周囲の雑音なんか無視しろ。」

土方の元を去った四郎は、心配そうに木陰からこちらを見つめているエーリッヒの姿に気づいた。

「どうだった?」
「今回のことは不問に付すとさ。なぁエーリッヒ、わたしは副長に何処までもついていこうと思う。お前は?」
「聞くまでもないだろう?」

四郎がエーリッヒを見ると、彼は笑っていた。







最終更新日  2012年10月12日 15時52分08秒
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坂本龍馬が暗殺されたその一年後、戦火は鳥羽・伏見でついた。

伏見奉行所で待機していた新選組は新政府軍を迎え撃ったものの、フランス軍の協力を得て新型兵器を投入した新政府軍に旧幕府軍はたちまち劣勢に陥った。

「このままだと、新政府軍の勢いに押されて幕府とともに共倒れになるな。」
「ああ。」
四郎は何度も戦を経験していたが、この戦いは今までのものとは違った。
刀や槍が、銃器に取って代わったのだ。
「副長は今どうなさっている?」
「さぁ、淀藩の方と会合をなさってるとか。近藤局長さえ、この場に居られたらいいのだが・・」
新選組局長・近藤勇は大阪城へと出仕した帰路の途中、今は亡き新選組元参謀・伊東甲子太郎率いる「高台寺党」の残党により狙撃され、右肩を負傷し労咳を患っていた沖田総司とともに大阪へと護送された。
その為、不在となった近藤の代わりに土方が新選組を実質上率いていた。
彼は近藤が居なくなってからというもの、昼夜を問わず働いていた。
「副長は一体、いつ休まれているんでしょうね?」
「さぁ。あの方にとって、新選組は己の人生の結晶だろうよ。」
「結晶?」
「ああ。わたしが新選組に入隊して間もない頃、一度土方さんと酒を飲んだことがあってな。まぁ、副長は下戸だから、飲んでいたのはわたしだけだったが。」

四郎は目を閉じながら、当時のことを思い出した。

まだ新選組に入隊して間もない頃、四郎は土方から飲みに誘われて島原へと赴いた。
土方は自分が農家の出身であることや、同じく農家出身である親友・近藤と夢を追い上洛したことを四郎に話した。
「おめぇも元は農家の生まれなんだろう?」
「なぜ、おわかりに?」
「まぁ、勘だがな。おめぇはこれからどうするつもりだ?」
「さぁ、わかりません。あちこちさまよった末、ここに流れ着いたものですゆえ。」
「そうか。まぁ焦るこたぁねぇよ。己の道なんざ自分で見つけるしか他ねぇんだ。」
土方はそう言ってふっと笑うと、四郎を励ますかのように彼の肩を叩いた。
「へぇ、そんなことがあったのか。」
「まあな。周りからは鬼副長と呼ばれてるが、実際あの方は優しい方なのかもしれん。」
「そうだろうな。」
二人が話していると、土方の姿が廊下に現れた。
「てめぇら、油売る暇があるんなら働きやがれ!」
「申し訳ございません、副長!」
四郎とエーリッヒは慌てて廊下から去っていった。
その直後、銃声が外に響いた。
「何だ!?」
「てめぇら、出陣だ!」
「はい!」

四郎達が出陣すると、既に新政府軍の攻撃は始まっていた。

「行くぞ!」
「おうっ!」

銃弾が雨のように降り注ぐ中、四郎は愛用の槍を握り締めながら駆けていった。







最終更新日  2012年10月12日 15時34分02秒
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それからというもの、エーリッヒは忙しいときにも関わらず、四郎の看病を毎日していた。

「済まないな、お前の手を煩わせて。」
「謝るな、馬鹿。お前に感謝されることはあるが、謝られることは何ひとつしていないつもりだ。」
エーリッヒはそう言ってレンゲで粥を一口分取ると、それを四郎の口元に運んだ。
「熱いから、俺が冷ましてやろうか?」
「そんなこと、俺でも出来る。」
四郎は少しムッとした表情を浮かべると、エーリッヒの手からレンゲを奪い、粥に少し息を吹きかけてそれを食べた。
「どうだ?」
「中々いい。初めてにしては上出来だな。」
「まぁな。昔凛のところで働いていたときは、散々こき使われたからな。」
「そうか。」
二人きりになると、いつの間にか過ぎ去った頃のことを思い出してしまう。
「何でだろうな、鬼になってから、最近昔のことばかり思い出すんだ。もう過ぎ去って戻ることのない時間に、再び戻りたいと思うような気がしてならない。」
「わたしもだ。戦が起こる前は平和だったからな。それに・・わたしの家族はまだ生きていた。」

四郎の言葉を聞いた途端、エーリッヒは黙り込んでしまった。
彼の家族は、凛によって虐殺された。
凛への憎しみと家族の仇を討つ為だけに、気が遠くなるような長い年月を四郎は美津とともに過ごしてきたのだ。
「なぁ四郎、ひとつ聞いてもいいか?」
「なんだ?」
「初めて・・俺と会ったとき、俺のことをどう思った?」
「なんだ、そんなことか。」
四郎はくすくすと笑いながら、エーリッヒと初めて会ったときのことを思い出した。
敵方についていた彼は堂々と美津の居る城へと入り、勝負を挑んできた。
そして彼は美津の側につき、四郎とともに彼女の従者となった。
突然恋敵が現れ、四郎はその時心が乱れたが、エーリッヒの美津に対する想いは単なる友愛だと気づいたとき、いつの間にか彼に対する嫉妬は四郎の心から消え去っていた。
「はじめは憎たらしくいけすかない奴だと思っていたが、そうではないと気づいたときは島原に居たときかな。」
「そうか。あまりお前が姫様とばかり話しているから、てっきり嫌われているのかと思ったよ。」
「そうか・・」
四郎は布団から出て立ち上がると、文机の上に置いてあった守り袋を手に取った。
「なぁ、これを覚えているか?」
そう言って彼は、守り袋の中からトパーズの指輪を取り出した。
「懐かしいな・・」
それを見たエーリッヒのコバルトブルーの瞳が、懐かしそうに細められた。
その指輪は昔、美津と3人で友情の印として彼女にもらったものだった。
「お前はまだ持っているのか?」
「もちろんさ。大事な友情の証だからな。なくさないよう、こうして身につけているよ。」
エーリッヒは首から提げている鎖ごと指輪を四郎に見せた。
「お前のように身に着けたほうが失くさずに済むかもしれんな。こんな無防備に高価な物を置いていると誰か盗みに入るかもしれないし。」
「そうしろ。鎖は俺が用意するから。」
「ありがとう。」
「何だか照れ臭いな。」
エーリッヒはハシバミ色の髪をボリボリと掻きながら、照れ臭そうに笑った。
「姫様は、今何処にいらっしゃるのだろう?」
「さぁな。だがあの姫様だ、簡単にくたばるようなお方ではない。」
「そうだな・・」
2人が美津のことに想いを馳せていると、廊下で誰かが走ってくるような音がした。
「何だ?」
「さぁ・・」
「四郎、エーリッヒ、ここに居たのか!」
襖が勢いよく開かれたと思うと、十番隊組長・原田左之助が部屋に入ってきた。
「原田先生、どうされました?」
「さっき土方さんから聞いたんだが・・坂本龍馬が暗殺された!」
「何ですって!?」

左之助の話を聞いた二人の顔が強張った。


1867(慶応三)年11月15日、薩長同盟を成立させた維新の立役者・坂本龍馬は近江屋にて何者かに暗殺され、31歳の若さで没した。

彼の死をきっかけに、日本中は動乱と混沌、そして戦の渦へと容赦なく巻き込まれていくのだった。







最終更新日  2012年10月12日 15時19分14秒
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美津が四郎達の前で鬼神に拉致されてから、3年の歳月が流れた。

その間、幕府の情勢は徐々に悪化の一途を辿り、敵同士であった長州と薩摩が同盟を結び、武力行使による倒幕への動きを一層高めていった。

そんな時代の渦に、幕府の為に働く会津藩や新選組も少しずつ巻き込まれていった。

初めて四郎が迎える京の厳しい冬は、故郷のそれとは比べ物にならぬほど、骨まで凍えるかのような寒さだった。

その中で上半裸となり毎日鍛錬を欠かさずしていた所為なのか、彼は風邪をひいてしまった。

「大丈夫か?」
「すまぬ・・鬼が風邪をひくなど、聞いたことがないな。」
「ああ、まさしく“鬼の霍乱(かくらん)”ってやつだな。」
エーリッヒはそう言いながら、すっかり溶けてしまった氷嚢(ひょうのう)を四郎の額の上から退け、新しいものに変えてやった。
「情けないな、こんなときに病に臥せるなど・・」
「そう言うな。今はゆっくり身体を休めればいい。」
「わかった。」
「じゃぁまた用があれば呼べ。」

エーリッヒが部屋から出て行った後、四郎は大きな溜息を吐いた。

美津とともに居た頃は、風邪など一度もひいたことがなかった。
それ以前に、人ならざるものとなってから一度も病に臥せったことがなかった。
そんな自分が風邪をひいたのは、無理をしたからではない。
美津が居ないことで、四郎の精神的な支えが少しずつ崩れていったのだ。
彼にとって、美津はこの世の誰よりも愛おしい存在であった。
だが彼女が自分の前から消え、その行方もわからぬままであることが、知らぬ間に四郎の精神を消耗させていった。

(案外弱いな・・)

まだ人として生きていた頃、大きな怪我や病気ひとつしなかったのに、美津が居なくなったというだけで風邪をひくなんて、いつの間に自分はこんなに弱くなってしまったのだろう。
自嘲めいた笑みを口元に浮かべた時、不意に喉奥から何かがこみ上げてくるのを感じた四郎は、激しく咳き込んだ。
どうやら、痰が喉に詰まっていたらしく、懐紙で口元を覆って痰を吐き出すと急に呼吸が楽になった。
四郎は寝ようと思いながら身体を反転させた時、握っていた懐紙が畳の上に落ちた。
そして彼は、自分が吐き出したものが痰ではないことを知った。

懐紙は、鮮紅に染まっていた。

自分が患っている病は、風邪ではない。
かつて新選組の双璧(そうへき)と呼ばれ、最強の剣士と謳われた新選組一番隊組長・沖田総司の身体を今蝕んでいる病魔と同じものに、四郎は冒されていた。

(そんな・・そんな筈は・・)

四郎が畳の上に落ちた懐紙を握りつぶそうとしたとき、また激しい咳の発作が出た。

「四郎、大丈夫か?」
「ああ、大丈夫だ。済まないが、薬湯をくれないか?」
「ああ、わかった・・」

再び部屋に入ってきたエーリッヒにそう言った四郎は、彼が恐怖と驚愕で綯い交ぜとなった顔を見た。
「お前、口から血が・・」
「ああ、風邪だと思ったら違っていたらしい。鬼でも労咳になるとは、思いもしなかった。」
「畜生、どうしてお前がこんな病に!」
エーリッヒは突然そう叫ぶと、畳に拳を打ちつけた。
四郎の体調に気づかなかった自分を責めるかのように。
「誰の所為でもない。この病は発症するまで時間がかかる。」
「だが・・」
「わたしは姫様を取り戻すまで、死ねない。だからエーリッヒ、このことはみんなには黙っていてくれないか?」
「ああ、わかった。武士に二言はない。」
「ありがとう、感謝するよ。」
「じゃぁ、少し休んでいろ。俺は薬湯を持ってくる。」

エーリッヒは暫く顔を伏せていたが、さっと立ち上がると部屋から出て行った。

彼は恐らく、泣いていたのだろうなと思いながら、四郎は眠った。






最終更新日  2012年10月12日 09時50分41秒
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2012年10月11日

鬼神の言葉を受けた美津は一瞬きょとんとしたが、すぐさま怒りで顔を赤くさせた。

「何それ、どういう意味よ!」
「そなたがはなからわしに心を開くなど、考えてもおらぬわ。」
「じゃぁ、どういうつもりでここにわたしを閉じ込めるの?」
「それは、この国の未来を占ってほしいと思うておるからじゃ。」
「はぁ?」
鬼神の言葉を受け、美津は思わず言葉が裏返ってしまった。
「一体何を言っているの、あなた?わたしは占い師でもなんでもないわ!そんなわたしに、一体どうやってこの国の未来を占えと?」
「そなたはまだ己の力を自覚しておらぬな。」
鬼神は美津を馬鹿にしたような笑みを浮かべると、すっと彼女に一歩近づき、耳元でこう彼女に囁いた。
「後で逃げる算段をつけておるゆえ、適当にごまかせ。」
「えっ」
美津が思わず鬼神の顔を見つめると、彼はふっと口端をあげて笑った。
「皆様、こちらが未来を予言できる少女・ミツです。」
突然鬼神に背中を押され、美津は見知らぬ外国人客たちの前に立った。
「は、はじめまして・・ミツです。」
「まぁ、可愛らしいこと。あなたが未来を占ってくれるのね?」
大きな身体を揺らしながら、ロシア大使夫人がそう言って美津の肩を叩いた。
「ええ・・」
一体どうすればこの場を切り抜けられるのか、美津は考えていた。
(適当にごかませと彼は言ったわ。でも、その方法が・・)
「美津様、こちらへ。」
大使夫人らとの挨拶を終えた美津が所在なさげにウロウロとしていると、自分の部屋に入ってきたメイドが彼女に手招きした。
「何かしら?」
「これを。」
メイドがそう美津に差し出したのは、革張りの表紙がしてある一冊の本だった。
「ここには諸外国の情勢が書かれております。それを参考にして、彼らに適当な予言をなさってください。」
「そんなことをして、大丈夫かしら?」
「旦那様は一時のわがままであなたをここに拉致したことを後悔していらっしゃるのです。どうか旦那様のお気持ちを無下になされませんよう。」
「わ、わかったわ・・」
「ではわたくしはこれで・・」
メイドはそう言うと、すっと大広間から出て行った。
その後美津は渡された本を頼りに諸外国の要人達へ予言をした後、自分の部屋へと戻った。
「美津様、おられますか?」
「ええ、居るわ。」
「失礼いたします。」
ドアが開き、メイドが何かを抱えながら部屋に入ってきた。
「これにお着替えなさいませ。」
美津はベッドに置かれた男物の服を見て、鬼神が彼女をここから逃がしてくれるのだとわかった。
「さぁ、お早く!」
「わかったわ、着替えを手伝ってくれる?」
「かしこまりました。」

数分後、着替えを終えた美津は髪を後ろで一括りに結び、馬に跨ると邸の裏口から外へと飛び出していった。

(待っててね、四郎!必ずあなたの元へ戻るから!)






最終更新日  2012年10月11日 21時51分31秒
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「彼女に一体何をしたんだい?」

突然鬼神の腕の中で崩れ落ちる美津を見た異人の客がそう言うと、彼は美津の身体を抱き上げた。

「ちょっと鎮静剤を打っただけだ。」
「危険じゃないのか?」
「ああ。」
鬼神はそう言うと、美津を抱き上げたまま庭園から去っていった。
「旦那様・・」
「暫く美津の部屋には誰も入るでないぞ。」
「かしこまりました。」
メイドが慌てて大広間へと戻るのを確認した鬼神は、美津をベッドに寝かせた。
「いつになったら、そなたはわしに心を開いてくれるのであろうな、美津よ?」
鬼神はそう呟くと、美津の頬をキスした。
「ん・・」
美津が目を覚めると、そこはいつもの部屋だった。
「美津様、お目覚めになられましたか?」
「わたしは何時間寝ていたの?」
「そうですね・・かれこれ12時間でしょうか?旦那様が鎮静剤を打たれたので・・」
「あいつを今すぐ呼んで!」
「ですが、旦那様は大広間におりまして・・」
「そう、ならばわたしが行くまでだわ。」
美津はそう言うとベッドから立ち上がり、寝室から出て行った。
一方、大広間で鬼神は客達とともに談笑していた。
「これから日本はどうなりますかな?」
「さぁ、それはわかりかねます。」
「まぁ、我が国の内戦も終わりましたし、その武器が日本国内に流通することは間違いありませんな。」
米国のある大使がそう言って笑うと、彼の傍に立っていた英国大使が相槌を打ちながらこう答えた。
「いやはや、我が国もアロー戦争で上海を占領し、清国の次は日本と考えておりますよ。まぁ、インドや清国と違って複雑な航路があるので貿易をするには多少困難でしょうが。」
「それはそうですな・・」
鬼神が彼らの話に相槌を打ちながらシャンパンを飲んでいると、廊下から騒がしい声が聞こえた。
「いけません、旦那様は今・・」
「うるさいわね、そこを退いて!」
美津の鋭い声が聞こえたかと思うと、彼女が大広間に突如現れた。
「おやおや、眠っていたのでは・・」
「わたしをいつまでここに置いておくつもり!?」
美津はそう叫ぶなり、鬼神の横っ面を張った。

―まぁ、何と野蛮な・・
―あれでもレディなのかしら?

周囲の客が美津の行動に目を丸くしていると、鬼神は打たれた頬をさすりながら美津を見た。

「そなたがわしに心を開いてくれるまでだ。」
「そんな日は来ないわ、永遠に!」

鬼神は美津の言葉を聞くなり、高い声で笑い始めた。

「一体何が可笑しいの?」
「いや・・そなたらしいと思ってな。」






最終更新日  2012年10月11日 21時37分26秒
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メイド達の手によって結い上げられた髪を鏡で見ながら、美津はいつ着替えが終わるのだろうかとイライラしていた。

「さぁ、あちらの衝立のほうへ・・」
「わかったわよ。いちいち指図しないで。」
彼女達は仕事をしているだけなのに、つい美津は声を荒げてしまう。
彼女が衝立の中に入ると、そこには身体を支えるための外套掛けがあった。
「あちらに掴まってください。」
「わかったわ。」
美津が外套掛けに掴まると、メイド達は美津の夜着を脱がし、下着の腰紐をきつく締め付け始めた。
「何するの!?」
「しばらく辛抱してくださいませ。」
「痛いわよ!」
一体彼女達は自分に何をしているのだろうか。
集団で自分をいたぶって、暗い喜びに浸っているのか。
美津がちらりとメイド達を見ると、彼女たちの顔には笑みは浮かんでいなかった。
寧ろ、事務的な態度を美津に取って仕事をこなしている。
「終わりました。」
やがてメイド達の手が腰紐から離れた。
全身を映す鏡を見ると、ウェスト部分がすこしくびれたように見えた。
だが、胸と腹部を締め付けられて呼吸ができないほど苦しかった。
「ねぇ、胸が苦しいんだけど、もうちょっと紐を緩めてくれない?」
「申し訳ありませんが、それはできません。」
「わたしの言うことがきけないの?」
「はい・・」
メイド達に少し腰紐を緩めて貰うと、呼吸が楽になった。

「では、このドレスをお召しになってくださいませ。」
「ええ・・」

「まだなのか、彼女は?」
「ご婦人のお支度はわれわれよりも時間がかかるものです。」
美津がメイド達によってイヴニングドレスへと着替えさせられている時、薔薇が咲き誇る英国式庭園で、鬼神が退屈そうに銀髪を弄りながら金髪碧眼の英国紳士を見た。
「レディ・ミツはどちらに?」
「あやつなら変身中だ。もうしばらくしたら出てくるだろう。」
「そうですか。彼女とはどちらで?」
「まぁ、昔からの誼と言っておこう。」

鬼神はそう言うと、紅茶を一口飲んだ。

すると、慣れないドレスの裾を摘みながら、美津が彼らの前に現れた。
「一体どういうつもり、わたしにこんな格好をさせて何を企んでいるの?」
美津がそう言って鬼神を睨みつけると、彼は美津の美しい変身振りに感心していた。
「まさに馬子に衣装とはよう言うたものよ。西洋の衣装を纏ったお前の艶姿もよう似合う。」
「ふざけた事言っていないで、わたしを四郎の元に返しなさいよ!」
「それはできぬ。」

鬼神はそう言うと、スーツの内ポケットから注射器を取り出すと美津を羽交い絞めにし、その鋭い針を美津の腕に刺した。

「やめて・・」

あっという間に意識が徐々に朦朧(もうろう)としてきて、美津は鬼神の腕の中でぐったりとした。







最終更新日  2012年10月11日 14時40分06秒
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「申し訳ありませんが、あなたを外へお通しする訳には参りません。」
「そう。なら力ずくで出て行くしかないわね。」

美津はそう言うと、メイドを突き飛ばした。
彼女が小さな悲鳴を上げたのを聞くと、美津は寝室から出て行った。

いつの間にか連れ去られてたので、この邸がどんな構造なのかわからず、美津は出口を求めて長い廊下を彷徨っていた。

(どこ?出口はどこなの?わたしは早く四郎の元に帰らないといけないのに・・)

焦れば焦るほど、美津は邸の奥へと迷い込んでいってしまった。
まるでこの邸は迷路のようだ―美津がそう思いながらドアを開けると、そこには別世界が広がっていた。
華やかなドレスに着飾った貴婦人たちが、笑いさざめきながらジロジロと自分を見ていた。
それは燕尾服に身を包んでいる男たちも同じだった。
まるで珍獣のような目で、美津を見ていた。

(何なの、この人たち?どうしてわたしを見ているの?)

「美津様、見つけましたよ。」
背後から腕を掴まれ、美津が振り向くと、そこにはあのメイドが立っていた。
「何するの、放して!」
「さぁ、お部屋にお戻りください。」
「いやよ、わたしはここから出るの!出て四郎に会うの!」
メイドの腕を振り切ろうとした美津だったが、儚げなみかけによらず、彼女の力は強かった。
「放してって言ってるでしょう!」
「お静かになされませ、美津様。お客様に聞こえてしまいます。」
「お客様って、さっきの部屋に居た人たち?」
「そうですよ。さぁ美津様、お召し替えを。」
その後はメイドに言われるがままに美津が入った部屋は、化粧室だった。
「そちらへお座りくださいませ。」
「わかったわよ。」
彼女のいうとおりにしたほうがいいと思った美津は、そう言って化粧台の前に腰を下ろした。
メイドが手を鳴らすと、部屋に数人のメイド達が入ってきた。
「彼女達があなた様のお世話をいたします。」
「一体わたしに何をするの?」
「あなた様をお客様の前に立派なお姿にさせる為です。少し辛抱してくださいませ。」
「そう、できるだけ早く済ませてね。」
「わかりました。」
ちらりと彼女が他のメイドたちに目配せすると、彼女達は早速動いた。
「髪を梳かせていただきます。」
「痛いわね、もっと優しくやってよ!」
「す、すいません・・」
慣れない環境で突然見知らぬ者に髪を触られ、美津はついメイドに声を荒げてしまった。
「いいわよ。さっさと済ませて頂戴、急いでいるんだから。」

メイド達に髪を結い上げている間、美津は仏頂面を浮かべていた。






最終更新日  2012年10月11日 14時15分09秒
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